軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十六話「森」

三〇一〇年五月二十五日。

俺は八歳になった。

俺の日課は午前中が剣術の訓練、午後が魔法の勉強と剣術の訓練に当てられている。

俺のステータスだが、

ザカライアス・ロックハート 八歳 魔道剣術士レベル十二

筋力 :一五/五三

反射神経 :二六/九一

肉体制御能力:二六/九一

耐久力 :三四/一二〇(八〇×一・五)

魔力 :二八/一〇〇

精神力 :一二〇(八〇×一・五)

知力 :一〇〇

製作能力 :一四/五〇

容姿 :八七

魅力 :八二

HP :三八二

MP :三七七

スキル :剣術十五、投擲五、格闘五、体術十五、回避二十、盾防御六、交渉三十四、計算七十

魔法 :土属性十八、風・水・木属性十六、火・光属性十五、闇・金属性七

特殊能力 :頑健、病気耐性、毒耐性、精神耐性、視力強化、死力発揮、前世記憶、参照、魔闘術

筋力、反射神経、肉体制御能力の最大値が僅かだが上がっている。

設定の時にはそのキャラの最大値だと記憶していたのだが、なぜか上がっていた。

幼い頃からの訓練のおかげなのかもしれないが、そもそも神との会話の内容を考えると、この数字自体に意味がないような気がしている。だから、数字で一喜一憂しないように気を付けている。

そう言いたいところだが、やはり自分の能力値が上がっていくのは嬉しいものだ。特に最大値が上がった時には、思わず叫んでしまったほどだ。慌てて父が部屋に駆け込んできたため、説明するのが恥ずかしかったが、それ程嬉しかった。

一度、この数字の上がり方を計算してみたのだが、説明書通り、成人すなわち十五歳で最大値に向かう曲線を描いていた。

あと七年でこの数字のステータスになる。ステータスと戦闘能力の関係がいまいち分かっていないが、スキルがある程度あっても、大人とは戦いにならないので、やはり体作りが大切だということなのだろう。

体術についてはコツコツ上げて十五になっている。体操選手のような動きをイメージして練習し、今ではバク宙もできるようになっている。祖父には隠れてだが、剣術、体術、格闘、投擲などを組み合わせた技も練習している。剣で攻撃しながら廻し蹴りを繰り出したり、バク転をしながらナイフを投げたりと、アクション映画のようなトリッキーな動きも練習している。

もちろん、格好いいからやっているだけで、実戦で使えるとは思っていない。あくまで、子供の頃にやりたかったアクションヒーローものの真似をしているに過ぎず、自分でも子供っぽいことだと自覚している。だが、折角生まれ変わったのだから、昔できなかったことをやっているだけなのだ。だが、さすがに他人に見られると恥ずかしいので隠れてやっている。

それ以外にも魔闘術の訓練も始めている。

風属性で素早さを上げ、火属性で攻撃力を上げ、金属性で防御力を上げているのだが、体の制御がうまくいかず、よく派手に転倒する。それもいつもの動きと違うので、受身もとれず、かなり無様に転ぶのだ。その姿を見られるのも恥ずかしいので、これも隠れて訓練をしている。

ザック・カルテットの面々だが、メルは九歳になり、剣術士レベルが十、剣術スキルが十四になっている。彼女の剣は祖父の型に非常に似ており、見ていると惚れ惚れしてしまうほどだ。姿見の大きな鏡がないため、何ともいえないのだが、同じ祖父の弟子である俺の剣はあそこまで美しくないと思う。

ただ、性格が素直なためか、祖父の型を知っているためかは分からないが、メルの攻撃は避けやすい。決して遅い斬撃ではないのだが、軌道が読めてしまうのだ。これについて、祖父に聞いてみると、「今はそれでよい。その先は実戦で覚えていくものじゃ」とのことだった。

