作品タイトル不明
第十五話「謀反」
七月十二日、午後八時。
その日は朝から蒸し暑く、夕方には暗雲が垂れ込めていた。そして、一時間ほど前から大粒の雨が降り続き、窓を叩く雨粒の音が部屋の中に響き渡っている。
鍛冶師ギルドとオールダム男爵の情報から、商業都市アウレラのオウレット商会なる薬品卸の商会が武器購入に関与していることが分かった。
しかし、オウレットなる商会が何の目的で武器を購入し、マドックら盗賊たちに武器を渡したのかが全く分からない。
父や兄、オールダム男爵らと今後の対応を話しあっていた時、城内の様子がおかしいことに気付いた。
男爵が「何事か見て参れ」と部下に命ずるが、すぐに別の部下が部屋に駆け込んできた。
その部下は文官らしく、かなり動揺している。男爵が「何事か!」と言うと、
「む、謀反です! き、騎士団が逆賊ヒューバート・ラズウェルを討て!と叫びながら、こ、こちらに向かっております!」
今日の警備は第一騎士団の第四大隊で、そのうち、夜間の警備を行っている第二中隊以外が武器を手に取り、抵抗するものを次々と斬り倒しているという。
我々がいる二階の客室でも、兵士たちのバタバタという足音が大きくなっていく。父はすぐに「全員武器を取れ! 総督閣下をお守りする!」と叫び、自らも愛用のバスタードソードを掴み、部屋の外に向かった。
俺たちも自分たちの部屋に戻るため、廊下に飛び出す。ガイやバイロンら従士たちも父の命令に聞き返すことなく、武器を掴んで部屋の外に飛び出してくる。
バイロンは母と弟たち三人を守るためか、母の部屋に向かっていた。
廊下に出ると、下の階から激しい剣戟の音が聞こえ、「閣下をお守りせよ!」と叫ぶ声と、「逆賊を討て!」という声が交錯している。
(何が起こっているんだ? ここの騎士たちは信用できるんじゃなかったのか?)
そう思いながらも、俺は自分たちの部屋に入り、剣以外の装備を 収納魔法(インベントリー) に放り込んでいく。リディたちの分も可能な限り確保し、剣だけを握って、父の後を追った。
父が向かっているのは、三階にある辺境伯の居室で、辺境伯一家が暮らしている場所だ。幸い、ここはまだ混乱も無く、辺境伯家の直属の兵士が扉の前に不安げに立っていた。
オールダム男爵が「お館様は、フランシス様たちはご無事か!」と叫ぶと、その兵士は「はっ! 先ほど皆さま部屋に入られました」と答える。嫡孫フランシスとその母、コーデリア、そして兄の婚約者ロザリンドが合流していると報告してきた。
男爵は「敵が見えたら大声で報告せよ! マサイアス殿。しばし、この場を」と言って、扉の中に入っていく。
父は男爵に頷くと、扉の前に陣取る。そして、敵を迎え撃つため、ガイやバイロンに指示を出そうとしていた。
俺はこの場所に危惧を抱いた。
辺境伯一家の居室は三階の最も奥にある。居室は東面のやや南寄りにあるのだが、部屋の前には幅五メートルほどの広い廊下が南北に伸び、どちらの先にも階段が設置され、挟撃される恐れがあったのだ。
「父上、ここは不味いですよ。迎え撃つにしても両側から挟み撃ちにされます」
父も同じことを考えていたのか、小さく頷くが、「閣下をお守りせねばならん」と言って、その場で武器を構える。確かにここで迎え撃つしかないのだが、せめて状況の確認だけでもしておこうと、
「ガイとダンに偵察させるべきです。もし、逃げ道が確保できるなら、今のうちに脱出した方が良いのではないですか?」
父は「うむ」と頷き、二人に階下の状況を確認するよう命じる。
俺はその間に自分やリディたちの装備を取り出し、防具類をつけていく。その姿に父は「しかし、便利なものだな、その収納魔法とやらは」とこの状況でも僅かに苦笑いを浮かべている。
