軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話「交渉」

商業ギルドは傭兵ギルドの隣にあり、周りには十数台の荷馬車が止まっていた。

キルナレックのような街では荷馬車を商業ギルドに預けることができるそうで、護衛たちが荷馬車の不寝番をしなくてもいいようになっているからだそうだ。

商業ギルドにはチュニックのような商人らしい服装の男たちが、忙しそうに出入している。

俺たちはその人の波を掻き分け、ギルドの中に入っていった。

ガイが職員らしい若い男を捕まえ、北行きの商隊を探していると伝える。

何人かの商人を指差し、「あの方たちが北行きの人たちですよ」と教えてくれ、ガイは商人たちとの交渉に向かった。

数人の商人と話したあと、三十代半ばくらいの頭の薄い男を連れてきた。

「ノートン殿です。明日の朝、北に向けて出発するそうで、同行を許可してくださいました」

「ヘンリー・ノートンと申します。あの有名なロックハート家のご子息様とご一緒できるとは光栄にございます」

「ザカライアス・ロックハートだ。同行を許可してくれ、感謝する。よろしく頼む」

軽く頭を下げるが、基本的には偉そうな態度で対応してみた。

(あまり偉ぶらない方がいいのかもしれないが、 謙(へりくだ) るのもおかしな気がするし、どういう対応がベストなんだろう……)

「ノートン殿の話では護衛の傭兵の了解が必要だそうです。今から会いに行きますが、ザック様はどうされますか?」

俺はどうすべきか悩んだ。

(会っておいた方がいいのだろうが、俺たちを見てリスクが増えるとごねるかもしれない……いや、明日の朝にごねられるより、今のうちの方がいいだろう。今ならまだ他の商隊に声が掛けられる……)

俺は「俺も一緒に行こう」と答えた。

行き先は近くの宿だそうで、ノートンとガイに付いていく。

宿に入るとノートンが傭兵のリーダーを呼びにいった。

すぐに四十歳くらいの屈強な人間の男が現れた。その男は身長二mほどで横幅もがっしりとしており、如何にも歴戦の傭兵といった雰囲気を漂わせている。

しかし、俺たちを見るなり露骨に嫌な顔をした。

「ノートンさん、契約と違うんじゃないか? 契約ではこれ以上荷物は増やさないという約束だったはずだ。明らかにこいつらは お荷物(・・・) だ」

ノートンは愛想笑いを崩さず、

「バイロンさん。お荷物と言ったら失礼ですよ。こちらのガイ・ジェークス様はあの 獅子心(ライオンハート) のゴーヴァン・ロックハート様の従士の方です。それにもう一方も四級の冒険者で治癒師の方ですから」

( 獅子心(ライオンハート) ? じい様の二つ名ってやつか? 初めて聞いたな。それより、このままだと同行を拒否されそうだな)

ノートンにそう説明されても、バイロンと呼ばれた傭兵は不機嫌そうな顔を改めようとはしない。

「確かにこの男はできる。その女も治癒師なら役に立つんだろう。だが、貴族の子供を連れて行くのはゴメンだぞ。役に立たないだけじゃねぇ、我が儘を言って、足手纏いになるのがオチだからな」

その言葉にガイがキレそうになる。

「気に入らぬな! ザカライアス様は先代様、ゴーヴァン・ロックハート様のお孫様だ。ただの貴族の子息と同列に扱うとは無礼であろう」

バイロンとガイは睨み合い、ノートンの愛想笑いが引きつり始めていた。

(不味いな。ガイは俺やじい様のことを馬鹿にされるとキレるからな……だが、このバイロンという男、見た目通りじゃなさそうだ。ベテランと呼ばれる歳まで傭兵をやり、曲がりなりにも部下を率いているのだ。見た目通りのわけがない。ならば……)

俺はバイロンを説得するため、芝居を打つことにした。

「バイロンと言ったな。俺が足手纏いになるといったが、俺の能力を見なくても分かるのか?」

俺はこの男が見た目以上に冷静であると考えた。俺たちを同行させたくないのは、リスクが増えると考えたからだろう。

ならば、引き受けざるを得なくした上で、リスクを減らしてやれば、俺たちの同行を認めると考えた。

(もし、見た目通りの男なら、一緒に行動する方が危険だ。その場合は他の商隊に認めさせるための道化になってもらえばいい)

俺の言葉に対し、バイロンは鼻で笑うだけで相手にしようともしない。

周囲には何事かと人が集まり始めており、バイロンの部下らしい男たちも集まってきた。

(部下が来た手前、強気の姿勢を崩せないのか? まあいい。気の短そうな部下もいることだし、俺の策に乗ってもらうとするか……)

