軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

198.人工魔剣制作6回目~疾風の魔剣

「オズヴァルド先生が、 炎龍(ファイヤードラゴン) の 鱗(ウロコ) を探していて……」

緑の塔の二階、ダリヤはヴォルフと昼食を食べながら、昨日あったことを話していた。

「ヨナス先生なら大丈夫だと思うけど。念の為、聞いてこようか?」

「お願いします。使い切りの指輪に付与するのが、ご不快だといけないので……」

ヨナスは 炎龍(ファイヤードラゴン) の魔付きで、腕に赤い鱗がある。

ダリヤはその鱗をもらったが、使い捨ての指輪に付与することを彼がどう思うかわからない。それに、自分が使うのではなく、オズヴァルドに渡すことになる。

ヨナスは魔付きを隠していないと言っていたが、やはり気にかかった。

「わかった。次の剣の練習日に聞いてくるよ。あれ? ダリヤ、このパイは苦手?」

コーヒーと共に並ぶのは、きれいな円形のサーモンパイだ。

パイの上に生地で魚模様が描かれているのがとてもかわいらしい。

ヴォルフの差し入れで、屋敷の料理人が作ってくれたものだという。

鮮度のいい鮭とほうれん草、そしてたっぷりのクリームが入っていて、とろりと濃厚だ。

とてもおいしいのだが、一切れが大きめで、二切れ目に進むにはカロリーが気になる。

「いえ、すごくおいしいです。ただ、その、最近ちょっと運動不足で……」

少しウエストが気になる、そう言えずに語尾を濁す。

目の前のヴォルフは、いつも自分の倍以上は食べるが、一欠片も贅肉はない。鍛錬と討伐の成果だろう。

だが、ちょっとうらやましい。

「運動か……乗馬はどうだろう?」

「乗馬ですか? その、運動神経がなくても、馬って乗れるものです?」

馬車をひく 八本脚馬(スレイプニル) ならば、御者として指示をしたことはある。

だが、馬に直接乗ったことはない。バランス感覚に自信がないため、落馬しそうで少々怖い。

「乗馬は慣れじゃないかな。貴族女性でも趣味にしている人はいるし。結構楽しいと思うよ。いい運動になるし」

前世の自転車やバイクに乗る感覚だろうか。

今世、最大スピードが急ぎの馬車なので、今ひとつぴんとこない。

「うちにも馬がいるから、試しに乗ってみる? 馬車で行けない道も通れるから、慣れたら森や山へ素材を探しに行くのもいいと思う」

「いいですね! あ、でも、魔物が出ませんか?」

「王都の近くなら強いのはいないし、出たら俺が素材にする。あとは、護衛犬を借りて行けば大丈夫だと思う。不安なら、追加の護衛を頼むよ」

「いえ、大丈夫です」

素材を現地に実際に採りに行く――それができたら、とても楽しそうだ。

これはなんとしても乗馬を覚えなくてはいけないだろう。

なお、馬で出かけるのにヴォルフが最初からセットになっているが、二人ともそれにはふれなかった。

・・・・・・・

食後、作業場に下りると、短剣や付与素材をテーブルに並べる。

こうして作業机の前に並ぶのも久しぶりだ。

「ここしばらく空いてしまいましたが、今回こそ、ちゃんと機能する魔剣を作りたいと思います」

「待っていた、夢の魔剣!」

待って、まだできあがっていない。

すでにテンションの高いヴォルフに作業着を渡しつつ、ダリヤはちょっとだけプレッシャーを感じる。

人工魔剣制作は六回目。

前五回は、失敗か微妙な出来だった。

今回は魔力がまだ落ち着かないこともあり、短剣への付与を選んだ。

そして、口に出してはいないが、人工魔剣制作一回目、『魔王の配下の短剣』のリベンジである。

初回は組み立ての魔力干渉に苦慮し、ブラックスライムの塗布で対応したところ、持つと手が溶ける危ない魔剣ができあがってしまった。

今は魔力干渉の対策はわかっているし、材料と手順も問題ないはずだ。

今度こそ、魔剣と呼んでもおかしくないものを作りたい。

「今回は 一角獣(ユニコーン) の角を使うので、まず短剣にしてみます。成功したら次は長剣に戻しますので。 刃(やいば) は研ぎいらず、 鍔(つば) に水魔法で洗浄、 柄(つか) に風の魔石で速度強化、 鞘(さや) は軽量化でいいですか?」

