軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十二話「手負いのグリフォン」

二月十一日。

ダンが合流した翌日。

昨日まで降っていた雪も止み、晴れ間が見えるようになった。雪は残っているが、近場なら森に入れるため、ダンとの連携の確認を行うことにした。

装備を整えた後、冒険者ギルドの支部に向かう。まずはダンの移転登録を行うのだ。

護衛が主の傭兵ギルドとは異なり、冒険者ギルドは拠点となる支部に登録しないと基本的には依頼を受けられない。

これは冒険者の仕事がその土地の魔物を討伐することが主であり、地元の状況を知らないと成功がおぼつかないためだ。

また、支部に登録されている冒険者は魔物の大量発生時に、支部長の権限で招集されることがある。この招集は強制ではないが、拒否すると降格の対象となるなどのペナルティが課せられるため、それを把握するためにも登録が必要になる。

ギルドの建物に入るとざわついた空気を感じた。しかし、職員たちが叫んでいるわけでもなく、緊迫感はあまりなかった。

そのためダンの移転の手続きを進めていく。手続き自体はオーブの書き換えだけなので、すぐに終わる。

「ダンさんの移転手続きは終わりました。あと少しで三級に上がれますね。期待しています」

ダンもキルナレック支部に登録しており、定期的に魔物の討伐依頼をこなしていた。その他にもラスモア村の東にあるシーリン湖付近の調査依頼などを受けており、三級の依頼をあと一回もしくは四級の依頼を十回受ければ、三級に上がれるらしい。

俺たちが支部を出ようとすると、職員から声が掛かる。

「ザックさんたちのパーティに受けていただきたい依頼があるんですが……」

今日は依頼を受けるつもりがないため、断ろうとしたが、それより先に話を進められてしまう。

「 有翼獅子(グリフォン) が目撃されました。それも西側の街道沿いで。飛行型はザックさんのところじゃないと厳しくて……何とか受けていただけませんか」

どうやら入ってきた時の騒々しさはこれが原因だったようだ。

グリフォンは四級相当の魔物で、魔術師が三人いる俺たちにとっては大した相手じゃない。しかし、他のパーティでは高速で飛ぶ敵に対して攻撃手段が少なく、腕のいい弓術士がいても倒し切るところまでいけないため、逃げられることが多い。

失敗の確率が高い割には油断すると三級のパーティでも後衛に被害が出ることがあり、積極的に依頼を受けるパーティは少なかった。

そういう事情なら仕方がないと話を聞くことにした。

「分かりました。とりあえず詳しい話を聞かせてください」

「ありがとうございます。まず場所ですが、ここから三 km(キメル) ほど西に行ったところで、商隊の休憩場所になっている水場のある広場です……」

リッカデールに来る時に通った場所であり、何となく覚えている。

「……報告があったのはつい先ほどなんです。朝一番に出発した商隊が襲われ、馬で逃げてきた商人が駆け込んできました。数は二頭。恐らく 番(つがい) で、一頭は手負いだったそうです」

「ということは緊急依頼ですか」と聞くと、職員は大きく頷く。

「はい。グリフォン二頭の緊急討伐となりますから、三級の依頼として処理します。報酬は一頭当たり二百クローナ。期限は明日まで。既に街道から離れていたら依頼はキャンセル扱いで、報酬のみ支払います」

