軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話「海での戦い」

十一月八日。

ルークス聖王国があるソーレ半島の南端を通り過ぎ、南の海アウストレリア海に入った。

それまでのヴェスト海とは異なり比較的穏やかで、西風を受けて順調に進んでいる。

海の色も美しい透き通ったブルーになり、十一月に入ったにも関わらず、夏を思わせるような日差しを浴びていた。

「こういう日は冷えたビールが一番だね」

上甲板(アッパーデッキ) に椅子を持ち出したベアトリスが上機嫌でジョッキを呷っている。

「確かに気持ちがいい」と俺も同じようにビールを飲んでおり、船室に篭って研究をしているキトリー・エルバイン教授以外、リディたちも甲板で寛いでいた。

既にアウレラを出てから一ヶ月以上が経ち、船乗りたちとも打ち解けている。俺たちが楽しんでいても白い目を向けてくる者はいない。

逆に「あとで俺たちのビールも冷やしてくださいよ」と笑いながら言ってくるほどだ。

「この調子ならガートブレックまで七、八日といったところでしょう。もっともこの辺りの時化はヴェスト海以上ですから、予定通りにいかないこともありますが……」

アウストレリア海の嵐は台風のような強烈なもので、吹き荒れ始めると数日間、身動きが取れなくなるらしい。十一月のこの時期に嵐に遭うことは稀だそうだが、可能性がないわけではない。

そうは言っても周囲の海は穏やかだし、空を見上げても遠くに積乱雲があるものの、嵐の気配はない。

鮮やかな海の濃い青と、澄み切った空にぽつんと浮かぶ白い雲。リゾート地でクルージングをしている気分だ。

日が傾き始めた頃、「後方に船が見えるぞ」という見張りの声が上から聞こえてきた。

俺たちも立ち上がって後ろを見るが、距離が離れているためか帆影は確認できなかった。

「二隻いたようです。この航路はよく使われるので珍しいことではありません」

ダンカン船長の言葉に安堵するが、「ペリプルスの 私掠船(プライベータ) の可能性はありますか?」と確認する。

船長は真面目な表情で「充分に考えられます」と答えるものの、俺たちを安心させるためか、僅かに表情を緩めて言葉を続ける。

「これだけ離れていれば追いつかれる前にガートブレックに逃げ込めます。あそこには帝国海軍が常駐していますから、奴らも諦めるでしょう」

ガートブレックは帝国領のフィニス島にある港だ。ルークス聖王国にも近いことと、重要な航路であるため、帝国海軍の戦闘艦が十隻以上配備されている。

「懸念があるとすれば、ペリプルスの精鋭であった場合です。奴らは魔術師を使って船を加速させることがありますので」

「風属性魔法を使ってですか……私たちも風属性魔法が使えますので必要でしたら言ってください」

俺の提案に船長は小さく首を横に振る。

「皆さんが高位の魔術師であることは存じておりますが、帆に効率よく風を送ることは一朝一夕でできるものではありません。調整に失敗すると帆が破れ、最悪の場合 帆柱(マスト) が折れることすらあります」

