軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第24話 怪物主催の祭り 蛇血首領――スネイク

――アキナシ領内。

(畜生! 畜生! 畜生ォォッ! 三大勢力がいるなんて聞いちゃいねぇ!!)

一晩中、この悪質な街の中を追い回されている。追手はまさかの【 朱鴉(あけがらす) 】、【タオ家】、【 迷いの森(ロストフォーレスト) 】の三大勢力。

裏の三大勢力は、裏社会に君臨する絶対不可侵の闇の王。蛇血などアメリア王国の一マフィアとは、格も実力も天と地ほどの開きがある。その三大勢力がどういうわけか、取るに足らない蛇血を標的に定めて狩りを敢行してきている。

既に仲間の大部分は殺されるか捕縛されてしまった。残るのは付き従う十数人のみ。

突如として、天に上る幾つもの火柱。それ以来、ピタッと不自然なくらい追撃が止む。

この悪夢から解放されたのだ。だから、これは本来喜ぶべきこと。なのに、このときそれがスネイクたち、蛇血にとって肯定的なことには、どうしても思えなかった。

「進むしかねぇか」

背後の通路は、【タオ家】が封鎖しているから戻れない。いずれにせよ、この先に進むしかない。

(あんな、豚伯爵の口車になど、乗らなきゃよかった!)

スネイクはもう何度目かになる後悔の言葉を心の中で反芻する。

この地、アキナシは一時アメリア王国を壊滅の危機にまで追いやった悪竜を討伐した異世界人、コテツ・アキナシの褒賞として与えられた土地。公式ではそうなっている。

だが、それだけなら、これほどの鉱山都市、中央の欲深い高位貴族にとっくの昔に収奪されていたはず。それがこの300年間、誰もこの地には手を出さなかった。

これはアメリア王国の裏社会でも七不思議として稀に話題になる話だったのだ。この街には、あの天下のアメリア王国の高位貴族でさえも躊躇する秘密がある。きっとそれこそが、此度の三大勢力の追撃なのだろう。

(冗談じゃねぇ! あんな豚の欲望のために、この俺がこんなところで終わるのかっ!?)

それだけは許せない。貧民街の飢えた小僧に過ぎないスネイクが、アメリア王国でも十指のマフィアの頭領になるのに、どれほど苦労したと思っているんだっ!

泥水も啜った! やりたくもないクズのような汚れ仕事も沢山やった! 下げたくない頭も下げた! それでも、今まで進んで来れたのは、昔のような惨めな生活に戻りたくはなかったからだ。

(終わらねぇ……俺はまだ――)

路地を抜けるとそこは円状の広場だった。

(はは……そうか、ここが終着地か)

その広場には、三つの勢力が勢ぞろいしていた。

一つ、蛇と壺のマークの集団。

二つ、太陽と鴉のマークの集団。

最後、枯れ木と月のマーク。

間違いなく、あれこそが裏の三大勢力。スネイクたち、蛇血など比べることすらおこがましい、裏社会の王たち。

「俺たちの負けだ。なんでも話すし、何でもする。俺はどうなっても構わねぇ! だから、後生だ。部下たちだけは見逃してくれぇ!」

この絶体絶命の状況で口から出たのは、とっくの昔に捨て去った言葉。

「悪いが、わいらにその決定権はあらへん」

ぶかぶかの服を着た金髪の優男が、強張った表情で一点を凝視しながら、そう口にする。

他の三大勢力の全ての視線は、スネイクたちなどではなく、広場の中央の存在達に向けられていた。

一体は獅子顔の巨漢の異形、もう一人は九本の尾を持つ美しい獣人の娘であり、黒色の子犬を抱く黒髪の少年に跪いていた。

「ようやく到着したか」

黒髪の少年は子犬の頭を撫でながら、大通りの奥に視線を向けて言葉を投げかける。

いつの間にか、まだ幼さの残る金髪の少女が、息を切らしながら広場に足を踏み入れていた。

「おぬし、一体、どういうつもりじゃ!?」

「どういうつもりとは?」

「このアキナシ、まったく賊になど襲われてはいないじゃろうがっ!」

「襲われていたさ。ほら、そこの三者が、【朱鴉】、【タオ家】、【迷いの森】の皆さんだし、そこのやつれ切った男たちは、【蛇血】君たちだ」

金髪の少女は一同をグルリと見渡し、頬をヒク付かせて、

「おぬし、絶対まともじゃないのじゃ!」

心底実感の籠った言葉を絞り出す。

「では、役者もそろったことだし、祭りを始めるとしよう!」

「祭り? 妾とこやつらを戦わせるつもりか?」

黒髪の少年は肩を竦めると、背後の三大勢力とスネイクたちを半眼で眺めまわし、

「いんや、未熟者同士の戦闘では祭りにはならんだろう。既に戦意すら消失しているもの共相手では、猶更だな」

そう淡々と述べる。

(ははっ! なんだよありゃ……)