グリフォンがいなくなっていた場合、依頼達成扱いにはならないが、報酬はもらえるというもので割とおいしい仕事だ。

全員に目で確認すると、ベアトリスが代表する形で答える。

「ちょうどいいんじゃないかい。場所も近いし」という意見に皆頷く。

依頼を受けると、そのままリッカデール街道に出る。

リッカデール街道はここリッカデールとフォンス街道を結んでおり、深い森の中を走る狭い道だ。

そのため、昨日まで降り続いた雪のせいで街道は埋まっている。但し、今朝出発した商隊の荷馬車が作る 轍(わだち) があり、迷うことはない。

商隊が襲撃を受けてから二時間ほど経っている。雪道を三キロも歩く必要があり、あと一時間は掛かるだろう。

一応急ぐつもりだが、襲われた商隊は逃げているか全滅しているかなので、それほど緊急性は高くないはずだ。

「ダンが先行して周囲を確認しつつ、可能な限り急ぐぞ」

「了解」という声が返り、ダンが五十メートルほど先行する。

本来なら初めての土地なのでダンを先行させたくないのだが、街道沿いということで連携訓練を兼ねて先行させた。

ダンは危なげなく進んでいく。街道沿いの木々を遮蔽に利用しており、後ろから見ているだけでも斥候としての技量が上がっていることが分かる。

「凄いな」と思わず声が出る。

「本当に凄いわね」とリディも笑顔で頷いている。

三十分ほど進むと、ダンがハンドサインで何かを見つけたと知らせてきた。慎重に彼に近づくと、一本の大木を指差す。

「あそこに人がいます。恐らく商人だと思うのですが、どうしますか」

大木の陰に商人らしき男が震えていた。その男は三十歳くらいでリッカデールで何度か見たことがある人物だ。

「大丈夫か」と声を掛けると、一瞬、ギョッとした顔をした後、俺の顔を見て「助かった……」といって大きく息を吐き出した。

「グリフォンがいると聞いたのだが?」と尋ねると、

「この先の広場です。無我夢中で走ってきたので他の者がどうなったのかは……ただ、曳き馬と御者が殺されたのは見ています……」

「護衛はどうなった? リッカデールまで付いてこられる護衛なら、グリフォンと戦えないことはないと思うんだが」

「分かりません。一頭が空から襲い掛かってきたので……」

これ以上話をしても有益な情報は得られないと判断し、先に進むことにした。

「俺たちはグリフォンを討伐しにいく。ここは危険だからリッカデールに戻った方がいい」

「大丈夫でしょうか」

「ああ、ここまで来る間に一度も魔物は見ていない。不安なら俺たちに付いてきてもいい。但し、少し離れて、俺の指示に従ってくれるならだ」

「お願いします」と頭を下げてきた。

その言葉に頷くと、リディたちの考えを確認する。

「どう思う?」

「一頭が手負いで、それを守るために襲い掛かったという感じかしら」

リディの意見にシャロンが頷く。

「私もそう思います。もしかしたら、手負いの方に餌を与えるつもりなのかもしれませんが」

「いずれにしても一頭が動けないなら、近くにいる可能性が高いな。ここからは頭上にも注意していくぞ」

再び街道を進んでいくと、目的地まであと五百メートルほどの場所で商隊の生き残りに出会った。最初の男と同じように無我夢中で森に逃げ込んだものの、一人で危険な森を進む勇気がなく、救助を待っていたようだ。

二人にはこの辺りで隠れるように言い、そのまま進んでいく。

あと二百メートルほどで目的地である広場というところで、ピィィという猛禽類の鳴き声が上空から聞こえてきた。

見上げると一頭のグリフォンが広場の上空を旋回している。

上空を見ている間にダンが戻ってきた。

「広場にグリフォンが一頭います。報告どおり手負いのようで、右の翼を不自然に広げていました」

「生存者は?」

「見た感じではいなさそうです。もしかしたら、森の中で息を潜めているかもしれませんが」

「他の魔物の気配もないな」

「はい。今のところ感じません。ですが、食い荒らされた馬の死体があるので、別の魔物がいつ来てもおかしくないと思います」

「あたしもそう思うね。ここまで血の匂いがしているよ」とベアトリスもダンと同じ意見だった。

俺たちは慎重に森の中を進み、広場の境まで辿りつく。

ダンの報告の通り、一頭のグリフォンが馬を貪るように啄ばみ、それを見守るかのようにもう一頭が上空を旋回していた。

興奮しているのか、いずれも甲高い鳴き声を何度も上げている。

「飛んでいる奴を魔法で攻撃する。俺とシャロンで 燕翼の刃(スワローカッター) を三つずつ飛ばす。リディはチャンスがきたら 大嵐(テンペスト) を撃ってくれ。まずは翼を潰すぞ。ダンは弓で援護。ベアトリスとメルは地上にいるグリフォンが近寄ってこないか警戒してくれ」

