軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第34話 変わらないでくださいね

「ほら、約束の200万オールだ」

ナヨナヨした奴隷商の男に白金貨2枚を渡し、前金の8万オールの返却を布袋ごと受ける。祖父からもらった金銭だしな。大金が入ったとはいえ無駄には使いたくはないからな。

ちなみに、鉄貨が10オール、銅貨100オール、銀貨が1000オール、金貨が1万オール、白金貨が100万オールの価値がある。つまり、私はあの雑魚魔物の討伐で一億オールを獲得したということになるわけだ。

くしゃみをすれば吹き飛ぶような雑魚魔物を駆除しただけで、一億オールとはどうにも金銭感覚がガバガバになるな。

「まいどぉ。お連れしなさーい」

支配人と思しきナヨナヨした男の指示で、黒服たちは部屋の奥から獣人の銀髪の少女の手を引いてくる。

身なりはもちろんだが、血色も良い。どうやら奴ら、私との約束を守ったようだな。奴隷商なりの矜持というやつかもしれん。ま、人身売買屋どもの理屈など心底どうでもいいがね。

「私はカイ・ハイネマン。カイでいい」

右手を差し出すと少女は恐る恐る握り返し、

「ミュウ……です」

たどたどしい口調で自己紹介をする。

「か、か、可愛い!!」

真っ白なローブを頭から被り、プチ変装していた迷惑王女が怪鳥のような奇声を上げてミュウに抱きつき頬擦りをする。

「ふへ?」

目を白黒させているミュウにさらにローゼは顏を恍惚に染めてその全身にペタペタと触れる。

「うーん。この耳のもふもふした手触り! 尻尾の毛並みも最高!!」

「ひっ!?」

身を縮こませながらも、泣きそうな顔でミュウは助けを求めるべく私を円らな瞳で見上げてくる。

「止めんか! 子供を怖がらせてどうするっ!」

益々エスカレートする変態王女の豹変ぶりに内心ドン引きしながら、右手でローゼの後ろ襟首を掴むと彼女から引き離し、

「大丈夫だ。この女は変態だが、悪い奴ではない」

そんな全くフォローになっていない言葉を告げて、左手でミュウの頭を撫でる。

「……」

ミュウはコクンと無言で顎を引く。

「行こう!」

アンナが優しそうに微笑むとミュウの右手を掴んで宿へ向けて歩き出す。

「はい……」

私達のこのやり取りに、少し前のアンナなら烈火のごとく怒ったんだろうが今や突っ込みすらしなくなったな。それはそれでどうかと思うわけだが。

「カイ、いい加減、降ろして欲しいんですが?」

感慨深く、アンナとミュウの後姿を眺めていると 変態王女(ローゼ) の非難をたっぷり含有した声が鼓膜を震わせる。

「うむ、すまん、すまん」

ローゼの襟首から手を離す。

「衣服が伸びたらどうしてくれるんです?」

細い腰に両手を当ててローゼは、問い詰めてくる。

「子供に変態行為をするからだ」

「ただ、抱きしめて、頬擦りして、モフモフの尻尾やら耳を撫でただけじゃないですかっ!」

この姫さんマジで頭痛い性格をしていらっしゃる。

「それを社会通念上変態行為というのだ」

「むう」

納得がいかぬように頬を膨らませるローゼを無視して今も興味深そうにこちらを眺めているナヨナヨした奴隷商の男に視線を移す。

「一つだけ忠告しておこう」

「何かしらぁ?」

「私が 此度(こたび) 、お前たちと取引したのはこの国の腐ったクズルールに沿って商いを営んでいたからだ。正直、私は幼子を獣と称し平然と鞭を打つお前たちを心の底から嫌悪している。だからもし、一歩でもそのルールを踏み外せば――」

私は言葉を切る。

ゴクリと喉を鳴らす奴隷商たち。

私は奴らをグルリと見渡し口端を大きく吊り上げると――。

「粉々に砕く。楽にバルハラに行けるとは思わぬことだ」

自身でもぞっとするような声色で宣言する。

急速に血の気が引いていく奴隷商ども。

「も、もちろんよ! 最後の一線は絶対に踏み外さないわッ!」

悲鳴のような裏返った金切り声を上げるナヨナヨした奴隷商の男に、

「努々忘れるな。今のお前たちは崖っぷちでつま先立ちしているようなものだということを」

それだけ口にすると、奴らに背を向けて歩き出す。

忠告はした。あとは奴ら次第だ。ダンジョンの本で学んだ犯罪心理学的に奴らがこの業界にいる限り、十中八九、足を踏み外す。奴らがそれから逃れるには、職業転換するしか方法はない。それは一番奴ら自身が思い知っていることだろうさ。

「なんだ?」

歩きながらもご機嫌な様子で私の顔を横から覗き込んでいるローゼにその意図を尋ねる。

「やっぱり、私のロイヤルガードは貴方だけです」

「だから、あくまで私は適任者が見つかるまでの臨時だといっとろうが」

ローゼはクスリといたずらっ子のような笑みを浮かべると、

「そう口では言ってはいても、貴方はきっと私が己の信念を曲げない限り、最後まで付き合ってくれます」

断定気味な台詞を口にする。

「勝手に判断するな。私はそこまで救いようがないお人よしではない。とっとと後任者を見つけて押しつけるさ」

世界漫遊の旅にでる。これは決定事項なのだ。何としても実現して見せる。

「またまたー、こんな美少女のナイトになれて本当は嬉しいくせにぃ!」

片目を瞑って私の腹を右肘で何度もついてくるローゼに深いため息を吐くと、

「真の美少女は、自分で美少女とは言わんものだ」

ローゼの顏がいいのは認める。認めるがどうもこの破天荒な性格がな。私としては素直になった今のアンナの方が女としては若干ポイントが高い。

「ぶー、カイ、その発言、レディーに失礼だと思いますよ!」

不満げに頬を膨らませるローゼに肩を竦めると、

「それはどうも。何分、そのレディー様の扱い方に慣れていないもんでね」

事実だ。その手の扱いを希望するならそれこそ人気絶賛中のこのアメリア王国の勇者殿にでも頼むがいいさ。

「カイは、変わらないでくださいね」

ボソリとそんな意味深な言葉を呟くローゼに、

「それはお互い様だな」

私もそう返答すると宿に向けて歩き出す。