「 刃(やいば) にも速度強化って可能かな? 振り抜きの速い短剣になると小回りが利きそうだから」

「ええ、いいですよ。効果もわかりやすくなりそうですし……あ、ちょうどいい素材があります」

ダリヤは棚から魔封箱を持ってくると、慎重に蓋を開ける。

「鳥の羽?」

「ええ、 緑冠(グリーンクラウン) という鳥の羽です」

緑冠(グリーンクラウン) は鮮やかな緑の鳥で、頭には烏帽子のような長い羽がある。

魔物図鑑で見たとき、前世の動物園で見た緑のエボシドリを思い出した。

ただし、決定的に違うのは、大きさと、魔法の有無だ。

緑冠(グリーンクラウン) の大きさは六、七十センチほど。敵から逃げるときや戦いのときは、魔法加速して飛ぶという。

緑冠(グリーンクラウン) の羽は、風魔法による速度強化ができる。

オズヴァルドから教わったばかりで、数枚分けてもらった素材だ。

柄(つか) の風魔法とも相性がいいので、相乗効果が見込めるかもしれない。

「 緑冠(グリーンクラウン) ……緑のあいつか……」

ヴォルフが額に深く皺をよせた。

「ヴォルフ、遠征で遭いました?」

「ああ、何度か。ちょっと危ない鳥だった」

「魔物図鑑には、臆病で人を見たら逃げるってありましたけど、うちの国のは凶暴なんですか?」

魔物も地域性が出る。

隣国の魔物図鑑に臆病だと書いてあっても、この国の 緑冠(グリーンクラウン) も同じだとは限らない。

「いや、普段は俺達を見ると逃げるけど、春先は気が荒い。恋の季節で雄同士が戦うんだ。風魔法を使ってかなり加速するから、たまに植物や木に刺さっていることもある」

「じ、情熱的な鳥ですね」

「雌はそれを近くの枝で並んで観戦する。そして、勝った雄に求愛しに行く。負けた雄は倒れていようが刺さっていようが放置」

「鳥の世界、厳しい……」

想像するとすごい光景だが、なんだかもの悲しさも感じる。

「で、うっかりそこに出くわすと、怒った雄に全力でぶつかって来られる。避けられないと刺さる」

「刺さるって、 緑冠(グリーンクラウン) が、人に?」

「そう。物理的に、身体的に、刃物的に、頭から」

「それ、怖いんですが……」

鳥が頭から人に刺さるとか、想像したくもない。

美しい緑の羽根を前に、ちょっと付与がためらわれてきた。

「ドリノの腕に刺さって抜けなくて大変だった。結局、腕を斬ったんだけど、せっかくだからって、 緑冠(グリーンクラウン) を焼いて食べたらおいしかったらしい。次、見つけたら獲ろうって言ってた」

「うわぁ……ドリノさん、強い……」

緑冠(グリーンクラウン) より人間が怖いと認識を改めた。

話に区切りがついたところで、椅子に座って魔剣制作を開始する。

鍔に小型の水魔石をセットできるように形状を整え、柄にも小型の風の魔石が入るようにした。

濃灰の鞘には軽量化魔法を、リボンを巻き付けるようにして付与していく。

以前よりも短時間で強い付与ができるのは心が躍る。しかし、油断すると乱れるのでひたすらに集中である。

「ダリヤ、魔力の光が眩しくなったね」

「一段魔力が上がったせいですね。まだ使いこなせてないんですけど」

言われた瞬間、ちょっとだけ魔力の方向が乱れたのは内緒である。

「次に、 刃(やいば) に、 緑冠(グリーンクラウン) を付与します」

緑の羽根にゆっくりと魔力を込めていくと、途中からふわふわした丸い綿のようになった。

鳥なのに羊毛めいた形にちょっとおかしくなるが、そのまま 刃(やいば) に付与していく。

緑の綿はみるみるうちに溶け、 刃(やいば) の中に消えた。

ふわり、一度だけ 刃(やいば) から周囲へ風が吹く。

銀色だった刀身は、森を映したような深い緑に変わっていた。

「きれいな緑だね……」

金の目を潤ませて見惚れるヴォルフに、少しだけ落ち着かなくなる。

「ええと、成功だと思うので、これに 一角獣(ユニコーン) を付与しますね」

組み立てで魔法同士が干渉しないよう、 一角獣(ユニコーン) の角の粉を素材として付与した。

幸い、前回、イルマの腕輪を制作したときで慣れたようで、問題なく成功した。

予備の粉はそのまま次回に回せそうだ。

「じゃあ、組み立てるよ」

ヴォルフは革手袋を手に、慣れた動作で剣を組み上げる。

たちまちに形になった短剣は、安定した魔力を放ちながらそこにあった。

「大丈夫そうだね」

鍔(つば) の根元を押すと、たらたらと水が流れる。 鞘(さや) の軽量化もそれなりに効いているようだ。もっとも、短剣自体、そう重くはないので、効果としては少ない。