二分ほどでガイとダンが戻り、階下の状況を報告する。どちらの階段の下でも戦闘が行われており、徐々に近づいてきているということだった。
父は辺境伯にそのことを報告しにいった。
オールダム男爵の部下や使用人たちが加勢に来たが、武人ではないため、役に立ちそうにない。
兄が辺境伯の部屋の中で護衛をするよう指示したため、残されたのは俺たち六人と兄、ガイ、バイロン、イーノス、そして自警団の若者五人と歩哨に立っていた兵士の計十五人しかいない。
そして、俺たち六人と歩哨の兵士以外は武器を手にしているだけで、防具は何一つ着けていない。
(バイロンはともかく、ブレットたちはすぐに戦えなくなるだろうな……魔法で戦力を減らすにしても、この場所だと範囲攻撃魔法は使いにくい。特に火属性魔法は使えないな……リディの得意な 雪嵐(ブリザード) か、 空気の槌(エアハンマー) くらいか……あとは 黒蝶の円舞(スパングルワルツ) で無力化するか……)
廊下の長さは南側が二十メートルほど、北側が五十メートルほどあるが、障害物は何一つ無く、俺はその廊下を眺めながら、魔法でバリケードが作れないか考えていた。
(……せめて、ここが城の中でなければ、 土の壁(アースウォール) と 石生成(クリエイトストーン) で壁を作れるんだが……)
土の壁(アースウォール) は地面と接していないと非常に効率が悪い。壁を作れないことはないが、時間と魔力を非常に消費するため、現状では選択できない。
次善の策として、家具でバリケードを作ることを提案する。
「兄上。バリケードを作りましょう。近くの部屋から机でも何でも良いのでそれを並べて……」
俺がそこまで言ったところで、北側の階段から騎士たちが現れた。
「もう遅いようだな、ザック! お前は南側の指揮を執れ! 私は北側を守る!」
「了解! リディ、シャロン! 敵が近づいたら魔法で支援をするぞ!……」
俺の声に兄の命令が被る。
「ガイ、ダン、マークは十分に引き付けて放て! バイロン、ブレット、シドは私とともに迎え撃て!……」
兄とバイロンが廊下の中央部を、自警団の剣術士ブレットとシドが端を守るように並ぶ。更にその後ろには槍術士のジムとケビンが隙間を埋めるように槍を低く構えている。
そして、射程に入ったのか、ガイとダン、自警団の弓術士マークが次々と矢を放っていく。だが、盾を構えた重装備の兵士たちに大きなダメージを負わせられない。
ガイたちの攻撃の間に、俺とリディが 雪嵐(ブリザード) の魔法で迎え撃つ。
真夏の蒸し暑い城内の温度が一気に下がる。俺たちの魔法は先頭の兵士たちを凍りつかせ、足を止めさせることに成功した。
シャロンはブリザードの効果が消えるタイミングを計り、最高出力の 空気の槌(エアハンマー) を放った。重装備の騎兵すら吹き飛ばす空気の塊を受け、足を止めた兵士たちは後ろに向かって将棋倒しのように倒れていく。
廊下の喧騒が聞こえたのか、その間に父が戻っていた。
「閣下には脱出用の抜け道を使って頂く。ザックたちは閣下の護衛を頼む!」
後ろからベアトリスが反対の声を上げる。
「その抜け道が安全か確認した方がいいんじゃないかい! ここまで周到な奴らが抜け道を知らないとは思えないんだ!」
父は「さすがにそれはないだろう」というが、思うところがあったのか足を止めて、俺に話しかけてきた。
「閣下にお 諮(はか) りする。お前の意見も聞きたい。ついて来てくれ……ロッド! お前はここの指揮を執れ!」
父に続き、辺境伯の私室に入っていく。
さすがに権力者、北部総督の私室であり、豪華な家具が並んでいる。だが、辺境伯の人となりを表わすように、華美な感じは全くしない。
中には辺境伯一家とオールダム男爵、そして、辺境伯の護衛と数人の使用人たちが不安そうな顔で俺たちを見つめていた。
