軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

238.イエロースライムと至高のクッション

「こちらが武具開発、兼、魔導具制作工房となります」

ヨナスに案内されて来たのは屋敷内の奥、花々の咲く庭が見える部屋だった。

ダリヤはすでにここに何度か来ているが、それでも心が躍る。

壁の一面は素材をストックする棚だ。

一般的な魔導具関連の素材の他、多数の稀少素材も入っている。

実験に向いた硬質な大きい机、座り心地のいい椅子。床は滑らぬように刻み模様をつけた水色の大理石、窓は光の反射を抑えた水色水晶入りガラス。

実験で遮光が必要なときに対応し、カーテンは白と黒の二枚。

汚れたり、臭いのきつい実験も遠慮なくできるようにと、続きの小部屋もある。壁のドアから出入りする形だ。ガラス窓から中が見えるので、作業を外から見学することもできる。

いたれりつくせりの上、緑の塔の仕事場とは比較にならぬ豪華さである。

ヨナスに続いて部屋に入るのはベルニージ、ダリヤ、ルチア、イデア。

そして、力仕事の手伝いにと呼ばれたマルチェラだ。

確かに、スライムの粉末などが入った大瓶や薬液は重いので、お願いできれば助かる。

また、マルチェラはイヴァーノがいないとき、護衛の他、ダリヤの補佐もしてくれている。

魔法や魔導具のことをもっと知りたいと言っていたので、ちょうどいい機会かもしれない。

楕円のテーブルを六人で囲むと、ダリヤは鞄から書類を取り出した。

「こちらがイエロースライムの布に関する仕様書と実験結果です」

王蛇(キングスネーク) の抜け殻の粉、ローヤルミント液、 鎧蟹(アーマークラブ) の酸。

それで基本の薬液を作り、イエロースライムを加えて魔法付与する。

使用できるのは、イエロースライムの一級か二級の粉のみ。

五級まである中で、一級と二級は合わせても全体の一割だという。なかなかに貴重だ。

実験結果については、まだ簡易版である。

布としては耐久性が少し上がる程度、クッション状にすれば衝撃が減らせる。

ただし、衝撃に関して、今世に計測装置はないので、具体的な数値は出ない。

一定の高さから卵を落としても割れない、刃物が刺さりづらいなど、具体的な事例を書くしかなかった。

「この、刃物が刺さりづらいというのは? 刺さらないわけではないのだろう?」

「刃物が大きいほど、弾力で刺さりづらく、斬りづらいです。針のように鋭利な物は変わりありませんが」

「加工時にハサミは使えないとかはありませんか?」

「ゆっくり切れば問題ありません。刃物もゆっくり刺せば刺さります」

「ということは、魔物の防御にはかなり有効になりそうだな」

元副隊長からうれしい話を聞いた。

これは試作の防具を片端から準備したいところだ。

「三級以下のイエロースライムは使用に耐えないとありますが、どうなるのでしょうか?」

「これです。こんなふうにヒビが入って、ぼろぼろになってしまいます」

ダリヤは厚手の布をテーブルにそっと置くと、指先で軽くつつく。

多数のヒビが見えた後、ぼろぼろと落ちてくる。

「触って頂くとわかりますが、あまり弾力がありません」

「これ、耐久性もあんまりなさそう……あ、すみません! なさそうですね」

ルチアが素で話し、慌てて謝罪する。視線の先はベルニージとヨナスである。

「儂を気にしているのなら、いつもの口調でかまわんぞ。せっかくの円卓だ、皆、工房の中では楽に話し、忌憚なく意見を述べ、話し合うこととしないか?」

「ありがたいお言葉ですが、ドラーツィ様に対して不敬にはならないかと……」

「全員、ベルニージでかまわん。儂はとうに隠居した老体だ、ドラーツィ家としてここにいるわけでもない、武具開発部門に入れてもらったばかりの新人だからな。いっそ全員、互いに名前呼びでいいのではないか。だが、そうだな……気にかかるようであれば、後で公証人を入れて『不敬を問わず』と全員分の誓約書を作るが?」

「いえ、ベルニージ様にそうおっしゃって頂けるのであれば、甘えさせて頂きます」

そう返したのはヨナスだった。

この場で貴族について最も詳しいのはおそらく彼だ。ダリヤ達は視線を交わし、うなずいた。

「よろしくお願いします、ベルニージ様」

「では、話を続けてくれ。『ダリヤ先生』」

けほりと口から少し空気が出たが、声は出さずに耐えた。

少しは自分も商会長スキルが上がっていたらしい。そう思いたい。

「で、では、続けます。こちらが先ほどもご覧頂いた布です。少し弾力があります。こちらが厚くしたタイプですが、薬液を厚めにし、魔力を付与する際、一気に多めに入れております。ゆっくりにすると、液が流れてしまうようですので」

