軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十九話「大魔(グレーターデーモン)」

三月二十五日。

祖父とダンと共に敵の拠点に偵察にいった。そこで神々の敵らしき人物を初めて目にした。

その人物はカラスのような漆黒の翼を持ち、皮膚はアフリカ系人種のように真っ黒だった。漆黒の男が姿を現した瞬間、その圧倒的な力を感じ、戦慄が走る。

更にその男は五百メートル以上離れた場所に潜む俺たちに気付き、妖魔を差し向けてきた。姿を見られないよう遮蔽物に隠れ、望遠鏡を使って監視していたにも関わらず気づかれたのだ。

幸い、俺たちを探しにきた妖魔に見つかることはなく、何とか脱出できたが、どのような探知方法を使ったのかは不明で、俺たちの考えている作戦――遮蔽物に隠れて奇襲を仕掛けるという作戦を考え直す必要に迫られた。

拠点に戻った俺たちは主要なメンバーを集め、協議を始めた。

先ほどあったことを簡潔に説明し、皆に意見を求めた。

「あの距離で見つかったのかい」とベアトリスが驚き、「待ち伏せは難しいということですか」とニコラスが唸る。

他のメンバーも難しい顔で考え込んでしまう。

そんな中、決然とした表情の兄ロッドが発言する。

「最初から恐ろしい敵だと分かっていたはずです。奇襲は無理でも敵を引き込む作戦に変更はないのではありませんか?」

兄の毅然とした態度に祖父も普段通りの豪胆さを取り戻す。

「そうじゃな。確かに我らの有利な場所で戦うという方針に変わりはない」

そこで俺の方を見て、「一度状況を整理してくれんか」と話を振ってきた。

「分かりました。では状況を整理します」

そう言いながら頭の中で情報を整理していく。

「まず敵の探知能力が低いという前提は崩れました。それに敵の首魁が動けないという前提も。ですが、各個撃破ができないということではないと思います。少なくとも地竜たちはこの場所にすぐには移動できません」

「うむ。その通りじゃな。ではどうすべきだと考える?」

「はい。敵が我々を侮って少数で攻めてくれば、今まで通りこの場所で各個撃破を行います。もし、あの場に留まり攻めてこなければ、こちらからあの尾根に向かい、上から攻撃を仕掛け、大魔と妖魔を削るという作戦でどうでしょうか」

俺が考えたのは航空戦力である大魔や妖魔を先に叩くことだ。敵の親玉は探知能力も高く危険だが、俺たちが逃げ切れたことから分かるように、妖魔自体の索敵能力は低い。

今回のメンバーにはヘクターの他に弓が使える者が多い。ガイやダンだけでなく、従士のマーク、フレディ、ジェイクの三人が弓術士であるため、リディを除いても六人がレベル四十以上の弓術士だ。

また、消耗品である矢も 収納魔法(インベントリ) に大量に確保してあり、矢が尽きる恐れはまずない。

この六人に俺、リディ、シャロンの三人の魔術師が加わる。弓術士たちに牽制してもらい、俺たちが魔法で攻撃を行えば、ある程度効果的に敵を倒すことができる。

不安材料は敵の親玉と翼魔族らしい男が攻撃に加わることだが、先日の 死霊魔道師(リッチ) との戦いを見る限り、敵を侮る傾向にある。その点を突ければ、敵の戦力を減らすことは可能だろう。

「では、まずはここで迎え撃つことに変更はないということじゃな。では、ヘクター、弓術士の配置に適した場所はどうじゃ?」

「南側の斜面に何箇所か岩棚があります。高さ的には五十 m(メルト) ほどのところですが、下の広場に先代様たちが陣取るのであれば、支援には最適な場所です」

ヘクターの言葉にリディが補足する。

「ザックに避難用の穴を作ってもらったら範囲攻撃魔法にも耐えられるわ。もちろん、盾を持っていくって前提だけど」

逃げ場がない岩棚は単発攻撃には強いが、 嵐(ストーム) 系の魔法に対しては一網打尽でやられる可能性がある。

ただし、範囲攻撃魔法も弱点がないわけではない。

大規模な魔法を使う場合、妖魔系の魔物であっても停止しなければならない。そうしないと必要な精霊の力が集まらないからだ。

また、常識的なストーム系の魔法の射程距離は五十メートルほどだ。真上から攻撃されない限り、ヘクターたちの使う剛弓の射程内に入る。

仮に水平の位置にいるとすれば、ヘクターなら確実に当てられる。だから、範囲攻撃魔法を使ってくる可能性は低いのだが、常識が通じない可能性があり、リディは指摘したのだ。