一番気になるのは、 刃(やいば) と 柄(つか) にかけた速度強化である。

短剣を振り抜くこと自体がスイッチになっているので、 紅血(こうけつ) 設定は必要ない。

ヴォルフは立ち上がると、念の為と言って作業机から離れ、壁に向かって振った。

それほど力を入れたようには見えないが、風を切るシュッという音が響く。

彼の手は、短剣を持ったまま床に向き、ぴたりと止まった。

「これ、速度がかなりのる。かなり飛びそうだから、投げナイフ的にも使えるかもしれない」

「投げナイフって、拾ってくるのが大変じゃないですか? 使うには数をそろえないと」

「いや、引っ張って戻せるよう、後ろに紐をつけて……紐じゃ切れてしまうかな。鉄線をつけるといいのかも」

「鉄線は意外に脆いですし、錆びるので……あまり長さはありませんが、ミスリル線でいいですか?」

「ミスリルって、かなり高いよね?」

「父が使っていた余りです。少ししかなくて、整形魔法の練習で糸にしていたので。ただ、魔導具の縫い糸にするには、ちょっと歪んで使えそうになくて……」

オズヴァルドの均一な魔力付与を見て、自分も制御をあげるべく練習している。

しかし、まだまだ制御が甘い。青みを帯びた銀の糸は丸ではなく、ほんの少し平たいのだ。

よく見ないとわからないほどだが、魔導具師としてはだめな出来である。

「とりあえず、間に合わせに付けてみますね。引っ張る部分に何か把手みたいなのがあった方がいいですよね……とりあえずなので、これでいいです?」

「銀の輪……それも魔導具?」

「いえ、ただの金属の輪です。私の部屋にドアノック用の金属リングを付けようかと思ったことがあって……でも、父は私の名前を叫ぶので意味がないと気がついて、買ってそのままでした」

建具屋で衝動買いしたものだが、そのままになっていた。

せっかくなので試作に使ってみるのもいいだろう、そう思いつつ、ミスリル糸で短剣の柄と銀のリングをつなぐ。外れないように、つなぎ目は補強し、二度確認した。

室内での動作確認は怖いので、塔の庭に出る。

「短剣にミスリル糸に銀の輪。これはこれで浪漫がある魔剣の形だよね……」

「浪漫はともかくとして、木の板を出しますので、投げて試してもらえればと」

塀の前に、厚めの木の板を置く。

ミスリル糸で手が切れるといけないので、ヴォルフには、 砂蜥蜴(サンドリザード) 製で、指と掌に金属を貼った手袋を出した。父が使っていた硬い素材や刃物を扱うためのものだ。

