軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34.悪女のお仕事

作戦を変更することに決めたエイヴリルは、悪女らしく笑ってみせる。

「そう思って、娼館や貴族のおじさま方に特に好まれそうな髪型にしました。私、悪女として皆さんのお役に立てましたでしょうか」

本当はそういうところで好まれる髪型のことは全くわからない。

けれど、よくよく見てみるとここの女性たちの髪型はランチェスター公爵家の別棟に住んでいる愛人たちが好むものに似ている気がする。

薄暗いし、これは押し切れるだろう。エイヴリルが考えた作戦を実行するなら、悪女たちの味方だと思われているに越したことはないのだ。

「ふーん。アンタは機転が利くね。そんじょそこらのお嬢さんじゃなさそうだ」

「だから言ったでしょう? この子は有名な悪女だって」

キャシーが老婆へ得意げに説明したところで、一人の女性が勇気を出して挙手したようだった。

「あっあの」

「あん? 何だね」

「その……この悪女の人は、娼館に売られるのならこの髪型がいいって言いました」

(……!?)

ちょっと待ってほしい。一体どういうことだ、とエイヴリルは目を見開いたが老婆と女性は気にしないで話を進めていく。

「本当かね?」

「はい。私は嫌だって言ったのに……ボサボサの赤毛もこうして整えるとちょっとはマシになるって。でも私、異国の娼館に売られるのなんて嫌です……っ」

そういうと、女性は両手で顔を覆ってしまった。けれどエイヴリルはこの彼女とはわりと仲良く楽しく話しながら髪型をセットしたはずなのだ。娼館に売るなんて話した覚えはない。

こんな嘘をつかれるなんて。もしかして自分は彼女の気に障ることをしてしまったのだろうか、と一瞬戸惑ったもののすぐに別案が浮かぶ。

(もしかしてこれは――私の意図を汲んで話を合わせてくださっている?)

すると、別の女性もおそるおそる手を挙げた。

「私もです! この髪型は貴族の遊び人のおっさんが好きな髪型だって言って……たしかにかわいいけど……私、おっさんに売られるのは嫌っ……」

彼女もまた両手で顔を覆い嗚咽をあげるが、涙は見えない。そうして、次々と手が挙がっていく。

「私も高級娼館で流行っている髪型にされました、泣きたいです」

「こっちも見てください、私の髪型、場末のホステスみたいじゃないですか?」

「私もエロジジイ好みの髪型にされました……嫌だって言ったのに……ぐすん」

(み、皆さん……演技力がすごいですね)

女性たちは口々に『悪女のエイヴリルに高額で売り飛ばせる髪型にされた』と言っている。それを聞いていたキャシーはものすごく得意になったようだった。

「ねえ、だから言ったでしょう? この子はこっち側だって。大丈夫よ、この子なら使っても」

「ふーん。わかったよ。……アンタ、エイヴリルと言ったね」

「はい、悪女のエイヴリルです」

もう一度挙手してニコリと微笑む。老婆はエイヴリルを上から下まで舐めるようにして見た後、リンを指差す。

「その子どものお守りを命じるよ。そっちの扉からバックヤードに行ってその子をなだめてきな。ただし、戻って来なかったら……承知しないよ。ここにいる商品全員が人質だ」

そうして老婆は積まれた木箱を銃でがしゃんと叩いた。女性たちの間に緊張が走ったのがわかるが、誰一人としてパニックになる者はいない。

(みなさん……リンさんがおばあちゃんに話しかけたことで、私たちが何かしようとしていると察してくださったようです。そして、怖いはずなのに私たちを信頼して任せてくださっている……ただ、髪を結いながらお話をしただけなのに)

ここに長く閉じ込められているのにも拘らず、心が折れることなく一縷の望みに賭けたいという女性たちの気持ちが伝わってきてじーんとする。

ならば絶対に失敗するわけにはいかない。改めて決意を固めたエイヴリルは悪女らしく微笑んだ。

「かしこまりました。ではこちらのリンさんと一緒に少し外へ出させていただきます。リンさんの様子が落ち着いたらまたこちらに戻ってまいりますわ」

「ああ、頼むよ」

老婆の一声でバックヤードへと続く扉の鍵が開けられた。銃を持った悪女が扉を開け、エイヴリルとリンに通るように促してくる。

『リンさん。私も一緒に行くことになりました』

『? ふうん? そうなんだ?』

(本当はリンさんにお手紙を託して機関士の皆様に船を止めていただこうと思ったのですが。私が一緒に行けるのならこれ以上のことはありませんね)

エイヴリルはポケットの中に入っている祖母の形見のネックレスをスカートの上からぎゅっと掴む。パパラチアサファイアが使われているそれはディランが買い戻してくれたものだ。

普段は大切にしまっているのだが、今回は『新婚旅行』なのでなんとなく持ってきていた。

これを持ってきていてよかった、と思いながらエイヴリルは扉をくぐったのだった。