軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話「現状把握」

俺は転生した事実に驚愕したまま、この世界での両親の寝室を出ていった。

天井が高く幅の広い廊下を歩いていくと、食堂らしき広い部屋に到着した。

俺はまだ自分の体に慣れておらず、以前の大人の体とのギャップに戸惑っていた。

(広く見えるが、それは俺の体の大きさの関係だろう。目の間隔が狭くなったから、そう思うのかもしれない)

食堂には十人掛けの大きなテーブルがあり、朝食の準備が行われているのか、いい匂いが漂っていた。

食堂の奥にある調理場では、四十歳くらいの恰幅のいい女性が食事を作っていた。

「おはよう、モリー」

母がその女性に挨拶している。

その様子を眺めながら、自分の中にある記憶を必死に検索していく。

(モリーか……確かお手伝いさんみたいな人だな。ウォルトっていう人の奥さんのはず……)

父が声を掛けた後、俺も挨拶をしておく。

「おはよう、モリー」

「皆さま、おはようございます。××○△○、少しだけお待ちください」

(世話好きなおばちゃんっていう感じだな。でも、まだ聞き取れない単語が出てくる……)

俺がそんなことを考えていると、彼女はにっこりと笑い、再び調理台に向かっていった。

テーブルには木皿と木のスプーンが置いてあり、丸いパンも置いてあった。

パンはカンパーニュのような田舎風のパンで、焼き立てなのか、香ばしいいい匂いをさせている。

数分後、小学校低学年くらいの歳の少年が現れ、挨拶をしながら、母の横の椅子に座る。

(兄のロドリックだな。“にい様”と呼んでいるみたいだ)

俺は出来るだけ幼児らしく聞こえるように「おはようございます。にい様」と笑顔を作る。

兄は少しびっくりしたような顔で俺の顔を見るが、すぐに挨拶を返してきた。

(何か拙かったのか? 普段の行動の記憶があいまいだから、ボロを出さないようにしないといけないんだけどな……)

しばらくすると、モリーが大きな鍋を持ち、それぞれの木皿にスープらしきものを配膳していく。

スープには具はほとんどなく、僅かに肉の欠片とキャベツのような葉野菜が浮かんでいた。

配膳が終わると、父と母、そして兄がパンを手に取り、食事を始めた。

(貧しい食卓だな。没落気味とは言え、騎士の家なのに……記憶を探ってもあまり代わり映えがしないから、いつもの食事みたいなんだろうけど……)

俺は母に手伝って貰い、千切ったパンをスープに浸す。

パンは幼児の俺の口には固すぎ、母がスプーンで押し潰すように浸すことで、ようやく食べられる硬さになる。

(味は結構濃いけど、悪くはないな。味付けは……塩だけか。香辛料らしきものは使っていないのか)

俺は大人の拳ほどのパンを二つ平らげ、満腹になる。

他の三人が食事をしている間に、今日すべきことを考えていく。

(さて、これから情報収集をしないとな。昨日の俺は、天気が良かったから、“メル”と呼ばれる少女と庭で遊んでいたようだな。今日は屋敷の中を探検するか、それとも母か父について回るか……まだ、情報不足だな。もう少し様子を見てから決めよう)

食事が終わると、母に連れられ、外に出て行く。

屋敷の裏側にある井戸に向かうようだ。

屋敷は丘の頂上にあるのか、周りは緩やかに下っていた。そして、斜面は草原になっており、更に遠くには、連なる丘にパッチワークのような畑が広がっていた。

(丘の上か……パッチワークが歪だけど、北海道の美瑛を思い出すな。しかし、視力強化のおかげか、遠くまでクリアに見える……)

呆けた表情で景色を見ていると、母にせかされる。

「何か面白いものでも見えるの? でも、先に顔を洗ってしまいましょう」

屋敷の裏、北側にある井戸に着くと、四十代半ばのがっしりとした体格の男が水を汲んでいる姿が目に入ってきた。

「おはようございます。奥方様、ザック様」

「おはよう、ウォルト」

(ウォルトか。家の手伝いをしてくれている人だったはずだな)

「おはよう、ウォルト」

ウォルトはもう一度、「おはようございます。ザック様」と俺に応えてくれるが、すぐに黙々と水汲みを再開する。

井戸はかなり深いのか、釣瓶を投げ入れてから、引上げるのに大の男でも結構時間が掛かっている。

(丘の上だし仕方ないのかもしれないけど、結構な重労働だな)

母を見ると、指に白い粉を付け、歯を磨き始めていた。

俺もそれを真似て、歯を磨こうと白い粉に指を付ける。

(塩? それも岩塩を砕いた感じだな。歯ブラシはないのか……)

