軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十四話「敵の弱点」

神々の敵との戦いは消耗戦に突入した。

敵の地上戦力である 地竜(ランドドラゴン) 、 一つ目巨人(サイクロプス) 、 四手熊(フォーアームズベア) 、更に 大魔(グレーターデーモン) も倒している。

二級相当の魔物三体に三級相当の魔物一体と、通常なら大勝利といえる戦果を上げている。

しかし、その代償は大きかった。

ロックハート家の二十六人中、九人が大きなダメージを受け、戦闘不能に陥っている。

シャロンは魔法を受けて意識を失い、更にバイロン・シードルフが祖父を庇って敵の頭目、翼魔族らしき男の魔法を受けて生死不明の状態だ。

戦力の三分の一が戦闘不能なだけでなく、切り札であった俺の魔法も封じられている。

幸い祖父やウォルトといったベテランが健在で、地下要塞に引き込めれば勝利を得られる可能性は残っている。

しかし最大の敵、英雄ゴーヴァンが恐怖するほどの漆黒の魔族の姿がない。この場にいる翼魔族らしき男を始め、地竜やサイクロプスを合わせたより、その男一人の方が危険だ。

そう考えると、このまま消耗戦を続ければ、敵の首魁に挑んだ瞬間、全滅する。

俺は最終的な勝利を得るため、作戦を変更した。負傷者を救助し最終決戦に備えるための時間を稼ぐことにしたのだ。

俺は愛剣を手に敵を引き付けるべく、「当たらねばどうということはない!」と挑発し、魔闘術を施しながら前に出る。

敵は戦略的な思考が苦手なのか、それとも単に俺たちをまだ侮っているのか、挑発に乗ってきた。

頭目は苛立ちを含んだ様子で魔法を放ってくる。

魔法は 闇の矢(ダークアロー) に過ぎないが、見た目通りとは思えない。何らかの特殊な効果を秘めていると考えている。

その魔法を詠唱することなく、一秒に一発程度の間隔で撃ってくる。そのため、冷や汗が止まらない。

最初の一連射、二十発分ほどをギリギリでかわしたが、プレッシャーにより、すでに息が上がっている。

更に妖魔たちも俺を狙い始めており、連射が終わった後も気を抜くことができない。

十秒ほどで再び頭目の魔法が始まる。奴の 魔力(MP) 保有量は膨大らしく、あれほど強力な魔法を連発したにも関わらず、疲れた素振りすら見せずに連発してくる。

(どれだけ魔力を持っているんだ?……全員が地下に逃げ切るにはまだ五分くらいは必要だ。この調子で撃たれ続けたら、そのうち当たってしまう……リディかシャロンが牽制してくれたらいいんだが、今は期待できない。これは詰んだかもしれないな……)

