軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第34話 傲慢剣士の末路

幾度も打ち合うが、タムリの剣はデイモスには届かない。

「馬鹿な! 私はギルバート殿下の守護騎士だぞ! 剣では王国でも名の知れた剣士だ!」

あの怪しげな空間で気の遠くなる長い年月、超越者の方々から剣術を始めとする複数の武術を徹底的に叩きこまれたのだ。これだけ打ち合えば、タムリの剣の腕が達人と呼ばれるレベルには全く達してないことはデイモスにでも容易にわかった。

むしろ、なぜその程度の腕でそこまで傲慢に自信過剰でいられるのかが理解できない。

『建前など知らんが、貴様自慢の剣術など、我らの街の童にも劣る』

これは紛れもない事実。あの空間で修行した風猫の児童たちはメキメキと実力を上げており、この程度のクズに敗北するとは到底思えない。というか、あの街の者ならこんな剣士崩れの男などほぼ瞬殺できるだろう。

「街の……童にも劣るだとぉ?」

タムリは悪鬼の表情でオウム返しに繰り返す。

『先ほど貴様はその少年を弱者と罵ったな。その通りだ。その少年は弱い。だが、いかんせん貴様も弱者という点では何ら大差ないぞ』

「たかがスケルトンごときがこの私を弱者とぬかすか! 万死に値する!」

疲労からだろう。肩で息をしながら力任せの剣を振うが、そんな児戯に等しい剣などデイモスにすら当たるはずもない。

「きぇぇ!!」

奇声を上げながら頭部へ向けて振るわれるタムリの剣を、

『そんな大振り、当たるわけがあるまい』

楽々避けるとその足を払ってやる。

「うおっ!?」

無様に顔からつんのめって地面に転がるタムリ。

「おのれぇ! そうか、わかったぞ! その黒剣が貴様の強さの源だなっ!」

呆れかえるほど自信過剰な奴だ。

『いや、ただの自力の差だが』

この黒剣は確かに魔法で生み出されてはいるが、ただのよく切れる剣。身体能力を上乗せする力などないし、技術など猶更向上などしない。第一、魔法による剣技の向上などたかが知れている。それはあの地獄のような修行により、魂から思い知っている。

「神聖なる勝負に魔法の武具を使うとは何たる卑怯ッ! 何たる愚劣さっ! どこまでも、アンデッドかぁ!」

そんなデイモスの言葉を聞こえているのかいないのか、さらに興奮気味に自分の世界に没頭したまま捲し立てる。

実に滑稽だ。特に自分の弱さを自覚しないものとはここまで哀れで惨めなものなのか。まるで至高の御方に会う前の過去のデイモスを見ているようで気まずささえ感じてくる。

もっとも、このものは至高の御方に牙を剥き、その怒りに触れた。この者の行き先は既に決まっている。

『とことんまで貴様は救えんな』

再度、怪鳥の様な掛け声とともに切りかかってくるタムリの斬撃を弾くと、右腕を根元から切断する。

「はれ?」

地面に落下する剣を握る己の右腕を眺めながら、間の抜けた声を上げるタムリ。一呼吸遅れて絹を裂くような絶叫を上げる。

タムリの鼻先に黒剣の剣先を向けると、

『悲鳴を上げている暇があるなら、剣を取れ! まだ貴様にはその左腕があるだろう?』

有無を言わさぬ口調でそう叫ぶが、

「ひぃ!」

顔一杯に恐怖を張り付かせながら、金切り声を上げて後退りをすると、

「ト、トウコツ、助けろ!」

「……」

トウコツはそれには一切答えず、先ほどとは一転神妙な顔でデイモスを観察するだけで、タムリに視線すらむけようとしない。

「おい、トウコツ! 聞いているのかっ!」

トウコツに向けて、裏返った甲高い声を上げるタムリに、

『もう一度言う! 剣を取れ!』

ドスの聞いた声を上げるが、

「わ、私はもう戦えない!」

予想だにしなかった答えを叫ぶ。

『はあ?』

こいつは一体何を言っているんだ?

「この傷ではもう戦えないッ!」

『貴様、それ、本気で言っているのか?』

右腕を切り落とされたくらいで戦えない? あの地獄のキャンプに参加していた女子供もその程度では根すらあげぬぞ。むしろ、泣いたふりをして寝首をかこうとくらいしてくる。奴がさっき散々弱者罵ったソムニという名の少年も、片腕を切り落とされても己の使命を遂げようとした。仮にも王族の騎士がこの程度で根を上げるはずはないのだ。

そうか。大方デイモスの油断でも誘っているのだろう。こいつの迫真の演技にすっかり騙されてしまった。こやつら、実力で勝てぬとみて一か八かの賭けにでもでたか。だとすると、全てがブラフの可能性が高いな。

『随分、舐めてくれるな、小僧! この私がその程度の甘言に騙されると思うてかっ!』

デイモスはあの御方の配下なのだ。偽計を働いたくらいで勝てると思われるなど、御方様の顔に泥を塗るようなもの。許しがたい大罪だ。

「ち、ち、違う! 本当にもう戦えないんだっ!」

切り落とされた右腕の断面を抑えながら、タムリは涙と鼻水でグシャグシャにして必死に叫ぶ。

『まだほざくかっ! ならば、虚言など吐けぬよう徹底的に痛めつけてやる!』

デイモスは右手の黒剣を消失させると、数歩踏み込む。そして、奴の懐に飛び込むと空手の左拳でタムリの腹部目掛けて拳打を放つ。くの字に曲がったタムリに一切の反撃すらも許さず、嵐のような拳を繰り出したのだった。