軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話その4 討伐図鑑の宴会

『貴様ら、気合を入れろ!』

『ギガッ!(ハッ)』

ネメアの叫びに、一斉に右正拳を突き出す図鑑の者たち。これは、すっかり日課となった図鑑の者たちへの早朝武術訓練。御前の指示で毎日、ローテーションで図鑑の者たちに武術を教授している。

ネメアはこれでも獣の身で神格を得た獣神だ。かつて最恐とも称された悪神を滅ぼし、神々の中でその名を知らしめた。数多の神々の中でも最上位の武を持つとの自負により、神獣王ネメアと名乗っていたのだ。だが、蓋を開けてみたら、まったくの井の中の蛙の状態だった。

圧倒的な強者たる 御前(ごぜん) はもちろん、配下の竜神ファフニールにも及ばない。今も増え続けている 御前(ごぜん) の配下の 幾柱(いくにん) かには膝を折りかねない。

無論、武では御前以外に後れを取るつもりは毛頭ないが、ガチンコのぶつかり合いなら話は別だ。御前に参列する神々や神話上の怪物たちの有する非常識な特殊能力はそれほど理不尽極まりないものなのだ。

そして、あれらの能力はあの不思議な図鑑により、御前の魂と接続されたから進化したもの。いわば、御前から与えられたものに等しい。

元々、この【 神々の試煉(ゴッズ・オーディール) 】は神を大神へと導く最難関の試練場。配置されている者たちの強度は想像を絶する。ここへと送り込まれること自体がそれなりの強者の証なのだ。その元々の強者をさらなる高みへと進化させる。そんなことはこの世の誰だろうと、到底できるとは思えない。

御前、あのお方は一体何者なのだろうか? 己が人間であるなどという冗談を口にするだけで、真実を語ろうとしない。だが、その非常識な存在の強度から言って、名もなき神の中でもきっと異質な存在なのだと思う。

もっとも、御前が何者だろうと意に介さない者たちはいる。例えば――今も御前の家の前で祈り捧げているものたちだ。

『…………おお、至高の 御方(おんかた) よ!

我、ゴミムシどもの貧弱さをゆるしたまえ!

我、ゴミムシどもの愚鈍をゆるしたまえ!

我、ゴミムシどもの無能さをゆるしたまえ!

我、ゴミムシどもは偉大な御方の庇護のもと、我らが地を治め栄華を極めまする!

我、ゴミムシどもは偉大なる御方に逆らう愚かなる有象無象の一切を滅しまする!

……………』

ギリメカラは邪神。その配下の者たちも悪神や邪神で主に構成されている。神が祈りを捧げるなど冗談もいいところだ。だが、奴らは大真面目であり、御前を信仰の対象としている。

御前はギリメカラたちにとって神聖不可侵な存在。故に毎日早朝になると、このように意味不明な祈りを捧げている。

対して――巨大な七つ頭の黄金の竜を先頭に地響きを上げながら御前の家の前までやってくる竜ども。

『騒々しいぞ! 今祈りの最中だ』

ギリメカラが拝みの視線のまま三つの眼球をギョロっと先頭の黄金の竜へと向ける。

『五月蠅いのは貴様らの方じゃ! 御方(おんかた) 様もこんな朝っぱらから騒々しくされては迷惑せんばんじゃろッ!』

七つ頭の黄金の竜――ラドーンが怒気を隠そうともせずに叫ぶ。

『迷惑だとぉー! この我らの信仰を愚弄するのかっ!』

『御方様を敬うのは結構! じゃが、ものには限度があると言っとるのじゃ!』

いがみ合う二勢力。毎度飽きぬ奴らよ。だがこのままでは流石に御前の就眠を邪魔してしまう。

『やめよ! 御前の 御前(おんまえ) だぞ!?』

儂のこの言葉で冷静になったのか、ギリメカラ派は無言で図鑑の中に去っていき、竜たちもその場に寝そべってしまう。

やれやれだ。特にギリメカラ派と竜どもは毎日のようにこんな不毛な争いを続けている。

別に仲が悪いわけではない。争いの理由は御前に捧げるのが忠誠か信仰かの違いでしかない。まあ、それはネメアを含む全図鑑の者たちにも少なからずあてはまることなのだが、あ奴らはあまりにそれが突出しているのだ。

そう。ラドーンたちは『竜殺し』という特殊な称号を有する御前を至上の主君として仰ぎ、こうして頻繁に図鑑で採れた果実やら肉やらを献上している。さらに、ラドーンたちを熱狂させる理由はもう一つある。

「おはよ」

「おはようなのですっ!」

『おはよ~』

御前、ファフニール、フェンリルが家から姿を現す。

『一同、気をつけっ!』

ネメアの叫びに早朝訓練の図鑑の者たちは一斉に姿勢を正して、左手の掌に右拳を当てて、一礼する。

ラドーンたちドラゴンたちも立ち上がり、首を垂れる。

『 御方(おんかた) 様、これが図鑑で採られた果実と肉です。どうぞお納めください』

ラドーンが地面に多量の食料を置いて、恭しく述べる。

「おう、助かる。ファフ――だけでは食べきれないな。そうだ。今日は宴会でもしようか。確か、最近、 酒吞(しゅてん) からもいい果実酒をもらったしな」

酒吞とは酒を司る鬼神の 一柱(ひとり) 。職人肌の気難しい奴だが、奴の創る酒は途轍もなく美味い。

「宴会なのです! 宴会なのです! ラドーン、ありがとうなのです!」

ファフニールがラドーンに抱き着くと、竜たちはだらしなく顔を緩める。

あれが、ドラゴンたちが熱狂する理由だ。ドラゴンどもはファフニールに首ったけであり、気に入られんと毎度毎度涙ぐましい努力をしている。

御前は家の玄関を振り返ると、欠伸をしながら出てくる銀髪の女に向かって、

「九尾、お前は料理できるよな? 手伝ってくれ」

指示を出す。

「了解でありんす」

頼られたのはよほど嬉しかったのかパッと顔を輝かせて御前に抱き着く九尾。

九尾は最近、フェンリルとともに御前の家に居候しており、ずっと御前と行動を共にしている。

「ギリメカラたちにも伝えろ。では各自宴会の準備だ!」

御前の指示により、一斉に歓声が上がり、宴会の準備は進められていく。

ネメアはボンヤリとこの本来ならあり得ぬ光景を眺めていた。

ここにいるものどもは武闘派の神々や神話上の怪物どもばかり。プライドはこの上なく高く、その指示一つで、こんなに一致団結して動くなど、到底考えられない事態だからだ。こんな光景はきっといかなる大神にも実現はできまい。

『計りしれん御方よ』

我が主君の偉大さを改めて実感しながらも、急遽決定した宴会の準備をすべく動き出した。