軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

467.魔物討伐部隊の新人隊員達

「世の中、うまくはいかないものですね……」

青空の下、エラルドが深いため息をついた。

ここは魔物討伐部隊の訓練場。

昼過ぎに王城に来たダリヤは、グラート隊長に挨拶をしようとし、ちょうどそれを聞く形になってしまった。

ヴォルフが午前中に遠征から戻った、それを知ってうれしかった気持ちが固まる。

何かよくないことが起こったのか、もしや大型の魔物の出現か、そう心配になったとき、エラルドが再び口を開いた。

「あれだけ走り込みや腕立てをしても、寝ている間に無意識に筋肉痛を治癒してしまうとは。がんばってもがんばっても、まったく筋肉がつきません……」

「治癒魔法持ちは、大怪我をしたときに意識しなくても治してしまうものだとは聞いていたが、筋肉痛もだったか」

部下の嘆きを聞きながら、グラートが苦笑する。

どうやら、エラルドの懸命な鍛錬は、筋肉に変わる前に治癒されてしまうらしい。

「エラルド、深酒をして寝てみてはどうだ?」

「もう試しました。まったく効果がありませんでした」

「仕方がない、この際、魔法が使えないよう、横になれるぐらいの魔封箱で寝ろ」

「魔封箱は空気穴がないではないですか。そのまま棺桶になりますよ」

「 蘇生(そせい) 魔法の練習にいいかもしれんぞ」

にやりと笑ったグラートに、エラルドが思いきり眉を寄せる。

「グラート隊長、私が隊員になってから容赦がなくなりましたよね?」

「当たり前だ。仲間だからな」

「くーっ!」

さらりと返された言葉に、エラルドが片腕を顔に当てて泣く真似をする。

本日は隊長の方が『からかい役』らしい。

「ダリヤ先生、手間をかけるな」

こちらへ顔を向けたグラートが、切り換えるように自分の名を呼んだ。

「いえ、お声がけをありがとうございます。新しき隊員の始まりの日にお呼び頂けましたこと、光栄に思います」

「男爵の振る舞いも板についたのではないか?」

「まだまだです。舌を噛まないように必死ですので」

そう答えると、笑顔だけで応じられた。

本日ダリヤが呼ばれたのは、新隊員の顔合わせだ。

隊長からの手紙には、『新隊員二名の顔合わせをする、予定があれば無理をしなくともよい』、とあった。

だが、隊の相談役としてやはり参加したい、ダリヤはそう思ってこの場に来た。

同じ相談役のヨナスは、すでに訓練場の奥にいる。

副隊長のグリゼルダと共に盾を持っているので、裏に貼る衝撃吸収材の調整だろうか。

いや、二人とも楽しげに笑っているので、すでに終わって話をしているだけかもしれない。

訓練場では、いつも通り隊員達が打ち合いをしている。

そこにはヴォルフ達もいた。

通常、遠征から戻った者達はすぐ休みだが、今日は顔合わせに参加、その後に鍛錬とし、明日からの休みに一日追加になるそうだ。

自分に気づいたヴォルフが笑顔で片手を挙げたので、ダリヤも右手をちょっとだけ挙げる。

そこへ、集合の声がかかった。

訓練場の隊員達が駆け足で集まり、整然と隊列を組む。

ダリヤは隊列の向かい、騎士服のヨナスの隣となった。

二人の肩には魔物討伐部隊の黒いローブが乗る。

その重みに、少しだけ慣れた気がした。

「これより、新しく入る騎士の紹介を行う!」

そう言ったグラートの横に、二人の騎士がいる。

見た感じはヴォルフの同世代と、それよりも一回り上ぐらいか。

どちらも見知った顔ではなかった。

「リカルド・ラヴァエルと申します。魔物に不慣れで何かとご迷惑をおかけすることと思いますが、ご指導のほど、よろしくお願い致します」

暗緑(あんりょく) の髪をした、年上の騎士が笑顔で挨拶をする。

隊員達が一様に笑みを浮かべ、中には納得したようにうなずく者もいた。

すでに知り合いなのかもしれない、そう思える距離感だ。

「ロドヴィーズ・カノーヴァと申します。昨年の非礼をお詫び申し上げます。不出来な新人ゆえ、ご指導の程、どうぞよろしくお願い申し上げます」

続いて、赤茶の髪の若い騎士が深々と頭を下げる。

難しい 表情(かお) となった隊員達が数人いた。

名乗りを聞いたことで、ダリヤもわかった。

昨年、ヴォルフに怪我をさせるように言った第一騎士団の騎士――

いろいろな誤解があった、謝罪を受けたので許した、ヴォルフからそう聞いたので、構えることはない。

だが、あまり印象がよくないのは確かだ。

「アルフィオ 中隊長(ちゅうたいちょう) 、二人の指導を頼む」

「承りました!」

隊長の言葉に、指名された隊員が応える。

ちなみに、『中隊長』は新しく追加された役職だ。

隊の人員増加と分けての活動をスムーズにするためとのことだ。

そこで顔合わせは終わり、隊員達は列を崩した。

「ラヴァエル殿、ようこそ魔物討伐部隊へ。まさか第二騎士団を辞してこちらにいらっしゃるとは思いませんでしたぞ」

「皆様、私は新人ですので、ご遠慮なく。『リカルド』とお呼びください」

