軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 10万年越しの母との再会

「カーくんっ!!」

二階建てのレンガの家の玄関の戸が勢いよく開かれて、黒髪で、長身のおっとりした容姿の女性が飛び出してきて、私を勢いよく抱き締める。そう。母上殿は未だに子離れができぬ御仁なのだ。

「どうだった? 道中、危ない事とか、なかったぁ?」

私の全身をベタベタと触れて安否の確認をする。

「うん。大丈夫だよ、母さん」

確か、昔の私ってこんな話し方だったよな。どうにも強烈な違和感しかない。

「……」

母上殿は私の両肩を掴み、マジマジとその顔を凝視してくると、

「カーくん、少し大人になったぁ?」

そんな返答に困ることを聞いてきやがった。

「そりゃあまあ」

少し大人になったというより、既に10万歳だがな。我ながらホント、冗談のような存在と化している。

「そうか……カーくんも成長したんだねぇ」

目尻に涙を溜めてもう一度私を強く抱きしめる。

挨拶だけして直ぐに暇乞いしようかなと思ったが、どうやら無理っぽいな。Aランクハンターの母上殿は基本多忙であり、この家にもそう長くいられるわけではあるまい。

母上殿が外出中に、住み込みでの就職口が見つかったとの置手紙をしてずらかればいいだろう。それも、強ち間違っちゃいないしな。

「さあ、ごはん作るから入りなさいね」

仕方ない。今は従うしかない。ま、ファフとミュウは姉替わりのアンナと自称執事のアスタに任せている。数日間なら問題はあるまい。それ以上になると、ファフあたりが私を探し始めるだろうし、一度顔をみせねばなるまいな。

案の定、三日後、母上殿は仕事で約二か月、王都を離れる事となった。人気絶頂のAランクハンターなどそんなものだし、予想の範疇といってよい。

テーブルに住み込みの就職口が見つかったと記載し手紙を置くと建物を出る。

こうしてファフ達が滞在する王都北西の商業地区にある小さな宿に向かったわけだが――。

「いい加減、機嫌直せよ」

現在、ファフとミュウを連れて食堂で、少し早い夕食をとっている。

「知らないのです!」

プイッとそっぽを向くファフ。たった三日、私と離れた事で完璧にへそを曲げてしまった。

この数万年、ファフと私はひと時も離れず一緒だった。それが突然いなくなれば当然と言えば当然か。家族が突然いなくなる恐怖と焦燥は私も十分熟知していたはずなのに。もっとファフの気持ちにも配慮すべきだった。迂闊だったな。

「すまなかったな。ファフ」

ファフの頭をいつものように優しく撫でる。

「ごまかされないのです! ファフは、ファフは……」

ポロポロと玉のような涙を流すファフの頭を私は無言で撫で続けた。

泣き疲れて私の膝を枕にして眠ってしまったファフをミュウがボンヤリと眺めていた。

「どうした?」

「なんでもないです……」

そんな消え入りそうな顏で言っても説得力は皆無だ。

「子供は遠慮など不要だ。そう最初に言ったはずだぞ」

俯き気味に両膝のスカートを握りしめてミュウは、

「お父さん、お母さん、おねえちゃんに会いたいです」

震える声でそう叫ぶ。その小さな手の甲には目から出た液体がポタポタと落ちていた。

家族に会いたいか。そうだな。ミュウはまだ家族の愛情が必要な歳のはずだ。私ですらもあの弱者専用ダンジョンに喰われてからというもの母や祖父に会いたくて仕方なかったのだ。まだ幼いミュウなら猶更だろう。

「うむ、この国での件が一段落したらどうせ私は旅に出るつもりだ。元々目的もない旅だ。お前の家族を探すことにしよう。だから、それまでいい子で待っていろよ」

「あい……」

遂に私にしがみ付いて声を上げて泣き出してしまう。

もっとも、事情を聴く限り生存は絶望的だ。何せ部族の長であったミュウの両親はアメリア王国軍に攻められた際に、ミュウと姉を森へと逃がしたのだから。

ミュウたちを連れて己も逃げなかったことからも、夫婦揃って敗者の将の責を負ったのだろう。

(愚か者どもが!)