「ダリヤ、跳ね返ってくると悪いから、下がっていてもらえる?」

「はい」

もし、木の板が割れれば、後ろは塀だ。ぶつかってこちらに跳ね返っても大丈夫なよう、充分に距離をおく。

「じゃ、投げるよ」

ヴォルフの右手が、短剣を投げる。

目で追うつもりが、短剣が消えた。

風を斬るシュンという音に続き、ガツン、バリリと音が重なり、一瞬遅れで、カンッと高い音が響いた。

何がなんだかわからない。

あわてて板を見れば、中央にヒビが深く入り、短剣は刀身が見えぬほど深く刺さっていた。

「すまない、ここまで勢いがつくとは思わなかった……」

ヴォルフは金属リングも投げてしまったという。

さきほどの甲高い音は、金属リングが塀にぶつかった音らしい。

「ヴォルフ、怪我はないです?」

「なんともない。この短剣はこのままでいいね、遠距離でも飛ばせるから、魔物と距離をとって戦えそうだ」

言いながら短剣を取りに行ったヴォルフが、板に触れ、ミスリル線を引っ張っている。

どうやら、板にミスリル線が食い込んでしまったようだ。

流石、細くても丈夫なミスリル製である。

「……ダリヤ、お願いがあるんだけど。もう一本、同じ短剣を作ってもらえないだろうか? もちろん、支払いはちゃんとする」

「ええ、いいですよ。材料がありますから、すぐ作りますね」

ひどく真面目な顔で願ってきたヴォルフに、二つ返事でうなずいた。

やはり複数で投げナイフにしたいのだろう。そう考えつつ、作業場に戻る。

幸い魔剣の材料は在庫があるので問題ない。ただ、銀のリングは同じものがない。

「リングは同じものがないので、適当な金属から同じ形に加工していいです?」

「いや、リングを外して、ワイヤーで短剣同士をつなげてほしいんだ」

「わかりました」

ヴォルフは二本を同時に引き戻す形にしたいのだろう。

ワイヤーの長さはあまりいらず、片方の柄のところで長さ調整・固定ができるように希望された。

真ん中の方が楽ではないかと尋ねたが、かえって邪魔になるという。

投げるときにワイヤーが指に当たらないようにしたいのだろう、そう理解して調整した。

できあがった短剣を渡すと、ヴォルフは二本を同時に振る。

ダブルで聞こえる風切り音は、なかなか迫力がある。本音を言うとちょっぴり怖いほどだ。

「これならいける気がする……」

納得し、うなずいた彼と共に、再び庭に出た。

ヴォルフはさきほどの板の手前、長めの薪を一本立てる。

薪にどこまで深く刺さるかの確認だろう、そう思いつつ、先ほどと同じように離れた。

金色の目がじっと板を見つめ、呼吸を整える横顔が見えた。

ヴォルフは両手に一本ずつ持つと、勢いをつけて投げる。

ビュンと風を切る音が、先ほどの倍以上、重なって響く。

あとはまた同じ、速すぎて目で動きを確かめるのは無理だった。

「え……?」

ヴォルフは薪から短剣を外したらしい。

短剣は二本とも後ろの板を割り砕いて、その先に落ちていた。

が、手前の薪は倒れもしない。

ミスリル線が外れたか、そうあわてたとき、薪の上半分が滑るように落ちてきた。

輪切りになった薪の切り口は、腕のいい剣士が一刀両断したような滑らかさ。

二本の短剣をつなぐミスリル線が、完全に刃物の役目を果たしている。

「うわぁ……」

ダリヤはこめかみに指をやった。

魔剣の方向からまたもずれた。

これは魔剣というより、魔矢にした方がよさそうだ。

いや、これだけ速度が出るのなら、いっそ長剣でやる方がよかったか、それだと扱いが危険すぎるだろうか。

ぐるぐると必死に考えていると、ヴォルフが少年のように笑い声をあげた。

「あはは、これ、すっごくいいね! 投擲(とうてき) 技術はいるけど、距離があっても、魔物の足とか翼を狙えそうだ!」

なるほど、そういった使い方もあるのかと納得する。

魔物と距離をとって戦えるなら、少しは危険度が下がるかもしれない。

ダリヤは先ほどの思いつきを伝えることにした。

「これと同じことをするなら、弓でした方がいいかもしれません」

「弓で?」

「ええと、 鏃(やじり) を硬い材質にして、これと似た感じに速度強化を入れて、ミスリル線でつなげばいいのかと。あ、でも矢を二人で同時に放つのは無理ですよね……」

「どうだろう? 隊の弓騎士はかなり速く連射はできるけど……」

ヴォルフが難しい顔になった。

考えてみれば、同じ隊でも彼は先陣の赤鎧である。

魔物と距離をとるであろう弓騎士、その戦いを近くで観察することは少ないのかもしれない。

ダリヤは話題を変えることにする。

「とりあえず、それはそれとして――今回も剣に名前をつけます?」

「ああ、つけたいと思う。ダリヤは何か案がある?」

「『ワイヤー魔剣』『速度増強剣』とかじゃ、だめなんですよね?」

「……うん、ダリヤだからね……」

完全に残念な子を見る目で見ないでほしい。

魔剣はともかく、魔導具の名付けはわかりやすさが一番だ。

『給湯器』も『防水布』も聞いてすぐわかるいい名前ではないか。

自分はヴォルフのように名前に浪漫は求めない。

「浪漫を求めるヴォルフが、好きにつけていいですよ」

「……やっぱりすばらしく速いから、ここは『疾風の魔剣』で!」

満足げに言う彼の足下、転がっているのは輪切りの薪である。

『疾風の魔剣』より『輪切りの魔剣』でもいい気もするが、それは言わないことにした。