父がベアトリスの懸念を辺境伯に伝えると、辺境伯も何か思いついたのか、大きく頷いた。
「確かにベアトリス殿の言う通りかもしれん。もし、コンスタンスめがこれに加担しておるなら、抜け道は危険だろう……奴は抜け道の存在を知っておる」
俺は辺境伯と父に「ダンに偵察させましょう」と提案した。ダンは隠密行動が得意であり、気配察知もうまい。
辺境伯が頷くと、ダンを廊下から呼ぶ。辺境伯が抜け道の構造を簡単に説明すると、彼はすぐに暖炉の奥にある抜け穴の中に入っていった。
俺と父はその間に再び廊下の外に戻り、戦況を確認する。
未だ北側からしか敵は現れていないが、既に接近を許しており、兄たちは敵と斬り結んでいた。敵は盾をかざし、横隊を作って攻め掛かっている。
前線には兄、バイロン、その両翼に自警団の剣術士ブレットとシドが並び、敵を防いでいる。槍術士のイーノス、ベアトリスらが三人の脇から槍を突き出し、着実に敵にダメージを与えていた。
中でもバイロンと兄の攻撃は圧巻だった。
バイロンは膂力に物を言わせ、巨大な両手剣で敵兵を盾ごと両断する。その隣では兄が敵の突き出す剣を掻い潜り、下段からきれいに両腕を斬り落とす。
それに加え、リディとシャロンが魔法を、ガイたちが弓で攻撃し、敵に確実に損害を与えていた。更に、ベアトリスら槍術士が前衛の隙間から攻撃し、兄たちをフォローしている。
しかし、敵は損害をものともせず、同僚の死を無視して前進してくる。
(敵の動きがおかしい。攻撃を受けても、ほとんど気にせず向かってくる。まるで 兵隊蟻(ソルジャーアント) のようだ……)
兄たちの奮戦にも関わらず、廊下には次々と敵兵が押し寄せ、その数は既に三十人を超えていた。
敵兵は最前線の兵士が戦っているのに、歩みを止めない。バイロンや兄、ベアトリスといった猛者でも、防具に身を固めた重装備の兵士たちを一撃で倒すことは難しく、味方は僅かながら後退していった。
俺はこの状況を打開するため、切り札を使うことに決めた。
「父上! 魔法を使います!」
父の返事を聞くことなく、俺は闇属性魔法、 黒蝶の円舞(スパングルワルツ) の呪文を唱え始めた。
「夜と平穏を司りし、 闇の神(ノクティス) よ。動きを奪う黒き蝶を我に与えたまえ。我はその代償に我が命の力を御身に捧げん。我が敵に束縛を……舞え、黒蝶! 黒蝶の円舞(スパングルワルツ) !」
前回よりも魔力を少なめにして、三十秒ほどで発動させる。昼間の前回とは異なり、外は闇に包まれていることから、精霊の力が溜めやすかったのだ。
俺の右手から漆黒のアゲハ蝶が飛び立っていく。狭い廊下は黒い蝶で埋め尽くされ、等間隔で廊下を照らしている灯りの魔道具の光が遮られ、敵兵たちに影が落ちる。蝶たちは俺の意志通り、廊下の奥まで飛んで行き、敵兵の顔に次々と張り付いていった。
これで時間を稼げると安堵の息を吐くが、次の瞬間、自分の目を疑った。
黒蝶が敵兵の顔に張り付くのだが、彼らはそれを気にすることなく、斬りかかってくるのだ。三十人ほどの敵兵に蝶が張り付いたが、倒れたのは二、三人でほとんどの敵兵は蝶が張り付いても動きを止める事は無かった。
(なぜだ! なぜ効かない! いや、今はそれを考えるときじゃない。闇属性が効かないなら、物理的に排除するしかない……)
俺は動揺を隠しながら、今度は風属性のオリジナル魔法を使うことにした。
「もう一度魔法を使います! 今度は爆風が来るかもしれません! 吹き飛ばされないように!」
俺はそう叫ぶと、呪文を唱え始めた。
敵の動きは単調だが、非常に力強い。そして、恐れを知らぬ攻撃に技量に劣るブレットとシドが続けざまに敵に斬り伏せられる。二人が倒れると体の下には血だまりができ、すぐに絨毯に吸い取られていった。
