軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十話「ゴブリン退治」

一月十三日の午後二時頃。

俺たちは東部街道を帝都に向かって進んでいたが、途中の宿場ダンメラー村で近隣のティリーベル村がゴブリンの群れに襲われていると聞き、救援に向かった。

当初は二百程度かと思われたが、現地に到着するとその倍以上の五百匹ほどおり、既に門は破られ、村への侵入も許していた。

この状況に一刻の猶予もないと考えた父は、敵を混乱させようと、兄たちと共にカエルム産の名馬を駆って騎馬突撃を行った。

父と兄が突撃したため、必然的に俺が指揮を執ることになる。

とりあえず、剣術士、槍術士、弓術士に部隊を分け、メル、ベアトリス、ダンにそれぞれの指揮を任せて先行させた。

ゴブリンたちも俺たちに気づき、百匹ほどの集団がドタドタという感じで向かってくる。

その群れに対し、メルたち剣術士が迎え撃ち、ダンが新たに従士になったマーク・ノーマンと自警団の弓術士フレディと共に壁に取り付いた敵に向けて矢を放つ。

ベアトリスが率いる槍術士は俺の指示通り、メルたちから離れて、まっすぐ門に向かっていた。

俺の方は敵に混乱を与えると同時に村人に救援が来ていることを知らせるため、リディ、シャロンの三人で大技の魔法を使うことにした。

俺とシャロンは火属性魔法の 炎龍の咆哮(ドラゴンローア) を、リディは光属性魔法の 流星雨(ミーティアシャワー) の呪文を唱えていく。

三十秒ほどで魔法が完成すると、シャロンの物と合わせて二匹の炎の龍が現れる。龍は向かってくるゴブリンを焼きながら通過し、壁に取り付こうとしているゴブリンたちに襲い掛かっていく。

更にゴブリンの主力の上空に、直径三十センチほどの光の弾が次々と現れる。そして、眩い光が空を覆い尽くしたと思った瞬間、美しい流れ星となって地上に降り注いでいく。

ゴブリンたちは地を這うように襲い掛かる炎の龍と降り注ぐ光の弾にパニックに陥った。村の周囲ではゴブリンたちのギャアギャアという喚き声と流星雨の着弾音が響き、特撮映画の一幕のような現実感のない光景が広がっている。

この攻撃で百以上のゴブリンを葬り、同じ程度を戦闘不能にしたが、それでもまだ三百近い数が残っていた。

これだけの攻撃を受けてもゴブリンたちは逃げ出すことなく、防壁に殺到していく。

よく見るとゴブリンの群れの五十メートルほど後方に一際大きな体の個体と、更に粗末な杖を持つ個体が立っていた。

(ゴブリンの王なのか? それにシャーマンがいるのか?)

他のゴブリンたちは粗末な木の棍棒を持っているか、錆びの浮いた短剣を装備しているだけだが、この集団だけは比較的マシな武器を装備していた。

ゴブリンの王らしき個体の周囲には粗末だが革鎧を身に着け、剣と盾を持った十匹ほどの集団と、 投石器(スリング) らしきひも状の革を持った五匹のゴブリンがいたのだ。

「シャロン! あの集団にいる一番でかいゴブリンに 烈風の矢(ゲールアロー) を撃ち込んでくれ! リディは適宜支援を頼む。俺はメルたちに合流して奴らを潰しにいく」

最初の魔法で大きな集団を潰しており、範囲攻撃魔法でも効率よく倒せなくなっていた。

そのため、手っ取り早く頭を潰すのがいいと思い、シャロンに狙撃を命じた後、更に彼女が失敗した場合に備え、メルたち剣術士部隊と共に接近していく。

「メル! あそこにいるのが、ゴブリンの王だ! 奴を倒すぞ!」

「はい! 分かりました! 少しは歯ごたえがあるといいですね」と戦場とは思えないほど陽気な声で答える。

実際、メルは無人の野を行くようにゴブリンたちを一太刀で斬り倒していた。レベル五十を超えた彼女に九級相当の雑魚では足を止めさせることすらできない。

彼女の後ろにルークら従士二名、自警団員二名、侍女のアンジーとエレナ、セオとセラの双子が付き従っているが、ほとんど足を止めることなく、向かってきたゴブリンを斬り殺している。

