軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編第五話「トリア暦三〇二七年五月:白き軍師との邂逅:後篇」

五月二十六日の昼下がり。

白き軍師こと、レイ・アークライトと彼の今後について話をしていた。

レイはルークスに向かい、聖王国を改革したいと語った。腐敗した宗教国家であり、世界最強のカエルム帝国の公式の敵国を改革するという割には、覚悟が足りないように感じている。

そのため、彼の危機感を煽ることにした。

まずは帝国宰相のアレクシス・エザリントン公爵がいかに危険かを説明し、宰相が取り得る選択肢を提示した。

現在、帝国は大きな問題、次期皇帝が誰になるかという問題に直面している。そして、有力な二人の候補、皇太子であるジギスムントとレオポルド皇子にはいずれも大きな欠陥があり、宰相が二人以外の候補であるジュリアス皇子を皇帝にしようと考えていると説明した。

更に宰相がやりそうな皇太子とレオポルド皇子の両方を抹殺する方法として、二人をルークスに侵攻させ、草原の民や獣人部隊という強力な戦力を持つレイに敗北させる可能性を示唆した。但し、俺自身は自らが語った方法を宰相が採るとは思っていない。

「実際にやるかどうかは分からない。皇帝陛下の健康状態が想像以上に悪ければ、この手は使えないし、何かの手違いで君が帝国に深刻なダメージを与えてしまう可能性が高いからだ」

「帝国に深刻なダメージですか? 今の戦略なら帝国の損害は二個軍団だけで済みそうですが」

「そうとも言い切れない。君が持つ戦力は君が思っている以上に強力だ。帝国に逆侵攻してこられたら手が付けられなくなる。野戦では無敵の草原の民と破壊工作が専門の獣人部隊がいるんだ。城塞都市で籠城戦をしようとしても城門を開けられたら終わりだからな。そうなるとエザリントンまでは簡単に侵攻できる」

俺の言葉にレイは「できないことはないですね」と呟くが、それ以上何も言ってこなかった。

「それ以上に厄介なことはルークスという国に強力な独裁者が生まれることだ」

「それは僕のことですか?」

「そうだ。もし、君が脅威を感じ過ぎれば、自分自身を守るために権力を掌握しようと考えるかもしれない。人間、追い詰められたら何をするか分からないからな」

「僕にその気はありませんが、否定しにくい話ですね」と苦笑する。

「ああ。君自身は穏便に済まそうと考えても状況が許さない可能性がある。何度も言っているが、君が持つ戦力は規格外だ。そんな力を持つ者が権力を志向する。更にその最大戦力である草原の民はルークスという国に愛着があるわけでもなく、君だけに忠誠を誓っている。これが厄介だ」

「確かにそうですね。今は暴走するとは思えませんけど、あり得ないとは言い切れません」

「そういうことだ。彼らは君のためならルークスの国民にどれだけ犠牲が出ようが気にしない。君に反抗する者がいたなら、都市ごと皆殺しにするくらいのことはやりかねないんだ。これは獣人部隊にも同じことが言える。そうなれば、君は恐怖政治の独裁者としてルークスに君臨できる。そうじゃないか?」

レイが俺の問いに答える前に話を続けていく。

「君がそれを望んでいないことは理解している。しかし、その能力があること、つまり可能性が存在することが問題なんだ」

「帝国宰相がその可能性を恐れるからですか?」

「そうだ。単に可能性だけであっても潜在的な脅威となり得る。そう判断されれば、謀略をもってルークスを潰しにかかるだろう」

「ではどうしたらいいんでしょうか。このままでは元凶である光神教を潰しても、帝国の謀略で国が亡びるか、僕が独裁者になるしかなさそうですが」

「帝国宰相が何を狙っているか、そしてもう一つの巨大な組織、商業ギルドが何を狙っているかを考えれば、おのずと答えは出てくる」

「宰相の狙い……商業ギルドの狙い……」

レイは俺の言葉で必死になって考え始めた。俺はそれに構わず話を続けていく。

「エザリントン公は長期的にはもちろん、短期的にも帝国内の混乱を望まない。公爵にとってルークスは適度に危機感を煽る存在であってほしいんだ」

「適度に危機感を煽る存在ですか……」

「そうだ。もしルークス聖王国が君の下で完全に一つになったとすれば、草原の民という圧倒的な戦力が帝国の脅威となる。潜在的な脅威であればまだいいが、帝国の存続の障害になると判断されれば排除にかかる可能性は否定できない」

