軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4.結婚式の日の夜について、回想します

――結婚式が終わったのは、ほんの一週間ほど前のこと。

結婚式の準備でスケジュールが詰まってしまったせいか、ここのところのディランは忙殺されているようだ。領地経営や王都での社交のほかに、ローレンスからの特別な依頼を抱えているのだから当然だとは思う。

ここのところ、帰宅は深夜だ。当然、共有の寝室に来ることはなく、そのまま書斎に直行することすらある。

(領地で何かあれば、前公爵様が動いてくださるようですが……。前公爵様のこれまでの振る舞いを考えると、領地のことを任せるのはさまざまな面でランチェスター公爵家のためになりません。ディラン様もそれはよくわかっておいでの様子です)

そんな中、いつもお留守番のエイヴリルは、屋敷の中を取り仕切るほか、ディランが残していった書類仕事をさらさらと仕上げたり、お屋敷を磨いたり、ディランが新しく興す予定の事業計画書を眺めて過ごしたり。

たまにアレクサンドラのお茶会にお呼ばれしたりして過ごす事もある。一応は女主人の仕事を担っているものの、回想すると、あまりにも自分だけが自由な暮らしを満喫していて申し訳なくなってしまう。

せめて、と口を開く。

「ディラン様、クラウトン王国に入ったらますます気が抜けなくなります。少しでも休んでくださいね。今回の件は仕方がないとして、普段も私がもっと少しお役に立てたらいいのですが……!」

「これ以上、となるとエイヴリルは国でも興す気か」

「? まさかそんな?」

謝罪したはずが、苦笑されてしまった。ディランの意図が掴めず、首を傾げるともう一度念を押される。

「君以上の働きをする文官や側近を見たことがないよ。もっと役に立ちたいと言われても、何をしてもらえればいいのかわからないな」

冗談と本気が半分ずつ、考え込むようにして告げられる最上級の褒め言葉に、褒められ慣れていないエイヴリルははにかんで微笑んだ。

「ディラン様が寝る暇もなくお忙しくされているのを見ると、何かできることはないかと考えてしまうのです」

「……」

ディランは、なぜか言葉に詰まってしまった。どうしたのか、と顔を覗き込むと、困ったような表情がそこにある。

「……今日で一週間か」

「? あ! はい、式の日から一週間が経ちましたね」

結婚式からの日数を数えているのだと察したエイヴリルは、しっかりと頷く。ディランは困っているのかと思ったが、そうではないらしい。気がつくと、苦笑を通り越した表情が向けられていた。

「まさか、こんなに一緒に過ごす時間がないとはな」

「今回は、クラウトン王国への特別な任務のこともありますし、仕方がないですよね」

そう言ってみたものの、二人が一般的な夫婦の時間を過ごせていないのには、エイヴリルの方に理由があった。肩身が狭い。

(うっ……こうは言ってみたものの、そもそも一緒に過ごす時間があまりないのは、私のせいなのです……!)

多忙を極めるディランだが、さすがに、結婚式の夜だけは予定を空けてくれていた。その日は、二人が寝室をともにする初めての夜になるはずだった。

だが、申し訳なさすぎる事故が起きたのだ。

アレクサンドラから贈られたナイトドレスを身につけたエイヴリルは、寒気を感じた。何かと思ったが、よくよく考えてみるとおでこが熱いし頭も痛い。

――薄着による風邪だった。

だって、流行のナイトドレスは寒かった。本の中で、おしゃれは忍耐だという人がいたが、耐えても何とかならないこともある。

いわゆる『初夜』に、熱を出してディランに看病されるという失態を演じてしまったエイヴリルだったが、無事に一晩で全快した。

気を取り直し、粗相をいたしまして申し訳ございませんでした、とやり直そうと思ったときにはもう遅かった。

ディランはいつもの多忙な日常に戻り、風邪が治ってよかった、と微笑んだ。

その絶妙なタイミングで届くローレンスからの書簡。信じられない。

しかも、この『初夜で慣れない薄着のせいで風邪を引いた一件』だけならまだよかった。残念なことに、エイヴリルにはこれ以外にも身に覚えがありすぎるのだ。

ディランが運んでくれたホットミルクを飲んで温まって眠ってしまったり、一緒に夜の書斎で読書をしたまま眠ってしまったり。エイヴリルが眠らなくても、ディランが眠っているので添い寝をして驚かせてしまったこともあった。

特に、寝てしまう関係の失態が多すぎる。

(私には、夜にディラン様のお顔を見ると、ほっとして眠くなってしまう魔法でもかかっているのでしょうか……!)

いろいろなことを思い出し、自分の不甲斐なさに大理石の床におでこを擦り付けて詫びたい気持ちになったところで。

「悪女としての訪問か。心配だな」

話題が変わってしまった。話題が話題だけに蒸し返すこともできず、謝罪の機会を失ったエイヴリルはさらに申し訳ない気持ちになりながら、せめて、と拳を握る。

「大丈夫です! 私はランチェスター公爵家の皆さまの前で、一年間も悪女として過ごした経験がありますから! ご心配には及びません」

「……それは、そうだな」

つい数秒まで心配そうだったディランの微笑みは、思わずと言った様子でくしゃりと崩れたのだった。