作品タイトル不明
第27話 ギリメカラ・ブートキャンプ その1
(な、何が始まるというのだ?)
カイ・ハイネマンの指示(強制)により、フェリス様がタイタンとともにアキナシ領へと向かってほどなくルーカス達、風猫の全員の視界が歪むやいなや果ても見えぬ荒野の様な場所に移送されていた。
そして、ルーカス達を包囲する幾多もの超越者たち。しかも、先ほどの剣の道に参列していた存在の軽く数十倍はいる。超越者たちはまるで値踏みするようにルーカス達を観察していた。
それは、まさに蛇に睨まれた蛙の心境だ。当然だ。あれほど圧倒的強者だった黒色の骸骨――デイモスリッチさえもまるで子ウサギのように直立不動で震えているのだから。きっと 一柱(ひとり) 一柱(ひとり) がタイタンなど比較するのもおこがましい絶対強者なのだろう。
そんな中――。
「私たちをどうするつもりっ⁉」
黒髪の少女マァヤが果敢にも正面に両手を腰に当てた状態で立ち塞がっている鼻の長い怪物に金切り声で問いかける。
鼻の長い怪物はマァヤに答えようともせず、背後の超越者たちに振り返ると、
『この者共に我らの加護を与え、鍛えよ! それが偉大なる 御方(おんかた) の 神言(かむごと) だ。いいか、繰り返す! これは 神言(かむごと) なのだ! その神意は必ず、天地神明に誓って達成せねばならん!』
血走った三つの目で、両腕を広げて大気を震わせるような大声を上げる。
『わかっとるわ! 一々、大声を上げんでも聞こえとるっ!』
数多の竜たちの集団の先頭にいる七つ頭の黄金の竜が、鬱陶しそうに片方の眉を上げて声を上げた。
『俺っちは一向に構わないが、見たところ80程度しかいない。誰が加護を与えるんだ? みたところ人間だろうし、付与できる加護は一つだけだろ? 御方(おんかた) 様の命なら俺っちだって引くわけにはいかねぇぜ?』
額に角のある三白眼の長身の男の言葉に途端にただならぬ緊張感が立ち込めて、デイモスリッチの骨のする音が三割増しとなる。
『わかっておる。だからこそ、いつものクジで決める。あとくされがなくていいであろう?』
『はー、結局、運かよ。ま、もめたときはクジ。この数万年、俺っちたちは、ずっとそうしてきたし、異論はねぇーよ』
額に角のある三白眼の男が欠伸をすると、右手に持つ徳利をクピクピと飲む。
『ギリメカラ、 御方(おんかた) 様はこのものたちに力を与えて何を成そうとしておいでなのだ?』
七つ頭の黄金の竜の興味深々な問いに、
『現在我が呪界の外にいる人間どもを駆逐することだ』
鼻の長い怪物、ギリメカラはそう即答する。
『人間ごときを? わざわざ、儂らの加護を与えてまでか? それほど外の人間は強いのか?』
頓狂な声を上げる七つ頭の黄金の竜に、ギリメカラは首を左右にふると、
『弱い』
ただ一言答える。
『ふーむ、じゃとするとどういうことじゃ?』
七つ頭の黄金の竜が眉を顰めて尋ねると、ギリメカラは顔を凶悪に歪め、
『ラドーン、わからぬか? 御方(おんかた) 様のお望みとなるのは徹底的でかつ、慈悲など一切ない蹂躙。それこそ、我らの偉大なる神に刃を向けたことを永久に後悔するようなだ。それには加護ではたらん。たらんのだよ!』
両手を天に掲げると熱の籠った声を張り上げる。
ギリメカラの叫びに一瞬の静寂。そして――歓声が爆発した。
『そうか! 虫けらさえも全力で徹底的に捻り潰す! 流石は我らが偉大なる 御方(おんかた) 様だ!』
『そこにしびれる、憧れるぅぅ! 流石は我らが偉大なる主様!』
『いいだろう。我が徹底的に鍛え直してやる!』
客観的にみても異様な雰囲気の中、ギリメカラは満足そうに頷くと、
『そこでだ。ノルン、説明せよ!』
脇にいる12、13歳くらいの顔のほとんどを白髪で隠された少女に視線を落とす。
『あい! ここはノーちゃんの領域でしゅ。ここでの生活で、時の流れは5000分の1となるのでしゅ』
白髪の少女は得意げに叫ぶと、超越者たちが歓喜に包まれる。
嫌な予感がする。猛烈に嫌な予感が……。全身を虫が這い上がってくるそんなあり得ぬ錯覚にさいなまれながら、
「我らをどうするおつもりか?」
ルーカスは尋ねていた。いや尋ねざるをえなかった。ギリメカラは満面の笑みで、再び背後の超越者たちに振り返りると、
『教育の陣頭指揮は我がやるよう 御方(おんかた) 様から直々の勅命を受けておる。貴様らも異論はないな?』
他の超越者に了承を求める。
『 御方(おんかた) 様の御意向ならしかたないか』
『なら、僅かの間、我に任せてもらおう。こ奴らはまず、かつての我同様、加護以前の問題のようなのでな』
他の超越者たちは、がっくり項垂れ、捨て台詞を吐き出しながらも、荒野を次々に去っていく。
他の超越者たちがいなくなり、ギリメカラははじめてルーカス達にその三つ目を向けると、
『我はギリメカラであーーる!』
鼓膜が破裂するような大声を張り上げる。
『我がこれから貴様ら価値のないミジンコどもの教官だ!
我は貴様らを心底蔑み、憎んでいる! 一切の躊躇なくその腐った果実のような根性と弱い精神を叩き、潰し、完膚なきまでに粉砕する! 貴様らも我を憎んでくれて結構。それは我にとって最大の幸福であり至福である!』
悪夢のような言葉を吐き出し、ルーカス達の修練という名の拷問は開始される。