軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第25話 稽古の開始

バッタマンたちの陽動は上手く行っているようで、実にすんなり目的地までたどり着くことができた。

「あらまあ……」

そこは今にも女が襲われようとしている瞬間だった。

襲われているのは、ローゼの腹心であるアンナという名の女騎士。しかも襲っているのは、以前私に触れて穢れるとかほざいていたクズ剣士か。何が穢れるだ。それをいうなら、公衆の面前で恥ずかしげもなく女を犯そうとするお前らこそが、穢れきっている。

そうだな。アンナには一度助けてもらっている。ここで借りは返却しておくべきだろうさ。

それに、ファフの教育上よくないし。とっととこの害虫どもを駆除しよう。

「助けてよぉぉぉぉ!!」

ローゼの絶叫を合図に私は地面を蹴って、年配の髭面の小太りの剣士の背後に立つとその頭を鷲掴みにすると持ち上げる。どーれ、どの程度で死ぬかの実験だ。精々、有効活用させてもらうとする。

「ぎひっ‼ 痛だっ! ぎががががっ!」

ほんの少し力を込めただけで頭蓋骨ごと粉々に砕け散ってしまう。まいった。ここまで脆いとは思わなかった。

「この程度で砕ける。やっぱりだ。迷宮最弱の魔物よりも耐久力がないのか。この世界って強者と弱者の差が相当激しいのかもな」

私がそうであったように、この者も碌な恩恵を持っていなかったのだろう。もしかしたら、それに負い目を感じて過去の私に必要以上に絡んできたのかもな。まあ、同情など露ほどもしないがね。

ともあれ、普段は【封神の手袋】を少し強めに使用しておくべきだ。じゃないと危なくて困る。

ドサリと地面へ落下する頭部がなくなった死体をみて、アンナの両腕を持っていた坊主の騎士が怪鳥のような悲鳴を上げる。

馬鹿かこいつ。本来の主を裏切って、国を裏切って、そして無力な女を犯そうとしていたやつが今更己の死に恐怖するのか。死にたくなければ、大人しくしていればよかった。非道に足を踏み入れねばよかった。要するにこの者どもは一切持ち合わせちゃいないのだ。我ら戦士には必ずなくてはならぬ覚悟が。

その事実に無性に腹が立った私は、奴の頭部を蹴り上げて破裂させてその口を塞ぐ。

さて、あとは――ローゼを捕えている黒髪の槍使いと視線が合ったのでとびっきりの笑顔を見せてやったら、小さな悲鳴を上げて立ち上がる。

地面を蹴って背後をとると、その首を後ろから右手で握ると持ちあげる。

今の私は【封神の手袋】で、相当制限している。それでも反応すらできないとは、やはりこの世界でも弱い奴は弱いんだな。

「お、俺はまだ何もしちゃいない! ホントだ! 俺はそいつに唆されただけだ!!」

この茶番の首謀者である高位貴族、フラクトンを見ると必死の形相で叫ぶ。

「貴様ぁッ!!」

フラクトンが蟀谷に青筋を漲らせて黒髪の槍使いに激高する。

「まだ、ってことはお前も混ざるつもりだったんだろ?」

過去のカイ・ハイネマンの記憶からすると、さっき殺した二人とこいつはいつも行動を共にしていた。この血生臭い場所で女を犯そうとするくらいだ。この愚行自体初めてではあるまい。そんな御託、検討するまでもない。

何より――。

「ち、ちがっ――」

「それに、唆された? 仲間を裏切り殺そうとした。それが、お前の選んだ道。その責は負うべきだ。いわゆる、因果応報という奴だな」

黒髪の槍使いを上空に放り投げて、

「やめ――」

悲鳴を上げつつ落下してくる黒髪の槍使いの身体の中心に右拳を叩きつける。瞬時に真っ赤な果実のごとく破裂する黒髪槍使いの騎士。

「……」

てっきり襲い掛かっかってくるのかと思っていたが、奴らは全員真っ青に血の気の引いた顔で私を眺めるだけ。

動かぬのなら、むしろ都合が良い。今のうちに、怪我人を回復させておくことにしよう。

【討伐図鑑】をアイテムボックスから取り出すと、【ヒーリングスライム】を人数分、【 解放(リリース) 】して、ローゼの部下全員の回復を命ずる。

スライムたちは虫の息で横たわる騎士たちを包み込むと、一瞬でその傷を癒して私の周りをぐるぐると回る。褒めてくれということだろう。

「よくやったぞ。お前たち」

愛(う) い奴、 愛(う) い奴。

そのぽよん、ぽよんした身体を撫でていると、嬉しそうにプルプルと震える。

「ずるいのです! ファフもナデナデして欲しいのです!!」

背後で飛び上がって悔しがる甘えん坊ドラゴンに 苦笑(にがわら) いをしながらも、

「危険だから入ってろ」

スライムたちに指示をだすと、一瞬で図鑑の中に吸い込まれてしまう。

「俺は……」

瀕死の重傷だったはずの騎士たちが起き上がるさまを目にして、ローゼは暫し目を見開いていたが、今も気絶しているアルへ駆け寄ると、抱き起す。

赤髪優男の尋問からも、おそらくこいつの本名は獅子王――アルノルト。現国王のロイヤルガードであり、まごうことなき、現王国一の騎士だ。この御仁は公式の大会などで剣を振るう事はなかったから、彼の剣技を私はまだ見たことがない。だが、祖父からは相当の手練れであり、私が将来目指すべき目標だと聞いている。まさかこんな状況で彼にお目にかかるとはな。

