軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18.ランチェスター公爵領へ

ランチェスター公爵領は南の辺境の地にある。馬車と鉄道を使い辿り着いたそこは、とんでもなく綺麗な街だった。

「さっきまで自然がたくさんあったのに……トンネルを抜けたら突然大きな街に出ました!」

まもなく駅に到着するらしく、汽車は減速しはじめている。その車窓から外を覗いて目を輝かせるエイヴリルに、ディランが教えてくれた。

「ここマートルの街は領地内で一番栄えていて、大体のものが手に入る。ランチェスター公爵邸はここから馬車で数十分のところにあるんだ。王都に比べれば利便性には欠けるが、決して不便なわけではない」

「ディラン様はこちらで子ども時代を過ごされたのですね」

「ああ、生まれたのは領地から遠く離れた母親の実家だがな。……ここにはいい思い出はあまりないが、それでも素晴らしい場所だとは思う」

家族への複雑な想いと領地への献身、込み入った事情を感じさせるディランの話し方に、エイヴリルは何も言わず微笑んだ。

(『辺境の地に住む好色家の老いぼれ公爵閣下』でいらっしゃるディラン様のお父様は、一体どんな方なのでしょう)

(ですが、ランチェスター公爵領は今では辺境の地と呼ばれることも多いけれど、かつては公国として独立していた歴史もあります。その経緯から独自の文化や芸術が発展し、近代的なものを好む人々には距離を置かれていますが……ディラン様がおっしゃる通り、魅力がたくさんの素晴らしいところです)

少しだけ不安は感じるものの、大体のことはなんとかなると思う。おっとりと頷くエイヴリルの視界、ゆっくりと動く街の風景にきらりと青いものが見えた。

「あっ……あれは!」

「海だな。海沿いはリゾート地になっているから今度案内しよう。港があって交易も盛んだが、あの辺は治安があまり良くない。私以外の人間と訪れる際は必ずクリスを同行させてほしい」

「あれが海……! なるほど、かしこまりました」

注意事項はきちんと覚えておかなくてはいけない。返事をしたところで、汽車は駅に到着する。今回はエイヴリルとディランのほか、クリスとメイドのグレイスが一緒だ。

(領地のランチェスター公爵邸には、特別な別棟――妾の方々がお住まいになる宮殿があるといいます。ちょっとだけ……わくわくします……!)

しかしいけない。ディランにとってこの訪問はローレンスに頼まれた大事な任務であり濡れ衣を晴らすためのものでもある。何よりも、ディランは前公爵との間に確執があるのだ。

好奇心旺盛なのはエイヴリル自身も認めるところだが、気を抜くと緩みがちになる自分の頬はこの場にふさわしくないだろう。反省し、一生懸命奥歯を噛み締めているところで、ディランがおかしそうに話しかけてくる。

「エイヴリル」

「? はっ、はい、ディラン様」

「楽しみなのを隠す必要はない。もし楽しかったら私を気にせずになじめばいいし、居心地が悪ければ王都に戻るといい。むしろそうしてくれ。そのためにクリスとグレイスを同行させたのだから」

(やはりそういうことだったのですね。ディラン様はいつだって用意周到で優しいお方です)

「ありがとうございます。ですが、きちんと役割を務めさせていただきますね! 愛人の皆さんと前公爵様のお相手もしっかり頑張らせていただきます」

「……いやそういうことでは……ああ、まぁそれでいい……」

やる気をみなぎらせて微笑めば、ディランの笑みにほんの少しだけ不安が滲んだ気がした。

でもエイヴリルは気にしない。くすくすと笑いながら本邸へと向かう馬車に荷物を積み込んでくれるクリスとグレイスの手伝いをして、自分も馬車に乗り込んだのだった。