「では、リカルド殿、儂も新人隊員ですので、『ベルニージ』と」

ダリヤの近く、初々しさの感じられぬ新人隊員達が話を始める。

「第二騎士団副団長のお立場より、魔物の魅力にひかれましたかな?」

笑って尋ねるのはレオンツィオだ。

リカルドが、そのモスグリーンの目を伏せた。

「第二騎士団に一切の不満はありませんでした。ただ、この年になっても 堪(こら) え性が足りず……」

「ほう、何か『やらかし』を?」

そっと尋ねたレオンツィオに、リカルドも声を一段低くする。

「第一騎士団の若手達が、自分達が行けば、もっと早く 九頭大蛇(ヒュドラ) に対応できたと言うので、それほど強いならぜひ手合わせをしてみたいと思いまして。申し出たところ、お受け頂いたので、つい、やってしまい……」

「勢いで、 殺(や) ってしまったと?」

「そこまではやっておりません!」

イントネーションの違うささやきは、強い声で否定された。

周りの隊員達が、ちらほらとそれを見始める。

「加減はしたつもりですが、出してきた魔力の割合に身体強化が薄く、相手がまだ若く、実戦に不慣れだったようで……」

「なるほど、第一騎士団の 若人(わこうど) 達が魔力頼りで予想外に弱すぎ、手を抜いたつもりで抜き足りなかったと」

「弱者に対するいたわりが足りなかったわけですな」

ゴッフレードとレオンツィオが、それぞれにうなずく。

あー、と口だけが動いた隊員が何人かいた。

「それで、リカルド殿は 責(せき) を追及されたわけですか?」

「いえ、騎士仲間に怪我を負わせたことを反省し、自分から退団を申し出ましたが、団長の許しが得られず――思うところがあり、魔物討伐部隊の新人から騎士の道をやり直したいと申し出ました」

「相手が生きておったなら治癒魔法で回復したじゃろうに。一対複数を理由に、 禍根(かこん) なしに持ち込めなかったか?」

王城の鍛錬であれば、怪我をしても治癒魔法がすぐ受けられる。

むしろ相手の言動と人数の方が問題だろう、そう思ってしまう自分も、やはり魔物討伐部隊員かもしれない。

「骨折は治癒魔法ですぐ回復したそうですが、その、三人とも、翌日から登城していないそうで……」

「折れた骨はつながったが、心は砕けたままか」

「うまいですな、ベルニージ様」

表現はともかく、いろいろと駄目なのだけはわかった。

「今回のことを、ご家族は?」

「大変叱られました。特に妻には、考えが浅すぎると、強く……」

ふるりと肩を揺らしたリカルドに、かなり怒られたであろうことが想像できる。

家族の生活もあるのだ、当然だろう。

「思慮深い方のようですな」

「はい。なぜ日を改めて、魔物討伐部隊との集団訓練を設定し、若人に正しい騎士教育を施さなかったのだと、 懇々(こんこん) と 諭(さと) されました……」

「できた 細君(さいくん) じゃな。細君も騎士か?」

「近衛で王太子妃の警護をしております」

「道理で、的確な注意を頂けるわけです」

そこから妻が怖い、訂正、各自の妻から受けた注意の話になったので、ダリヤはそっと視線をずらす。

もう一人の騎士、ロドヴィーズの横には、ヴォルフやドリノがいた。

素の笑顔で話しかけているところを見ると、本当に許したのだろう。

ダリヤとしては、まだひっかかる思いはあるのだが、内にしまうことにする。

元第二騎士団副団長、元第一騎士団の騎士――

彼らは魔物討伐部隊の頼れる即戦力になるだろう、今はそちらをありがたく思うことにした。

「ダリヤ先生、お忙しいところありがとうございます」

副隊長のグリゼルダに声をかけられたので、挨拶を返す。

彼は、まだ話の途中であろうヴォルフ達へ目を向けた。

「ヴォルフにも、いずれ『中隊長』となってもらいたい思いはありますが、 赤鎧(スカーレットアーマー) を脱いだら、ロセッティ商会へ就職するそうなので」

「あ、はい、その、予定で……」

唐突に話の向きが自分へきた。

ヴォルフはとても有能な騎士だ。

それを引き抜く形になるのは申し訳ない。

けれど、どうしてもロセッティ商会に入ってもらいたいのも確かで――

ダリヤは 表情(かお) を取り繕うこともできぬまま、必死に答える。

「ですが、そこからは二人そろって、魔物討伐部隊のために尽力致しますので!」

グリゼルダは見上げるほどに背が高い。

慌てて答える自分に、優しい微笑みが下りた。

「 赤鎧(スカーレットアーマー) は負担が大きいので、もう数年でしょうか。有能な隊員の引退は残念ですが、そこからはお二人、どうぞ末永くよろしくお願いします、ダリヤ先生」

やわらかな声と共に、春の終わりの風が吹く。

庶民と貴族、民間の魔導具師と王城騎士団の騎士。

立場の離れたヴォルフとは、いずれ疎遠になるかもしれない、そう覚悟してきた。

けれど、続く明日を望むことは、もう遠い夢ではなく――

自分では気づかぬまま、ダリヤは満開の笑みを返す。

「こちらこそ、末永くよろしくお願い申し上げます、グリゼルダ副隊長」