ともかく、アルノルトが敗北したということは、あの剣帝がそれ以上の実力者なのか、それともローゼたちを人質にとられてまともに戦わせてもらえなかったかのいずれかだろうさ。

「姫様?」

未だに意識が混濁しているいのか、アルノルトはボンヤリとそう呟いた。

「貴様、今の召喚術か?」

灰色坊主に口に布を巻いた大柄の男が、檻の中の猛獣を覗き込むかのように私を観察しながらも尋ねてくる。

「少し違うが、まあ、魔物を呼び出せる。その一点では違いはないな」

「フハハハハハッ!!」

突如高笑いをする灰色坊主の男に、帝国兵と思しき他の黒ローブたちは奇異の目を向ける。

「その驚異的な身体能力に、超希少な魔物の召喚スキルホルダー。我らの同胞となるに相応しい。俺達とともに来い! 代わりにその女どもには一切手は出さん。どうだ、悪い話ではなかろう?」

「エンズ様、それでは皇帝陛下の命に反しますっ!」

傍の副官と思しき黒ローブの男が即座に翻意を促す。

「はっ! その男は我らと同等以上の力を保有している。陛下も召喚できるかどうかも怪しい勇者などという俗物よりも、よほどお喜びになるはずだ」

「しかし――」

なおも口を開こうとする副官の胸倉を掴むと、

「おい! 貴様、この私の言に逆らうのか?」

ドスのきいた声を上げる。

「い、いえ、失礼いたしました!」

おいおい、俺の意思を無視して勝手に話をまとめるなよ。

「だ、駄目です! カイ!」

ローゼが焦りで上ずった声を上げ、

「エンズ殿、それは約束が違いますぞ! ローゼマリー王女が帝国第三皇子と婚姻し、我が国と講和を結ぶ。その約定を違えるおつもりか!!?」

フラクトンが血相を変えて声を張り上げる。

「王国との講和? 第三皇子との婚姻? それはそちらが勝手に主張していたことだろう。我が帝国にそんな意思はない。その女はしょせん、我が国の勇者召喚の実験動物。それ以上でも以下でもないのだよ」

「そんな……」

顔を絶望一色にし、項垂れるフラクトン。どの道、ローゼを売った以上、この男は破滅だろうがな。

「勝手に決めるな。私はお前らになどついていく気はない」

今の私は善人では決してない。むしろ感覚がこの世界の倫理から大きく外れている以上、悪人と言った方が正しかろう。

だが、無力な女を実験動物にすると恥ずかしげもなく口にする奴らと組むほど落ちちゃいない。何せ私も無力だったものでね。その手の強者の理屈には反吐が出るってもんだ。

「むろん、王国人のお前が素直についてくるとは考えちゃいない。ジグニール、やるぞ。私は後方支援に徹する」

空気が変わった。うーむ、帝国の六騎将の二人を同時に相手にするのは骨だが、まあ、この可能性も十分に考慮に入れている。致し方ないな。

「ざけんな! もう、手を出すな! 今度余計なことしたら、マジで殺す!」

頬に傷のある男、ジグニールが腰の剣を抜くと私に向けて構えながら、エンズに射殺すような視線を向ける。

「馬鹿か、貴様っ!? 相手は召喚士だぞッ! 剣術だけで勝てるものか!」

エンズの初めての激高に、黒ローブたちは首を竦める。

「いんや、私は召喚士ではない。剣士だ」

がっかりだ。がっかりだよ。ジグニールのあの構えに挙動、あれは剣を極めた者のそれではない。ただ己が強いと信じて疑わない粋がっている小僧のものだ。そんな腕では到底天下の獅子王に勝つことはできまい。どうやら、アルノルトはまともに戦わせてもらえなかったようだな。

それにしても、なぜ、あの旧剣帝アッシュバーン・ガストレアほどの男が、あんな未熟な小僧に剣帝の名を譲ったのだ? あの程度の腕のものなら帝国には、掃いて捨てるほどいるだろうに。不可解だ。不可解過ぎる。

「お前はアッシュバーン・ガストレアの身内か?」

「アッシュバーン・ガストレアは俺の祖父だ」

とすると、血統のみで承継を許したのか? 少しアッシュバーン・ガストレアを買いかぶりすぎていたか? いや、アッシュバーン・ガストレアのあの無邪気ではあるが一切の隙の無い剣技は本物。孫が可愛いという理由だけで我らの剣の道に泥を塗るような男ではない。

だとすると、この者に一定の価値を見出したからか。まあいい。この者は未熟だ。ならば、刃物を向ける価値はない。

私は近くの槍を拾うと【雷切】でその先端の穂の部分を切断し、構える。

「それは何の冗談だ?」

私の意思を察知したジグニールが、顔を悪鬼に変えながらも疑問を投げかけてくる。

「ふむ。今のお前に刃を向ける価値はない。かかってきたまえ。稽古をつけてやる」

「上等だぁ! その傲慢さ、二度と吐けなくしてやる!!」

いくつもの太い青筋を額に漲らせながらも、ジグニールは私に斬りかかってきた。

私は木の棒を構えてそれを受けると、偉大なる旧剣帝アッシュバーン・ガストレアの意図を探るべく稽古を開始する。