軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十五話「アクィラ山脈での遺跡調査」

九月二十一日。

昨日、恩師でもあるティリア魔術学院のキトリー・エルバイン教授が村にやってきた。

彼女がこの村を訪れたのは遺跡の調査のためだ。学院を卒業する時にもアクィラ山脈を調査したいと言っていたが、古い文献を見て調査地域が限定されたのだそうだ。

「……二千年前の帝国軍の資料が手に入ったの。ちょうど魔族と戦っていた頃ね。ある部隊が東に逃げる魔族を追撃したらしいの。その際にアクィラを越えようと山に入ったのだけど、そこで遺跡らしいものを見たという記載があったのよ。具体的な地名はなかったのだけど、地形から判断するとちょうどこの辺り。具体的にはシーリン湖の東側辺りになるわ……」

そして、ラスモア村が一番近いということで、ここにやってきたそうだ。

「この辺りの情報にも詳しいでしょうから、あなたたちに調査の護衛と案内をお願いしたいの。特にザック君なら私の助手もできるしね」

以前にも護衛をやったことがあったし、具体的な場所を聞いたが、シーリン湖からの東北側に三キロメートルくらいの場所らしく、アクィラ山脈に大きく入り込むわけではない。

俺自身も興味はあるし、キトリーさんには学院時代に世話になったので引き受けることにした。

それにキトリーさんには相談したいことがあり、ちょうど良かったということもある。

相談したい内容はルナのことだ。

ルナの魔法の訓練だが、始めてから既に二年以上経っている。いろいろ試してみたが、どうやっても発動に至らず、俺たちだけでは限界だと感じていた。

名門ティリア魔術学院の教授であり、精霊に関する研究の権威でもあるキトリーさんにルナの状況を見てもらったのだ。

ルナを呼び、魔力の放出を試してもらう。

キトリーさんはルナに手を当ててみたり、一緒に呪文を唱えてみたりといろいろな方法で調べてくれた。

二時間ほど調べた後、眉間にしわを寄せた少し険しい表情で結論を出した。

「原因は分からないけど、魔力の放出が意図的に抑えられているわ。体内では上手く形にできているようなのだけど、それを精霊に分け与えられないという感じね」

「やはりそうですか……解決する方法はありませんか?」

「ごめんなさい。私もこんな例は初めて見たのよ。分かることは放出を抑えている原因を取り除かない限り、魔法は使えないこと。こんなに精霊との親和性が高いのに本当に不思議だわ」

この結論は既に一年以上前から俺とリディ、シャロンの間では共通の認識だった。そのため、昨年の夏から魔法の訓練を中止し、武術の訓練に切り替えている。

当初は俺が得意な剣術を教えようとしたのだが、高校生時代に弓道をやっていたということで本人の希望もあり、弓を練習させている。

しかし、その弓術もあまり芳しくない。

ロックハート家(うち) の家臣で最も弓術に優れるのはヘクターで、超一流と呼べる使い手だ。しかし、彼が使う長弓と日本の弓道で使う和弓は全く別物らしい。

俺自身、弓道については全くの素人なので弓の形が違う程度しか分からなかったが、矢の番え方など基本的なところから違うということで、日本にいた時の経験が役に立たなかったのだ。

そのため、こちらの弓術を覚えるか、和弓を作るかで悩んだが、最終的にはルナの希望で和弓を作ることになった。

その和弓だが、構造を知っているのはルナだけだ。俺も形は何となく分かるが、手に取ったこともなく、構造は想像すらできない。ルナに確認したところ、木と竹を組み合わせているということだったが、その竹が手に入らず、再現するのに結構時間が掛かった。

こちらの世界の 長弓(ロングボウ) はイチイやトネリコなどを加工しており、基本的には弓の中心を持って矢を射る。

一方の和弓は竹や木を組み合わせ、下側の三分の一くらいの位置に矢を番えて射る。

また、長弓は弦の張力が強く、あまり大きく引かないが、和弓は張力が弱い分、大きく引いて威力を出すという違いがある。

「……私が使っていたのは十五キロくらいの強さのものでしたから、 短弓(ショートボウ) より弱い気がします」

ちなみに弓の強さは“重さ”という言葉で表すこともあるらしい。

結局、材料を木属性魔法で改質し、和弓を作ることにした。

魔法なら簡単にできそうだと思ったのだが、思った以上にバランスが難しかった。弓の重心というか弦が反発する際に最も効果的な位置と、矢を番える位置を上手く合わせないと使いにくいらしい。