草原の民は非常に強力な戦力だ。戦士だけで十万を遥かに超え、野戦においては圧倒的な力を誇り、帝国の正規軍団でさえ同数ではあっという間に壊滅させられるだろう。

その戦力が帝国の敵国に回ったならば、帝国の指導者たちが排除にかかることは想像に難くない。

「宰相は愚かではないから、君がトップに立ったルークスと正面切って戦うことはしないだろう。しかし、レオポルド殿下を推す派閥はルークスの脅威を殊更言い立てて、無謀な戦いを強行しようとする。正面から戦うという愚かな選択をすれば、どれほど戦力を投入しようが、帝国軍の敗北は必至だ。逆に戦わなかった場合、君という脅威が残ることになる。つまり混乱の火種がくすぶり続けることになるんだ」

「宰相はその状態を望まないということですか……商業ギルドも似たようなものですね。ルークスが自分たちの制御を離れて帝国とことを構えれば何が起きるか分からないから」

「その通りだ。商人たちは意外に保守的だから、劇的な変化を嫌う。特に商業ギルドの上層部にいるような大商人は自分たちの制御できる範囲内で動いてほしいと考えるだろう。つまり商業ギルドも、ルークスには今の形に近い状態で存続してほしいと思っているということだ。帝国に対する盾として役に立つようにな」

「ようやくザックさんの言いたいことが分かりました。僕がルークスに行っても急進的な改革をしてはいけないということですね。急速に変わると帝国も商業ギルドもルークスに干渉したくなるから」

「そういうことだ。総大司教を倒したとしても、最低十年は改革を自重し、ドラスティックに変わったと思われないことが大事だ。それともう一つ大事なことがある。草原の民をどうするかだ。そのことについては考えているんだろ」

「ええ、僕としてはルークスに入る時には混乱を抑えるために一万人くらいの戦力を引き連れていくつもりですが、聖王派が勝利したら草原に戻ってもらおうと思っています。彼らは草原でしか生きられないと思いますから」

その答えに安堵する。

「それがいい。ただ、それをどうやって帝国に認めさせるかだな。君に忠誠を誓う草原の民が草原とはいえ帝国内に留まることになる。自分たちにいつ刃を向けてくるかも分からない戦力が自国内にいることを帝国が容認するとは思えない」

「その点は同意します。僕としては草原の民に永世中立を誓ってもらうつもりでいます。例え僕がいるルークスが当事者であったとしても、国同士の争いには参加せず、神々の敵が現れた時にのみ、神々の側に立って戦うことを宣言してもらおうと思っています」

「それをどうやって帝国やギルドに信じてもらうかだな。それに草原の民を説得するのも難しいと思う。白き王の降臨をあれほど喜んだんだから」

「その点は僕も同じ思いですが、何とかしてみます」

「そこは君に任せるしかないな」

そこでアシュレイが疑問を口にする。

「改革を自重するということだが、民衆が改革を望んだらどうすればよいのだろうか。言っては悪いが、ルークスの民は単純な者が多い。先ほどの話ではないが、レイが積極的に改革を行わなければ、裏切られたと思うのではありますまいか」

「レイ君がトップに立たなければいいんです。今の聖王アウグスティーノを矢面に立たせ、レイ君がやろうとしている改革の足を引っ張っていると思わせる。他にも急進的な改革を叫ぶ者を投獄し、最悪の場合は暗殺してもいい。そうすれば、守旧派に憎悪が集中しますからね」

