軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47.悪女の交渉③

アロイスの合図で、エイヴリルの背後に衛兵がスッと回ったのがわかった。

投獄されそうになるのは二度目である。さすがに投獄からの研いだスプーンで鉄格子を外して脱走という結末は、ローレンスから期待をかけられた悪女として遠慮したい。

(ええっと、どうしましょう……!)

この件について、リステアードはエイヴリルが無実だと知っている。けれど、いつまで黙っていればいいのか。

この場を見守っているディランは、ブランヴィル王国の代表としてここへ来ている。きっと、リステアードの要請に従い、歯痒い思いをしながらも手を出さないとは思う。

(ですが、アロイスさんの目は本気ですね)

もしさらに追及されたら、考えたことが口に出やすいエイヴリルはうっかり何か喋ってしまう気がする。そんなことになったら、大変なことになるのでは?

むんずと口をしっかり閉じ、サーッと青くなったところで。冷静に話を聞いていたように思えるリステアードがアロイスを見て、ニヤリと笑った。

「ふっ。それは……」

「そこまでだ。アロイス・ヘルツフェルト」

鼻で笑いながら口を開きかけたリステアードに、よく響く声で言葉を被せるものがいた。

大勢の人々が集まっているこの大広間で、はっきりと際立つ断固とした口調だった。一体誰なのだろうか。声が聞こえてきたのは、中央の合格者が並ぶエリアからではなく、端の方からである。

瞬きの間にそんなことを考え、チラリと視線を送る。すると、どういうことなのか、怒りを全身に滲ませ、中央に向けて歩いてくるディランの姿が見えた。

(ディ、ディラン様っ……⁉︎)

ディランは自分の任務を優先するに違いないと安心していたエイヴリルだったが、見当違いもいいところだったようだ。

なぜ、と戸惑いと焦りしかないエイヴリルの前まで来ると、ディランはアロイスに無言で詰め寄った。ディランがこんなに怒っているところを見たことがない気がする。

そして、アロイスとは身長差があるため、すごい圧である。

「訂正してもらいたい」

「訂正?」

意味がわかりませんな、とふてぶてしい表情のアロイスに、ディランが凄む。

「貴殿の、エイヴリル・アリンガムの不正の証拠が出たという言い分には不審な点がいくつもある。それは全て国王陛下も承知しているはずだ」

「は?」

余裕だったアロイスの表情に、わずかな迷いが浮かんだ。そうして、リステアードの方に視線を向ける。

リステアードは口の端だけを上げて微笑み、ディランに向けて頷いた。視線は鋭い。それは、『昨日の出来事』を説明する許可をディランに与えたも同然だった。

「こ、国王……陛下?」

アロイスのさっきまで自信満々だった笑顔は、いまや戸惑いに変わってしまった。ディランは問いかける。

「そもそも、貴殿が言う不正の証拠とはどんな状況で見つかったのか教えてもらおうか」

「……彼女の部屋付きの女官によると、机の上に置かれていたとか。隠すように置かれていたようですぞ。見られてはまずいという認識はあったのでしょうなぁ」

「なるほど。それはこれか?」

タイミングよく、文官が書類の束を運んできた。

それはリステアードの指示で準備されたものに見えたが、自然な流れでディランがアロイスの目の前に突きつけた。何かおかしいと気が付きつつも、従うしかないアロイスは、戸惑いながらも頷く。

「あ、ああ。これに違いない。この予備の問題の一問目が、私が受験した三十年前にも出ていた問題だから印象に残っている。女官が見つけて私のところに見せに来たのは、この書類に違いないと断言できる」

「昨日、貴殿が女官からこの『不正の証拠』を見せられた後、この書類は国王のもとに運ばれた。国王は、この『不正の証拠』をしっかりあらためた上で、今日の任官式を催すことにした」

「なっ……⁉︎」

何も聞かされていないアロイスは驚きに目を見開く。けれど、ディランは容赦がない。

「この不正の証拠には、証拠たりえない決定的な欠陥がある。にもかかわらずこのような断罪が行われようとは、我が国の才女エイヴリルを陥れるものだ。そして、誰が陥れたのかは昨日のうちにわかっている」

「はぁっ……⁉︎」

才女、という言葉に心の中で驚きツッコミを入れたくなったが、今はそういう場合ではないだろう。

目の前の二人のやりとりを見つめながら、エイヴリルは昨日のことを回想するのだった。

(やはり、国王陛下はアロイスさんには何も知らせていなかったのですね。この場で罪を認めさせて、クラウトン王国のこれからに役立てるために)