「よかろう。ザック、後で現地を確認してお前が最善だと思う退避場所を作ってくれ。他に意見がある者はおらんか」

そこでバイロンが手を上げる。祖父が発言を認めると、いつもの重々しい口調で話し始めた。

「ザカライアス様に負担を掛けることになりますが、魔法で地下要塞を作ってはいかがでしょうか」

「地下要塞?」と祖父が疑問を口にする。

「はい。要塞といいますか、今ある拠点を拡張し、そこに誘い込む策です」

「なるほど。奴らの戦力は大型の魔物と飛行が得意な妖魔系じゃ。入口を狭くすれば地竜やサイクロプスは入ってこられまい」

「その通りです。それに妖魔系の魔物が攻め込んでくるとしても前衛がおらぬ状況になります。我らにとって有利に戦えるのではありますまいか」

バイロンの提案は合理的なものだ。敵の得意とするところを封じ、自分たちの有利になる戦場を設定し敵を葬るという考えだ。

問題があるとすれば、敵が俺たちの思惑通り地下に入るかという点だ。常識的に考えれば、自らの利点を殺す場所に入ることはありえない。

敵が俺たちを侮ってくれることに期待するしかない。

「ザック、どうじゃ? バイロンの提案は検討に値すると思うが?」

「そうですね。問題点が二つあります。一つは敵がこちらの思惑通りに入ってくるかという点です」

「そうじゃな」と祖父は頷く。

「我々が外では歯が立たず、止むなく逃げ込んだという演技に掛かってくると思います」

「うむ。確かにお前ほどの土属性魔法の魔術師がおらねば、大規模な地下室は作れまい。だとすれば、敵に抗しえずに逃げ込んだと見せれば、追撃してくる可能性は低くはあるまい」

「幸いなのかは微妙ですが、敵は自らの力に自信を持っています。それが過信となってくれれば、不利な場所に入ることも躊躇わないでしょう。もっとも敵が過信することを前提に作戦を立てるというのは問題の解決ではないのですが」

「分かった。しかし、今はそう考えるしかあるまい。で、他の問題点はどのようなものじゃ?」

「はい。二つ目ですが、先ほどのおじい様のお話と少し関係があります。つまり、私一人でどこまで作れるかです。中途半端なものでは袋のネズミになるだけですから」

「それについても同感じゃな」

今の拠点は渓谷の南側の崖に幅一メートル、奥行き十メートルほど掘り、奥の五メートル分ほどを幅五メートルほどにしてある。

戦闘を考えると、更に奥に三十メートルほど掘り進む必要がある。

今の場所では外から火属性魔法を撃ち込まれたら熱や酸欠でやられるし、毒や麻痺の魔法も効くためだ。

少なくともL字型の通路にすることと、闇属性魔法の 麻痺の霧(パラライズミスト) や 睡眠の雲(スリープクラウド) の射程範囲以上に伸ばす必要がある。

「どの程度時間が必要かな?」

「今の拠点を拡張するにしても満足いく大きさの物を作るには三日は掛かるでしょう。当然、その間、私は攻撃に加わることができません」

三十メートルほどを掘るだけなら一日も掛からない。しかし、その奥に戦えるスペースを作り、更に脱出用の通路まで作るとなると三日は必要だろう。

三日間のうちに敵が攻めてきたら、俺は 魔力(MP) を消費した状態で迎え撃つことになる。切り札といえる俺が万全でない状況を祖父が認めるかが気になるところだ。

予想通り、祖父は僅かに悩んだ。しかし、すぐに顔を上げ、

「敵をどうやって誘い込むかは今後考えるとして、敵が来るまで無為に待つなら、勝機を掴むための策を用意しておくべきじゃ」

それだけ言うと、俺に視線を向け、

「地下の拡張を頼む。形は任せる。お前が一番詳しかろうからな」

そこで全員に向かって、力強く宣言する。

「敵の斥候を倒すという方針に変更はない! 仮に地竜たちが早めにここに到着するにしても勝率を上げる策は何でもやる! そうせねば勝てぬ相手じゃ」

方針が決まり、全員が動き出した。

ヘクターたち弓術士は岩棚に身を隠せるよう岩を使って遮蔽を作っていく。ウォルトらは地上部分の足場をよくするため、足を取られそうな石を取り除き、更に上空から魔法を撃たれた場合の退避場所を確認していた。