「また恐ろしいことをサラッと言いますね……」とレイが言ってきた。

「政治はきれいごとじゃできない。それに改革を叫ぶだけの連中は敵より始末が悪いと思っておいた方がいい。無駄に味方を分裂させ、守旧派に力を与えることになるからだ。本来ならそんな奴は自分の陣営に入れたくないが、そういうわけにもいかないだろう。だから、殉教者として死んでもらい、味方の結束を高めることに使えばプラスにできる」

レイたちは再び俺を恐ろしいものであるかのように見ている。

「このくらいのことを考えられないなら、一国の指導者になろうなどと考えない方がいい。ルナのようにすべての国民から神のごとく崇められているなら別だが、君はルークスの民から絶大な支持を得ているわけじゃない。それに隣国との関係もソキウスに比べれば複雑だ。帝国と商業ギルドという化け物染みた組織を相手にするのにきれいごとだけでは必ずしっぺ返しを食らうだろう」

「ザック様の言う通りです。ルークスという国は 虚無神(ヴァニタス) によって作られましたが、帝国と商業ギルドのそれぞれが望んだ結果、存続を許されているのです。そのいずれかが存続を望まなくなれば、ルークスはあっという間に瓦解するでしょう。そうなれば多くの人々が苦しむことになります。指導者として生きていくつもりなら、どのような手段であれ、多くの人々が幸せになれる方策を迷わず選ばなければなりません」

シャロンの言葉にレイは小さく頷く。

「そうですね。僕は大きな力を手に入れました。ですが、それだけで平和になるものではないということですね……」

少し言い過ぎたようで自信を失いかけているのでフォローを入れておく。

「君には素晴らしい才能がある。俺が十八やそこらの時に君ほどきちんと考えていたことはなかった。もちろん、これは前の世界の話だ」

「そんなことはありません。僕もきちんと考えて行動できたことなんて数えるほどしかないんですから」

「それでも君は多くのことを成し遂げた。そのことは誇っていい。だが、これからは今までのように仲間だけと苦難を乗り越えるわけじゃない。国という組織ではいろいろな人が関わってくる……」

レイは真剣な表情で聞いている。

「……だから自分一人ですべてを解決しようと思うな。できるだけ多くの人の意見を聞いてその中から最適だと思うもの、もしくは最悪にならないものを選んでほしい。そのために情報をできる限り集めて判断材料を増やす必要がある」

「おっしゃりたいことは分かります。ですが、情報収集については難しそうですね」

「北回りで草原に向かうなら、ドクトゥスでサイ・ファーマンという情報屋に会うといい。彼なら新たな情報組織を作る手伝いをしてくれるかもしれないからな」

サイの組織はアウレラ街道だけでなく、ルークスや帝都付近にも広がっている。どの程度協力してくれるかはレイの交渉力次第だが、俺が仲立ちすればある程度は協力してくれるだろう。

「ザカライアス卿に直接手を貸していただきたいのだが、無理なのだろうか」とアシュレイが言ってきた。

「それは私に一緒に来てほしいということですか」

「その通りです。私や父ハミッシュではレイの身を守ることはできても、知恵を貸すことはできない。その点、あなたなら帝国宰相だけでなく、商業ギルドに対しても十分に対抗できる知恵を出してもらえる……」

「アッシュ。ザックさんは……」とレイが彼女の発言を遮ろうとした。

「最後まで言わせてくれ。お前が遠慮しているのは理解している。ザカライアス卿が今までお前やルナのためにいろいろと骨を折ってくれたこと、その結果、辛い思いをされたこともな。だが、それでも頼まずにいられぬのだ。ザカライアス卿、我々と共にルークスに来ていただけまいか」