上を見上げると、帆の角度や拡げ方が微妙に調整されていることが分かる。風のはらみ方も微妙に違っており、単純に風を送ればいいというものでもなさそうだ。

その日の夜はいつもと変わることはなく、規則的な揺れに身を任せて眠りに就いた。

夜明けまでもう少しという頃、バタバタという足音で目を覚ます。

「何が起きたの」とリディが眠そうな目で聞いてきた。

「分からないが、もしかしたら私掠船かもしれない。すぐに着替えて状況を確認するぞ」

同室のメルとシャロンも目覚めており、着替えを始めている。

着替えを終えると防具を着けることなく、剣だけを手に部屋の外に出る。

そこに俺たちを呼びに来た 主計長(パーサー) のジェームズ・サリバンが現れた。

「ちょうどよかった。何があったんですか」という俺の問いに緊張気味に状況を説明する。

「ペリプルスの私掠船が襲ってきたようです。船長より助力をお願いしたいとのことです。準備ができ次第、 船尾楼(プープデッキ) にお越しいただきたいと」

「了解しました。妻たちにもその旨を伝えてください」と言って階段を上っていく。

上甲板に出ると、帆を操作する船乗りたちが怒鳴り声を上げながら、ロープを操作していた。彼らを横目に見ながら船の最後尾にある船尾楼に駆け上がっていく。

「してやられました」とダンカン船長が悔し気な表情で伝えてきた。

その手には愛用のサーベルがあり、他の船乗りたちも 片手用曲刀(カットラス) を腰に差し、いつでも戦える準備をしている。

「どこにいるんですか、私掠船は」と聞くと、船長は右手斜め前を指差した後、後方に視線を向ける。

「前方に一隻、後方に二隻です。恐らく風属性魔法の魔術師を使って速度上げているのでしょう。後方の二隻もすぐに追いつく勢いです」

夜陰に紛れて接近してきたらしい。言われた通り、前方を見ると、月明かりに照らされた高速船らしい細身の船が見えた。

また、後方にもセルビー号と同じか、少し小さいくらいの船が二隻あった。後方の船との距離は五百メートルもない感じで、徐々に姿が大きくなっていくのが分かる。

「近づいてきたら、私たちの魔法で攻撃します。指示をお願いします」

真面目な表情でそう伝えたものの、俺には余裕があった。

俺とシャロンは帆船の大敵、火属性魔法が使える。それも誘導型の魔法であり、接舷される前に帆を焼き払い、沈めることができるからだ。

リディたちも後部甲板に上がってきた。簡単に状況を説明すると、目を丸くしているが、キトリーさん以外は余裕の表情を浮かべていた。

「あたしとメルの出番はなさそうだね」とベアトリスが槍を肩に担ぎながらメルに話しかけていた。

「油断はなさらないように」とダンカン船長が注意を促す。

「私掠船は火属性魔法への対策をしています。恐らく簡単に火が着くことはないでしょう」

この船の場合、ロープなどの索具にはグリスがたっぷり塗られているが、私掠船は魔術師からの攻撃を考慮し、特殊な処理をしたロープを使い、帆にもたっぷり水を掛けてあるらしい。

「後方の二隻が主力です。接近してきたら集中的に攻撃をお願いします」

「了解しました。ですが、前にいる船はどうされるのですか?」

「操船で回避できれば、方向転換の分だけ時間を稼げます。それにあれは足を止めることが目的ですから、船乗りの数はそれほど多くありません。もし、接舷されても撃退することは可能です。ですが、後ろの船は拿捕した後の要員もいますから、二百人以上乗っているはずです。一隻でも取り付かれたら降伏しか生き残る道はないでしょう」

そんなことを話している間にも後方の船が急速に接近していた。目測で百メートルといったところで、よく見るとこちらの帆より大きく膨らんでいることが分かる。

ダンカン船長は大声で俺たちに指示を出す。

「射程に入ったらいつでも攻撃を!」

更に部下たちにも小柄な身体のどこから出るのかというほどの 大音声(だいおんじょう) で命令する。

「 転桁索(ブレース) を引け! 右舷(スターボード) へ二点回せ!……」

前を見ると、前方に回りこんでいた船が横切るようにこちらに向かってくるのが見えた。船長はそれを回避するため、すれ違う方向に舵を切ったようだ。

後方に視線を戻すと、リディ、シャロン、キトリーさんに指示を出す。

「遠距離から帆を狙う。あれだけ風をはらんでいれば、 旋風の刃(ウィンドブレード) や 燕翼の刃(スワローカッター) が当たれば風圧で裂けるはずだ。キトリーさんは 旋風の刃(ウィンドブレード) で右側の船の帆を狙ってください。リディとシャロンは左の船を先に攻撃してくれ」

リディとシャロンは誘導型が使えるため、上手く連携すれば効率よく敵を無力化できる。一方、キトリーさんは高位の魔術師だが、戦闘経験は俺たちほどじゃないから連携は難しい。だから、単独で攻撃してもらうのだが、これは牽制の意味合いが強い。

「分かったわ。でもあなたはどうするの?」とリディが聞いてきた。

「俺は帆に風を送っている魔術師を狙う。そいつらさえ倒せば、追いつかれる恐れはなくなる。ここからじゃ見えないところにいるだろうから、マストの上から狙撃する」

それだけ言うと一番高いメインマストに向かい、網状になった 静索(シュラウド) を登っていく。周りでは船乗りたちが帆を操作しており、邪魔にならないように注意しながら、マストの天辺にある見張り台に滑り込む。