ガイとダンは交代で見張りを行い、斥候が近づいて来たら合図を行う体制を築いた。

リディとシャロンは近寄ってきた敵を迎撃するために、交替で岩棚に身を隠している。

俺は彼らとは別に、拠点の奥で黙々とトンネルを掘っていく。

通路は二メートルほどの幅にした。これは翼を持つ妖魔たちは一体ずつしか入れないが、俺たちなら何とか二人が並ぶことができる大きさだ。高さは剣を振ることを考え三メートルほどにしてある。

一人で穴を掘り続け、 魔力(MP) が半分になったら簡易寝台に横になって魔力を回復する。

こうしておけば、最悪のタイミングでも半分のMPは残っているので、魔法を使った戦いはできる。

敵が襲ってくる可能性がある場所でやることではないが、休息の効率を上げるため鎧を脱いでいる。そのお陰で一時間に一割くらいの割合でMPが回復している。

その結果、一時間作業をして五時間休むというサイクルを昼夜を問わず続けるつもりだ。これで上手くいけば、予定より一日以上早く仕上げられるだろう。

一日目、俺が作業をしている間に二度妖魔が現れたが、いずれもリディとシャロンの魔法で撃ち落している。俺は作業に集中しており、夕食時に教えられるまで、気づくことはなかった。

夕食を終え、見張り以外が休む時間になったが、俺はまだ作業を継続するつもりだった。

それを見たリディが「夜中も魔法を使って大丈夫なの?」と聞いてきた。

「大丈夫だ。五時間寝られるなら、不寝番の時と大して変わりはないよ。それに力仕事をしているわけじゃないんだ。身体の方はいつもより楽なくらいだからな」

「でも無理はしないでください」とメルが心配そうな顔でいい、シャロンも同じように頷いている。

「無理はしていないよ。それに一刻も早く作り上げないと間に合わなくなるかもしれないんだ。みんなもがんばっているんだから、俺もできることを全力でやるだけだ」

そう言ってトンネルの奥に向かった。

初日の昼だけで通路に当たる三十メートル分の掘削は終わっている。明日の朝までに二回作業できるため、決戦用の部屋の一部と四十メートルほどの脱出路部分は完成するだろう。

夜を徹してというわけではないが、短時間の睡眠と連続的な魔法の使用は精神的な疲労を誘発する。しかし、この地下室というか、地下 迷宮(ダンジョン) は保険として必要なものだ。

翌日の三月二十六日も黙々と作業を続けていく。リディたちも昼食の差し入れと共に様子を見に来るが、外の状況もあまりよくないらしい。

「大魔と妖魔が一緒に飛んでいたわ。ゴーヴィの命令で攻撃は控えたけど、もしかしたら見つかったかもしれない……」

相手も馬鹿ではないので大魔を出してくることは予想していた。俺がいれば攻撃することもできたが、リディとシャロンの魔法では大魔に対して決定力に欠ける恐れがあり、祖父も攻撃を命じなかったのだろう。

その時、大魔が上空を何回も旋回しており、何らかの痕跡を発見された可能性があるとのことだった。

不自然に見えないようにしているが、遮蔽物の設置や足場の整備など、いろいろと細工をしているから見つかっても仕方ないだろう。

「見つかったのなら仕方がないな。次は思い切って攻撃を掛けてもいいかもしれない」

「そうね。でも、どっちを優先するの? 妖魔なら確実だけど、大魔だと自信がないんだけど」

「魔法は大魔に集中させるべきだ。特にシャロンには翼を集中的に狙うように言ってくれ。恐らくだが、大魔は魔法では倒せない。地上に引き摺り下ろしておじい様たちに任せる方がいい」

「妖魔はどうするの? 逃がすと面倒よ」

「逃げられてもどうせ疑われているなら同じだ。飛んでいる場所にもよるが、ヘクターたちの射程に入るなら弓で攻撃する。射程外なら大魔の機動力を奪った後に魔法で攻撃する感じだ」