俺自身は弓を使わないため、その感覚が分からず、十日間、百回くらいの試行錯誤でようやく満足のいくものができた。

「弓師の方が何年も掛けて覚えることをたった十日で再現できたら凄いですよ。といっても私が使っていたのはグラスファイバーのものだったんですけど」

ルナはそう言って笑っていた。

弓はできたが、基礎的な筋力が足らない。そのため、いきなりハードな訓練はせず、筋力強化と矢を射る訓練を組み合わせて行った。

その結果、現在は弓術士レベル十二にまで上がっている。ただ、指導者がいないため、レベルアップの速度が遅く、一レベル上がるのに三ヶ月ほど掛かっている点が気がかりだ。

もっとも十四歳くらいの少女のレベルとしては充分に高い方だ。

レベルアップは遅いが、彼女自身は魔法の訓練より楽しいらしく、

「こんなに自由に矢を射れたのは初めてです」

「そうなのか?」

「弓道は所作が大事ですから」と笑い、「でも、あの凛とした感じは嫌いじゃないんですけど」と付け加えた。

この他にも近接戦闘の心得があった方がいいだろうと、護身術のようなものを教えている。といっても素人である俺が教えているので格闘のスキルはほとんど上がっていない。

短剣も使わせてみたが、ティセク村で惨殺死体を見たことから刃物を使うことに忌避感があることと、和弓用のグローブである“ゆがけ”に自由度が少ないこと、いろいろやるより数を絞ったほうがいいということなどから、弓術と格闘術に絞っている。

和弓なのだが、俺も一度試してみた。

理由は簡単で、和弓は 流鏑馬(やぶさめ) の例でも分かるように、騎乗で使える大型の弓だ。そのため、村の騎兵に導入できないか試そうと思ったのだ。

この他にもルナに基本的なことを指導させれば、彼女の弓術の上達の助けにもなると考えたことも理由の一つだ。

試してみたものの、やはり上手くいかなかった。才能がないことは分かっていたが、前には飛ぶものの、的にまともに当たることはなかった。

「ザックさんは雑念が多過ぎるんです」とルナに笑われるほどだった。

ただ、物は試しにと一度だけ愛馬コクヨウ号に乗って流鏑馬をやってみた。もちろん、的には当たらなかったが、それを見ていたシム・マーロンが興味を示した。

「変わった攻撃方法ですね。でも、 人馬(ケンタウルス) 族や遊牧民たちを見る限り、有効な攻撃方法だと思います」

確かに全力で走る馬から矢を射るため、損害を出さずに攻撃することが可能な戦法だ。特に見たことがない相手なら奇襲効果と相まって大きな戦果を挙げられる可能性はある。

もう一つのいい点は訓練させた軍馬でなくとも戦闘に使える可能性があることだ。ラスモア村には訓練されたカエルム馬が二十頭以上いるが、更に三十頭ほどの普通の馬もいる。馬術が得意なものは結構増えてきたので、弓騎兵として使えれば大きな戦力となる可能性がある。

シムはルナから基本的な指導を受けた後、毎日弓の訓練を続け、半年ほどで実用レベルになった。元々、長弓の天才ヘクター・マーロンの血を引いていることから、弓術の才能があったのだろう。

今では師匠に当たるルナよりレベルが高くなったほどで、その事実にルナが気落ちしたほどだ。これは才能の差もあるだろうが、訓練時間の差が大きいと思っている。

ロックハート家の騎兵隊はシムの進言により、和弓を標準装備にすることになった。

話を戻すが、キトリーさんの依頼については明日出発することに決まった。

午後から、地図を確認しながら計画を立てていく。

気候的には暑すぎず寒すぎずのよい季節であるため、森で五泊する計画となった。

メンバーはザックセクステットとルナ、更にソフィアも連れていく。他には従士三人も同行する。

つまり、ルナとソフィアの訓練も兼ねているということだ。というより、ルナが目立たないようにソフィアにも参加させた。

もっともソフィアは森の深いところに入れるということで喜んでいた。

一応の目途はあるが、一回の調査で見つかるとは思っておらず、何度か調査に行かなければならないと思っている。そのため、今回は比較的近い部分を調査し、手掛かりを探すだけだ。そのため、戦闘力が低い二人がいても問題ないと判断したのだ。