アシュレイは大きく頭を下げた。その隣ではステラも同じ思いなのか、同じように頭を下げている。

彼女の言葉は真摯なものだが、答えは決まっていた。

「結論から言えば、私がルークスに行くことはありえません」

その言葉にアシュレイががっくりと肩を落とすが、それに構わず話を続ける。

「私が動けば、帝国も商業ギルドも警戒を強めることは間違いありません。そうなれば全くの逆効果になるんです」

「ではどうあっても……」

「手伝いはさせていただきます。帝国や商業ギルドの行動に干渉するくらいはここからでもできますから。但し、そのことを過度に期待しないでほしいんです。レイ君、君なら俺の言っている意味は分かるよな」

「はい。ザックさんは帝国宰相から警戒されていると聞いています。それに商業ギルドからも。もし、ルークスに大きく関わると知られると、帝国やギルドが警戒を強めてしまいますから、その後ではザックさんのサポートを受けられなくなってしまいます」

「その通り。既にエザリントン公は俺とロックハート家に対し、警戒を強めている。それに俺は鍛冶師ギルドだけでなく、魔術師ギルドや商業ギルド、更には冒険者ギルドや傭兵ギルドに対しても強い影響力を持っているように見える。五大ギルドを動かせる存在は帝国にとって脅威以外の何物でもない」

「それに加えてセオさんたちが僕たちに同行したことが大きいですよね」とレイが言ってきた。

「そうなんだ。特に人馬族と君の間を取り持ったように見えることが一番厄介だ。世界最強の武力集団を帝国の敵に渡したのだから。更に言えば、今後ルナがソキウスの指導者だと知られれば、最悪の場合、ロックハート家を潰しにかかることすらありえる。だから、俺はここから動くことはできないんだ」

「おっしゃることは分かりますが……」とアシュレイは諦めきれないようだ。

ステラがアシュレイを助けるように発言する。

「宰相といえども鍛冶師ギルドに強い影響力を持つロックハート家を潰すことはできないのではないでしょうか」

「それはありません」とシャロンが即座に否定し、

「公爵様を甘く見てはいけません。帝国に仇なすならドワーフと決別してもロックハート家を潰すことをためらわないはずです」

「ドワーフと決別すれば、ルークスの二の舞になるのではありませんか」

光神教の司教が暴走してロックハート家にちょっかいを出し、それに怒ったドワーフたちがルークス聖王国からドワーフの鍛冶師を引き上げさせたことを引き合いに出してきた。

そこで俺がシャロンに代わって答える。

「帝国の安寧にとってどちらが有利かということを冷徹に判断できる方なんですよ。私という脅威を消した時のプラスと、ドワーフがいなくなるというマイナスを比較して、少しでもプラスになるなら、ためらわずに私を抹殺し、ロックハート家を潰すでしょうね。もちろん、そんなことは私がさせませんが」

その言葉でアシュレイとステラも渋々ながら諦めた。

その後、今後の方針について具体的に話し合った。

話し合いを終えると、レイは緊張した表情をわずかに緩めた。

「ザックさんのお陰で気が楽になりました。お会いすることは難しいですが、今後もよろしくお願いします」

「こちらこそ、君とゆっくり話ができてよかったと思っている。と言っても、もう少し話したいことがあるんだが、これは君と二人だけで話したいと思っている」

「二人だけですか?」

「ああ、後でアシュレイさんやステラさんに話しても構わないが、二人だけで話す時間を欲しい」

「構いませんが……」

「じゃあ、少し歩こうか。東に溜め池があるんだが、そこなら静かに話せるから」

そう言ってレイと二人で溜め池に向かう。

歩きながら日本でのことを聞いていく。

「君とルナは同級生だったと聞いた。どんな関係だったんだ?」

俺の問いにレイは「え、えっと……」と挙動不審になる。

「恋人じゃなさそうだが、ただの同級生とも違う気がするんだが」

「そ、それは……」と焦り始める。

そこで何となく分かった。男二人だけになって正解だと直感する。

「君の片思いの相手がルナ……という感じじゃないのか」

そこでレイは「はぁぁ」と大きく溜息を吐き出した。

「やっぱり分かってしまいますね」と言って苦笑いを浮かべる。

「ルナのことは今どう思っているんだ? アシュレイさんやステラさんのこともあるし、気になるんだが……これは好奇心で聞いているんじゃないんだ。ルナの今後に大きく関わってくるから知りたいと思っている」