布と共に茹でた卵黄のような黄色いクッション材をテーブルに出すと、各自指先で触れる。

スライムを硬くしたような独特な感触だが、そろそろ慣れてほしいところだ。

感心する顔、納得のいかぬという顔、疑いを込めた顔、真剣な顔、いい笑顔。すべて別の 表情(かお) が並ぶのにそう思う。

「これは、途中に層があるようだが?」

「はい、魔力付与を三回に分けて行っておりますので、そのためです」

横から見ると、薄く層になっているのがわかる。

横から裂こうとかなり力を入れると、その部分から剥がれて分かれるだろう。

「一気に魔力を入れたら一層になるのでしょうか?」

「そうだと思います。残念ですが、私の魔力出力ではそれが限界で……」

魔力が十あってもこれである。

それなりの魔力がある魔導師に依頼するしかないだろう。

「せっかくだ、ここに粉はあるのだろう? 試してみればいい。儂も多少は付与ができるぞ」

「ベルニージ様は、魔導具関係の付与を?」

「いや、魔導具はまったくわからんが、付与は必要に迫られてな。若い時分は予算足らずで、隊の剣と槍に硬化魔法をかけまくったものだ」

なんともせちがらい理由を聞いてしまった。

昔の魔物討伐部隊は、今以上に大変だったらしい。

「素人の疑問ですが、思いきり魔力を強く流したら、三級以下のスライム粉も少しは固まるということはないでしょうか? 鍛冶関係ですと、柔らかめの金属に強い魔力を付与し、硬い金属と合わせることがありますので」

「なるほど……だと、三級以下のスライム粉も試した方がいいですね。それで駄目なら一、二級と混ぜてみるのもいいかもしれません」

ヨナスは鍛冶にも詳しいらしい。

よりよい物にするために、試せることはなんでも試してみたいものだ。

ダリヤはすぐ薬剤を作ることにした。

隣の小部屋へ移動すると、マルチェラが手伝いとして付いてきてくれたので、彼と二人、マスクをする。

先日は酔っていたのでうっかりマスクを忘れてしまったが、イエロースライムの粉は粒子が細かい。マスクをしないとむせるし、うっかり吸い込むとしばらく喉がイガイガする。

ダリヤは急いで薬液を作り、最初に一、二級、次に三級、四級、五級のイエロースライム粉でそれぞれに作ってみた。

ドアの外のガラス越し、真剣なまなざしを向けてくる者達がちょっと気になったが、なんとか作業を終える。

「この中で魔力付与をしたことがある者は、どれぐらいいる?」

ベルニージの問いに、ダリヤとイデア、マルチェラが手を上げた。

ルチアは、魔力が足りなくて無理だと、残念そうに答える。

「ヨナスは? 魔力はかなりありそうだが」

「不勉強で恐縮です。私は魔付きとなるまで魔法が使えず、学院でも習っておりませんので、火の攻撃魔法しか経験がございません」

「せっかくだ、試してみないか? 硬質化が使えると、模造剣で薪がさっくり切れるぞ。杖はもちろん、椅子やテーブルの脚で敵の骨を折るにもいい」

「ぜひ、ご教授ください」

感心しかかっていたところ、なんだか危ない話になってきた。

楽しげなヨナスを見る限り冗談なのだろうが、貴族男子の会話は理解が難しい。

「マルチェラは、付与は得意かね?」

「いえ、お恥ずかしいのですが、石造りの床や階段のへこみを直すぐらいで……」

「では、そちらも私が教えよう」

「ベルニージ様、よろしいのですか? その、私のような庶民に……」

「工房でこうしてテーブルを囲んでいる者同士ではないか。それに、土魔法使いは付与が得意な者が多いのだ。土魔法は、粘土細工にレンガのような石作りと、目でわかりやすいからであろうな」

こうして、ベルニージによる魔力付与の授業が始まった。

大きい皿の上にのせられた、小さい皿。そこに少しだけ薬液を入れ、魔法を付与する。

量が少ないので、失敗しても危険度は低い。

「最初は利き手の手のひらに魔力を集める感じでな、そこから平らにする感じにするのだ。攻撃魔法ではないから、上澄みの魔力だけを、指先からこう、強めにバーンと入れるのだ……!」