俺はガイに声を掛けながら、バイロンの部下たちを挑発する。

「ガイ、止めておこう。この男は人の力量を計ることすらできん。そのような男が率いる傭兵が優秀であるはずがない。一緒に行動する方がよほど危険だろう……ノートン殿、折角の話だが、断らせて……」

俺の挑発にバイロンではなく、部下の一人が乗ってきた。

「聞き捨てならねぇな! 隊長、この生意気なガキを絞めてもいいっすか?」

その時、俺はその様子を見ながら、ある準備を始めていた。

ガイは俺をちらりと見てから、その若い傭兵に反応する。

「絞めるだと! 貴様!」

その時、そこにいた全員の注意が、一瞬だけガイに向く。

俺はそのタイミングを待っていた。

俺はその一瞬の隙を突き、腰のクナイを抜きながら、バイロンの懐に飛び込んだ。

バイロンはガイの暴発には警戒していたが、五mほど離れていた俺には注意を払っていなかった。

俺は密かに魔闘術で両脚の瞬発力を強化し、いわゆる“縮地”のような爆発的な移動を行ったのだ。

俺の姿を目の端で見たのか、バイロンが僅かに反応した。しかし、子供と侮っていたことが響き、俺は彼の懐に入り込むことに成功する。

そして、クナイの刃先を彼の心臓付近に突き付けた状態で止まった。

バイロンを含め、全員がその場で固まっている。

「この程度の動きについて来れないのか……ガイ、引上げるぞ!」

ガイは俺の言葉に、「分かりました。ザック様」と満足げな表情を浮かべる。

俺はノートンに目礼して、宿を出て行こうとした。

「待て!」

俺が宿の外に出ようとすると、バイロンが俺を止めようとする。

俺は振り向きもせず、憮然とした口調で言葉を返す。

「俺のような子供は相手にしないのだろう?」

「待て! このまま帰すわけにはいかねぇ」

俺はゆっくりと振り返った。

「何だ? 子供相手に本気の喧嘩でもしたいのか?」

「ガキに馬鹿にされたままじゃ、この先この仕事を続けられねぇ。ライオンハート・ゴーヴァンの孫の実力とやらを見せてもらおうじゃないか」

「その必要があるのか? 俺を見ただけで足手纏いだといったのはお前だ。少なくとも、それが間違いだと認めないなら、俺がここにいる理由はない」

バイロンは「くそっ、可愛げのねぇガキだ」と小さく呟き、

「さきほどの言葉については謝罪する。ロックハート殿と手合わせをお願いできないか」

口調まで変えて俺に頭を下げてきた。

(これで俺の魔法の実力を見せれば同行を認めるだろう……)

そう考え、素直に謝罪を受け入れる。

「謝罪を受け入れよう。手合わせと言っても、俺は剣術士としてはまだまだ未熟だ。魔法の実力を見てもらった方がいいかもしれん」

バイロンは「魔術師だと……」と呟くが、すぐに同意するように小さく頷き、「ギルドの訓練場で見せていただきたい」と頭を下げてきた。

俺の横ではリディが呆れた顔をしており、その横のシャロンは呆然としたまま固まっている。

バイロンと彼の部下数名、それに野次馬たちを引き連れ、傭兵ギルドの訓練場に向かった。

傭兵ギルドの支部には小さな体育館ほどの訓練場が併設されていることが多い。

キルナレックの支部にも三十m四方ほどの訓練場があり、数名の傭兵が体を動かしていた。

「魔法を撃てるところはないか?」とガイに尋ねると、

「弓の練習場がありますので、そちらでよいのではないでしょうか?」

そういった後、「先ほどは申し訳ございませんでした。私がしっかりしていれば……」と頭を下げてきた。

俺は「構わない」と笑い、

「できればロックハート家の次男はそこそこ使えると噂が立ってくれた方が今後のためには都合がいい。ちょうどいい機会だったんだ。途中から俺の意図は分かっていたんだろ?」

彼はにこりと笑い、小さく頷く。

弓の練習場は壁の前に盛り土をし、木でできた的が置いてあるだけの簡単な造りだった。

俺とシャロンは的から二十mほどの場所に立った。

俺はシャロンに「 空気の鎚(エアハンマー) を撃ってくれないか」と耳打ちをする。

彼女は意外そうな顔で、「空気の鎚ですか? 燕翼の刃(スワローカッター) ではないんですか?」と聞き返してきた。

俺はニヤリと笑い、

「 空気の鎚(エアハンマー) の方が派手だから……それにオリジナル魔法はできるだけ見せたくないんだ」

燕翼の刃はオリジナル魔法であり、更に軌道を変えることができる。リディの話では追尾する魔法は一般的ではないようなので、学院を含め、他人にはできるだけ見せないようにしようと思っていた。

