軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第32話 束の間の勝利の余韻 ローゼマリー

「……」

『……』

アキナシの住民も、三大勢力も、カイの配下のネメア達すらも、上空に映し出されている凄惨な蹂躙劇をボンヤリと眺めていた。

「あの三頭竜は、デボアより強かったのですか?」

デボアの数倍にも及ぶ巨体に、血肉からも新たなドラゴンを作り出すという悪質性。

常識からいってあれは、フェリスお姉さまたちが倒したデボアとは一線を画している。そう考えるべきなのはわかっている。

しかし、それにしてはカイとあの巨大竜との戦闘はあっけなさ過ぎた。いや、もはやあれは戦闘というより、巨人が蟻を踏み潰す行為に等しい。それほどカイとあの竜との間には絶望的な差があるのは素人目にも明らかだったのだ。

「うむ。本体だけではない。あの無数の蜥蜴の分身体共の一匹一匹が、デボアなど比較対象にすらならぬ、圧倒的強者である」

誰に問うでもないローゼの疑問に、この中で唯一通常運行でやる気のないアスタが即答する。

「さっきの竜が全てデボアより上……」

自身の頬が痙攣するのを自覚する。デボア自体、一体で王国を破滅させる伝説の悪竜だったのだ。だとすると、カイはその数百、いや、千すら超えていた竜をたった一撃で皆殺しにしたということか? それはもはや、人という種が到達できる領域を超えている。

「ローゼ、あ奴は何者じゃ?」

「 私(わたくし) にもよくわからなくなりました」

今回の件で魂から思い知った。ローゼはカイ・ハイネマンという人間を理解したつもりで、その実、見えていたのは薄っぺらな表層だけだったのかもしれない。

「我がマスターを 下等種(人種) 風情が理解しようとすること自体、驕りにすぎるというものである」

アスタが、今も一心不乱にカイの戦闘を眺めているザックや、ネメア達に親指を突き立て、はっきりと断言する。

ザックはもちろん、カイのやることに一定の理解を示していたネメア、九尾たちでさえも、滝のような汗を流しつつ、人形のように表情を消してあの非常識な光景を凝視するのみ。

唯一、九尾の腕の中の子狼フェンちゃんだけが、目を輝かせてカイのワンサイドゲームを眺めていた。

「御自身の意思にかかわらず、今後この世界はマスターを軸に回っていく。そして――」

一瞬、アスタは口ごもるが、

「どうやら終わったようである。吾輩は指示された次の仕込みに動くのである」

完全消滅した三頭竜を確認し、ローゼに背を向けるとこの場から完全に痕跡を消失させた。

「フェリスお姉さま、これからについてお話があります」

「うむ。じゃが、あの悪魔が考えた計画じゃろ? 正直、妾、悪寒しかせんのじゃが」

心の底からの言葉なのだろう。フェリスお姉さまは、御自身の身体を抱きしめるような仕草で、空に映し出されている剣を鞘に納めているカイの姿を見上げて小さく呟く。

「私にもようやくザック殿たちの言葉の意味がわかりましたよ」

オリバー卿が妙にすっきりした憑き物が落ちたような表情でローゼたちの話しに混ざってくる。住民たちも不安と期待が入り混じった顔で、遠巻きにローゼたちを眺めている。この状況は都合がいいかもしれない。

「オリバー卿、改めて、このローゼマリー・ロト・アメリアの名で、私の領地、イーストエンドへの協力をお願いします」

ローゼが王族の儀礼にのっとり、姿勢を正し左手を腰に当てて支援の要請をする。

オリバー卿は跪くと、

「私達、アキナシ家はローゼマリー殿下に以後、忠誠を誓います」

仰々しくも宣言をする。

これはあくまで建前だ。アキナシ家が忠誠を誓ったとしても、ローゼがこの地を統治できるわけではない。此度の王選での支援を表明する意味でしかないのだ。

それでも、ローゼにとって初めてともいえる領主からの支持。これは目標達成に向けた大きな第一歩。

アキナシ領の領民たちから、割れんばかりの歓声が上がる中、ローゼは束の間の勝利の余韻に右手を強く握りしめた。