軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十四話 動かず動くために

そこで現国王ヴァルタルではなく王位継承争いをしている——不利なほうの王子の名を挙げるあたり、アルバートも政治力学が分かってきたようだ。

もっとも、アルバートは『なぜドニー王子が第一王女メリザンドの出産の秘密に関与しているのか?』という具体的な道筋が見通せたわけではなく、あくまで最悪の結果どうなるかを示したにすぎない。

もちろん、私の中でもそこまで判明しているわけではないし、判明していたらとっくに行動している。

私は自分を落ち着かせるためにも、しっかりと『これが結論ではないのだ』と口に出す必要があった。

「まだ推測の段階よ。でも、メリザンド様が身ごもった件について重要な何かを知っている。そして三年も黙っているのよ、あの情けない王子は」

アルバートがごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた。緊張は目を見れば分かる、私と目を合わせているようで及び腰になっている視線。

その視線は言葉よりも雄弁だ。

アルバートが内心に抱えるいくつもの疑問、質問に私はまだ確とした答えを出せるわけではない。

だが、あの第一王女メリザンドが公の場から消えざるをえなくなった事情が出現した三年前とほぼ同時期に、なぜかドニー王子が不可解な行動を始めている。

それも、連鎖的ではなく、 同(・) 時(・) 多(・) 発(・) 的(・) に(・) 、 一(・) 見(・) 何(・) の(・) 関(・) わ(・) り(・) も(・) な(・) い(・) 事(・) 象(・) を(・) 複(・) 数(・) 箇(・) 所(・) で(・) 、だ。

(確証のない噂もあれば、貴族の情報筋で確認が取れることもある。だからこそ、アルバートにはまだ話せない。ただでさえ今日は一気に新しい話をしすぎたのだから、これ以上詰め込むと混乱してしまう)

私が無口になったことで、アルバートは恐怖にでも駆られたのか、なだめてきた。

「お前の怒りは分かる、落ち着け」

「落ち着いているわ。少なくとも、ドニー王子の首が胴体から離れていないのだから」

「だから、落ち着け! 俺が探りを入れるから」

「あなたはダメよ。放蕩息子同士、同情してしまうから」

「……そうかもしれないが! くそ、己の過去がこんなときに邪魔するとは!」

ドニー王子はアルバートの親しくない従兄弟だが、一方で身分が高いにも関わらずさほど有能とは言われずに育った嫡男同士、という共通点から『 同病(どうびょう) 相憐(あいあわれ) む』ことになりかねない。

アルバートが放蕩息子なら、ドニー王子は愚鈍息子だ。前者は許されても後者は許されない、単純明快、なぜなら国王の嫡男だからだ。一国と民を背負うことを義務付けられた一族の長になる者として、決して暗愚であってはならないのに——。

まあ、いい。アルバートが自分の恥ずべき過去をきちんと見つめていることが、本人の口から分かっただけでも収穫だ。

それに、状況はただ停滞しているわけではない。

「二、三日中に外交部門の会議がある。そこで色々話を聞いて——もちろんメリザンド王女についてとは言わずに情報収集をしてくる。もしかすると、お前では手に入らない話や噂も聞けるかもしれない」

「ええ、お願いするわ」

「ところで、メリザンド王女関連の事情は、母上も知っているのか?」

「直接お話ししたわけではないけれど、複雑な事情があることは察しておられるでしょうね。だから」

「分かった、そっちも俺から話してみる。王妃や両王女と近しかったお前の立場であれこれ喋るのはよくないしな」

「よくご存知で」

「俺だって」

俺だってそのくらいは理解している、とでも言いたかったようだ。しかしそれを言ってしまえば、今まで分かっていなかったのか、と私に皮肉られる未来を予測できたのだろう。

アルバートは成長している。公職に着く大人として失言してはならない身である、と目覚ましい自覚が生まれていた。

そして、速やかに不利な状況を終わらせにきた。

「よし、一旦、話はこれで終わりだ。いいな?」

ちょうど、応接間の扉がノックされた。使用人が夕食の時間を告げにきたのだろう。

納得したわけでも何でもないものの、急いては事を仕損じる。私は会話の打ち切りに同意した。

「ご勝手に。ただし、動きを悟られてはダメよ」

「生憎と俺は若輩者だから、会議の場では発言の機会が少なくてな」

「そう、先達ばかりね。『老狐は甘言を操る』、という格言はご存じ?」

「……最大限気を付ける」

「そうしてちょうだい」

互いに言うべきことは言った。

やれやれと、二人同時に口にしながらソファから立ち上がる。

私はさっさと部屋を出たが、アルバートは奇妙なものを見てしまったかのように固まって、一歩遅れて慌ててついてきた。