同じようにベアトリス率いる槍術士隊も門に到着しており、あっさりと門を奪還していた。

ベアトリスが門の前に仁王立ちし、神槍を構えて威嚇している。その姿にゴブリンたちは前に出ることができなくなっていた。

父たち騎兵の姿は見えないが、村の中から馬のいななきや馬蹄の音が聞こえることから、村の中で戦っているらしい。

後ろからダンたちの矢が飛び、更にシャロンの 烈風の矢(ゲールアロー) が放たれた。

透明な魔法の矢は見づらいが、魔法は真直ぐにゴブリンの王に向かっていく。

王に命中するかと思ったが、盾持ちのゴブリンが吹き飛ばされながらも身を挺して魔法を止める。

意外なことにゴブリンたちに指揮命令系統ができており、魔物とは思えぬ秩序を保っていた。

魔法で倒すという手もあったが、単発魔法で仕留めるより、剣の方が確実に思えた。

「メルと俺とで突破する! ルークとジムは後ろに回りこまれないよう両翼を守ってくれ!」

従士であるルーク・ウィルビーとジム・クインにはそれぞれ自警団員が一名ずつ付いており、彼らに側面を任せ、俺とメルとで強引に中央突破を図る作戦に切り替える。

「アンジー、エレナ、セオ、セラ! 無理そうならリディたちのところで待っていろ!」

念のため、技量の劣る四人に後方に下がるか確認したが、「大丈夫です!」というアンジーの声と「ザック兄様についていきます!」というセラの元気な声が返ってくる。

四人ともレベル二十程度だが、ゴブリン単体ならレベル十の新兵でも戦えるため、ほとんど苦にしていない。

メルと二人で強引にゴブリンの群れに突っ込んでいく。

メルとは何も言わなくても呼吸を合わせられるため、軽く走る程度の速度で群れの中を移動していた。

俺たちが前に出ると、その勢いに恐れを成したのか、モーゼが海を割ったようにゴブリンの群れが割れていく。その間にも後方から矢や魔法が放たれ、ゴブリンたちの断末魔の悲鳴が絶え間なく草原に響いていた。

一、二分でゴブリンの王が率いる集団にたどり着く。

王は通常のゴブリンより二回りくらい大きく、身長百八十センチほどあり、ほとんどオークと言っていいサイズだ。

どこで手に入れたのか、金属製の胴鎧を着け、両手用のメイスを持っている。

シャーマンらしきゴブリンが一度だけ 炎の玉(ファイアボール) の魔法を放ったが、メルが剣で叩き落していた。

魔法を使ったことは驚きだが、その技量は魔術学院の二、三年生レベルで、俺たちには牽制にすらならない。

スリングを持ったゴブリンも何度か石を放ってきたが、技量が低いのか避ける必要がなかった。

(所詮、ゴブリンというところか。こいつらを操っている奴はいなそうだし、野生のゴブリンが集まっただけのようだな……)

今回一番警戒していたのは、このゴブリンの襲撃が仕組まれたものではないかということだった。

その場合、ゴブリンを数百匹集められるほどの力を持った者がいることになり侮れない。しかし、これまでの戦いを見る限り、目の前にいるゴブリンの王が誰かから指示を受けている様子は見られなかった。

王の間近まで入り込まれ、ゴブリンたちは完全に浮き足立っていた。そのため、俺たちの側面や後方にいるものも多くいたが、包囲することができず、ダンたちに次々と 射殺(いころ) されていく。

「一気に決める! メル! 二人で突っ込むぞ!」

メルは俺の指示を受けた瞬間、裂帛の気合と共に盾持ちのゴブリンに突っ込んでいった。そして、名工ウルリッヒ・ドレクスラーのアダマンタイトの剣を強引に振り抜く。粗末な木の盾など何の障害にもならないとでもいうように、盾ごとゴブリンを斬り殺した。

俺が唖然としていると、彼女はそのままの勢いで左右の盾持ちを斬り倒し、ゴブリンの王に迫っていく。

(俺の出番はなさそうだな……)

大物は彼女に任せることにし、彼女のフォローに回ることにした。

俺も同じように盾持ちたちに突っ込んでいくが、彼女のように盾ごと斬るのではなく、隙間を狙って確実に倒していく。多少強いが所詮ゴブリンであり、フェイントを使う必要もないほどだ。

ルークたちも同じようにゴブリンを倒しており、王の周囲の壁が一気に薄くなる。

そのタイミングを見計らっていたのか、メルが王に迫ろうとした。

その時、突然熱風と轟音が目の前を通り過ぎていった。

そして、ゴブリンの王の首が消えた。

いつの間にかシャロンが近づいており、大技である 獄炎の槍(ヘルファイアランス) で吹き飛ばしたのだ。

「あっ! 横取りされた!」とメルが悔しげに叫ぶ。

その声に思わず苦笑してしまったが、彼女は油断することなく、近くにいるゴブリンたちをなで斬りにしていた。大物を横取りされた鬱憤を晴らすかのように、ほとんど真っ二つになるほど激しく斬っている。

