軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第47話 破滅の唄(1) クラブ・アンシュタイン

――バベルの塔の絢爛豪華な一室

「失敗したぁ? 槍王の排除がか?」

緑色のローブを着用した巨体の老人、副学院長――クラブ・アンシュタインが額に太い青筋を張らせつつ、今も一切の感情を失った顔で佇む同じく緑色のローブを着た目つきのキツイ男に尋ねる。

「は……い」

この目つきキツイ男は副学院長クラブの懐刀であり、普段から憎たらしいほどに自信にあふれている。例え失敗したとしてもこのように死人のように血の気の引いた姿になることはない。

そのあまりにこの男とは思えぬ姿に片目を細めて、

「ルミネという娘はどうなった?」

「失敗しました」

やはり、生気の抜かれた顔で顎を引いて答えるだけ。

「ソムニ・バレルと無能は?」

「全て失敗しました」

無表情で即答する側近の目つきのキツイ男に、

「馬鹿野郎がっ! この件には儂のメンツもかかっている! 次期学院長戦にも影響する! 失敗しました、ではすまされんのだぞっ!」

怒鳴りつけるが、

「メンツぅぅ? すまされんんんん?」

ケタケタと薄気味い笑い声を上げるだけ。

懐刀の男の異様な様子に他の職員から騒めきが起こる。

「貴様、何がおかしいッ!?」

側近のそのいかにも小馬鹿にしたような態度に、怒りが嵐のように襲ってきて、怒号を上げていた。

それでも側近は笑い続ける。

――ケタケタケタ!

「笑うのをやめろぃっ!」

笑うのを止めるべく殴りつけると背中壁まで叩きつけられるも、まるで人形のようなカクカクした動きで立ち上がり、踊り始める。

『ベルゼバブデブー♪ ベルゼバブデブー♪

ブーブー、ブーブー、バブバブ♬』

そんな鼻歌を口遊みながら、まるで軟体動物のように全身をくねらせる。同時に響く骨が軋み、肉が潰れる音。

「お、おい、よせ! やめろ!」

クラブが制止の声を上げるが、目つきのキツイ男は全身から血を吹き出しながらも、奇怪な鼻歌を歌い、踊り続ける。

『ベルゼバブデブー♪ ベルゼバブデブー♪ ブブデバブデブー♩

ウジウジしていて、とっても臭い、蠅の中の蠅、キングオブ蠅、それがバブ、ベルゼバブゥ♫

ベルゼバブデブー♪ ベルゼバブデブー♪ ブブデバブデブー♩

糞まみれで、とっても香しい、それがバブの求めるパラダイス♬

ベルゼバブデブー♪ ベルゼバブデブー♪ ブブデバブデブー♩』

遂に目つきのキツイ男の外観は人ではなくなり、蠅に近い生物へと変貌していた。

「ひぃぃぃっ!」

目つきのキツイ男の突然の変容に、クラブの側近の一人が部屋へ逃げようとする。

「おい、貴様――」

クラブの留まるよう命じる叫び声は最後まで続かず――。

『キシッキシシャシャ!』

奇声とも笑い声ともつかぬ声をあげて、目つきのキツイ男だったものの口から無数の触手のようなものが高速で伸長し、部屋から逃げようとしたものの脳天を串刺しにする。

脳天を串刺しにされた男はビクンビクンと痙攣していたが、突然立ち上がり、死の舞踊を開始する。血反吐を吐きながら踊る職員だったものに、部屋中から悲鳴が上がる。

目つきのキツイ男だったものは、両手を腰に当てると、

『宣告でちゅ。我らが至高の 御方(おんかた) はすごぉく、すごぉぉーく不快になっておいででちゅ。故にこの件に深く関わった者に罰を与えるでちゅ』

先ほどとは一転、ひどく厳粛した態度でそう宣う。

その発言を契機に部屋内は地獄と化した。

瞬く間の内に、部屋内の部下の職員は全てよくわからぬ生き物へと変貌してしまっていた。

一糸乱れぬ動きで、踊り狂う部下たちだったものを目にし、

『……ひくはっ……』

あまりの悍ましさと体中の血液が逆流するほどの恐怖に呼吸を上手くできず、喉を掻きむしりながらも、背後の窓へと後退る。

必死だった。あそこまで行けば、この地獄から解放される。そう信じて床を全力で蹴って窓をけ破り、外に飛び出す。あとはフライの魔法を使って浮遊すれば――。

「――ッ!!?」

そんなクラブの希望は窓の外に多数浮遊している蠅にも似た怪物に捕らえられることにより、完膚なきまでに砕かれる。

「ぴぎゃああぁぁぁぁっ!!」

絶叫を上げる中、クラブの意識は絶望一色に染め上げられていった。