祖父の見立てでは、今後実戦を経験することで応用力が付いていくそうで、あまり心配する必要はないそうだ。

ダンのことなのだが、一年前、俺とメルに剣術士レベルが引き離されていくことを悩んでいた。

八歳にしては十分に高いレベルだったのだが、彼自身、三人の中で一番成長が遅いことを気にしていた。

俺はダンと話をし、彼の悩みを聞いた。

彼は父であるガイのような冒険者――剣と弓をバランスよく使える 斥候(スカウト) ――に憧れているようで、剣術スキルレベルが上がらないことを悩んでいた。

「ガイのような冒険者になりたいんだね。なら、弓をやってもいいかも」

俺の言葉に彼も同じことを考えていたようで、

「父上に教えてくださいってお願いしたんだけど、まだ早いって……」

ガイは体が出来ていない幼い息子のことを思い、弓術はもう少し先に教えるつもりのようだった。

俺は祖父にその話をしてみた。祖父からは

「ダンも八歳か……お前とメル、それにロッドの剣の才能は異常じゃ。それと比較してしまうのは仕方がないが、そろそろ弓を始めても良いかもしれんな」

祖父は弓術士としては、ロックハート家で一番の腕を持つヘクター・マーロン――メルの父親――に弓術の指導を始めさせた。

最初はメルもやっていたのだが、才能がないと分かったのか、すぐに剣術一本に戻している。俺は才能を持っていないと知っているので、最初から参加していない。

ダンは一年間、剣術と弓術の二足のわらじを履き続け、剣術士レベル八、剣術スキルが十二、弓術士レベル三、弓術スキルも三と弓術にも高い才能を示した。

祖父もその才能に驚き、ダンに向かって、「父の跡を継げるな」と彼の頭をぽんぽんと叩いて笑っていた。

ダンは祖父の言葉がよほど嬉しかったのか、満面の笑みで「頑張ります!」と大声で返事をしていたのが印象的だった。

最後にシャロンなのだが、俺以外で一番驚かれている存在だ。

俺より一ヶ月早く生まれただけの彼女は、俺と同じ八歳だ。火と風の属性を持ち、幼い頃から指導を受けている彼女は、リディの見立てでは火属性が五くらい、風属性が十くらいと魔術学院の三年生、十五歳くらいのレベルになっている。更に驚くことに俺と同じく無詠唱で魔法が使える。まだ 魔力保有量(MP) が少ないため、それほど連発はできないが、魔法発動までの時間は俺に匹敵するほど速い。

特に俺のオリジナル風属性魔法、 燕翼の刃(スワローカッター) ――ツバメの形をした 風の刃(ウィンドスラッシュ) の変形版――を使いこなしているだけでなく、開発者の俺より細かい制御がうまい。

そのことを彼女に聞くと、

「ツバメをよく見ているから、何となくこんな風に飛ぶのかなって」

若干天然系のおっとりとした少女に育っているが、観察力とその再現力には脱帽する。

当初リディは魔術学院に行くことを勧めていたが、最近ではその話をしなくなった。

「シャロンが行っても習うことなんてないわよ。あと二年もしたら、卒業生並になるんだし、それより、経験を積んだほうがよっぽどいいわ。これはあなたにも言えることだけど」

ドクトゥスの魔術学院の卒業生の平均レベルは、おおよそ十五くらいだそうだ。

学院では魔法を教えるだけではないから、単純に良い悪いは言えないが、研究者や教育者になるつもりがなければ、それほど役に立たないだろうとのことだ。

俺の場合は、謎が多い闇属性や使い方のよく分からない金属性について勉強したいと思っているから、魔術学院に行こうと思っているが、攻撃魔法を極めるだけなら学院に行く必要はあまりないとのことだった。

八歳になったことで、俺は祖父に頼みたいことがあった。

森に行ってみたいのだ。

俺が森に行きたい理由は二つある。

一つは実戦経験を積むことで職業レベルである剣術士レベルを上げること、もう一つが気配察知や隠密といったフィールド系のスキルを上げることだ。

一つ目の実戦については、もう少し先でもいいが、気配察知や隠密といった今後に役立つスキルは出来るだけ早く修得したい。

八歳の子供が危険な森に行くのは無理だろうと思わないでもないが、最低限の自衛手段――魔法――を持っているので、何とかならないかと考えている。

祖父の部屋に行き、森に行きたいことを告げると、祖父は少し考え、条件付ながらも了承してくれた。

「少し早いが良かろう。但し、ガイかヘクターが認めることが条件じゃ」

翌日、自警団のことで祖父のところに来たヘクターを捕まえる。

ヘクターはいつもの明るい笑顔で俺を迎えるが、森に連れていって欲しいと話すとその笑顔が曇る。

「ザック様にはまだお早いかと。森には思わぬ危険がございますから」

俺は諦めきれず、「ヘクターが俺の実力を確認して納得できたら連れて行って欲しい」と頼み込む。

彼は困った顔をするが、「分かりました。館ヶ丘の東の林で練習しましょう」と東の林に向かった。

この林はメープルシロップを採取している楓が多く生え、俺たちの遊び場にもなっている。

この林で森歩きの基本である周囲を警戒しながら歩く方法や、合図があったらすぐに停止する訓練などを行っていく。

三日ほど練習すると、ヘクターの許可が下り、比較的安全な西の森に行くことになった。

ヘクターとガイ、それにウィルと共に森に入ることになった。

皮の帽子を被り、小さな 背嚢(バックパック) に水筒などを入れ、ダガーを腰に差す。基本的には俺が戦うことはないため、騎士の家の男子の嗜みということで差しているに過ぎない。