全員が頷くと、すぐに魔法の準備を行い、スワローカッターを発動する。シャロンも同じように発動し、百メートルほど上空を旋回するグリフォンに魔法のツバメを向かわせた。

六個の魔法のツバメが滑るようにグリフォンに近づいていく。グリフォンもすぐに気づき、魔法のツバメを叩き落すべく大きく嘴を開いて威嚇しながら向かっていく。

魔法のツバメは軽快な旋回でグリフォンの攻撃を避ける。更に俺たちの方に引き付けるように徐々に高度を下げていく。

グリフォンは魔法のツバメに誘い出されるまま、木々の梢に当たりそうになるほど高度を下げていた。

「……吹き荒れろ、 大嵐(テンペスト) !」

リディの呪文が終わり、巨大な竜巻が広場に現れた。

グリフォンは俺たちを見つけ、忌々しげに鳴き声をあげるが、既にテンペストの射程内に入っており、その強力な氷雪の渦に飲み込まれていく。

「もう一頭が来るよ!」というベアトリスの警戒の声が響く。

視線を下げると傷ついていたグリフォンが獅子のような力強さで俺たちに向かって疾走してきた。痛めていたのは翼だけのようだ。

「私が先にいきます!」とメルが前に出る。

更にその後ろからダンが弓で援護する。

彼の放った矢がグリフォンの首に突き刺さった。分厚い羽毛に覆われたグリフォンだが、強力な合成弓の矢は跳ね返せなかったようだ。

矢が刺さると、グリフォンは僅かに怯むが、それでも前に出ていくメルを見つけ、更に加速する。

グリフォンはネコ科の動物のように身体を伸ばし、メルに向かって飛び掛かった。そして、その巨大な鷲の鉤爪を叩きつけようとする。

メルはそれを冷静に避けながら、脇腹を大きく斬り裂いた。

グリフォンは悲しげな鳴き声をあげながら、どさりと落ちる。致命傷を受けているが、それでもまだ闘志は消えていないのか、メルに襲い掛かるため、立ち上がろうとした。

もがいているグリフォンに止めを刺したのはベアトリスの槍だった。グリフォンの首の付け根に深々と槍が突き刺さり、そのままグリフォンは動きを止めた。

上空の一頭も決着が付いていた。

リディのテンペストの魔法を受け、翼をズタズタにされて、地面に叩きつけられる。更にその首に向けて俺とシャロンのスワローカッターの魔法が次々と吸込まれていき、すぐに血塗れになって動かなくなった。

「ダンとシャロンは周囲の警戒を。ベアトリスは魔晶石の回収を頼む。メルとリディは俺と一緒に荷馬車を確認するぞ。他の魔物がくるかもしれないから油断はするな」

荷馬車に近づくと、曳き馬が無残に食い散らかされていた。他にも御者らしき人間の残骸が残っていた。

「誰かいませんか! リッカデールの冒険者です! グリフォンは倒しました!」

俺がそう叫ぶと、森の奥から数人の男が現れた。武装しているので護衛の傭兵のようだ。

「助かった」といって傭兵のリーダーらしき男が近づいてくる。

「こんなところでグリフォンに襲われるとは思っていなかったよ……」

話を聞くと、思った以上に雪が深く、馬が疲労したため休憩しようとしたら、突然襲ってきたということだった。

護衛はリーダーの四級傭兵を筆頭に五級から七級の計十人で構成されていた。荷馬車二台の護衛としては標準的な構成だ。

「ザカライアス様にお願いがあります」と商人らしき四十代の男が頭を下げてきた。

「馬を取りにいくまで、引き続き護衛をお願いできないでしょうか。それと、もしよろしければ、あのグリフォンの死体を買い取らせていただきたいのですが」

曳き馬を取りに行くついでに荷馬車も調達し、グリフォンの死体をリッカデールに持ち込みたいようだ。

グリフォンの死体は土属性魔法で穴を掘って埋めようと思っていたので、買い取ってもらえるなら申し分ない。

引き続きの護衛についても待ち時間を含めても五時間ほどで済むし、この後は連携確認を行うだけなので、特に問題はない。

リディたちに目で確認するが、特に異論はなく、値段の交渉に入る。

「どちらも構わないが、報酬は?」

「護衛はリッカデールに戻るまでで、百クローナ。グリフォンについては一体三百クローナで、いかがでしょうか」

僅か三キロの護衛で十万円、捨てるつもりだった魔物の死体で六十万円にもなる。

(グリフォンが相当欲しいようだな。値を吊り上げても出しそうだが、どうせ捨てるものだったし、そこまでする必要はないか……)