「分かったわ。ゴーヴィにそう言っておく。あなたも無理しないでね」

そういって俺にキスをした後、リディは立ち去った。

その後、昨日と同じように地下の拡張を行っていく。決戦に使用する部分とし、最奥部に幅五メートル、奥行き二十メートルの広場を作る。

天井の高さは通路より高く、五メートルほどある。これは俺たちの魔法を有効に使うための工夫だ。

入口は通路より狭く、幅一メートルほどにし、そこから徐々に広がる感じにしてある。これはこちらからは複数で攻撃できるが、敵は一体ずつしか入れない構造にするためだ。

更にまだ作っていないが、遮蔽用の岩の板を設置し、魔法攻撃に備える設計を考えている。他にも余裕があれば罠を設置したいと考えているが、そこまで手が回るかは敵次第だろう。

その日の夕食時に、今後の方針について最終的な協議を行うつもりでいたが、それは唐突に起きた。

夕食前の午後四時頃、拠点の簡易寝台で休んでいると、何となく外が騒がしい気がした。敵が攻めてきたのであれば、俺のところに連絡が入ることになっているが、誰も来ない。気になったので、外に向かうと祖父たちが大魔と戦っていた。

「ウォルトは右から! ニコラスは盾を持って正面じゃ! ベアトリスとメルは隙を突いて自由に攻めろ!……」

大魔はシャロンかリディの魔法で翼を傷めたらしく、空を飛ぶことなく歩いて近づいてくる。空には妖魔らしき影があったが、シャロンの魔法とヘクターたちの放った矢に貫かれ、墜落していった。

大魔だが、“グレーター”と付くだけあって迫力のある姿をしている。筋肉質の褐色の身体は二メートルを大きく超え、ウォルトやバイロン以上の膂力があることは容易に想像できる。

顔は金色の瞳に長い犬歯、頭部に二本の角をもち、悪魔というより日本の鬼のようだ。一見獰猛そうな見た目だが、その瞳には知性を感じさせ、笑っているような口元からは狡猾さを感じる。

その大魔が怒りに燃える目でゆっくりと近づいてくる。その右手には隠し持っていたのか、それとも 収納魔法(インベントリ) が使えるのかは分からないが、長さ百五十センチほどの大型の剣を握っていた。

更に左手は炎を纏っており、時々ロックハート家の戦士に向けて炎を投げつけていた。

大魔は冒険者ギルドのランク付けで二級相当の魔物とされている。つまり 飛竜(ワイバーン) や 合成獣(キメラ) に匹敵する危険度ということだ。

そのため、祖父も慎重に対応しているようだ。

「貴様らの主は誰だ?」と祖父が近づきながら話しかける。

大魔が俺たちの言葉を話せることは分かっており、少しでも情報収集をしようと考えたようだ。

もちろんこれには時間稼ぎという側面もある。妖魔を打ち落としたリディたちが援護に回るための時間を稼いでいるのだ。

しかし、大魔は口の端を上げるだけで何も言わない。

「所詮、畜生と同じでしゃべれぬか。では、こちらからいかせてもらうぞ」

祖父はリディたちが支援に回れると判断し、盾にしていた岩から飛び出していく。更にニコラスが盾を構えて前に進み、ウォルトとベアトリス、メルが後ろに回ろうと動いていた。

兄ロッドやバイロンたちは別の場所にいたようで、こちらを気にしているが、更に敵が来ないか警戒する方に回るようだ。

祖父に向けて大魔が無造作に魔法を放った。 炎の玉(ファイアボール) というには巨大な直径五十センチ以上の炎の玉だ。それが高速で飛んでいく。その速度はプロの投手の直球ほどで巨大さと相まって異様な迫力があった。