父は「マーク! ケビン! ブレットとシドを!」と二人の救出を命じながら、自らは剣を構えて前線に向かう。二人の穴は父と警備に立っていた兵士で何とか埋め、前線の崩壊を防ぐことに成功した。
俺はその光景を見ながら、オリジナルの風属性魔法の呪文を唱えていく。
風属性魔法の弱点は障害物に当たると消滅することだ。火属性魔法なら炎の熱で周囲にもダメージを与えられるが、風属性の場合は攻撃対象に当った瞬間、魔法は消滅し、他にダメージが与えられない。
もちろん、 空気の槌(エアハンマー) のように、対象を吹き飛ばすことによる二次的な損害を与えることは出来るが、風属性で作った刃などは、命中と共に消滅してしまう。
俺はその弱点を利点に換えられないかと考え、ある魔法を考え出した。その魔法は実用的ではなかったが、今回に限っては使えると判断した。
「数多の風を司りし 風の神(ウェントゥス) よ。爆発せし気塊を我に与えたまえ。我が命の力を御身に捧げん。我が敵を打ち倒せ! 爆風の気塊(イクスプローシブバルーン) !」
俺の右手から数十個の透明な風船のような球体が敵に向かっていく。その大きさは直径十五センチほどで、フラフラという感じで敵の頭上を飛んでいく。
敵兵たちはその透明な風船に興味を示す事は無かった。風船は俺の命令通り、敵兵の頭上に行き渡った。
「爆発します! 耐えてください!」
俺が叫んだ直後、数十個の風船が一斉に爆ぜる。
やや低いボン!という爆音が重なり、空気が大きく揺れる。そして、ジーンという耳鳴りがこだまする中、敵兵が次々と糸の切れた人形のように倒れていく。
このオリジナル魔法、イクスプローシブバルーンは 空気の槌(エアハンマー) の応用だ。
エアハンマーは空気の塊に指向性を持たせて叩きつける魔法だが、イクスプローシブバルーンは圧縮した空気を、風船をイメージして空中に浮かしておく魔法だ。
本来の使い方は、開けた場所での遠距離攻撃からの防御だった。イメージとしては、 阻塞(そさい) 気球と爆発反応装甲を組み合わせたもので、この風船に攻撃魔法や矢が当たると、風船が爆発して攻撃を逸らしたり、打ち消したりする。
能動的(アクティブ) に撃ち落とすのではなく、 受動的(パッシブ) な防御魔法だったため、継続時間が長く消費魔力が大き過ぎて使い物にならなかったものだ。
今回はその爆発力を利用することを思い付いた。風船が所定の位置についたところで、一斉に爆発させる。当然一つ一つの衝撃力はエアハンマーより遥かに弱いが、頭のすぐ上や横で様々な方向から爆風が来るため、頭を激しく揺らされ、脳震盪を起こさせるのが狙いだ。今回はぶっつけ本番だったが、狙い通りに行ったようだ。
「今のうちに敵兵に止めを! 今なら敵の体が邪魔になって前に出られないはずです!」
後続の兵士たちのうち、ダメージを負わなかった者は未だに前進しようとしているが、金属鎧を着込んだ重装備の兵士が三十人以上倒れているため、その体に足をとられて前に出られない。
中には意識を取り戻し、もがくように立ち上がろうとする兵士もいたが、平衡感覚を失っているのか、何度も足をもつれさせ、それが敵の前進を余計阻んでいた。
父はその隙に最前列の敵兵に止めを刺し、更に敵兵の持っていた盾を奪っていく。
「何にせよ、時間稼ぎは出来たな」
父はそう呟くと、兄たちに「盾を重ねて防壁を作れ! 槍術士はその間から攻撃をかけろ!」と命じ、自らも盾を拾い上げる。
何とか北側から攻めてくる敵兵を押さえ込んだが、すぐに反対側、南側の階段からも敵兵が上がってきた。階段からの距離が二十メートルほどしかないため、敵兵はあっという間に目の前に迫る。
南側にいたのは、メル、ベアトリス、ガイの三人だ。
