軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8.馬車の中で報告します

その日の午後、エイヴリルはディランとともに写真館へと向かう馬車に乗っていた。

この馬車に乗っているのは二人だけだが、後続の馬車にはウエディングドレスを持ったグレイスとクリスが乗っている。

二人きりのエイヴリルとディランだが、話題はもっぱら前公爵のおかしな行動についてだった。

「……ということがありまして」

前公爵がメイドたちに解雇を言い渡しているところに遭遇したと報告すれば、ディランは厳しい表情になる。

「どうしてすぐに呼ばなかった?」

「申し訳ありません。なんとなく、一人で切り抜けられるような気がしたのです」

「いや、エイヴリルが謝る必要はないんだ。……ただ、俺が気づかなかったせいで嫌な思いをさせた」

「いいえ。全く問題ありませんでしたわ。しっかり悪女として対応しましたので!」

胸を張ってそう答えれば、ディランは真剣な表情を引っ込めて遠い目をした。

「嫌な予感が……。エイヴリルは一体何をしたんだ……?」

「はい、居合わせたグレイスとシエンナさんの経歴をご紹介したり、前公爵様が持ち去ろうとした報告書の内容をそらで言ったり、私の特技を披露して怖がっていただきました!」

我ながら、今日の自分は完璧だったのではないか。グレイスにも褒められた気がする。自画自賛する気持ちで自信満々に答えると、ディランは笑みを隠すように口元を押さえた。

「なるほど。確かにその場は切り抜けられたかもしれないが、前公爵からの印象という面ではもしかして逆効果かもしれないな……」

「えっ?」

「父――、前公爵は元は仕事ができる人間だったようだし、他人を見下してはいるが能力のある人間のことは嫌いではないはずだ。ただ、それ以上に遊ぶのが好きすぎて堕落したというだけで」

「それはまあ」

(確かに、いくらランチェスター公爵家が裕福でかつ特権が認められるような名門だったとしても、主が本気で遊び呆ければたち行かなくなるでしょう。愛人の皆様への贈り物を帳簿であそこまで細かく管理していることも踏まえると、家が傾かないギリギリの線を狙って遊んでいた、という言い方が正しいのかもしれません)

家族全員が本気で遊び呆けていた自分の実家が辿った末路や、グレイスが雇用された経緯を考えても頷ける。そんなことを考えていると、ディランが真剣な表情になって続けた。

「実は、別棟の解体に向けて動くため、あそこで暮らしている女性たちに話を聞いてきたんだ。離れがなくなった後の身の振り方を聞く中で知ったのだが、どうも最近前公爵の様子がおかしいらしい」

「様子がおかしい、ですか?」

「ああ。最近、あまり夜に彼女たちの部屋へ行かないのだと。行ってもお茶を楽しんで帰るだけだと」

「……なるほど?」

エイヴリルに合わせてディランが言葉を選んでいるのがわかった。コリンナの『夜遊び』を雰囲気で思い浮かべたエイヴリルは納得する。

「つまり、ディラン様が領地入りして別棟の解体に動いていることを認める方向ということでしょうか。愛人の皆さまとのお遊びはそろそろおしまいにする、と」

「というよりはまるで領主だったときのような生活をしているらしい。別棟の自室の書斎には新しく机を運び込み、愛人たちの部屋には一日の半分しか行かず、書斎で過ごしていると」

「……それって、普通のことでは?」

「あいつにしては上出来のはずだ」

ディランが思わず『あいつ』と呼んだのを聞いて、エイヴリルはくすりと笑った。

ディランが父親のことをひどく嫌っているのは知っている。けれど、ディランが前公爵のことを語るときは、いつも完璧な彼の人間らしさが垣間見える場面でもあって、結構好きなのだ。

「では、前公爵様の様子はおかしくてもそこまで問題はないのでしょうか?」

「それがそうでもないんだ。どうやら秘書を雇うと言い出しているらしい。代替わり前に秘書を務めていた男を呼び戻そうとしたが、連絡が取れずに困っていると。書斎から書類を持ち去ろうとしたことも踏まえると、本気で代替わりをなかったことにしたいのか」

「秘書を。それは」

(……ディラン様が仰ることは、午前中の前公爵様の行動とも一致しています。一体どういうことなのでしょうか)

考え込んでしまったエイヴリルに、ディランは何やら諦めたように告げてくる。

「正直、やれるものならやってみろの気持ちではいる。だが、今回の原因はエイヴリルにあるのではとも思う」

「…………」

あまりにも思いがけない言葉に、エイヴリルはたっぷり十秒間ほど固まった。そして。

「えっ? 私、私、ですか?」