王が倒れたことでゴブリンたちは一気に戦意を失った。壁に取り付こうとしていた者たちも、王がいなくなったことに気づき、森の中に逃げ出そうと走り始める。

「一匹も逃がすな! リディとシャロンは遠くのゴブリンを狙え! 確実に殲滅するんだ!」

ゴブリンは繁殖力が強い魔物で、中途半端に逃がすとあっという間に同じくらいの数になって戻ってくる。

ティリア魔術学院での研究によると、ゴブリンの妊娠期間は一ヶ月以下で、一度に二から三匹生まれ、更に成体になるのも同じくらいの期間で済むらしい。そのため、二ヶ月後には繁殖可能な成体が生まれ、数を増やしていく。

但し、雌の割合が二割程度であるため、ネズミ算的な増え方はしないが、小さな村が襲われて若い女性が捕らえられると、爆発的に数を増やすことになる。

そのため、冒険者ギルドではゴブリンやオークを見つけた場合、全滅させることが基本とされていた。

掃討を始めると、父やベアトリスたちが加わってきた。村の中の敵を排除し終えたらしい。

「よくやった! 掃討の指揮は私が執る!」と父が馬上から叫ぶ。

「村人に重傷者が何人かいるようだ。ザックとリディアは怪我人の治療を頼む!」

既に敵に組織だった抵抗はなく、逃げ惑うゴブリンたちを斬り殺していくだけの作業だ。油断さえしなければ問題ないと考え、すぐに了解する。

村に入ると思った以上にゴブリンに入り込まれており、そこら中に死体が転がっていた。村人らしき死体は見当たらないが、呆然と立ち尽くしている男たちは皆、どこかに怪我を負っている感じだ。

「ロックハート家の者だ! 怪我人の治療を行う! 重傷者がいればすぐに教えてくれ!」

俺がそう叫ぶと一人の中年女性が駆け込んできた。

「うちの人が! うちの人を助けてください!」

「分かった! リディはこの辺りの怪我人の治療を頼む」と言って、焦りの表情を浮かべて走る女性についていく。

村はあまり裕福でないのか、小屋といった方がいい家が多い。その一軒に入っていくと、そこにはザックリと腹を切り裂かれた四十歳くらいの男性が横たわって。その男の意識はなく、包帯代わりの布が血で真っ赤に染まり、並の治癒師なら匙を投げるレベルだった。

「すぐに治してやる。少しだけ我慢しろ」

傷付いた内臓を再生するイメージで治癒魔法を掛けていく。傷口は閉じたが、出血が酷く顔は土気色だ。

「傷は治したが、血を失いすぎている。意識が戻ったら、精のつくものを食べさせてやってくれ」

その主婦は自分の夫が助かると聞き、「ありがとうございます!」と何度も言いながら頭を地面に擦り付けていた。

奇跡的なことに死者はなく、この男性が最も酷い重傷者で二十人ほどが骨折や切り傷などを負っていただけだった。

リディと二人で手分けして治療していくが、三十分ほどで治療を終える。

その頃には父たちの方も終わったのか、ロックハート家の者たちが村に入ってきた。

「死者はありません。重傷者を含め、全員治療済みです」

俺の報告に「ご苦労。こちらも終わった」と僅かに疲れた表情を見せた。どうやら慣れない騎乗での戦闘に疲れているようだ。

ロックハート家側に怪我人はいなかった。正確にいうと打撲や擦り傷程度はある。

「先代様の訓練に比べたら、こんなもんは怪我のうちに入りませんよ」

明るい性格の従士、ルークがそう言って笑う。確かに一日の訓練で骨折者が必ず出ているので、それに比べれば問題ないといえるかもしれない。

セオとセラの双子の兄妹とアンジーたち侍女も返り血こそ浴びているが、全くの無傷だ。これはルークたちがフォローしてくれたお陰だろう。

「僕の方が多分三匹は多くやっつけたはずだよ」

「そんなことないわ。私の方が絶対に多いもん」

セオとセラが倒したゴブリンの数で言い合っているが、二人とも十匹以上倒しており、満足げだ。ゴブリンの死体が転がり、血と臓物の匂いが漂う殺伐とした場が少しだけ和む。

そんな中、一人の壮年の男性が父に近づいてきた。

全身泥に塗れており、顔には疲れた表情が張り付いているが、それ以上にどう話しかけていいのか困惑している感じがした。

「この村の村長をしておりますモーゼスと申します。この度は助けていただき、ありがとうございました」と言って大きく頭を下げる。

「ですが、見てのとおりの貧しい村で貴族様に受け取っていただくようなものは……」

助けてもらった対価を要求されると思っているらしく、困惑しているようだ。父もどう答えていいのか沈黙してしまい、それをどう勘違いしたのかとんでもないことを言い始める。