魔法での付与が得意でも、教えるのが得意だとは限らない。

老人のすばらしく感覚的な教え方に、二人の眉間に皺が寄る。

それでも右腕を取られて魔力を流されたことで、ヨナスの方は理解はできたらしい。

「こう、でしょうか?」

ヨナスが手をかざした小皿の上、薬液がチリリと鳴いた。

赤い陽炎に似たものが一瞬浮かび、すぐにかき消える。

大皿の上に小山となって現れたのは、赤い大粒の砂だった。

「……申し訳ありません、失敗です。焼けてしまったようです」

「いや、液はちゃんと変化したし、焦げてはいないのだ。魔力自体はきちんと入ったではないか。最初なのにたいしたものだ。数さえこなせば絶対にいけるぞ!」

「……はい」

その言葉を聞きながら、ヨナスが右手をしっかり握りしめている。

訂正する。ベルニージは教師になるべきかもしれない。

「次、マルチェラ。強めにガツリと入れてみろ」

隣のマルチェラにも同じように腕を取って言うと、彼が復唱した。

「強めにガツリと……!」

ぷわり、少々甲高い響きと共に、 亜麻(あま) 色の物が四散した。

正面にいたダリヤに、数粒が跳ね飛んで来る。

床一面に転がるのは、豆粒ほどの丸い球。

「ダリヤちゃん、大丈夫か?! 悪い、魔力を込めすぎた! ……失礼しました、会長……」

「大丈夫だから、気にしないで」

咄嗟に出た言葉に、マルチェラが慌てて謝る。

付き合いが長く、今までの口調が出てきてしまうのは仕方がない。

「……ダリヤ先生は、マルチェラと個人的に親しいのか?」

ベルニージが確認するように声をかけてきた。

マルチェラの下町らしいくだけた口調が気にかかったのだろう。ダリヤはすぐ説明する。

「私が商会長になる前から、夫婦ともに友人です。奥様は私の幼馴染みですし、マルチェラはロセッティ商会を立てるときに保証人にもなってくれました」

「そうであったか」

疑問はすぐに解けたらしい。ベルニージが納得した顔をしている。

床に転がったビー球ほどの丸い球は、ルチアがすぐに 箒(ほうき) で集めてくれた。

ちりとりの中、ころころと転がる薄茶の球が、妙に気にかかる。

「これ、液に土魔法の入った魔力をもっと一気に流したら、さらに細かくなるのかしら……?」

「スライム粉の性質を確認するんですね!」

「ならば儂が、土魔法も込めた魔力を一気に入れてみるか? ついでだ、三等級のスライム粉も試してみよう」

「お願いします、ベルニージ様」

ベルニージの前のテーブル、大きな皿を置く。次に小皿に少し多めに薬液を流し込むと、大皿に重ねた。

ベルニージは右手のひらを皿に向けると、わずかにひねった。

ぷわん、マルチェラのときよりも甲高い響きがして、大皿に 亜麻(あま) 色が積み上がる。

連続で、三等級以下のスライム粉でも試す。

色は微妙に違うが、大皿に積み上がるのは 亜麻(あま) 色から薄い茶までの、極小の粒ができあがった。

「イエロースライムがこんなふうになるなんて……もしかして、入れる魔力の系統で違うのでしょうか……それと出力の量が……」

ノートにメモを取りながら、イデアがぶつぶつとつぶやき始めた。

「ダリヤ、これ触ってもいい?」

「ええ、一応手袋はしてね、ルチア」

「さらさらね……粒も柔らかくはないし、これじゃクッションに入れても弾力は出ないわね。破けたら掃除が大変そう」

「……あ」

さらさらで弾力はない、硬めの細かな丸い粒――前世、自分の部屋で使っていた物が脳裏をよぎる。

「ベルニージ様、申し訳ありませんが、同じような魔力の込め方で、この二倍の量をお願いできますでしょうか?」

「かまわん。百倍と言われても余裕だ」

さすが元侯爵、桁が違う。

ダリヤは皿にたふりと薬液を足す。

余裕の言葉通り、ベルニージは呆気なく追加の粒を仕上げてくれた。

ダリヤは礼を言い、それを大判のハンカチで包み込む。

上部をきゅっと結ぶと、横からそっと握ってみる。

手に戻る感触は、独特のむわりとした弾力。

笑い出してしまいそうになるのを、なんとかこらえた。

「ダリヤ先生、弾力も落ちるわけですし、粉では鎧の裏には向かないかと……」

「よほど丈夫な布に入れぬと、鎧の下で破ける確率が高いぞ」

ヨナスとベルニージが困惑した顔で止めてくる。

「これは服飾ギルドの方で使えるかと思いまして……ルチア、これ、触ってみて」

「ええ」

粒を入れ、上を縛ったハンカチを渡すと、彼女はそっと触れた。

そして、その後に握り、握り、握り……口角は鋭角に吊り上がった。

「ダリヤ、これ、楽しいわ……」

ルチアが笑顔なのに怖い。露草色の目がらんらんと輝いている。

彼女はそのまま粒入りハンカチを握って立ち上がると、ベルニージにつかつかと近づいた。

「ベルニージ様、あと百倍いけるとおっしゃっていましたよね? この粒、いっぱいいっぱい作ってください! できましたら今すぐに!」

「あ、ああ、かまわんぞ」

ルチアの気合いに呑まれたらしい彼に、ただただ同情する。

あと、横で苦笑しているマルチェラと、気配を絶っているようなヨナスがなんとも言えない。

イデアは先程からノートに何かを綴っており、まだ戻って来ていない。

「ダリヤー、薬液百倍分ちょうだい!」

「わかったわ」

自分にも声がかけられたので、マルチェラと共にまた小部屋に入り、追加を急いで作った。

薬液を仕上げると、ルチアがベルニージを連れ、小部屋に入って行く形で交代した。

ルチアの手には大きな白い布と糸と針。どうやらもう入れ物を縫い始めているらしい。

「もしかすると、魔力の種類と出力が違うと、できあがりが変わるのかもしれません。

ちょっと失礼します。私は少し水魔法がありますので……」

イデアが大皿の上で付与を行うと、かなり薄いグリーンの小石のようなものができあがった。

触ると微妙に柔らかい。

「これは……?」

「イエロースライムに水魔法だと、ベルニージ様とはまた違ったものになるようです。ヨナス先生、さっきのは失敗ではなくて、逆に正解だったのだと思います。一度の出力が高いほど小さい粒になり、魔力の種類によってできあがりが左右されると予想します」