粉を付けた指で歯を磨いていく。

しょっぱい塩の味にチョークのような粉っぽい味があり、爽快感は全くない。

(塩と石灰とかなのかな? 体に悪くなければいいんだけど……それにしても、歯は全部生え揃っていたな。虫歯もないし、まずは健康ってことか……)

木の器で水をすくい、口をすすぐ。

母を真似て、桶にある水で顔を洗う。水はとても冷たく、眠気が一気に引いていった。

(文明のレベルは中世か、それ以前って感じだな。キャラクターを作った時の情報が正しければ、魔法があるはずなんだけど、今のところ、その痕跡はどこにもないな。それほど、一般的じゃないのか、攻撃魔法に特化しているのか。この辺りもしっかりと情報収集しないと……)

屋敷に戻ると、健康な証拠なのか、便意を催してきた。

俺は記憶にあるトイレに向かっていく。母が慌てて何か叫ぶが、俺はそれどころではなく、ほとんど走るくらいの早足で屋敷の中を進んでいく。

(子供の体は我慢が利かなさそうだ。拙いぞ、もう漏れそうだ……)

トイレに到着すると、ホッとする間も無く、すぐに用を足す。

トイレは元の世界と違い、便器も何も無く、床に穴が開いているだけ。更にその下はただの地面であり、臭いが凄い。

(これほど汚いトイレは初めてだよ。トイレットペーパーはないし、置いてある布で拭くんだけど、衛生状態は最悪だな)

俺は手を洗おうと考えるが、トイレには手桶も無く、手が洗えない。

(これじゃ、子供は病気になるな。これを改善しないと、快適な生活は送れない……)

俺は再び外に向かいながら、異世界で最初に思いついた改善事項、“トイレの改善”を心に誓っていた。

手を洗って、屋敷の中に戻ってくると、母が何やら心配そうな顔で近づいてきた。

「汚しちゃった? 着替える?」

どうやら、手を洗いに行ったことをトイレの失敗だと思ったようだ。

「大丈夫。手を洗いに行っただけ」

母は俺の服を確認し、問題ないと分かると不思議そうな顔で俺を見つめていた。

(拙かったかな。でも、手を洗わないと落ち着かないんだよな。今度から注意しよう……)

朝のバタバタが終わり、少し落ち着いて周りを見ると、父と兄の姿はなく、母とモリーと俺の三人になっていた。

(さて、昨日はメルっていう子と、ダンとシャロンの兄妹の四人で遊んでいたみたいだな。記憶にある限り、この三人と遊ぶか、兄たちのあとを追い掛けるかして、過ごしているっていう感じだな。さて、今日はどうするか……)

俺はまずザックと言う少年の記憶が、現実と整合しているか、確かめることにした。

(子供の記憶はいい加減だからな。思い違いなんかも多いはずだから、これを確認していくか……今日も天気が良さそうだから、屋敷の外、“お庭”と“メルの家”、“ダンとシャロンの家”辺りを確認していこう)

俺は母にメルの家に行くと告げ、いつもと同じように見えるよう、脇目も振らずに走り出す。

屋敷の門――木で作られた粗末な観音開きの門――をくぐり、屋敷の外に出て行く。メルの家は、丘の中腹にあるため、屋敷から続く道を下っていくことになる。

屋敷の方を振り返ると、屋敷は黒い柱と白い漆喰の壁、スレート葺きの屋根の木造二階建てで、思ったより大きな建物だった。屋根には煙突が突き出ており、そこから調理のためなのか、薄い煙が上がっていた。

俺は誰にも見られていないのを確認し、走るのを止める。そして、歩きながら自分の体について考えていた。

(しかし、走りにくいな。頭が重いからか、それともまだ体の制御がうまくいかないからか。この世界で生きていくなら、体が資本になるだろう。特に俺の家は騎士の家。戦闘能力がものを言う世界のはずなんだから……三歳からきちんと体を鍛えていけば、大人になる頃には同世代に対してアドバンテージを得られるはずだ……)

屋敷の外は一面草原かと思っていたが、ところどころに畑があった。

朝の爽やかな風を受け、踏み固められただけの道を下りながら、更に思考を進めていく。

(設定どおりなら、ここは辺境なんだろう。だが、どのくらいの気候の土地で、夏や冬がどうなるのか。緯度や標高はどのくらいで……いや、そもそも、今が何月何日かも分からない。ああ! 一年が何ヶ月で、何日かも知らないんだ! 情けないほど基本情報がないな……)