出発時間になると、ダンとメルが一緒に行くと叫んでいたが、二人の父親――ヘクターとガイ――に一蹴され、二人は不貞腐れていた。

明日にでもフォローを入れておこうと心にメモをして、三人の大人について館ヶ丘を出発した。

館ヶ丘を下りた後、真直ぐに南に下り、西が丘の南側を走る街道を進んでいく。フィン川に掛けられた橋を渡るとそこが西の森だ。

午前八時に出発し、二十分ほどで森に到着する。

今日の三人の目的は西の森の偵察だ。

定期的に魔物の痕跡を探し、村に近づく危険な魔物がいないかを探っているのだ。

西の森に危険な魔物が棲みついたことはないが、狼程度の動物はよく入り込むので、警戒は欠かせない。

森に入って三十分。下生えの草が足に絡みつき、非常に歩きにくい。

身長百八十cmほどの大人たちはそれほど苦にしていないようだが、身長百三十cmくらいの俺にとっては結構大変だ。

先頭を行くガイも俺に気を使い、かなりペースを落としてくれているのだが、それでも周囲を警戒するどころじゃない。

村に近い東側から南北に蛇行するように森の中を進んでいくが、一時間ほどで息が上がる。

ヘクターが「ザック様、少し休憩しますか?」と気を使ってくれるが、

「はぁはぁ、俺の我儘だから、構わなくていい。はぁはぁ、ペースを落としてもらっているだけで、はぁ、充分だ」

荒い息でそう言っているので、我ながら説得力がない。

ヘクターも苦笑いを浮かべ、一旦小休止に入ってくれた。

近くの倒木に腰を掛け、水筒から水をゴクリと飲むと、ようやく一息つける。

周りを見回すと、五月の新緑が眩しいくらいで、翡翠色の若葉を通した陽の光がキラキラと輝いている。周りには鳥の鳴き声と虫の声が響き、平和そのものと言った感じだ。

五分ほど休憩を取ると、すぐに再出発する。

徐々に森が深くなり、植生も楢の大木が目立つようになる。その根元には苔むした岩に羊歯のような草が生え、更に小さな花を付けた草が生えている様子は神秘的ですらある。

前世では白神山地や屋久島といった美しい自然に憧れていた。

そして、俺の目の前にそれに匹敵する大自然が広がっている。俺は感動で胸が一杯になるが、ガイの一言で一気にその興奮が冷めていった。

「狼の足跡です。森狼の群れ……二十頭くらいですか」

俺は思わず腰のダガーに手をやり、周囲を見回していた。

俺の前ではガイがその足跡を観察している。そして、彼は顔を上げ、ヘクターに意見を求める。

「結構新しいと思いますが、どう思いますか?」

「そうだな。三日といったところか。ウィル、お前も見ておけ」

元農民のウィルは森での経験が浅いため、ベテランのヘクターやガイから指導をされている。

俺もウィルの横から覗き込むようにその足跡を覗き込んだ。

長さ十cmほどの犬のような足跡だが、幅が広く思ったより大きい感じがする。

「森狼ってどのくらいの大きさなんだろう?」と呟くと、それを聞いたガイが教えてくれた。

「これくらいですと……大体頭の高さが七十cmくらいで、頭から尾の付け根までが一・三mほどですね」

ガイは手で大きさを示してくれながら、説明してくれる。

(シベリアンハスキーくらいなのか? それより少し大きいかもしれないな。それが二十頭……結構やばくないのか?)

俺がそんなことを考えていると、ガイが笑いながら、

「まあ、灰色狼に比べれば二回りくらい小さい狼ですよ。二十頭くらいでしたら、我々従士だけでも充分に倒せる数ですから問題はありません」

(そうなのか? うちにはこの三人とウォルト、ニコラス、イーノスの三人をあわせても六人しか従士はいないぞ。一人当たり三頭も相手にできるのだろうか?)

俺の懸念が顔に出ていたのか、ヘクターが笑って、

「我々三人でもこのくらいなら倒せます。ご心配には及びません」

俺は何とか表情を緩め、「分かった」と頷く。

ガイが先頭になって足跡を追っていくが、狼たちの足跡はそのまま北の森に入っていく。

「予定を変更して北の森に入ります。特に危険はないと思いますが、今までより森が深くなりますので、疲れたらいつでもおっしゃってください」

俺はヘクターに頷き、再び狼の足跡を追っていく。

二時間ほど北の森を北上するが、北にある小山、シェハリオン山に入ったところで追跡を諦めた。

「山に戻りましたので、餌を求めてうろついただけでしょう。少し早いですが、ここで昼食にしましょう」

幹の直径が一mを超える巨木が倒れている場所で昼食をとる。

三年前の嵐のときに倒れたものだそうで、深い森の中でぽっかりと空が見える場所になっている。明るい陽の下でモリーの焼いたパンに、焼いた塩漬けの豚肉を挟んだサンドウィッチを頬張る。