ヘクターだけが俺の援護を行っているが、妖魔に嫌がらせ程度の攻撃を加えるだけで、ほとんど効果はない。

それでも少しでも時間を稼ぐため、敵を挑発する。

「俺の名はザカライアスだ! コウモリもどきの稚拙な魔法など当たらん! 本当の魔法を見せてやろう!」

そう叫んだ後、走りながら呪文を唱えていく。

「火を司りし 火の神(イグニス) よ。御身の眷属、精霊の猛き炎を我は求めん、御身に我が命の力を捧げん。我が敵を焼き尽くせ! 火炎の砲(ファイアキャノン) !」

選択した魔法は 火炎の砲(ファイアキャノン) だ。これは学院に入ってすぐに作った魔法と同じ名前だが、改良が加えられている。

魔法を妖魔に向けて放つ。

敵の 闇の矢(ダークアロー) より遥かに高速の炎の砲弾が飛翔する妖魔に向かう。

妖魔の手前十メートルほどの位置で、砲弾は轟音と共に弾けた。そして、無数の破片となって妖魔に襲い掛かった。

妖魔はあまりに速い展開に反応することすらできず魔法を食らう。コウモリの翼はズタズタになり、身体にも十数発の破片が命中し墜落していった。

その光景に敵の頭目も魔法を放つのを忘れて見入っている。その彼にも破片の一部が向かい、頬を掠めていた。

この魔法は対空砲だ。イメージは近接自動信管で敵の手前で爆発し、放射状に炎の破片が広がるように作られている。

追尾機能がないため、使いどころが難しいが、翼が弱点である飛行型には有効な魔法だ。また、見た目も派手であるため、今回のように脅しに使うこともできる。

今まで使わなかったのは 燕翼の刃(スワローカッター) に比べ、魔力消費量が大きいことと、追尾型でないため確実性に劣るためだ。この魔法を撃ったことで俺のMPは三割を割り込んでいる。

頬に掠ったためか、頭目は「貴様!」と叫んで 眦(まなじり) を上げる。

俺は更に敵を挑発する。

「こっちは名乗ったんだぞ。それとも名がないのか? 翼魔族だと思ったが、名も与えられない下級の魔物だったようだな!」

俺の言葉に更に激高する。

「 魔将(アークデーモン) たる我を愚弄するか! 死出の土産に我が主より賜りし、名を教えてやろう! 我が名はアシュタル! 魔将アシュタルである!」

アシュタルと名乗った魔将が突然動きを止めた。そして、精霊の力が勢いよく彼の身体に吸い込まれていく。

その力は闇の精霊の力だけでなく、すべての属性のもので、精霊が見えない俺にも色とりどりの精霊たちが舞っているように感じた。

そして、目を開けていられないほどの光が周囲を照らす。

危険を感じ、手近な岩に身を隠す。

五秒ほどで光が収まり始める。

この場にいては危険だと本能が叫んでおり、上空からの狙撃を無視して全力で走り出す。

その直後、「我が力を思い知れ!」というアシュタルの声が響く。

殺気を感じ、魔闘術を使って右に跳ぶ。

俺のいた場所に黒い影が通り過ぎた。三十メートルほど進んだところで、それは動きを止めた。そこにいたのは巨大な剣を構えたアシュタル本人だった。

アシュタルだが、それまでとは大きく姿が変わっていた。

以前は身長こそ高かったものの華奢という言葉が似合う感じだった。

しかし、今は着ていた黒いジャケットは弾けてなくなり、ボディビルダーのような筋肉質の身体を晒している。

身長もそれまでは百八十センチほどだったが、五十センチ以上大きくなり、人間らしい顔も妖魔のような獰猛なものに変わっていた。

そして、その姿に見合った力を感じさせ、自然と震えがくる。

「変身しやがった……」と思わず呟いてしまう。

(まさか、まだ第二形態にすぎないとかじゃないよな……)

あまりの力の差に現実逃避しそうになる。

「我を愚弄した罪を償ってもらうぞ。供物にするから殺しはせぬがな。ハハハ!」

精神が高揚しているのか、余裕の表れなのか、俺を捕らえるつもりだと漏らしていた。

「身体能力の差が戦力の決定的な差でないことを教えてやろう!」

こんな軽口を叩かないと動けないほどのプレッシャーを感じていた。

以前戦ったアンデッドの王ヴラド・ヴァロノスに比べ、純粋な力ではアシュタルの方が上だ。当然一騎打ちで勝てるはずもなく、祖父たちの力を借りても勝率は極めて低い。

しかし、ヴラドの時より恐怖は感じていない。

まず敵の正体が 魔将(アークデーモン) であると分かったことが大きい。ヴラドのような未知の敵とは異なり、不確かながらも敵の情報がある。魔将を討伐したという伝承が残っており、決して倒せない敵ではないと分かったためだ。