その金額で了承する。

魔晶石を回収していたベアトリスが、「ちょっと来てくれ」と俺たちを呼び、手負いだった方のグリフォンを指差す。

「こいつの翼の傷を見てくれ。あたしには魔法で付けられた傷に見えるんだが」

翼の付け根が黒く変色していた。矢が刺さったような感じではなく、何かに噛まれたり切られたような感じでもない。

「確かに魔法、それも闇属性の“ 闇の矢(ダークアロー) ”か、“ 闇の槍(ダークランス) ”で付けられた感じがするな。どう思う?」

リディに話を振ると、

「私もそう思うわ。角度的には上から撃たれた感じね」

その意見にシャロンも頷く。

「私もそう思います。グリフォンが上から撃たれたのなら、魔族か 大魔(グレーターデーモン) の仕業でしょうか」

俺もそのことを懸念していた。

この辺りまでグリフォンが降りてくることは稀だ。そして、彼らの巣は断崖絶壁にあり、上から魔法で狙うことは非常に難しい。

可能性があるとすれば、地上にいる獲物を攻撃した直後に高所から狙われたというケースだが、そう考えるよりも空から魔法を撃ち込んだと考える方が自然だ。

そうなると、すぐに思いつくのが、シャロンのいった魔族と大魔の存在だ。

「可能性はある。近くに奴らが来ているかもしれないから、警戒を怠るな」

その後、警戒を強めるが、強力な魔物の気配はなかった。

但し、血の匂いに誘われた 魔犬(イービルドッグ) や 兵隊アリ(ソルジャーアント) などが現れたが、ダンが事前に察知し、近寄られる前に倒している。

曳き馬と荷馬車が到着し、リッカデールに戻っていくが、何度か狼に襲われたものの、魔族や大魔の姿を見ることなく、無事帰還することができた。

依頼完了の報告と報酬を受け取るため、ギルド支部に向かう。

受付でグリフォンの魔晶石とオーブを渡し、完了の報告を行った。

「ダンさんもこれで三級ですね」と受付の職員がいうと、ダンははにかんだ笑みを浮かべた。

その後、グリフォンの死体にあった魔法の傷のことを報告する。しかし、職員の反応は薄かった。

「魔法ですか……ザックさんがおっしゃるなら間違いないんでしょうけど、決定的な証拠ではないですね。一応、総本部には報告しておきますが、この情報で調査隊が出されることはないと思いますよ」

俺としてもそれほど期待していなかったが、警告を出すことだけは念押しした。

「それで結構ですが、ここの冒険者たちにはしっかりと警告しておいてください。少なくともグリフォンを傷つけられる魔法を使う敵がいると」

この件については快く了解してくれた。

ちなみにグリフォンの死体のことを聞いてみると、「あの商人は大儲けですね」と笑った。

「ザックさんたちならご存知だと思いますけど、グリフォンは奥地にいることが多いので、魔晶石以外を持ち帰る方はほとんどいません。それがこんなところで、それも新鮮な状態で手に入ったんですから、ペリクリトルに持ち込んだら、一体千クローナは堅いでしょうね。上手く売り捌けば、その数倍になる可能性もありますよ……」

グリフォンは皮だけでなく、羽根や爪、くちばしなども売れる。他にも滅多に手に入らない肉は高値が付くだろうとのことだった。

「しかし、グリフォンの肉は不味いと思うんですが?」

ラスモア村からアクィラの山に入った時に持ち帰ったことがあるが、臭みが強くて決して美味い肉ではなかった。

「それは関係ないですよ。冒険者の街と呼ばれるペリクリトルでも、食べたことがある人なんて一握りしかいませんから。珍しい魔物の肉ということで高値で売れるでしょうね。特に縁起を担ぐ冒険者や傭兵には売れるんじゃないですかね」

グリフォンは勇猛の象徴として、騎士の紋章にも使われている。その魔物の肉を食べられるとなれば、縁起を担ぐ冒険者や傭兵が喜んで食べるだろうということだ。

いずれにしても捨てるつもりの物だったので特に気にはしていない。

それよりもグリフォンを傷つけた相手の方が気になっていた。