もちろん、二人とも東の森にも入っており、森での基本的な行動に問題はない。持久力的な問題はあるものの、それを含めた訓練ということだ。

ルナの場合、神々の敵という要素があり、危険な場所に連れていくのはどうかという意見もあったが、今までの遅れを取り戻す意味でも少しでも経験を積ませる機会は逃したくないと俺が押し切っている。

九月二十二日。

朝から秋晴れの澄んだ青空が広がっている。

ルナとソフィアの参加に対し、キトリーさんが「大丈夫なの」と疑問を呈したが、俺たちが責任を持つということと、ロックハート家の訓練を見たことから問題ないと判断したようだ。

「それにしても凄い訓練ね」と驚きを隠せないようだが、「初めて見た人は必ずそう言いますよ」と笑うと、キトリーさんは「そうよね」といって納得していた。

同行する従士は弓術士のマーク・ノーマン、剣術士のディック・コールとレス・リンゼイだ。マークはヘクターの指導の下、斥候としての技量を上げており、最近では自警団員を指揮している。シーリン湖付近には俺たちより詳しいので道案内役として抜擢した。

ディックはバイロンと同じような剛剣使いだ。大型の剣を振ることには慣れているが、斥候の才能がなく、少しでも経験を積ませる必要があった。今回もダンの指導を直接受けることになっている。

レスは片手剣と盾を使うタイプの剣術士で、ニコラスに近いタイプだ。また、ニコラスのことを尊敬しており、文官としても働いている。今回は通常より奥地に入るため、今後の偵察計画を立てるための地形の調査を行うために同行する。

シーリン湖まではだいたい五キロメートルほど。湖自体が直径三から四キロメートルほどあるため、湖の東側は十キロメートルほどの距離になる。村の北側を流れるアーン川沿いを進むが、途中から森が深くなるため、実質的な移動距離は十五キロメートルほどになると予想している。

俺たちだけならシーリン湖の東に着いてから更に奥に向かうのだが、キトリーさん、ルナ、ソフィアがいるため、今日の早めに野営地を見つけ、そこを拠点に翌日以降、アクィラの裾野を探索することになっていた。

不安があったルナの体力だが、毎日の訓練で思った以上に上がっていた。

「疲れはどうだ?」とルナに聞くと、「疲れましたけど、辛いほどじゃありませんよ」と歩きにくい森を半日以上歩いたのに笑顔を見せる余裕があったほどだ。

翌日から森の中を探索するも遺跡は発見できなかった。

ただ、ルナとソフィアの訓練にはなっている。二人とも東の森には入っていたが、ここまで深いところに来たことがなく、絶えず襲ってくる魔物に対し、最初は戸惑いを隠せなかった。

「こんなに魔物がいるんだ」とソフィアがいい、ルナも「それも強い魔物ばかり」と同意している。

強いといっても五級の 巨大ムカデ(ジャイアントセンチピード) や六級のオーク程度で、俺たちザックセクステッドの敵ではない。ただ、レベルが低い二人には明らかに強敵で、これほど間近で見たことはなかった。

灰色狼など七級程度の魔物が出てきた時は経験を積ませるため、俺たちがサポートしながら戦わせたが、さすがにレベル十二のルナでは荷が重く、ほとんど敵にダメージを与えられなかった。一方のソフィアはまだ十一歳の少女であるにも関わらず、剣術士レベル二十一と一般兵並みになっていることから一対一なら何とか戦えていた。

ソフィアだが、セオやセラより速いペースでレベルアップを果たしていた。昔は天真爛漫な少女という感じだったが、最近では朝から晩までストイックに訓練に励んでいる。これは至近の目標となるセオたちがおらず、俺や兄など遥か高みの目標しかないため、焦っているようだ。

頑張るのはいいのだが、その分勉強が疎かになっており、逃げ出さないように見張りながら勉強をさせている。

目的の遺跡だが、遺跡自体は見つかっていない。しかし、四日目の九月二十五日、帝国軍が通ったと思われる痕跡を見つけることができた。

痕跡といっても岩を削ったと思われる足場だけだ。非常に古く、少なくともラスモア村ができる遥か昔のもののようで、魔族か、それを追った帝国軍が魔法を使って作った物ではないかと考えられた。

「この先はあたしらじゃないと難しいね」とベアトリスがいうほど険しい岩場で、俺とダンが上って確認したが、ルナたちがいる状況では先に進むことができないと判断した。

翌日、予定通り引き上げ、村に帰って計画を練り直すことになった。