シャロンは俺の意図をあまり理解していないようだったが、俺を信頼して頷いてくれた。

観客たちが揃うと、シャロンは呪文を唱え始める。

「数多の風を司りし 風の神(ウェントゥス) よ。風を固めし大いなる槌を与えたまえ。我は命の力を御身に捧げん。我が敵を打ち砕け! 空気の槌(エアハンマー) !」

シャロンの周りに精霊の力が集まり、射撃練習場に突風が舞う。その直後、空気の塊が的を襲った。

射撃用の的は空気の塊を受け、根元から吹き飛ばされていく。更に盛り土の一部も吹き飛ばし、小さな土煙が上がっていた。

バイロンを始め、野次馬たちも十歳の少女の魔法に驚いている。

「よくやった。次は俺の番だな」とシャロンの頭を撫でる。

俺に褒められ嬉しそうなシャロンを下がらせ、俺は同じように 空気の槌(エアハンマー) の呪文を唱えていった。

「数多の風を司りし 風の神(ウェントゥス) よ。風を固めし大いなる槌を与えたまえ。我は命の力を御身に捧げん。我が敵を打ち砕け! 空気の槌(エアハンマー) !」

魔力をいつも以上に込め、シャロンに負けない威力のエアハンマーを壁に打ち込む。

雨天でも訓練ができるように屋根が付いている訓練場内にドンという爆音と、ビリビリと壁を揺らす音が響く。俺の放った魔法は木の的に命中し、盛り土を半分以上削り取り、木の的ごと辺りに吹き飛ばしていった。

(ちょっと威力を高め過ぎたか……施設に損害は与えていないし、まあいいだろう)

今回俺は中型の熊を吹き飛ばすほどの威力を込めた。

俺の風属性魔法レベルは二十三。駆け出しレベルではないが、それほど高位の魔術師でもない。その俺がこの威力を出せるのには理由があった。

この 空気の槌(エアハンマー) という魔法は、圧縮した空気を一気に解放して叩きつける攻撃魔法だ。つまり、威力を決めるのは、空気の量と圧縮率だ。空気の量は投入する魔力に依存するから、俺は圧縮率を上げることにしたのだ。

俺のイメージするのは、 圧縮機(コンプレッサ) プラス 空気だめ(レシーバ) 。更に 空気だめ(レシーバ) を筒状にイメージし、目標の手前で解放するイメージとしている。

このため、高圧の空気が狭い範囲に押し出されていくため、威力は通常のものより大きい。

土煙が収まると、大きく抉れた盛り土が見え、野次馬たちからため息が漏れる。更に何事が起ったのかと、わらわらと人が集まってきた。

バイロンも言葉を無くしており、首を横に振っていた。

「ちなみに俺もこのシャロンも実戦経験はあるぞ。まあ、狼やゴブリン程度だがな」

俺の言葉にようやく我に返ったバイロンは、芝居掛かった口調で片膝をつく。

「ザカライアス様だったな。いや、でしたな。先ほどは失礼しました。これほどの魔術師なら、足手纏いになることはございません。更に先ほどの神速の足捌き。さすがは 獅子心(ライオンハート) と呼ばれた方の血を引くお方。是非とも我らと行動を共にして頂きたい」

その仕草に違和感を持った。

(芝居臭いな。何が目的だ? さっき俺に懐に入られた失点を誤魔化そうとしているのか? じい様の血を引く天才だから仕方が無いと……あり得るな。まあ、この程度頭が回るなら、同行しても大丈夫だろう)

俺はバイロンに右手を差し出しながら、

「ザックでいい。それに敬語はいらない。ガイ、俺はバイロンと一緒でも構わないと思うが、判断はお前に任せる」

ガイはその言葉に「ザック様のお力を認めたのであれば、私に異存はございません」と、俺にだけ人の悪い笑顔を見せる。

バイロンは躊躇いながらも俺の右手を取った。俺は握手をしながら、ガイに視線を送る。彼は小さく頷いていた。

(ガイも俺がうまくやったと思ってくれているようだ)

野次馬たちが立ち去り、バイロンとノートン、ガイが簡単な打合せをしたあと、俺たちは再び街に繰り出していった。