死して償える責任など存在しない。それは一種の逃げだ。ミュウの両親は泥水を啜ってでも生き延びる努力をするべきだった。そうすれば活路はきっと開ける。少なくとも私はそう信じている。

それにしても、これも全て勇者御一行様が要因か。獣王国に攻め入った理由の一つが、アメリア王国に魔王と相対する余裕ができたから。

仮にも教会のありがたい経典には魔族とは人間種全体の仇敵のはず。なのに、そのまさに人類一丸となって挑むべき魔王とのドンパチの最中に同胞と定義される人間種を下等と蔑み攻め入る。これほどの愚策はそうはない。

いや、そもそも教会の魔族が悪という教義自体、嘘偽りという事すらあり得るな。第一、人間側は魔族が悪と断じているだけで、それを実証する証拠は遥か昔の古文書レベルらしいし。

うーむ、あらゆる面でアメリアという国は信頼がおけぬ。そのアメリア王国の中枢に、あのお転婆娘レーナ・グロートとキース・スタインバーグの二人は深く関わってしまっている。

今のままではアメリア王国というクズ国家に、人質を取られていると同義だ。むろん、二人に危害を加えようとした時点で、クズ国家にはこの世の地獄を見てもらうが、私がこの世界で望むのはそんな波乱万丈な人生ではない。

そこで、私は閃いた。今都合よく王女であるローゼと行動を共にしている。そして此度の王位継承戦とやらにローゼが勝利すれば、この国の王はローゼとなる。

ローゼは未熟だが、馬鹿ではない。魔族との不毛な争いなど直ぐに中止して国内の立て直しに集中することだろう。つまり、魔族との戦争自体確実に消滅する。そうなれば、勇者のパーティーとやらはお払い箱になるってわけ。

王位承継戦の内容は現王が決める以上、終了時期は未定だ。だが、どんなにかかっても精々、3~4年だろう。その間、二人にはアムールの家族とともに雲隠れしてもらい、私はゆっくりとローゼのロイヤルガードとなりえるものを見つければ万事、解決だ。

そんなこんなで、この数日、説得すべく二人と接触しようとしたが、両者ともどうやら勇者一行とともに世界の教育機関の中枢たる【 世界魔導院(バベル) 】へ留学中のようだ。

キースも勇者一行に同行している理由は、多分、アメリア王国政府は大魔導士のギフトを持つキースを勇者のパーティーへと近々編入するつもりなのだろう。バベルへの留学はその準備段階ってところか。

ともかく、勇者のパーティーが揃いも揃ってバベルへ留学するのだ。魔王の討伐の件で、アメリア王国と【 世界魔導院(バベル) 】との間で、何等かの取引がなされたのは間違いないか――。

「よう」

不意に声を掛けられ顏を上げると、2メルはある筋骨隆々の体躯に野獣のごとき風貌の男が私の前で、佇んでいた。

「ザック、お前も王都に来ていたのか?」

「まあな。というか、俺もローゼの姫さんの騎士となったのさ。まあ、よろしく頼む」

ドカッと私の対面の席に座ると、注文を頼んでがっつき始めた。

そうか。多分、ローゼの奴があれからスカウトでもしたのだろう。だが、これはこの上なく私にとって都合の良い展開だぞ。

ザックの武術の才は特別級だ。鍛えれば相当強くなる。しかも、戦士としての矜持を持ち合わせているから、圧倒的な強さを獲得しさえすれば、王国の愚物どもになど決して後れはとるまい。安心してロイヤルガードなどという危険極まりない職務を押しつけられる。

もちろん、今のザックはお話にならぬほど未熟。一定の強さを獲得するまでは私がロイヤルガードを引き受けるしかないだろうがね。

問題はザックが私の修行を受け入れるかだ。何せザックは私をライバル視している。そんな相手の教えを素直に受けるような殊勝な心掛けがあるような奴にも見えんしな。

ま、なるようになるか。

「ザック、明日から鍛えてやる」

「ほ、本当かッ!?」

鬼気迫る顔で身を乗り出すザックの反応に若干圧倒されながらも、

「ああ、ただし、私は剣士。故に格闘術は専門ではない。だから、教えるのは純粋に闘争で強くなるコツのようなものだ。それでも構わんか?」

「当然だ! 俺は強くなれればなんでもいい! やっぱり、姫さんの誘い、受けて正解だったぜっ! 爺さんも泣いて悔しがりそうだなっ!」

言っている事は意味不明だが、ザックが修行を受け入れたのは私にとっても僥倖というもの。明日から徹底的に鍛えてやるさ。