「少し邪魔させてもらう」と見張り員に声を掛け、後方の船に視線を向ける。

マストの上から見ると、敵の船の甲板がすべて見通せる。

魔術師らしき人物を探すが、すぐには見つからない。

(風を送っているということは外にいるはずだ。よく探せ。船乗りとは違う動きの奴が魔術師のはずだ……)

距離は五十メートルくらいに縮まっており、リディたちが攻撃を開始した。

リディの 旋風の刃(ウィンドブレード) がフォアマストの大きな横帆に命中する。思ったより丈夫なのか、すぐには破れない。そこにシャロンの 燕翼の刃(スワローカッター) が立て続けに二発命中した。その直後、バンという音と共に帆が弾けるように裂けていく。

左側の船は僅かに速度を落とすが、それでも何事もなく追いかけてくる。

これ以上近づかれると面倒になると思い、魔術師ではなく、他の標的を狙うことにした。狙うのは 操舵手(コーターマスター) だ。

「 数多(あまた) の風を司りし 風の神(ウェントゥス) よ。天を舞う刃の燕を我に与えたまえ。我が命の力を御身に捧げん。舞え! 燕翼の刃(スワローカッター) !」

燕翼の刃(スワローカッター) の魔法を発動し、右側の船の操舵手を狙う。一発目の魔法を発動した後、左側の操舵手にもスワローカッターを放つ。

狙い通り、操舵手の首に命中した。

首を押さえて悲鳴を上げ、握っていた 舵輪(ステアリング) の 取っ手(スポーク) を放してしまう。

操舵手はそのまま倒れていき、押さえる者がいなくなった舵輪はくるくると回り始めた。

舵のコントロールを失った敵船は風下側に曲がっていく。

慌てて別の船乗りが舵輪を押さえようとしているが、勢いよく回っている舵輪を止めるのが精いっぱいですぐに進路を戻すことができない。

その間にリディたちが帆を切り裂いていく。その効果と相まって、二隻とも針路がふらつき始め、船長らしき三角帽を被った男が大きな身振りで怒鳴り散らしている。

(あいつとあいつが船長か。奴らを狙撃で倒せばもっと混乱するはずだ……)

更に二発の魔法を放ち、船長らしき男を狙う。マストの上は昇り始めた太陽の光を受けて明るくなっているが、船上には届いておらず、薄暗いままだ。

そこに風属性の 燕翼の刃(スワローカッター) が襲い掛かるため、避けることは難しい。

船長らしき男は成すすべもなく魔法を首筋に受け、何が起きたのか分からないまま、甲板の上に倒れていった。

隣の船の指揮官も倒すと、二隻は大混乱に陥った。

多くの船乗りがパニックになり、身を隠すように物陰に隠れたため、まともな操船ができなくなる。

魔術師も身の危険を感じて隠れたのか、あれほどパンパンに膨らんでいた帆はすっかり萎んでいる。更に舵をとる者がいなくなったためか、二隻はゆっくりと近づいていった。

止めに 獄炎の槍(ヘルファイアランス) の魔法を船尾楼の下にある 出入口(ハッチ) に向けて放つ。

外側は火に対する防御がされていても、中はそれほど厳重に防御されていないと考えたためだ。もし火が付かなくても混乱してくれれば時間は稼げる。

二隻とも上手くハッチに命中したが、火の手はなかなか上がらない。しかし、船員たちは突然の炎の襲来に大混乱に陥っていた。

狙い通りの展開に、これで大丈夫だと思い、周囲を見回す。

前方に振り返ったところで、遮ろうとしている私掠船が斜めに帆走している姿が目に入る。進んでいきながらも、相手の船との角度は変わらず、互いの針路は一点に収束していくように見えた。

(これは不味いんじゃないか。衝突するコースに見えるんだが……)

俺の心配は現実のものになった。敵船は僚船の状況を知らないのか、セルビー号に体当たりして止めるつもりでこちらに向かってくる。

ダンカン船長も針路を変えて回避しようとしたようだが、敵もこちらの動きに見事に合わせており衝突コースから離れることができない。

船長は腹を括ったのか、ギリギリで回避することに賭けるようで、セルビー号は真直ぐに敵に向かっていく。

「面舵一杯!」という船長の声が響き、操舵手が舵輪をくるくると回す。しかし、敵も同じ方向に舵を切り、斜めにぶつかる形で突っ込んでいく。

「ぶつかるぞ! 何でもいいから掴まれ!」という声が船首側から聞こえてきた。

その直後、ドンという音とバキッという音が響き、前後に大きく揺さぶられる。慌てて見張り台の手すりに掴まり、転落は防ぐ。

揺れが収まった後に下を見ると、前に回りこんできた船の側面に船首が突っ込んでいる姿が見えた。

(避け切れなかったのか?……リディたちは!)