豚肉の脂が口の中に広がり、パサ付くパンに旨みを加えている。

最後に蜂蜜を練りこんだ焼き菓子を食べ、簡単な昼食が終わる。

ふぅと息を吐き出し、空を見上げると、雲雀のような小鳥が空を舞っていた。

(平和そのものだな。これでメルたちと一緒だと、ただのピクニックだ)

そう思って周囲を見ていると、ヘクターが弓を構えていた。

俺は思わず声を上げそうになったが、彼の視線の先を見ると、三十mほど先に一羽の茶色いウサギが草を食んでいた。

ヘクターが静かに照準を合わせ、何の前触れもなく矢を放つ。

シュッという空気を斬り裂く音が辺りに響き、すぐにドサッという音とピュという悲しげな泣き声が聞こえた。

すぐにウィルが近づいていき、ウサギを回収する。

ヘクターの放った矢はウサギの脇腹を見事に貫いており、既に死んでいた。ウィルはすぐに血抜きを始め、ウサギの茶色い毛皮が赤く染まる。

「お見事! あの距離で一発か。凄いな」

ヘクターが俺の賞賛に軽く頭を下げ、ウィルの持ってきたウサギを見せてくれる。

前世の俺の親父は趣味でハンティングをやっていた。まあ、趣味というより重役の趣味に付き合っていたという感じだが、小学生の頃、何度も付いていったことがあり、雉や鴨の血抜きを何度も見ている。それに獲った鳥の羽を毟るのは俺と兄貴の仕事だったので、こういうことに忌避感は全くない。

ウサギはまだ少し痩せているが、かなり大きなもので明日以降のおかずになるはずだ。

(心臓と肝がうまいんだよな。少し臭みがあるけど、血と赤ワインと出汁で作ったソースを掛けると、シラーあたりの濃い赤ワインとばっちり合う……)

思わずよだれが垂れそうになり、無理やりウサギから意識を引き離す。

再び、西の森に向かい、午後二時頃、街道に出る。

「今日はこれで戻ります。これだけ動ければ十分ついて来られますので、先代様にはそう報告しておきます」

ヘクターのお墨付きを貰い、うきうきした気分で村に戻っていく。

途中で木の枝に止まっているキジバトを見つけた。俺は三人に魔法で撃ち落すことを告げると、ヘクターが笑いながら「どうぞ、頑張ってください」と言ってきた。

距離は三十m以上あるし、直射では木の枝が邪魔になるので、無理だと思っているようだ。

俺はそれを俺への挑戦と受け取り、得意の魔法 燕翼の刃(スワローカッター) で狙うことにした。

「数多の風を司りし 風の神(ウェントゥス) よ。天を舞う刃の燕を我に与えたまえ。我が命の力を御身に捧げん、舞え、 燕翼の刃(スワローカッター) 」

相変わらず厨二的な呪文は好きになれないが、これを唱えないと 魔力(MP) 使用量が倍ほど変わってくる。

俺の放った透明なツバメは地面を這うように飛んでいき、キジバトの真下で一気に上昇に転じる。油断していたキジバトは慌てて飛び立とうとするが、広げたツバメの翼に首を切られ、血を噴出しながら、落下していった。

その光景をヘクターたちが唖然とした表情で見詰めていた。

「……ザック様、今の魔法は何でしょうか? 突然、動きが変わったのですが……」

「ああ、ツバメだからね。あんな動きもするさ。ガイ、これはシャロンも使えるから」

俺がそう言うと、ガイはヘクター以上に固まってしまった。

あとで歩きながらガイに話を聞いてみると、リディから魔法が使えるようになったと聞いていたが、具体的にどの程度の魔法を使えるかは聞いておらず、精々、火をつけたり、風を起こしたりできる程度だと思っていたそうだ。

午後四時頃に屋敷に戻り、夕方の訓練に参加する。

さすがに森の中を十km近く歩いたため、足がパンパンに張っているが、この程度では訓練を休む理由にならない。

翌日からメルたちも森に行くことを許された。

俺の狙い通り、魔法のデモンストレーションが効いたため、剣術の心得のないシャロンの同行も許されていた。

(あのままだとシャロンだけが森にいけなかったからな。それじゃかわいそうだし、ちょっと派手に見せたら、ヘクターもガイも納得してくれるかと思ったけど、本当に狙い通りいったな……)

明日はザック・カルテットの森デビューの日になる。