俺は情報があまりに少ないことに落ち込んでいた。

ネットが当たり前で、携帯でいつでもどこでも欲しい情報が手に入る世界から、情報を手に入れる手段すら分からない状況に苛立ちに似た感情が湧きあがってくる。

(しかし、転生させるなら、ちょっとくらい説明があってもいいはずだろう!……情報がないっていうのが、こんなにイライラすることだって思わなかった……)

メルの家は屋敷から五十mほど下ったところにある平屋の小さな家で、防風林のような林が家の周りを囲んでいる。

(メルのお父さんがヘクターで、いつも弓を持っていたな。お母さんがポリーで屋敷の手伝いによく来ている人。兄がシムで、うちの兄さまと同い年か……苗字があるのかは分からないけど、三歳児としてはよく知っているな。それとも俺の意識が蘇ったから、情報が整理できて理解できるようになったのかもしれないが……)

いつもと同じ行動になるようノックもせず、いきなり扉を開け、「メルはいる!」と叫ぶ。

(領主の息子だからいいのかもしれないけど、マナー的にどうもな……まあ、これからゆっくり改善していけばいいか……)

すぐに中からショートカットの茶色い髪に大きな茶色い瞳、自分より僅かに年長の愛らしい少女、メルが現れる。

「ザックさま、今日は何をするの?」

考えていなかった俺は、答えに窮し、「お散歩かな?」と三歳児らしく答える。

(四十過ぎたオヤジが幼児プレイか……俺の羞恥心がズタズタになっていく気がする)

メルは愛らしい笑顔を俺に向けて頷くと、「ザックさまと遊んでくる!」と叫んで、駆け寄ってくる。

奥から二十代半ばの可愛い感じの女性、メルの母親のポリーがエプロンで手を拭きながら、顔を出してきた。

「メル! ザック様がケガをしないようにちゃんと見るのよ! ザック様もお気をつけて」

俺は笑顔で大きく頷き、メルと手を繋ぐ。

そして、こっそり“参照”の能力を使ってみる。

(メリッサ・マーロン、四歳か。メリッサだからメルなのか。それにしても、普通に姓があるんだな。騎士の家に仕える従士だから苗字があるのか……それにしても、この小さい子が一つ年上なんだよな……)

メルと手を繋いで、ダンとシャロンの家に向かう。

彼女の家はマーロン家から二十mほどのところにあり、同じように家の周りに木が生えている。

(良く見ると、胡桃っぽい殻が落ちているな。食用の実がなる木なのかな?)

小さな林を抜けると葉野菜が植えてある畑があり、その先の草原には羊が草を食べている。

(ダンとシャロンも俺と同い年くらいか。父親がガイで、母親がクレアか。ガイっていう人も弓を持っている印象が強いな。イングランドの長弓兵みたいなものか? クレアっていう人は俺の母親っていうイメージが強い気がする。乳母とか養育係みたいなものなのかな?……しかし、 ロックハート家(うち) に仕えている従士かと思ったけど、狩人とか農家とかなのか? 分からないことだらけだな……)

シャロンの家でもメルの家と同様に扉をいきなり開け、「ダン! シャロン! あそぼ!」と叫ぶ。

顔が熱くなるほど恥ずかしいが、怪しまれないため、必死に演技を続けていく。

中から俺と同い年くらいの、少し脱色した麦の穂のような金髪の少年が顔を出し、すぐに近寄ってくる。

「おはよう、ザック様!」

元気一杯のダンの声に少し戸惑いながら、「おはよう、ダン!」と挨拶を返す。

その後ろから大人しそうな少女、シャロンも近寄ってくる。

シャロンは銀色に近い薄い金髪で薄い青色の瞳の、人形のような美少女だった。

「おはよう、シャロン」と声を掛けると、少し恥ずかしそうな表情で挨拶を返してきた。

後ろから母親のクレアも姿を見せる。

クレアは二十代前半で、母ターニャと同じ歳くらいに見える、スラリとした金髪の美人だ。

彼女は笑顔で挨拶したあと、「今日はどうなさるのですか?」と優しく聞いてくる。どうやら彼女がこの四人の世話係のようで、昨日も俺たちのことを見守ってくれていたようだ。

「今日はお散歩しようかな」

俺の言葉にクレアは首を傾げ、「お散歩ですか?」と聞いてくる。

(拙かったのか? 子供らしくないっていえば、そうかもしれないけど、俺は子供を育てたことなんかないし、小さい子供との接点なんてほとんど無かったからな。ザックが好きなものを思い出せ……馬か……駄目だ、馬場に近づくなって言われている……)

