軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

115 お似合いの二人、そして一人闇に沈んで

「すごいなその服。そんなの売ってるのか?」

「いいだろ? 魔王討伐でポイント入ったから、交換したんだ」

アレックスはなんとビシッとスーツでキメていた。それも、1ポイントも出して交換したというから、さすが欧米人。パーティに対する気合いの入り方が違う。

「ポイント交換で装備買うといい感じだぜ? サイズもぴったりだし。ヒカルだってポイント入っただろ?」

魔王の討伐で3ポイント入ったが、それは前借り分の返済で消えている。

それとは別に1ポイントが『勇者』の称号と共に得られているが、さすがに服に使う気にはなれない。

「勇者なんてガラじゃないけどな」

「お、やっぱりヒカルにも付いた? 魔王倒したから付いたんだろうけど、称号なんて貰ったことないから、ちょっと嬉しかったぜ、俺は」

文化の違いというやつだろうか。

いや、俺だって本当なら勇者と言われればまんざらでもないタイプだったはずだ。

どこかで何かが狂ってしまったというだけで。

「それより、スーツだよ、スーツ。ヒカルもどう?」

「考えとくよ」

適当にはぐらかしたが、お金を出せば手に入る物と交換するのは損だろう。

結界石は最低でも一つは持っておきたいし、欲を言えば大癒のスクロールも常時持っておきたい。その二つがあれば、よほどのことがない限り死ぬことはないのだから。

「なぁ、ヒカル。一つ訊いていいか?」

「答えられることなら」

「お前って、リフレイアさんとはどういう関係なんだ?」

内心、いつかは訊いてくるだろうなとは思っていたが、やはり気になっていたらしい。

「パーティーメンバーだよ」

「ふぅん、付き合ってるんじゃないのか?」

「まさか。それに……もうパーティーも解消した」

「どうして? 魔王との戦いじゃすごく上手くやってたのに」

「元々、期間限定で組んでただけだから」

俺は、手に持ったまま飲まずにいたワインをあおった。

リフレイアとのパーティー解消は、もう決まったことだ。元々、ほとんどの人には知られてすらいないパーティー。だから、それが無くなることなんて、たいしたことじゃない。

そうわかっているのに、それでも人にそれを話すのはズキリと胸が痛んだ。

酒の力を借りなければ、平気な顔をすることもできないほどに。

自分で選んだことのくせに。

「――お前……大丈夫か?」

俺と同じように壁に寄りかかりながら、そう訊ねるアレックスに、俺は言葉を返すことができなかった。

自分がどんな顔をしているのかもわからず、グラスに残っていた酒を飲み干す。

「お、リフレイアさん」

少し離れていたところで歓談していたリフレイアが俺に気付き、こちらに歩いてくる。

俺はつい目を逸らした。

今はなぜか、リフレイアと……いや、誰とも上手く話せそうもない。

「しかし、リフレイアさん今日も美しいな」

「そうだな」

「……なあ、ヒカル。俺のことリフレイアさんに紹介してくれよ」

隣のイケメンが、そんなことを言う。

紹介といっても、魔王と一緒に戦ったわけだし、すでに顔見知りではあるのだろうが、もしかしたら彼なりに俺に気を使ったのかもしれない。

「いいけど」

「紹介だぞ、わかるだろ?」

念を押されたが、つまり……口説きたいということだろうか。

正直に言えばイヤだが、それを断れる正当な理由が自分にあるとも思えなかった。

そうこうしているうちにリフレイアが声を掛けてきた。

「あ~! ヒカル、お酒飲んでる! 私、我慢してたのに~」

あははと陽気に笑うリフレイアは女神のように輝いていて、その姿は俺には眩しすぎた。

それに比べて俺は、パーティを楽しむことも他の探索者と歓談することもできず、ただ所在なく時間を過ごしているだけの存在。

――あの迷宮で。

あの暗がりの中だったから、俺はリフレイアといっしょにいられたのだ。

二人がいっしょにいたのは、ほんの偶然で。

本来ならば交わり合うことなどない相手なのだと、そう強く認識させられる輝きだった。

その後、どんな会話を交わしたのかは覚えていない。

同じ地球からの転移者だとアレックスを紹介して、俺はその場所をソッと離れた。

アレックスもまた輝いていた。

背が高く、白い歯が覗く笑顔が魅力的で、リフレイアと並んで立つ姿は、とてもお似合いの二人という感じだった。

煌めくパーティー会場。輝く参加者たち。

そこに俺の居場所はない。

『パンパカパーン! 異世界転移者のみなさま、おつかれさまです! 2週間に渡る、第一回視聴率レースへのご参加ありがとうございました! おまちかねの結果発表のお時間です!』

唐突に、脳内で鳴り響く脳天気に明るい声。

どうやら、視聴率レースが終わったらしい。

その後、声は、俺ではない入賞者たちの名前を読み上げていった。

俺の名前はない。

12日目で棄権してしまったのだから、当然だ。

「これで、いよいよ本当に終わり……か」

ナナミを生き返らせることはできなかった。

もう目立つために無理をする必要もない。

俺は視聴者たちに嫌われたまま、これからも折り合いを付けてこの世界で生きていくのだ。

アレックスが何かを言い募り、リフレイアが上品に微笑む。

俺はそれを聞くことはもちろん見ていることすらできず、静かにその場を離れた。

テラスから外に出て、闇に閉ざされた庭園を歩く。

パーティーの喧噪が聞こえない程度離れた場所のベンチに腰掛けた。

街灯の無い庭園は闇に包まれている。

月の明かりも、星の瞬きも、俺の姿を照らすほどの力はない。

誰にも見られることのない、この暗がりが俺には心地良かった。

ダンスでも始まったのか、少しだけ陽気な音楽が、遠く会場から夜の澄んだ空気に乗って届く。

宇宙から見る地球の輝きのように、それは遠い世界の出来事のように感じた。

人々の笑い声、華やかな音楽。

自分とは関係がない光の中の世界。

それは、俺とリフレイアとのこれからの距離を嫌でも連想させた。

光と闇は相容れない。

その当たり前のことを――隔絶を、改めて認識させられてしまう。

……明日からは、一人で迷宮に潜り、膨れ上がってしまった視聴者数が減るように生活しよう。

二層で狩りをするだけの暮らしならば、死ぬことも目立つこともない。

宿を出て、どこかで部屋を借りてもいい。

余計な出費を減らす必要は感じていたし、今ならば部屋を借りる事自体は可能だろう。

そんな普通の生活ならば、視聴者の目を引くこともないはずだ。

ナナミを生き返らせることにも失敗した俺は、ただ嫌われたまま、静かに生きるくらいしか、もう人生の選択肢を見いだすことができない。

ベンチに腰掛け、地球とは違う星々の燦めきをボンヤリと眺めていた。

この二週間のリフレイアとの日々のことを、思い出さずにはいられなかった。

――これからも俺と組んで欲しい。

そう一言でも云えれば――

……そんな考えが浮かばないといったら嘘になる。

でも、それはできない。

それを言ってしまったら、俺は自分自身を一生許すことができないだろう。

彼女は、夢を叶えることが。

聖堂騎士になることができるのだから。

少し感傷的になって、しばらくそうして夜空を見上げていた。