すぐに俺も剣を引き抜き、前線に向かう。リディとシャロンも呪文を唱え始め、援護の準備を始めていた。
俺は「敵の足を止めるぞ!」と叫び、盾を構えて迫ってくる敵兵に上段から斬りかかっていく。
俺の左横ではメルがバスタードソードを中段に構え、「はぁっ!」と気合を入れながら、俺の攻撃を防ごうと盾を頭上にかざした敵兵の首を貫く。
更に右隣にいるベアトリスは長いリーチを生かし、盾の隙間を狙って敵兵を葬っていく。
そして、俺は魔闘術を使い、メルが致命傷を与えた敵兵に蹴りを入れて、前進してくる敵兵に混乱を与えていく。
その間にリディとシャロンが呪文を唱え終わった。
俺は最右翼にいるガイに「ガイ! 伏せろ!」と命じ、片膝を突く勢いで頭を下げる。メルとベアトリスも同じように姿勢を低くし、リディたちの射線を確保する。
その直後、リディとシャロンの魔法が頭上を掠めるように飛んでいく。二人は俺たちが敵の戦列を崩すことを予想していたのか、得意な 空気の槌(エアハンマー) を全く同じタイミングで放っていた。
二人の放った圧縮空気の塊は、バランスを崩しかけていた敵兵を吹き飛ばし、後続の十名ほどを巻き込んでいった。
俺、メル、ベアトリスの三人はすぐに混乱する敵に止めを刺すべく、斬り込んでいく。後ろでは、リディとシャロンが呪文を唱え、次の魔法を放つ準備に入っていた。
敵が立ち上がる一分ほどの間に、前衛の三人は五人ほどの敵を葬るとともに五メートルほど敵を下げさせることに成功する。
ガイは俺たちの連携についていけないと判断したのか、弓による支援に切り替えていた。
無言の連携だが、俺たち前衛三人が左右の壁に張り付くように退避すると、その直後、床から三十センチほど、ちょうど膝の高さ辺りを幅二メートルほどの真空の刃が回転しながら、空気を切り裂く音を立てて飛んでいく。
リディとシャロンの狙いは、敵の足を止めることで、 旋風の刃(ウィンドブレード) を選択したようだ。
最前列で倒れている敵兵を飛び越え、味方を踏み付けて前進しようとする後続の足に命中する。さすがに 脛当て(グリーブ) に守られた足を切断する事は出来なかったが、それでも防具を切り裂き、三人の兵士を転倒させることに成功する。
そのタイミングを計っていたメルが、裂帛の気合とともに、山猫のように飛び出していく。メルの狙いは、足に魔法を受け、転倒していく二人の敵兵だった。彼女は敵兵の首を正確に斬り裂き、一瞬にして二人を絶命させていた。
ベアトリスも同じように飛び出しており、俺たちの前には敵兵の死体の山が築かれていた。
そんな戦いを数回繰り返すが、敵は湧くように現れ、きりがない。
「メル! ベアトリス! こちらにも 爆風の気塊(イクスプローシブバルーン) を使う! 一分だけ敵を抑えてくれ!」
二人の返事を聞くことなく、呪文を唱えていく。俺の抜けた穴はガイが埋め、敵兵の前進を食い止めていた。
「数多の風を司りし 風の神(ウェントゥス) よ。爆発せし気塊を我に与えたまえ。我が命の力を御身に捧げん。我が敵を打ち倒せ! 爆風の気塊(イクスプローシブバルーン) !」
呪文の完成とともに、右手から透明な風船が敵兵の頭上に向けて飛んでいく。今回の俺の狙いは階段部分だ。階段の途中にいる敵兵に攻撃できれば、時間を稼ぐことができると考えたからだ。
ゆっくりと三十個ほどの風船が飛んでいき、階段部分に到達する。
「 爆発(イクスプロージョン) !」
俺の叫びに一斉に風船が弾け、ボン!という破裂音が廊下に響き渡った。
その直後に階段からガシャンガシャンという金属鎧を着た兵士が階段を転げ落ちる音が聞こえてくる。
その間にもメルとベアトリスが廊下に残っていた生き残りの敵兵を排除し、俺たちはようやく一息つくことができた。