「ルナとは友達以上になることはありません」

「昔の思いは断ち切ったということでいいんだな」

「はい。僕にはアッシュだけですから」

そうきっぱりと言い切った。

「友達として支援はするが、一緒になりたいとは思っていないということだな」

「はい」と再びはっきりと答える。

そこで大きく息を吐き出した。

「正直よかったと思っている。君がまだルナに未練があるなら、この世界にとってあまりいいことじゃないからな」

「……そうですね。ルークスという問題のある国の指導者が遠く離れた東の女王に恋していたら大変ですものね」

「そういうことだ」

これは本気で心配していたことだ。

ルナがレイに気がないのは分かっていたが、レイがどう思っているかが分からなかった。特にペリクリトルでルナが攫われた後の彼の行動を見ると、世界を救うためというより、恋人を救出に行くようにしか見えなかったからだ。

「ルナというか、月宮さんを助けたいと考えていました。彼女にはザックさんたちの他に親身になって助けてくれる人がいませんし、僕なら彼女の過去を知っていますから話し相手にもなれますから……」

そこで言葉を切り、俺の目を見る。

「ですが、彼女と話し合ったことがあるんです。この世界のことで」

「この世界のこと?」

「はい。ヴァニタスが引き起こした混乱をザックさんたちのお陰で防ぐことができました。ですが、まだルークスもソキウスも多くの人が不幸なままです。ルークスでは貧しい人たちが搾取され、ソキウスでは西からの亡命者が差別的な待遇を受け、以前は魔物の召喚の苗床にされるほどでした。僕たちはその状況を何とかしたいということで意見が一致したんです」

元凶のヴァニタスは消えたが、確かにルークスの支配体制は中途半端に残っている。ソキウスの状況はよく分からないが、魔族が支配層として君臨し、無理な戦争をしていたことは聞いているから、酷い状況なのだろう。

そんな状況を知ってしまったから、手が引けないと思ったのだろう。

「言わんとすることは分からないでもないが、元凶は消えたんだ。それにその元凶は、数万年は復活しない。神々は世界の安定を一番に考えるからそのうち是正されるだろう。だから君たちが急いで何かしなくてもいいと思うんだが」

「確かにおっしゃる通りだと思います。今急いでやる必要はないかもしれません。ですが、今この瞬間にも苦しんでいる人がいるんです。そして、僕もルナもその人たちを助けることができるんです。それなのに見て見ぬふりをしていいのかと。それに神々には期待していません。あの存在は世界を守るだけで、そこに住む人を積極的に助けるつもりはありませんから」

「その意見には賛同するが、君たち二人で、再び世界を救おうと考えているんじゃないだろうな」

俺が懸念したのは二人が無理に改革を行うことだ。レイが言った通り、この世界の神は世界の安定を第一に考える。つまり、非常に保守的な存在なのだ。

「そんなつもりはありません……と言いたいところですが、さっきの話を聞くまでは民主的な国家を作って、誰もが幸せになれる国を作ろうと考えていました」

「君の歳なら、そうしたくなるだろうな」

理想を追い求めたい年頃だ。力もあるし、成功体験もあるから、できると思ってもおかしくはない。

「おっしゃりたいことは何となく分かります。僕も歴史が好きでしたから。ザックさんとシャロンさんの話を聞かなかったら、知らず知らずのうちに暴走する革命家になっていたかもしれません」

