軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第21話 命がけの観察 ラムネラ

背後から怪物がいなくなり、帝国六騎将の一人、ラムネラは膝を地面に付けて息を大きく吸い込んだ。あまりの緊張のせいだろう。何度も咳き込み、しまいには地面に吐しゃ物をぶちまけた。

「何よ……あれ?」

同じく帝国六騎将、キルキは地面に尻餅をつきつつ声を絞り出す。今の六騎将は全員が皇帝陛下から特殊な名を与えられている。彼女は戦姫。こと対人戦闘においては、勇者のパーティー、 聖騎士(パラディン) にすら比肩するとも称される女傑だ。その彼女がこんな屈辱的な態度をとるのを見たのは事実上初めてかもしれない。

「フォーさん同様、人の 理(ことわり) から外れた怪物ってやつだろうね」

口元についた吐しゃ物を袖で拭いながら、なんとかそう返答する。

キルキはヨロメキながらも立ち上がり、近くの木々にもたれかかると、

「陛下のご命令では、あれを六騎将に加わるよう説得しろってことだけど?」

「説得できると思う?」

ラムネラの疑問にキルキは瞼を閉じると大きく左右に振ると、

「無理ね。少なくとも私には自信がない。というより、恐ろしくてできないわ」

一度も目にしたこともない神妙な顔できっぱりと断言する。

「同感だね」

それに多分、最後の¨怒らせるな。不快にさせるな¨は脅しではなく 本心(マジ) 。そして¨潰す¨という台詞も当然本心であり、その自信があるのだ。下手を討てば、あの怪物と帝国は交戦状態となる。

フォーさんが勝利できればそれでいい。フォーさんの破滅的な力を魂から実感しているラムネラ達にとってはその勝利を信じてはいる。いるが、あの刹那、ラムネラたちの背後に一瞬立ち上った大気すら歪ませる底なしの魔力を思いだすだけで、その勝利の確信だけはどうしても湧くことができなかった。

ここで間違いなく断言できることがある。それは、あれが人外で、人ごときの生き死にさしたる興味を持ってはいないこと。人外に人の慈悲など期待などできやしない。奴を怒らせ、不快にさせれば下手をすれば国さえもあっさり亡ぶ。

「どうする?」

「決まっているさ。此度の任務はあれの観察と説得。説得はまだ期が熟してはいない。だから今はひたすら観察する」

「しょ、正気っ!? 私はこれ以上あのバケモノと行動を共にするなんて絶対にいやよっ!」

本心なのだろう。両腕で自分の身体を抱きしめつつ、必死の形相で叫ぶ。

「陛下の命令は絶対だよ。逃げかえれば僕らはフォーさんに粛清される。僕らに残された道はあれを観察するしか方法がないんだ」

少なくともフォーさんが勝利できるという確信が欲しい。できなければ、ラムネラたちはあの怪物に駆除される。いや、人外相手に楽に死ねればまだ幸せな方。最悪なのは死ぬことすらも許されず、生き地獄を味わうこと。

「あんた、さっきあれを説得する自信がないって言ったばかりじゃない!」

声を張り上げるキルキに、

「そうさ。現時点では説得は不可能。あくまで、あれを見極めるしかない」

真意を告げる。

フォーさんの勝機が不明な段階で、あれに帝国の六騎将に入れなどと伝えるなど、狂気の沙汰だ。それこそ奴を不快させて滅ぼされる。それこそ国ごとだ。

だからこそ、希望が欲しい。もし、フォーさんがあれに相対せるという事実が。もしフォーさんが抗えるなら、説得も可能だろうから。

「もし、フォーでも勝てないようなら?」

「あれに関わるなと帝国を説得する」

アレの悪質性を嫌というほど伝えれば、あの怖い者知らずの陛下も思い止まる。そう信じる他ない。

「もし、説得に失敗したら?」

「決まっている。尻尾を巻いて逃げるさ」

ジグニールの奴、上手く逃げやがった。あんな怪物が相手ならさっさとドロップアウトした方が遥かに幸せってもんだ。

「あー、帝国で出世して戦姫の名ももらって、ようやく今まで蔑んできた奴らを見返せるって思ったのに、結局、こんな結末なの……」

キルキは大きなため息を吐くと、顔を空に向けて下唇を強く噛む。

「とりあえず、僕らのやることはあれの観察。いいよね?」

この度、バベルがラムネラとキルキを、あの怪物と同じチームにしたことは、偶然のわけがない。十中八九、バベルの上層部はあの怪物の力について大筋では理解している。これはいわば、怪物に手を出せば帝国とて無事では済まないという、バベルからの牽制ないし警告だろう。

少なくとも、このチーム編成を考えた輩は帝国があの最悪の怪物と戦争状態に突入することをよしとしていない。これは、バベルがまだ完全にはあの怪物の支配下には落ちていないことの証拠だ。ならば、おそらくこの都市でのラムネラたちの行動を制限したりはしない。やりようはいくらでもあるのである。あとは、ラムネラたちの度胸の問題。

「ええ、私も腹は決まったわ」

ラムネラも瞼を固く閉じて意を決した後、重い足をアレが去った方へと向けて動かし始めた。