「イデアさん、それだと、もしかして、ブルースライムも基礎魔力が違うと、変わるものでしょうか?」

「ダリヤさん、それ、試してみましょう!」

その後、ダリヤはブルースライム粉を入れた防水布の薬液を、急いで作った。

そして、ヨナスとマルチェラ、イデアで、火と土と水の魔法を付与して確認する。

残念ながら、どれも液体のまま、ただ濁って終わった。

「どうしてこういった変化は、イエロースライムだけなのかしら?」

「土は水気を吸い、風で乾燥すれば飛ぶといった性質だからでは? 水は水を吸わないし、乾燥したらなくなる――」

ダリヤが残念がっていると、マルチェラに仮定を示された。

そう言われてみればとても納得できる。

しかし、今日はとてもありがたい。

自分一人でやっていたのでは絶対にわからないこと、実験できないこと、考えつかなかったことが、夢のような早さで進んでいく。

「ダリヤ先生、レッドスライムとグリーンスライムの粉も出しますか?」

「お願いします、ヨナス先生」

「一応、ブラックスライムの粉もありますが」

「いえ、それはやめておきます……」

ふと、脳裏を心配顔のヴォルフがよぎった。

同室の方々を粉とはいえ、ブラックスライムの危険にさらすのは駄目だろう。

どうしてもやってみたいときは、同席者とポーションとをしっかり準備することにしよう。

そうこうしていると、ルチアが小部屋から飛び出して来た。

背後から、青い顔のベルニージが杖を使いつつ、どうにか歩いてくる。ヨナスが早足で補助に向かった。

「至高のクッションができましたー!」

「至高のクッション?」

「ほら!」

部屋の床、大きな四角いクッションを置き、ルチアが抱きつく。

音もなくぐにゃりと形を変えた白いクッションが、その身体を支えた。

残念だが、見ただけではわからない。

「ダリヤ、ちょっと試して!」

腕をぶんぶん振って呼ばれたので、素直に行き、クッションに座ってみた。

しゅるりと砂のごとく形を変え、てろりと自分を支えてくるクッション。

体勢を変えても、すべてぴたりと密着してついてくる。

できるなら、このまま両手ですがりつき、そのまま目を閉じたい感触だ。

前世、自分が部屋に置いていた、リラックスできると評判の大型座布団。

『人に怠惰を教えるクッション』と瓜二つ。

いや、それよりもさらに流動感があり、フィット感は上。

まさに『至高のクッション』である。

「……皆さん、順番にお試しください」

このままころりと抱きつきたいのをこらえ、ダリヤはようやく立ち上がった。

ベルニージが行く。

クッションに座ると、ほう、と感嘆の声を上げる。

そして体勢を変え、目を閉じて動かなくなった。

しばらく立ち上がるのが辛そうだったのは、膝のせいではない気がする。

その後すぐ『中の粒々を作るのでクッションをもう一つ』とルチアに相談していた。早い。

ヨナスが行く。

一度持ち上げ、それからゆっくり座り、何度か場所を変える。

そして、何故か立ち上がり、持ち上げて、クッションを抱きしめていた。

無表情だが、あちこちをむにむにと握っているあたり、感触が気に入ったのだろう。

そのうち、小さいクッションを作ってプレゼントした方がいいかもしれない。

