軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13.王妹エミーリアからの招待②

とりあえずエミーリアを応接セットのところまで運び、話を聞くと、エミーリアは『自分は悪女エイヴリルのファン』だと早口で喋り出した。どういうことだ。

(あの、つまり……ものすごく好きだとかそういう意味でしょうか? いえ、それでは『悪女』と辻褄が合いませんね……)

ぽかんとしたエイヴリルの前で、エミーリアは顔を赤くして目を背ける。

「三年前に我が国を訪れた悪女エイヴリル様のお話は存じておりました。多くの殿方を虜にし、金銀財宝を貢がせて奪い尽くしたというお話に、そのときは、何とはしたない女性なのかと思いました」

「その通りですね。お詫びを申し上げます」

やはり、好きなどではなかったらしい。これは昨日の不躾な振る舞いへのお詫びどころか、国家に対しての謝罪の場のようだ。

今すぐにソファから降りて、床におでこを擦りつけてごめんなさいをしたいと思っていると、エミーリアはそっとエイヴリルの手を取った。

「ですが、数ヶ月前のヴィクトリア号の一件を噂で聞きまして、考えが変わったのです」

「えっ」

「エイヴリル様は、悪女なのに、船内の人質となった女性たちの身代わりとなり、彼女たちを救ったとお聞きしました」

「ええっ」

「悪女の強さと聡明さに心を打たれたのです」

「!?!?!?」

予想外の方向に話が飛び、しかもエミーリアの解釈が斜め上だったことに、エイヴリルは動揺を隠せない。

(豪華客船でご一緒したリンさんはクラウトン王国のお方でした。リンさんが帰国してお話しした内容がエミーリア殿下のところまで回ってしまったようです⁉︎ それにしても、どうしてこんな方向で? いえ、悪女の善業と理解されているから、一応はセーフなのでしょうか?)

自分で分析しながらも、まったく解せない。しかも自分は悪女としてこの国を訪問しているのだ。強さはともかくとして、聡明だとか言われてしまったらものすごく困ってしまう。

けれど、いつも助けに入ってくれることが多いクリスは微笑んで見守っている。ここは、自分で何とかしなくてはいけないようだ。

一方のエミーリアは、うっとりと恍惚の表情を浮かべたまま、なおも続けた。

「兄は、私がエイヴリル様を大好きなことを知っていますが、その理由までは知りません。だって、兄に他国の話をしたことが側近たちに知られると面倒なことになるんですもの。エイヴリル様の素晴らしさは、私だけが知っていればいいのです。昨日、謁見の間で私を庇ってくださったことも胸に響きました。何とお礼を申し上げればいいのか」

澱みなくつらつらと話し続けるエミーリアの様子を見ていると、これが演技だなんて絶対に思えなかった。しかし、内容が本心としてはありえない。

(そんな。どうして、昨日のマナー違反な振る舞いに腹を立ててくださらないのですか……! ですが、これは本格的によくない気がします)

この訪問の目的が、根本から覆されてしまった気がする。エイヴリルは悪女として国王リステアードを籠絡しないといけないのに、その妹にヴィクトリア号でのことがバレてしまっていては、厳しいのではないか。

(どうしたらいいのでしょうか……!)

困惑しているエイヴリルをよそに、エミーリアはすっと立ち上がると部屋の奥の部屋に繋がる壁一面を覆っていた布に手をかけた。そして、勢いよく引っ張る。

バサッ。

重い布が大理石の床に落ちる音が響いたすぐ後で、困惑から抜け出せないエイヴリルは信じられないものを見た。広い壁一面に、自分の顔がある。

(んんんんん⁉︎ これは……何でしょうか⁉︎)

その エ(・) イ(・) ヴ(・) リ(・) ル(・) は、肩周りがはっきりと出る真紅のドレスを着ていた。色っぽい視線をこちらに送りながら、バタフライ型の仮面を手に持って妖艶に微笑んでいる。

自分よりも幾分幼く見えるため、コリンナの肖像画に違いなかった。

エイヴリルが衝撃を受けている一方で、壁一面を彩る肖像画に向け、エミーリアは頬を染める。

「悪女エイヴリル様とお近づきになった殿方に話を聞いて描かせましたのよ。……ですが、本物とは少し違いますわね? 仮面で隠された部分は想像で描かせたので当然なのかしら。画家を呼んですぐに直させないと。不完全なものをお見せして申し訳ございませんわ」

「あの」

「本当は、ブランウィル王国を訪問してお会いしたかったのです。だって、この国は外からの情報がなかなか入ってこないんですもの。ですが、私は体が弱く、自然に恵まれて空気が綺麗なこの国を離れることはできません。失意の日々を送っていましたが、今回の使節団の訪問を聞いて感激しましたお目にかかれて嬉しくて死にそうです!」

「あの⁉︎」

「クラウトン王国へは、各所の視察を行うため長期で滞在することになると伺っております。悪女であるあなた様を悪くいう者がいたら、絶対に許しませんわ。私も、そんなに立場は強くないですけれど……国王である兄を私的に使ってでも、エイヴリル様をお守りしますのでどうかご安心を!」

(ど、どうしましょう……!)