「うちの村には若い娘っ子も少なく、器量良しもおりませんが、この三人は生娘で……」

モーゼスはそう言って十代半ばの娘を三人差し出してきた。

帝国では奴隷制は廃止されておらず、借金のかたに若い娘を奴隷商に売ることがある。また、 性質(たち) の悪い貴族もおり、若い娘を強引に奪っていく者もいると聞いたことがある。

「安心してよい。我がロックハート家は対価がほしくて助けたのではない」

父がそういうが、モーゼスは不安そうな顔をしたままだった。

「済まないが、水場を教えてほしい。ゴブリンの血糊を早く落としたいんだ。後はゴブリンたちの死体を集めて、魔晶石を取り出してほしい」

父に代わりモーゼスにそう命じた。何もすることがないと不安になると思い、簡単な仕事を与えたのだ。そして、彼が出て行った後に自警団のジョンに「ファーフリー家の従士を連れてきてくれ」と命じる。

「私の顔はそれほど強欲そうに見えるのか?」と父が呟いたので、

「彼らにしてみれば、見たことがない兵士は恐ろしいものですよ。普通の兵士なら戦いの後では気が高ぶっていますから。何をされるか分からないと思ってもおかしくはないと思います」

「そういうものか」と言うもののあまり納得していない。父を含め、俺たちはゴブリンとの戦い程度で興奮などしていないためだ。

ファーフリー家の従士オーランドがやってきた。彼は戦いが終わるまで、俺たちが預けた馬と共に丘の上に退避していた。

彼にロックハート家は対価を求めていないと村長に伝えるよう依頼する。

「承りました。それにしても貴家は噂以上でございますな……」

女子供を含めた僅か二十四人が二十倍近い五百匹のゴブリンを殲滅したことが未だに信じられないようだ。

その後、用意してもらった水で血糊をふき取る。俺の場合、叩き切るような戦い方ではないため、点々と血がついている程度ですぐに落とせる。一番酷いのはやはり剛剣使いのメルだった。

「ザック様みたいな戦い方をすればよかった。鎧の手入れが大変そう……」

同じように従士たちもぼやいているが、俺はその間にゴブリンの死体を集める作業に向かった。さすがに数百匹もいると穴を掘って埋めるわけにもいかず、死体の処理は明日以降にファーフリー家にやってもらうつもりだ。

最終的にゴブリンの数は五百を超えていた。

なぜゴブリンたちがこれほどの集団になったのかは明確ではないが、飢えているゴブリンが多かったことと、たまたま王となる個体がいたことから、急速に群を大きくしたらしい。

ゴブリンの魔晶石と持っていた武器などは大した価値がないことから、村に寄付することにした。復興資金の足しにはなるだろう。

時刻は午後四時くらいで、ゴブリンの掃討に掛かった時間は後片付けを含めて二時間ほどだった。

「訓練にもなりませんでしたね」とダンが言ってきた。

その横ではゴブリンの王を倒し損なったメルがシャロンに文句を言っている。

「私が倒すところだったのに!」

「ごめんね。でも、どのくらいの魔法で倒せるか試したかったの。オークならギリギリ倒せるくらいの魔力だったけど、簡単に倒せてしまったわ……」

研究熱心なシャロンはゴブリンの王という珍しい個体の耐久力を確認したかったようだ。

(ラスペード先生の影響じゃないよな。あんな風になってもらったら困るんだが……)

少し心配になり理由を聞くと、魔族との戦いを考えていると教えてくれた。

「魔族の眷族がどのくらいの能力を持っているか分かりませんから。ゴブリンやオークの個体差をできるだけ把握しておいた方がいいかなと……」

いつも思うが、シャロンの方がよほど先が見えている。

(駄目だな。これからルナを守りながら導かないといけないのに……もう少し酒と料理以外のことも考えよう……)

反省しながら、ルナが待つダンメラー村に馬を進めていった。