軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46.

次の日。エイヴリルは大部屋のシーツを集めていた。

「皆さん、おはようございます!」

爽やかに声をかけてカーテンを開ければ、昼前の眩しい光が部屋いっぱいに差し込んだ。

時刻は十一時すぎ。世間ではすっかり昼前の時間帯だが、この『ベル・アムール』ではまだ朝にあたるらしい。

おかげで、エイヴリルは一階のサロンをピカピカに磨いた後、朝食の準備を手伝うことができた。厨房周りの勝手がわかったので、明日以降はもっとスムーズに動けると思う。

そんなことを考えながらテキパキと動くエイヴリルの横では、『ベル・アムール』で働く女性たちがあくびをしながら起き上がり始める。

「そういえば、昨日、新人が入ったらしいんだけど、見た?」

「知らないね。ロラさんも探してたけど、脱走はしていないのに見当たらないみたい」

「ねえねえ、どんな娘なの? 美人系? 人気でるかなぁ」

「そんなことより、私の新しいリップ知らない?」

各々がベッドの上で伸びをしたり鏡を覗き込んだりしている中、エイヴリルはポットを片手に動き回る。

「お水、こちらに置いておきますね」

「あら、ありがと。気がきくわね」

マスクをしてメイドキャップを被ったエイヴリルは、全員に白湯を配り終わると、空いたベットからシーツを剥ぎ取りつつ、この部屋にいる十人以上の女性たちに朝食についてお知らせした。

「今日の朝食は、クロワッサンの卵サンドと、生ハムのサラダガレットの二種類から選べます! 数量限定なので、早い者勝ちです!」

「まぁ」

「何それ、急がなきゃ」

「随分豪華な朝食ね? 今までそんなことあった?」

「ない、ない」

そんなことを言いながら、女性たちはパタパタと室内履きに足をさし入れ、寝巻き姿のまま階下へと降りていく。大部屋に残されたエイヴリルは、スピードを上げてシーツを集めにかかるのだった。

(これは、前公爵様の別棟で勤めていたお仕事と同じですね! 経験がありますし、これならスムーズに動けそうです)

昨夜のこと。エイヴリルは確かに娼館『ベル・アムール』に売られてしまった。頑張りますと宣言したものの、初めての場所のため何をしたらいいのか本気でわからない。

この館を切り盛りしているロラは、エイヴリルに大部屋の端っこのベッドを与えた上で「貴族だからって特別扱いはしないよ。後は同じ部屋の子たちに習ってしっかり働くんだ」と言い、いなくなってしまったのだった。

しかし、この館はちょうど夕方以降が忙しい時間帯になるようで、大部屋に同僚は不在。

仕事を得ることもできず、どこに行ったらいいのかすら誰にも聞けないエイヴリルは、せめて働くのにふさわしい服装をしなければ、と屋敷の中を走り回った。

そして、やっとのことでリネン室を見つけた。そこには使用人用の制服が複数あったため、疑うことなくそれに着替えたのだった。

ちょうどそこをバックヤード担当の同僚に見つかり、新人ですと挨拶すれば、無事に掃除と洗濯と給仕の仕事を得ることができた。

そこから今に至る。

ここでは夜中に、客から『揚げた芋』『果物とチーズの盛り合わせ』のオーダーがよく入るらしい。ということで、昨夜のエイヴリルは一晩中芋とフルーツの皮剥きをしていたのだった。

深夜にはホットミルクだと思っていたエイヴリルは、夜中の芋文化に驚きを感じながら、ここでの暮らしに慣れようと頑張るばかりである。

(とにかく、お仕事を得られてよかったです。殺されるのは嫌ですから。……にしても、ここは夜がお昼のようで、不思議な館ですね?)

不思議なのはもちろんだが、『ベル・アムール』は外観以上に広い館だった。一階はまるごとサロンになっていて、ここで客は好みの女性を選ぶルールになっているらしい。

昨日、エイヴリルが到着して案内されたのは第一サロン。実際には奥に別のサロンが二つあり、客層に合わせて案内される先が変わるようだった。

正直、エイヴリルにはこの段階で理解が難しかったのだが、コリンナが男娼を呼んでいたときのことを思い出す。義妹もきっと、こんなサロンでお気に入りの男娼を選び遊びに誘っていたのだろう。そう思えば、一応はしっくりくる。

そして、二階には小規模のサロンが複数あり、初めての客は指名した女性とともにこのサロンに通されるらしい。何度かここで食事やお茶をして親密になった後、三階にある個室に案内されるのだという。

(どうやら、ここは偽物の恋愛を楽しむ場所のようですね)

エイヴリルも客がここに恋愛の先にあるものを目当てにやってくるのはわかっているのだが、どうも想像力が足りない。

(この館『ベル・アムール』は、濃厚な男女の時間を過ごすために、大人の恋愛の駆け引きを楽しむ場所……そんなところでしょうか)

間違っていない気はするが、正解もわからない。アレクサンドラに入門編以外の恋愛小説を借りておくべきだった、と後悔するところである。

さらに上階の四階は、従業員用の寮になっていた。サロンで働く女性たち用の大部屋が六つ、バックヤードで働く従業員用の大部屋が三つ。他、別棟に男性従業員用の寮があるようだ。

全部を合わせると、この館で働いている者の人数はゆうに百人を超える。とにかく、この館が大所帯で、ロラが新人のエイヴリルに構っている余裕などないというのはなんとなくわかる。

かといって、脱走も許されない。なぜなら、門にも、塀の前にも、武装した見張りが立っているからだ。

(ここで働く皆は、自由を許されない身の方々なのですね)

もちろんそれは現状、エイヴリルも同じだった。

この館の造りについて考えながらてきぱきと四階のシーツを集め終わり、洗濯室に行く。すると、ちょうど三階のシーツを集めてきた同僚もやってきたところだった。

二人で洗濯をしながら、世間話が弾む。