軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

52.

次の日。

警察の捜査機関には、ランチェスター公爵家、ボードレール侯爵家、ブランドナー侯爵家の面々が集まっていた。天井が高い大きな部屋に集められた三家の人間は、全員が緊張の面持ちを浮かべている。

中央には代表してそれぞれの家の主が座り、基本的には彼らが代表して話すような形になっており、付き添いであるエイヴリルやコリンナたちは、それを囲むように長椅子に座っていた。

留守番のはずのエイヴリルがなぜここにいるのかというと、コリンナが身代わりを演じてくれることになったため、クリスという護衛をつけた上で別人として同席することになったのだった。

(この姿、二回目というだけあって、意外と馴染んでいる気がします。バレていないでしょうか)

ウィッグを被り、瓶底眼鏡をかけてまたもや冴えない姿に変装したエイヴリルは、 隣(・) の(・) 自(・) 分(・) をチラリと見る。

エイヴリルの隣には、エイヴリルのドレスを着たコリンナがものすごく辛そうな姿勢で座っていた。

付き添いのグレイスに「エイヴリル様はそんなに偉そうに座りません」「エイヴリル様はそんなに自信満々に笑いません」「エイヴリル様は殿方を目で追いません」とひたすら指導された結果、何とかかろうじてエイヴリルらしく収まっているのだが、早くも限界が近い気がする。

(コリンナは大丈夫でしょうか……!)

心配になりつつも、そのことはまず置いておいて、右隣のボードレール侯爵家の席に目をやる。そこには、侯爵夫人に付き添われたキトリーが座っていた。

(もう一人……妹さんのほうがいませんね)

最初に会場からエイヴリルを連れ出したのはキトリーではなく妹の方だ。

あのくらい幼ければ、もし事態が発覚したとしても罪には問われないし、捜査自体も逃れられるだろう。だから今日はここにいないのかもしれない。

キトリーがそこまで考えて計画したのかと思うとゾッとする。

その中で、誘拐事件の容疑者としてここに連れて来られたキトリーは、侯爵夫人である母親の腕をつかみ、目を真っ赤にして俯いていた。

その姿は、さながら事件に巻き込まれた不運で可哀想な少女のよう。

実際、この部屋に入ってきた彼女を見て、数人の捜査官は「あんな可憐な少女に悪いことができるはずがない。これは何かの間違いだろう」と同情していた。

一方、左隣のブランドナー侯爵家の席では、侯爵夫人とフェルナンが前を向いて座っていた。こちらはボードレール家とは違い落ち着いている。

会場の様子を観察する余裕があるようで、夫人は時折、エイヴリルの方を心配そうに見つめてくる。

もちろんそのエイヴリルはコリンナなのだが、あまりにもコリンナがそれを無視するので、エイヴリルはさっきから義妹の腕を何度も引っ張っているところだった。

そのたびになぜかフェルナンが苦笑しているのがよくわからないところである。

(フェルナン様は、あれが私でないと見抜いていらっしゃるのでしょうか? そうだったとしても、笑っている意味がわかりませんね……!)

そんな中、中央では、『ランチェスター公爵夫人誘拐事件』についてこれまでの捜査結果が整理され、真相が明らかになっていく。

「王宮での茶会の最中にランチェスター公爵夫人が何者かに攫われて十一区の『ベル・アムール』に売られた事件ですが、攫われるきっかけになったのはボードレール侯爵家の令嬢二人が彼女を連れ出したことだと。そういうことですな」

捜査官の言葉に、エイヴリルに扮したコリンナが端っこから声を張り上げる。

「そうよ! そこの小さい子に呼ばれて付いていったら、キトリー・ボードレール嬢が待ち構えていたのよ! そして……『もうこりごり……こりごり……』えーと、何だったかしら?」

勢いが良かったものの、コリンナはあっという間に言葉に詰まった。もともとこうなりそうだと思っていたエイヴリルは、あわててカンニングペーパーを差し出す。

(やっぱり……! コリンナ、これを)

すると、コリンナは気を取り直してもう一度勢いよく始めるのだった。

「だからぁ、それで『もうこりごり。どうして、あなたみたいな女にフェルナン様が惹かれているのかしら? これまでの遊びと違って本気って本当なの? 全部の恋人と別れてくれたのはいいけど、それだけじゃなく私まで婚約破棄されそうなんだけど?』って喚かれたの! これは言葉一つとして絶対に間違ってないわ! 事実よ」

今度は問題なく言えたところで、キトリーの母であるボードレール侯爵夫人が怪訝そうに突っ込んでくる。

「あなた、どうして一言一句違わないと自信があるのかしら?」

それはエイヴリルがコリンナに小さなカンニングペーパーを見せている以前に、エイヴリルがあの台詞をしっかり覚えていたからでもある。「何よ、文句あるの?」と食ってかかりそうになったコリンナをエイヴリルが止める前に、ディランが落ち着いた声で割り込む。

「妻は覚えることが得意でして」

すると、話を聞いていた捜査官たちは顔を見合わせて頷きあう。

「それについては国王陛下から伺っております。彼女の証言に関しては、真偽の判断は別にしても、ほぼ事実そのままを述べていると思っていいと」

すると、ボードレール侯爵が不満そうに表情を歪める。

「待っていただきたい。国王陛下がランチェスター公爵家に肩入れしているのは不公平では? 公平に判断していただかないと困ります。うちのキトリーは疑われたことにショックを受けて毎日泣き暮らしています。それなのにこんなところに引っ張り出して、かわいそうだと思わないのか?」

「お父様……」

キトリーの啜り泣きがますます大きくなった。

その瞬間、エイヴリルの隣からはなぜか舌打ちが聞こえる。見ると、コリンナが忌々しげにキトリーを睨んでいて、エイヴリルは思わず目を瞬いた。

「⁉︎」

「あの女……やるじゃないの」

引き攣った顔から邪悪な笑みが漏れている。エイヴリルはあわててハンカチでコリンナの顔を隠すのだった。

(コリンナはどうしてこんなにキトリー様に敵対心が全開なのでしょうか⁉︎)