他にもヴラドには感情というものが欠如していたが、アシュタルは人に近い感情を持っており、付け入る隙がある。

「ほざけ!」と嘲笑しながら魔法を放ってきた。

精霊の力を集めることなく、予備動作もなしで魔法を放ったことに驚き、僅かに反応が遅れる。

咄嗟に回避したものの、漆黒の矢が左腕を掠めた。

知らず知らずのうちに悲鳴を上げた。矢が掠めた瞬間、身体全体を電撃のような衝撃が襲ったためだ。

ただのダークアローではないと思っていたが、予想以上に強力な精神系の魔法だった。

片膝を突いた後、剣を杖にして転倒するのを防ぐ。しかし、力が抜けていき、ゆっくりと前に倒れるしかなかった。この状況で次の攻撃が来ればその場で終わる。

「口ほどにもない」と嘲笑し、

「動けぬうちに捕らえておけ!」と妖魔に命じた。

苦痛に顔を歪めながら、安堵の息を吐き出す。予想通り詰めが甘く、確実に戦闘不能まで持っていかなかった。

奴の立場になって考えれば、さほどおかしなことではない。

俺には“精神耐性”のスキルと高い値の精神力のステータスがある。そのいずれかがなければ意識を保つことはできなかった。

それほど強力な精神攻撃力を持った魔法だった。

倒れ込んだまま、密かに光属性魔法の 状態回復(リカバリー) を使う。

体の痺れが徐々に取れていき、すぐに動けるようになった。そして、目でアシュタルの動きを追う。

俺を無力化したと確信したアシュタルは、地下室に逃げ込もうとする祖父たちを見るため、俺に背を向けていた。

本来ならもう少し回復してから動きたいところだが、祖父たちに攻撃を仕掛ける前に俺に注意を向けさせなければならない。

近寄ってきた妖魔にクナイ型の短剣を投げつける。

短剣は妖魔の胸に突き刺さり、グハッと息を吐き出した後、胸を掻き毟って倒れこんだ。

その音を聞きつけたのか、アシュタルが振り返る。

「まだ動けるとはな」と余裕の表情で言った後、右手を上げて俺に向けて再び魔法を放とうとした。

奴との距離は二十メートルほど。さっきより近づいているが、油断さえしなければ避けられない速度ではない。

アシュタルが魔法を放った。

俺の胴体を狙って、連射してくる。

狙いは正確だった。俺はそのすべてを最小限の動きで回避していく。

更に奴を激高させるため、無理やり演技をする。

「正確な魔法だ。それゆえ、予想しやすい」

余裕はないが、相手を冷静にさせないため、笑みを浮かべる。イメージはもちろん宇宙世紀のゲリラ屋だ。

それでも効果はあった。

「なぜ当たらぬ!」と叫び、更に魔法を放つ。

しかし、そのすべてを避けると、アシュタルは「許さん!」と言って猛然と突っ込んできた。

高速で飛来しながら、刃渡り百五十センチほどの巨大な剣を右手一本で振るう。

まともに受ければ、吹き飛ぶことは間違いないため、魔闘術を使って飛び越える。

アシュタルはその動きに付いていけず、「何!」と叫んで通り過ぎる。

その背中にクナイを投げ付け、背中に当てる。しかし、アルス鋼で作られたクナイは僅かに皮膚にかすり傷を付けただけで弾かれてしまった。

(何て硬さだ! しかし、傷を付けることはできた。ならば勝機はある!)