慌てて後部甲板を見るが、シャロンとキトリーさんが倒れているものの、リディ、ベアトリス、メルの三人が助けており、問題はなさそうだ。

その後方では追いかけてきた二隻の船が衝突し、マストから帆が落ちている様子が見えた。そのうち一隻は煙が上がっており、船員たちが大慌てで二隻の船を切り離そうとしていた。

(すぐにはこっちに来れそうにないな。前の船を何とかすれば逃げ切れる……)

既に私掠船から武器を手にした船乗りたちが飛び移ってくるのが見えた。その場から狙撃することも考えたが、敵味方の識別が難しいと思い、下に降りることにした。

既に 船首楼(フォクスル) ではセルビー号の船乗りたちと私掠船乗りたちの戦いが始まっており、怒号が飛び交っている。

船長は敵の数は少ないと言っていたが、それでも続々と飛び移ってくる。その数は既に三十人を超え、船首楼は敵で溢れていた。

しかし、敵の勢いはそこまでだった。

ダンカン船長が軽やかにサーベルを振るって敵を切り裂き、 甲板長(ボースン) たちがカットラスを豪快に振り回して反撃をしていたのだ。

彼らの中心にベアトリスとメルの姿があった。

ベアトリスは敵の技量が低いと見たのか、槍の長さを利用し押されている船乗りを後方から支援しながら確実に敵を仕留めていく。

メルはいつも通り、敵の中に突貫していく。

革鎧は着けていないため、見ているこっちが不安になるほど大胆に敵を斬り伏せていった。

メルが前に出ていくと、「メリッサ様に続け!」とダンカン船長が普段の紳士振りが嘘のような大声で叫び、メルがこじ開けた穴に飛び込んでいく。

後ろにはカットラスを構えた船乗りたちが雄叫びを上げながら続いていく。

リディたちは 船尾楼(プープデッキ) から魔法を放っていた。彼女たちの狙いは敵船から狙撃してくる弓兵だった。

セルビー号側が押し始めているので、俺は下に降りずに敵船に乗り込むことにした。

魔闘術で筋力を強化し、 収納魔法(インベントリ) から取り出したロープを 帆桁(ヤード) に括りつけ、振り子の要領で一気に敵船に飛び移る。

飛び降りた場所は敵船のやや後方側の上甲板。船長が指揮を執る船尾楼までは階段を上ればすぐの場所だ。

俺の動きが意外だったことと、まだ夜明け前の薄暗がりということで、完全な奇襲となった。

敵の船尾甲板では船長らしき三角帽を被った大男が、俺に気付きカットラスを振り回して怒鳴り散らしている。

「敵が乗り込んできたぞ! さっさと殺せ!」

その言葉に数人の船乗りが襲い掛かってくるが、大した腕ではない。精々、剣術士レベル二十台後半といったところで、剣を一閃するだけで斬り倒せる。

「 船尾楼(プープデッキ) を守れ! 奴を近づけさせるな!」

その言葉で更に五人ほどが甲板の下から現れるが、同じように斬り伏せていく。

後ろではメルたちもこちらに乗り込んでおり、私掠船側の船乗りはあまりの技量の差に敵わないと見たのか、次々と武器を捨てていった。

「武器を捨てろ!」と俺が言うと、船長は「若造が!」と喚きながら斬り掛かってきた。

軽くいなしてから首を斬り裂く。

避けることもできず、自分の運命が信じられないのか、目を見開きながら血飛沫を上げて中央の甲板に転げるように落ちていった。

残ったのは操舵手だけで、すぐに両手を上げて降伏する。

「無茶をなさいます」と合流したダンカン船長が苦笑いを浮かべて言ってきた。その姿は返り血で真っ赤だ。

「この後はどうするんですか」

「後方の船が気になりますから、この船は沈めます」

本来なら拿捕するのだが、時間がないため断念するようだ。

捕虜をどうするのかと思って聞くと、

「港に連れて行くまでに反乱を起こされたら目も当てられません。使える物だけ奪ってすぐにここを離れます」

余裕があれば港まで連れていって犯罪奴隷として売り払うこともできるし、自分の船で下級船員としてこき使うこともできる。ただし、現状では時間との勝負であることから、放置することにしたようだ。