俺の沈黙を質問の意味が分からないと思ったのか、クレアは「どこにお散歩されるんですか?」と聞き直してきた。

(そうか、どこに行くのかを聞いてきたんだな……屋敷の近くを見たいだけなんだが、どう答えるべきか……)

「うーん。羊を見て、お屋敷の近くに行く」

彼女は「あまり遠くに行ってはいけませんよ。それから、羊に近づくと危ないですから、近づいてはいけません」と笑いながら、注意を促してきた。

(優しい感じの人だな。俺たち四人の母親っていう感じがする……)

俺は大きく頷き、シャロンの手を取る。

(子供とはいえ、男の子より女の子の手を握ったほうがいいからな。さて、参照を使ってみるか……)

シャロンに参照のスキルを使うと、“シャロン・ジェークス、三歳、人間、女性”と出た。

(同い年か。ダンが少し年上みたいだから、四歳ってところか。近所でこれだけ近い歳の子供がいるってことは、この辺りは意外と人口が多いのかな?)

俺は頭にいろいろな疑問が浮かぶが、それを片隅に押しやり、シャロンとメルの手を引くようにして、ジェークス家を飛び出していく。

ダンがニコニコしながら、後ろを追いかけていた。

外に出ると走るのをやめ、牧草地のような草原に向かって西に歩いていく。

俺は歩きながら、周りをゆっくりと眺めていった。

屋敷のある丘の麓には、木で出来た高さ二、三mの塀があり、周囲をぐるりと囲んでいる。塀の他にも丸太を組み上げた物見櫓のようなものもあった。

(この丘全体が屋敷というより、城の役目をしているのかもしれないな。塀で周囲を囲んでいるっていうことは、外敵がいるっていうことなんだよな。それにしては兵士の姿が見えないな……)

そして、丘全体をじっくりと眺めていく。

(ざっと見てもこの丘自体、直径二、三百mはある。三百mとして、塀の長さは一kmくらいある。この城を守ろうとするなら、少なくとも数百人の兵士が必要だよな。それが物見櫓にすら人の姿がない。どういう状況なのか、さっぱり分からん)

メルの家とシャロンたちの家は屋敷の南側にある。そして、そこから屋敷に近いほうにも数軒の家が見えていた。

(兵舎とかじゃなくて、普通の民家なんだよな。小さいとはいえ、畑もあるし……丘全体を塀で囲う……野生動物から家畜を守るためなのか)

そんなことを考えながら、牧草地を進んでいく。

ところどころにモコモコとした毛の羊たちが草を食んでいるが、俺たちにも慣れているのか、こちらのことを完全に無視している。

ダンは羊にちょっかいを出しそうになっていたが、俺はそれを無視して牧草地を歩いていく。西の斜面に近づくと、視線をゆっくりと回し、西の風景を眺めていった。

丘の先には川が流れており、水車小屋の水車がゆっくりと回っている。

更にその先には濃い緑の森が続き、遠くには黒く見える山が連なっていた。

(南側には丘が連なっていて、畑が広がっていたな。その先の遥か遠くに山脈が見えた。西は川が流れて、その先には深い森か……北と東はどうなっているんだろう? 記憶では北も東も森が広がっている感じか。どうやら、この領地は、うちの屋敷が最北端で、村は南に広がっている感じか……)

牧草地を百mほど歩いていると、後ろからダンが声を掛けてきた。

「歩いているだけじゃ、面白くないよぉ。ねぇ、騎士ごっこしようよぉ」

「もうちょっと、お散歩してからね」と愚図るダンを宥めながら、屋敷に向かう。

屋敷に近づくにつれ、“えい!”とか“やあ!”とかいう掛け声が聞こえてくる。

屋敷の西側で、革製の防具を着けた数人の男が、剣や槍を振り回していた。

その中に俺の祖父、ゴーヴァン・ロックハートの姿があった。

祖父は鍛え上げた細身の体に、プレートアーマーのような金属製の鎧を着け、長めの剣を振っていた。

彼の顔は長年の苦労により刻み込まれたような深いしわがあるが、思っていたより若い感じがした。

記憶では年寄りに見えていたが、良く見れば四十代半ば、俺がこっち来る前の年齢くらいに見える。

今の俺が三歳で、母親が二十三歳。父親の歳は分からないが、二十代半ばと考えれば、四十代半ばでもおかしくはない。

ザックの記憶ではかなり祖父を怖がっていたようで、あまりいい印象がない。

祖父と同じくらいの歳の槍を持った兵士が、数人の若者を訓練しているように見える。

その兵士は朝、水を汲んでいたウォルトだった。

祖父は流れるような剣の型を見せ、ウォルトは鋭い突きを何度も空中に放っている。

(武術の知識はないけど、じいさんの剣術が凄いっていうのは分かる。ウォルトの槍も地味だけど、強力そうだ)