前方宙返りを決めて着地する。そして、奴がもう一度斬り掛かってきたら迎撃するつもりで魔法剣を構える。

「貴様! 我に傷を付けた代償は大きいと思え!」

そう叫ぶと、上昇して空中で止まり、こちらを睨む。再び魔法攻撃に切り替えるつもりのようだ。

俺の後ろでは祖父たちが地下室に入ろうとしているところであり、あと数十秒時間を稼ぐ必要がある。

「ヘクター、下がりながら妖魔を撃ち落せ!」

最後まで矢を射掛けているヘクターに命令を出し、俺もジリジリと下がり始める。そのことに気づかれないよう、アシュタルを挑発する。

「魔法を放つなら好きにするがいい! さっきは不意を打たれたが、今ならどんな魔法であろうと避けてみせる!」

接近戦に持ち込まれれば、逃げることは難しいが、遠距離から撃たれる分には避けながらでも入口に向かうことは可能だ。奴が冷静さを取り戻さないよう、更に挑発する。

「俺の魔法のように自由に動かぬのだな! 魔力が多いだけの三流にすぎん!」

追尾型の魔法はこの世界では異常な魔法だ。今回、妖魔たちに使用したが、彼らは初めて見たかのように意表を突かれ、対応できていなかった。つまり、彼らにとっても異常な魔法ということなのだ。

また、アシュタルほどの魔術師が今まで一度も追尾型の魔法を使っていない。つまり、奴も追尾型が使えないということだ。

その点を突いて沸点の低い彼の怒りを掻き立てる。怒りに狂い、破壊力のある魔法、すなわち時間が掛かる魔法を発動させるためだ。

「ならば、その身をもって試してみるがよい!」

アシュタルは右手を高く掲げ、漆黒の球体を作り出していく。

最初は三十センチほどだったものが、最終的には二メートルほどにまで膨れ上がり、禍々しい力が渦巻いている。

その間にもジリジリと距離を取っていく。

俺を捕らえる気が無くなったのか、アシュタルは「死ね!」と叫び、魔法を投げつけた。

その無駄な叫びの間に俺は走り出していた。

それでも距離は僅か三十メートルほどで、走り出した直後に俺のいた場所に着弾し、爆発した。

膨大なエネルギーが放出され、空気が一気に膨張する。その爆風によって俺は吹き飛ばされるが、爆風が届く直前に自ら跳んでいたため、思ったほどの衝撃はない。

それでも高さ三メートルほどまで吹き上げられ、距離にして十メートルほど飛ばされていた。思った以上に飛ばされたが、着地の際に数回転がることで勢いを殺し、無傷で切り抜けることに成功した。

爆風により砂塵が巻き上げられ、視界が塞がれる。

この状況を予想しており、アシュタルの視線から俺の姿は消えたはずだ。そう考え、地下室に向けて一気に走り出す。

距離にして三十メートルほど。数秒でたどり着ける距離だ。

地下室の入口にはヘクターとガイ、ダンの三人が弓を構えて待っていた。

「ザック様、危ない!」とダンが叫ぶ。

三人は一斉に俺の左右に矢を放った。

アシュタルからは死角になったものの、周囲を飛んでいた妖魔たちからはしっかりと見えており、俺を逃がすまいと魔法を放とうとしていたようだ。

素早く後ろに視線を送り、魔法を警戒する。三人の矢によって二体の妖魔は魔法を諦めたが、左側にいた一体は既に魔法を放っていた。

放たれた魔法は 闇の矢(ダークアロー) で避けきれない。

背中に衝撃を感じた。

しかし、よろめく程度で大きなダメージは受けなかった。ミスリルで補強された黒竜の鎧がダークアローを防いだのだ。

「全員、退避!」と叫びながら、地下室の入口に飛び込んでいく。

トンネル部分に飛び込んだ直後、再び爆風が襲ってきた。俺が無傷だと気づいたアシュタルが再び魔法を放ったようだ。

間一髪、退避に成功し、気が抜けそうになるが、気を引き締めて速足で奥に向かう。

「大丈夫ですか?」とダンが不安げな表情で聞いてきた。

「問題ない。それより負傷者の状況は?」

俺の問いにダンは顔を曇らせる。

「バイロンさんが重体です……あと、イーノスさんとシド、それにシャロンも意識が戻っていません。リディアさんの話では魔族の魔法に特殊な効果があるんじゃないかって……」

「そうか……」と答えることしかできなかった。