黒髪の少年と視線が合っただけで、あの百戦錬磨の三大勢力は、表情や全身を強張らせている。何より、今にも世界が終わりそうな奴らのあの顔。どうやったら、天下の闇の王たちにこんな顔させることができるってんだ?

「さーて、蛇血君たちには、詳しいルールの説明をしていなかったな。

ホントいうと、お前らは豚伯爵同様、この祭りの尊い人柱として惨めに残酷に朽ち果ててもらうつもりだったんだ。だが、最後の一言で気が変わった」

黒髪の少年は、言葉を切ると、

「この祭りを生き残れ。後日、全てを公の場で暴露すれば、お望み通り、そこのお前の部下どもの生存だけは認めてやる」

厳粛な口調でそう言い放つ。

「ネメア、住民の保護は?」

『この地の全ての息あるものは、我が領域へ転移させました。あの程度の蜥蜴ごときでは、我が領域を垣間見る事すら叶いますまい』

「ふむ。では、肝心要の巨大蜥蜴は?」

『うん。僕ね、僕ね、山で眠っていたあの蜥蜴にわ~ってしてきたよ~。手加減もちゃんとできたよぉ! ぶっ殺さなかったんだよぉ! すごいでしょ!? すごいでしょ!?』

少年の腕の中にいる黒色の子犬が、胸を張って誇らしげに叫ぶ。

「そうか、加減できたのだなっ! すごいぞ! フェン!」

笑顔で子犬の頭を優しく撫でる黒髪の少年に、

「ちょ、ちょっと待て、それってどういう意味じゃ!? すこぶる最悪の予感しかせんぞっ!」

金髪の少女が黒髪の少年に叫ぶ。

少年は脇に控える銀髪の獣人の女に子犬を渡し、その様相を一変させた。

まるで御伽噺の邪悪な魔王のように、あり得ないほど口角を吊り上げ、少年は両腕を広げて天を仰ぎ、

「レディース&ジェントルメン! 只今から始まるは、この地に眠りし巨大蜥蜴と人間たちの互いの命と誇りを賭けたデスマッチっ!!」

大気すらも震わせるような大声を張り上げる。

刹那、鉱山の山頂付近で爆発が起きて、何やら黒色の生物がはい出してくる。

「巨大蜥蜴って、まさか――あれは300年前に封じた伝説の悪竜かッ!?」

金髪の少女が血相を変えて黒髪の少年に疑問を投げかける。

「ほう、流石は王族。あの巨大蜥蜴の存在を知っていたか。その通ぉーーり、此度の祭りの特別ゲストとしてご登場いただいた」

「お主、正気かっ!? あれは、話の通じるような相手ではない! 一度解き放たれれば――」

「そうだ。あの巨大蜥蜴の好物は、ウェルダンの女子供の人肉。好きな余暇の過ごし方は、人の街を焼き尽くすこと。好きなミュージックは、人の苦痛と絶叫のハーモニー! あのクズ蜥蜴はいわば人類の敵。自重もいらないし、一切の情けも要らん。ぶっ殺してもらって一向に構わんぞ」

「だから、そういう問題では――」

「では、祭りの開始だ。九尾」

『了解、でありんす』

銀髪の獣人の娘が右の掌を掲げると、幾多の光りの球体が生じ、それらが鉱山の頂上から這い出そうとしている怪物へと高速で向かい衝突する。

「では、諸君の奮戦に期待する」

その言葉を最後に、黒髪の少年たちは嘘のようにこの場からその存在の一切を消失させる。

「あ、あ、あのイカレきった狂人めぇぇっ!! 悪ふざけにも限度というものがあろうがぁッ!!」

怒りと焦燥、様々な複雑な感情を張り付かせて夜空に叫ぶ金髪の少女を尻目に、頂上の黒色の物体はその大きな翼を広げ、

『グギョオオオオオオオォォォォッーーーーーー!!』

大気さえも震わせる大咆哮をブチかます。

およそ300年ぶりの伝説の悪竜の復活。怪物の描いた物語は 終局(クライマックス) を迎える。