若い兵士たちに混じり、兄のロッドと同じ歳くらいの少年が剣を振っていた。

ロッドとその少年は木の棒の重さに負け、腰をふらつかせている。

(小学校低学年くらいだから仕方がないんだろうけど、大変そうだな。もう一人の少年は……シムか。メルのお兄さんか)

訓練の様子を数分眺めた後、俺たちは屋敷の庭――土がむき出しになっているだけのただの広場――に向かった。

ダンがせがむので、騎士ごっこに興じるが、再び幼児プレイを強要された俺は精神的にボロボロになっていた。

(何が悲しくて真面目に幼児の真似をしなきゃならんのだ。これなら、訓練に参加したほうがよほど楽しそうだ)

そう考えるが、自分の体がまだ訓練に耐えられるほど、出来ていないことも理解していた。

ダンやメルと木の棒を振り回しながら、自分の訓練計画を練っていく。

(遊びで体を作るのが、一番自然なんだよな。まずは体を自由に動かせるよう体操みたいなことから始めるか。牧草地なら場所を選べば柔らかそうだし、前転や後転なんかの基礎的な運動から始めて、木登りとかロープを使った遊具で鍛えていくか……)

ダンはともかく、メルも活発な子供なのか、木の棒を振り回して遊ぶのが面白いようだ。

だが、シャロンは見た目の通り大人しい子供なのか、その輪に入ることができない。

俺は詰まらなそうな彼女を見て、「シャロンは何をしたい?」と声を掛ける。

彼女は首を横に振り、「何でもいいです」と呟く。

(シャロンの記憶か……ままごととか、クレアに物語を聞くとかが楽しそうか……)

「じゃあ、俺がお話を聞かせてあげるよ」

俺はそう言って、自分が知っているイソップなんかの童話を聞かせていく。

北風と太陽やずるい狐の話などをしていくが、ところどころ、語彙が足りず話がうまくまとまらない。

それでも、シャロンには面白かったのか、嬉しそうな顔で話を聞いていた。

知らない間にダンとメルの二人も聞いており、興味深そうな顔で話を聞いていた。

シャロンは「ザック様、凄い!」と抱きついてくるが、なぜかメルも同じように抱きついてくる。

(この二人はザックに好意を持っているのか? 三、四歳でもそう言うことがあるのか? さっぱり分からんな)

昼食の時間になるまで、俺は話をせがまれ続けた。

昼食を食べ、四人で仲良く昼寝をしたあと、再び屋敷の周りを散歩していく。

その散歩で確認できたことは、敷地内の東側に小さな森があること、北側には馬と牛が放されていること、時々、村人が敷地内に入ってきて、挨拶されたことだった。

日が傾き始め、三人が帰っていくと、長かった一日にどっと疲れが襲ってきた。

(大して体を動かしていなかったが、無茶苦茶疲れるな。腹は減っているけど、食べる気力がない。小さな子供が疲れて愚図る気持ちが良く分かる)

俺は疲れた体に鞭打って、井戸で手と顔を洗い、食堂に向かう。

食堂で疲れた体を休めていると、祖父を始め、家族全員が集まってきた。

朝と同じようにテーブルに着くと、メイドのモリーの他に、二十歳くらいの二人の若い女性が彼女を手伝っていた。

一人はモリーの娘のトリシアで、モリーと同じようにいつも笑顔を絶やさない。もう一人はジーンで、美しい黒髪と落ち着いた雰囲気を持つ、物静かな女性だった。

朝と同じように木皿にスープが取り分けられていき、更に焼いた肉の塊が切り分けられる。

パンは朝と同じ田舎パンが置いてあり、祖父たちの前には木製のジョッキが置かれている。今日の夕食はそれですべてのようだった。

(一応、たんぱく質と炭水化物は揃っているな。ビタミン類は……スープの野菜だけか。熱に弱いビタミンは取れそうにないな……と言っても、栄養について詳しいわけじゃないんだけどな……)

祈りを捧げるわけでもなく、何となく食事が始まる。

食器は木皿だけで、フォークはなく、スプーンとナイフだけで、汁物以外は基本手掴みで食べていく。

(食事内容の改善と食べ方の改善も必要だな。手も洗わず手掴みだと衛生的に問題があり過ぎる……)

俺は今日一日で感じたことを心の中にメモしていき、近い将来、必ず改善しようと心に誓っていた。