私掠船乗りたちだが、拘束する時間が惜しいため、甲板の端に集めてある。ベアトリスとメルが睨みを利かせているので、再び襲ってくることはなさそうだ。

船と一緒に沈めるというが、船のヤードなどの木材は沈まないから運がよければ、後方の仲間に助けてもらえるだろうし、搭載してあるボートを下ろすこともできる。

沈め方だが、船大工が船底に穴を空けるらしい。大きな斧とのこぎりを持った男たちが下に降りていくのが見えた。

沈めるまでの時間を利用し、セルビー号の船乗りたちが私掠船から物資を運び出していく。

更に再利用されないようするためか、 甲板長(ボースン) がマストに斧を打ち込んでいた。さすがに切り倒すことはできないが、強度を落とすことで使えなくするらしい。

「あと三十分ほどで沈みます。そろそろ撤収を」という甲板長の進言を受け、「全員船に戻れ!」と船長が命じる。

俺たちもセルビー号に戻るが、後ろでは「助けてくれ!」という私掠船乗りたちの悲鳴に似た叫びが聞こえていた。

「乗り移ろうとする者は射殺せ!」というラムゼイ航海士の声が聞こえ、船首楼にいる弓術士たちが弓を構えている。

「敵船を押し出せ!」という甲板長の声が響き、長い棒で船首に絡まる敵船を押し出していく。その頃には敵船の喫水は深くなっており、徐々に沈んでいることが分かる。

船尾楼に行き、「後方の船は?」とリディに聞くと、

「まだ止まったままよ。煙は減っているから火事にはならなかったみたいね。でも、風で流されて随分離れているわ」

曙光に照らされる海に二隻の大型船が並んで止まっている。距離は五百メートル以上離れており、どのような状況かよく分からない。ただ、マストの上の帆はだらりと垂れ下がったままで動き出す気配はなかった。

体当たりしてきた船は波が甲板を洗うほど沈み込み、ハッチから空気と一緒に水を噴き上げている。私掠船乗りたちは既に海に飛び込んでおり、船の沈没に巻き込まれないよう必死に離れようとしていた。

「ありゃ助からねぇな」というラムゼイの声が響くが、その声に同情の響きはない。

順調に離れていくことを確認し、後処理に入る。

怪我をしていない船乗りたちは損傷した船の修理に取り掛かっていた。絡まった索具を直したり、帆の角度を調整したりして忙しそうに動いている。

しかし動けない者も多数いた。先ほどの白兵戦で負傷した者たちだ。

彼らは甲板上に寝かされており、その数は十数人。既に船医が治療を始めているが、俺たちもそれを手伝っていく。

結果から言えば、奇跡的に死者は出なかった。

瀕死の重傷を負い、本来ならそのまま死ぬところだった者が六名いたが、俺とリディの治癒魔法で命を取り留めているためだ。

怪我人の治療を終え、返り血をふき取っていると、ダンカン船長がやってきた。

「先ほどの活躍、そして部下たちの治療にご尽力いただき、感謝いたします」といって大きく頭を下げる。

「当然のことをしただけですよ」と返すが、船長の顔に焦りのようなものを感じた。

「何かあったのですか?」

「少々面倒なことになりました。先ほどの衝突で船首に亀裂ができました。このまま嵐に遭えば沈没することは確実です。速やかに入港して修理しなければなりません」

詳しく聞くと船首部分に大きな亀裂があり、今は帆布で応急処置をして浸水を防いでいるらしい。

「このままガートブレックに向かうのはリスクが大きすぎます。不本意ではございますが、一番近い港であるアベルゲレに行かざるを得ません」

魔法で何とかできないかと見にいったが、船首部分の船体が大きく割れており、素人の修理でどうにかなるレベルではなかった。

俺たちは聖王国の港アベルゲレに向かうことになった。