祖父はその炎を身を投げ出すことで回避する。六十八歳とは思えない身のこなしに思わず感歎の声を上げそうになるが、それ以上に大魔の動きは鋭かった。

炎を投げつけた直後、猛然と突っ込んできたのだ。

その動きにさすがの祖父も追従できない。

「危ない!」と誰かが叫ぶが、片膝をついている祖父は剣を構えて待ち受けることしかできなかった。

大魔の剣が祖父に吸込まれるかに見えた。

ウェルバーンのドワーフの傑作、ミスリルと地竜の革でできた鎧といえども斬り裂かれると思えるほど鋭い斬撃だった。

しかし、その剣が祖父に届くことはなかった。

祖父は右手一本で愛用のアダマンタイトのバスタードを振り上げ、大魔の腕を断ち切ったのだ。

誰もが決着が付いたと思った。しかし、大魔は腕の一本などまるで気にしないと言うようにそのまま炎を纏った左手を祖父にかざしていく。

今度こそ絶体絶命だと思われた。

しかし、ニコラスが盾ごとぶつかって大魔の動きを止めると、横から回り込んでいたウォルトとベアトリスの槍が同時に突き刺さる。

祖父が立ち上がり、止めを刺そうとしたが、その手が止まった。

「下がれ! 全員、岩陰に隠れろ!」

そう叫ぶと手近な岩場に飛び込む。ウォルト、ニコラス、ベアトリス、メルも聞き返すことなく動いた。

祖父とウォルト、ニコラスの三人は近くの岩陰に逃げ込むことができたが、背中側から襲い掛かったベアトリスとメルは手近な岩がない。

二人は先にある岩に向かって走っているが、大魔から十メートルも離れていない。

その時、膨大な量の精霊の力が大魔の身体に吸込まれていくのを感じた。そして、身体が大きく膨らんだかと思うと、轟音と共に四散する。

ベアトリスが咄嗟にメルを抱え、地面に転がる。

石や砕けた岩が周囲に飛び散り、水蒸気のような煙で周囲が曇り、周囲が見えなくなる。

大魔は最後に自爆攻撃を仕掛けてきた。

「ベアトリス! メル!」と叫びながら岩場に出る。

「ベアトリスさん!」というメルの叫び声が響く。

ベアトリスは背中に瓦礫を受け、更に頭から血を流して呻いていた。

すぐに治癒魔法を掛けていく。

運がよかったことに頭部には岩の破片が掠っただけで直撃はなく、ほとんどが防具に守られた背中に当たっていたのだ。

それでも革鎧に岩の破片が食い込んでおり、その衝撃は相当大きかったようだ。治癒魔法をかけていくが、中々意識が戻らない。

その間にリディたちも下りてきた。

リディはベアトリスを俺に任せると、祖父たちの方に向かう。

「私を庇って、こんなことに……」と涙を目に溜めたメルが呟いている。

「大丈夫だ。頭や首にダメージはない。治癒魔法も上手くいっている。多分、背中に強い衝撃を受けて意識を失っているだけだ」

俺の言葉が聞こえたのか、「そうだよ」と掠れた声でベアトリスが答える。

「大丈夫か。まだ痛みがあれば言ってくれ」

俺の言葉に土埃を払いながらゆっくりと起き上がり、

「大丈夫だよ。あたしら王虎族は頑丈なんだ。それよりあんたは大丈夫かい」といってメルを気遣う。

「私は大丈夫です。ありがとうございました」

二人とも無事であり安堵するが、祖父たちの方が気になり、そちらに向かう。

大魔がいた場所を見ると、不思議なことに肉体が爆発したにも関わらず、肉片や血糊などはなく、爆心地に放射状の跡が付いているだけだ。

見た感じだが、半径五メートル以内なら防具を付けていても即死し、十メートル以内なら大きなダメージを負っただろう。

祖父は岩陰から這い出し、リディの治療を受けていた。

「ご無事ですか!」と声を掛けるが、「耳をやられたようじゃ」と呟きながら耳を指差している。

ウォルトとニコラスも無事だったが、その顔には余裕がなく、二人とも祖父と同じように鼓膜をやられていた。

祖父たちに治癒魔法を掛けながら、怪我の有無を確認していくが、全員掠り傷程度で済んでいた。

祖父にどうやって爆発に気づいたのか聞いてみたら、

「最後に笑ったんじゃ。何か企んでおると思って咄嗟に指示を出したのじゃが……恐ろしい敵じゃな……」

「私もそう思います。あれほどの爆発であれば一歩間違えば、あの場にいた全員がやられていました。アンデッドとは違う意味で恐ろしいと思います」

普段冷静なニコラスの声が震えているのが印象的だった。