イデアが行く。

一度座ると、『素敵です!』と、大変いい笑顔になった。

そして、一度立ち上がると、今度はうつぶせでクッションに抱きつく。

うふふふふ……と、とても幸せそうな声が続き――ずっと途切れない。

マルチェラが『私はしばらく後でいいです』と言ってきたので、そっとしておくことにした。

この試作品は、今日イデアに持ち帰らせた方がいい気がする。

「なんというか、予想外の感触だ。くつろげるという点では、まさに『至高のクッション』だな」

「とても安心感を得られるクッションですね」

「ダリヤ! あれ、凄いわ! それに、うまくすると胸のパッドに」

「ル、ルチア、それに関しては後で話し合いましょう」

「あ、そうね! 触り心地を比べながら作った方がいいわよね」

「っ……!」

マルチェラが耐えきれずにうつむき、片手で顔を隠した。その肩が小刻みに揺れている。

ベルニージとヨナスの無表情に関しては、貴族の訓練の賜物かもしれない。

なお、ダリヤは顔が作れなくなったため、大皿と小皿の片付けに一度立った。

「ところで――そちらの薄いグリーンは、グリーンスライムに付与をしたものか?」

「いえ、ベルニージ様、そちらはイエロースライムに水魔法を付与したものです。ブルースライムを使っている防水布の薬液でも試してみたのですが、変化なしでした」

「イエロースライムに水魔法を付与したものの方は、私の魔力が足りないせいかもしれません。やっぱり高い魔力付与で、四系統を確認してみたいですね」

ようやく椅子に戻って来たイデアが真面目な顔で言う。

しかし、まだクッションを抱き、テーブルから後ろに下がった状態なので、説得力がない。

「火・土・水・風の四系統に、できれば氷魔法を追加して……魔導師さんにお願いしなければいけませんね」

「ダリヤ先生、火は私が頑張ってみますので、些少なら今日お手伝いできるかと。水と氷は後でグイード様にお願い致しませんか?」

「ありがとうございます、ヨナス先生!」

「水と火の魔法なら冒険者ギルドのスカルラッティ殿が得意なはずだ。大型の魔物も煮られると聞いたことがある。あと、風魔法はジェッダ殿がお持ちだが、今は商業ギルド長なので使っておられるかどうか……」

なんと、火・土・水・風・氷魔法持ちが一堂に会している。

しかも全員貴族である、魔力もかなり高そうだ。

素材もここならたっぷりある。

こんないい実験の機会は滅多にない。いや、二度とないかもしれぬ。

「しかし、まさかあちらの皆様にお願いするわけにも――」

「ちょっとお願いしに行ってきます!」

「ダ、ダリヤちゃん!」

立ち上がって駆けるように部屋を出るダリヤを、マルチェラが追いかける。

目を丸くしたベルニージ、眉間に指を当てるヨナス、うなずくルチア。

イデアが一人、尊敬のまなざしをドアに向けていた。

「あの方々にお願いしに行くなんて……本当に勇気がありますね。やはりダリヤさんは凄い商会長です」

凄いと言うべきか、蛮勇と言うべきか。

ダリヤの視界は今、思いきり狭くなっているだけだ。

ただ、友であるルチアには、はっきり言えることがあった。

「あれは商会長と言うより、どうしようもなく魔導具師のダリヤよ」