軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2.『悪女』として嫁がされるようです

「エイヴリル。お前は、コリンナの代わりに嫁ぐことが決まった」

一年前のこと、アリンガム伯爵家の当主である父親の言葉に、エイヴリルは目を瞬いた。

「……あの、それはコリンナのせいでできた借金のかたに、私を差し出すということで合っていますか?」

「何という品のない言い方をするんだ。口を慎め、エイヴリル」

父親からの厳しい叱責にもエイヴリルは穏やかな表情を保ち特に動じることはない。なぜなら、こんなのは日常茶飯事だからだ。

どうしようかしら、と首を傾げるエイヴリルの前には、両親と義妹の三人が澄ました顔で立ちはだかっている。大体の不幸に慣れていることは認めるが、今回だけは事情が違うこともまたわかっていた。

――十日ほど前の朝、義妹のコリンナが朝帰りをした。

両親は知らなかったようだが、コリンナはしょっちゅう夜遊びに出かけている、その世界では有名な『悪女』だ。

その前夜に参加していたのは、何と事もあろうに『仮面舞踏会』だったらしい。

コリンナはそこで出会った侯爵家の令息と懇意になり、一夜を過ごしてしまった。それはいつものことなのだが、今回は相手が悪かった。

その令息の婚約者はアリンガム伯爵家が借り入れをしている大富豪の令嬢で、揉めに揉めた末、今すぐに借金を返せと言われてしまったらしい。

「私……そんなつもりじゃなかったの。まさかあの方に婚約者がいらっしゃったなんて」

「コリンナ。誰にだって失敗はあるものよ。でも大丈夫。今回は替えがきくんだもの」

義妹と継母の会話に、眩暈がしそうだ。

(全然大丈夫ではないと思うのだけれど……)

面と向かって『替え』と言われたエイヴリルがニコリと笑うと、継母は勝ち誇ったように言い放つ。

「大体にしてね、コリンナが夜遊びなんてそんなはしたないことをするはずがないのよ? そんなの誰も信じないわ? だって、この美しくて賢くて愛らしいコリンナなのよ?」

「そうですわ、お母様。だって、コリンナ・アリンガムはあの舞踏会にはいなかったの。私があの殿方とその婚約者に名乗った名前は『エイヴリル・アリンガム』だもの?」

コリンナの相槌に、エイヴリルは傾げた首を反対側に傾け直した。

(ええと……と、いうことはやはり……)

どうやら、エイヴリルは身代わりで嫁ぐだけではなく『悪女』のレッテルも貼られるらしい。予想通りの展開にますます目を瞬くと、父親が告げてきた。

「いいか、エイヴリル。お前はお前が作った借金を返すために、ランチェスター公爵家――辺境の地に住む好色家の老いぼれ公爵閣下、のところへ嫁ぐんだ」

「ず、ずいぶんな二つ名ですね」

「黙れ。ランチェスター公爵は後妻として嫁ぐだけで多額の支度金をくださると。何と言っても『悪女のエイヴリル』でもいいらしい。わざわざこのタイミングで縁談を持ってきたことを踏まえても、どんな相手かは想像できるだろう」

ランチェスター公爵家といえば、王家に連なる名門である。けれど、社交界にはめったに顔を出すことがなく、謎に包まれた存在だった。

(……ランチェスター公爵は確かにお年を召した方でしょうけれど……今さら新しく後妻を迎えるのは不自然なような……。でもつまり、私は多額の支度金と引き換えにコリンナの身代わりとして嫁ぐことになるのね)

エイヴリルが呆然と立ち尽くしているように見えたのか、騒動を引き起こした張本人のコリンナはにやりと微笑んでエイヴリルに近づき、耳元で囁いた。

「エイヴリル。あなた、気持ちが悪いのよ。みーんな言っているわ? 一(・) 度(・) で(・) 何(・) で(・) も(・) 覚(・) え(・) ら(・) れ(・) る(・) なんて、どう考えてもおかしいもの。一部には持て囃す人もいたかもしれないけれど、やっぱりその能力は呪いか何かでしかないのよ。無能なんだから、早くこの家からいなくなってちょうだい?」

(ついにこの日が……! 私、この家を出て行ってもいいのね……!)

わくわくする気持ちをなんとか堪えて、エイヴリルは小さく頷く。

「……承知いたしました」