軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47.これは誰のためのドレス③

アレクサンドラを見送った後、ディランはエイヴリルに告げてくる。

「……エイヴリル。君はまた、契約のために頑張ろうと思っただろう?」

「!?!?」

自分はついうっかり思ったことをしゃべっていたのか。エイヴリルはそっと口元を押さえたが、ディランの意図するところは違う様子だった。

「私たちの契約内容については、一度話し合いたいと思っていた」

「あら。それでしたら、私もディラン様に確認しておきたいことが」

(契約満了後、アリンガム伯爵家の使用人の方々をこちらで働かせてもらう件について、念押ししておかなければ……!)

「それならば今度改めて時間を取ろう。この屋敷を離れて、ゆっくり話せる場所へ」

「承知いたしましたわ。これは“デート”ですわね。望むところですわ」

エイヴリルがにっこりと微笑んでみせるとディランは苦笑する。ついさっきまでのアレクサンドラが同席していたタイミングでは見せない、砕けた表情だ。

「君にとっては、男性からの誘いは戦いなのか」

「そんなようなものです。悪女ですから」

「……何だか、エイヴリルを相手にすると挑む前から負けた気になるのはなぜだ」

それはちょっとよくわからない。

けれど、久しぶりのディランとのお出かけである。契約を履行しようという気持ちとは別にふわふわとした感覚に包まれて、その日が楽しみだった。

その頃、使用人用の休憩室。

コリンナに遣わされたメイドのキャロルは、主からの手紙に青ざめていた。

(この手紙に……コリンナ様の潜入が失敗したのは私のせいだって書いてある。それで今月の給金が入らないなんて……。ただでさえ支払いが遅れているのに、これでは母と弟妹が飢えてしまう)

先日の男娼騒ぎ。キャロルはコリンナから詳細を聞いていなかった。ただ、指定した時間にエイヴリルを庭の門前まで連れてくるように言われていただけだ。

けれど、コリンナの性格から見てろくでもない作戦が練られていることは容易に想像できた。キャロルはコリンナに雇われているが、心から慕っているわけではない。学歴も能力も器量もない自分が家族を養うためには、命令に従うしかなかった。

それなのに、エイヴリルの何気ない声かけに少しだけ心が揺れてしまった。

陥れられようとしているのに、おっとりとしてその相手を心配してくるエイヴリルを眩しいと思ったのだ。

(あの時は……少しだけ魔が差したのよ。自分が何のために働いているかを忘れていた。これまで通りエイヴリル・アリンガムとは距離をきちんととって……やっぱり命令に従うべきだった)

手紙をぐしゃりと握りつぶしたところで背後の扉が開く。振り返ると、入ってきたのは好んでエイヴリルの世話をしているグレイスだった。

その手には籠があり、ひと目で高級とわかる深い緑色の布が入っている。

「……グレイスさん、それは何ですか?」

「ああ。エイヴリル様のドレスです。少し露出が多すぎるようなのでお直ししようかと」

意味深な視線を送るキャロルに、グレイスは気がついていない様子だ。

(露出が多いドレス……。色から見て派手さはないけど、この上質な布地はコリンナ様がお好きだわ)

どうせあの天使のようなエイヴリルはそんなドレスは着ないし、第一彼女を溺愛するディランが許さないだろう。コリンナに贈れば機嫌を直してくれるかもしれない。

さらに『一度も顔を合わせたことがなく冷遇するエイヴリルへの世間体を保つための形ばかりの贈り物だ』という手紙を添えればさらに喜ぶのではないか。

汚名返上のチャンスに気がついたキャロルは、努めて平坦な声で応じる。

「なるほど。……もしよろしければ、私が承ります」

珍しい申し出に、グレイスは眉根を寄せたように見えた。

「一体どういう風の吹き回しでしょうか? キャロルさんはエイヴリル様のお世話をしたくないのでは」

「いえ。別にそういうわけじゃ……。ていうか、いくらお直しするとはいえ、こんなに背中が開いたドレスをあの人着るって言いました?」

「エイヴリル様は誤った方向の努力をされそうでしたので、旦那様の指示のもとお直しを承りました」

「あーなるほど」

「これは私が旦那様とエイヴリル様から承った直しですので。気遣いはいりません」

グレイスは「後で繕うから触らずにこのままにしておいてくれ」と続けると休憩室を出て行く。

「…………」

それを見送ったキャロルは、籠に手をかけたのだった。