「話を戻すが、ルナのことは彼女自身に任せるんだな」

「はい」とはっきりと答える。

素直なことはいいことだが、白き軍師というイメージはほとんど残っていない。

「ならいい」

これ以上真面目な話をしても若い子に嫌がられると思い、話題を変える。

「で、もう一つ聞きたいんだが」と言ってニヤリと笑う。

「何でしょうか?」と首を傾げる。

「ステラさんのことはどうするんだ? さっきはアシュレイさんだけと言ったが。彼女の気持ちは分かっているんだろ」

そこで彼の顔が赤くなる。

「分かっていますけど……僕には無理です。ザックさんみたいに奥さんを増やすことなんて……僕には恋愛経験なんてなかったんですから……」

あまりに初心な反応にこちらが困ってしまう。

「俺がどうこう言える立場じゃないが、思いだけはしっかりと伝えろよ。中途半端な状態は互いに苦しくなるだけだから」

「分かりました」と真面目な表情で答える。

しかし、すぐにニコニコとした顔で俺をからかってきた。

「でも凄いですよね。四人も奥さんがいるってどんな感じなんですか」

「特に難しいことはないぞ。きちんと愛してさえいればな」

俺の答えに肩を竦め、

「全然堪えていないですね。さすがは 全方位のハーレム王子(オールレンジプリンス) です」

「その称号ならいつでも譲ってやるぞ。二人じゃ駄目だが、あと三人くらい集めたらな」

「いりませんよ! 僕はアッシュ一筋なんですから!」

そんな話をしながら青い空の下を歩いていた。

■■■

半年後、ルークスに関する情報が入ってきた。

レイたちが総大司教派に勝利したという情報だ。更に草原の民が全世界に向けて宣言を行った。

人馬族の有力氏族、ソレル族の族長リーヴァ・ソレルが語った内容は以下のようなものだった。

『自分たちは神の戦士であり、国家間の戦いには介入しない。但し、 地の神(モンス) の神託を受けた場合、どれほど正義を訴えようが、その国家に対し宣戦を布告する。その国家がカエルム帝国であろうが、ルークス聖王国であろうが関係ない。我々は神の言葉によってのみ戦う』というものだった。

その宣言を帝国は驚きをもって受け取った。

そして、宰相エザリントン公は草原に使者を出したが、帰ってきた答えは同じだったそうだ。

しかし、レイに関する問いにははっきりと答えたという。

『レイ・アークライト殿への協力は、モンスの神託によるものである。モンスがアークライト殿を排除せよと命じれば、我らは迷うことなく槍を向けるだろう。但し、アークライト殿は神々に愛された方であり、神の敵になることは考えられぬが』

その言葉を聞き、レイの説得が完全に成功したわけではないことを知った。

(リーヴァさんを上手く説得できなかったようだな。まあ、最低限必要なことは認めさせたようだが……まあ、考えようによってはよかったかもしれないな。レイは神の側にあり、それに敵対する者は神の敵になると思ってくれるなら、安易に手は出せないだろうから……)

レイの方は一人で上手くやってくれたが、ルナの方は難航した。

相手であるカトリーナ王妃との交渉だったが、酒を使った交渉でも王妃は素直に頷かなかった。

『ソキウスという国が本当に存在しているのか、これを証明してくださらないと交渉にもなりません。今はルナさんがあると言っているだけの存在ですから』

その言葉でカウム王国はソキウスに対する外交団という名の調査団を出した。これは王妃が情報を集める口実を求めたからだ。

言い分はもっともであり、鍛冶師ギルドの匠合長ウルリッヒ・ドレクスラーも抗議はせず、あることだけを告げたという。

『待つのは半年。一日遅れるごとに、新しい酒のカティの割り当てを一パーセントずつ減らしていく』

この作戦はセオが考えたことで、王妃は僅か半日で調査団の人選を行い、翌日にはトーア砦に向けて出発させたらしい。ルナたちの方がついていけないほど性急さだったそうだ。

ちなみにソキウスで作られる予定の酒は海のものとも山のものともつかないもので、脅しに使えないと思っていた。しかし、セオが“ザック兄様が興味を持っていた”と“カティさん”に教えたことで、“王妃”が焦り始めたらしい。

確かに米には興味を持ったので間違いではないが、セオの作戦が見事に当たったようだ。

この結果はもうそろそろ分かるはずだが、まだ俺のところに結果は届いていない。

但し、結果については何となく分かっているが。