軽量なろうリーダー

別の女性と結婚したかったと愚痴る王太子殿下もただの雑音。リボン編みこそ至高だわ。

作者: ユミヨシ

本文

ああ、ベレド様、また違う令嬢と仲良くしているわ。

オリビアの婚約者、ベレド王太子殿下は、可愛らしい女性の手を握って、熱く彼女の耳元で囁いている。

王立学園の中庭のベンチでだ。

自分という婚約者がありながら、その態度にオリビアはイラついた。

どうしてなんで?なんでわたくしという婚約者がありながら、別の女と仲良くしているの?

確かにベレド様は美しくて。

金の髪に青い瞳のベレド様はモテるわ。

彼に耳元で囁かれれば、女は誰だってうっとりしてしまいますもの。

でも、あの女は見たことがない。

下位貴族の令嬢かしら。

まぁさすがに伯爵家以上の令嬢なら、あんな恥知らずな態度は取らないでしょうね。

わたくしの家、アシェル公爵家の報復が怖いと解っているはずだから。

ベレド王太子は酷い男だ。

婚約者の交流の為、時々、王宮の庭のテラスで二人で話をする。

毎回、ベレド王太子は言うのだ。

「私はエレンシアと結婚したかったんだ。それなのに、バセル公爵家のラークに取られてしまって。バセル公爵家の方が、婚約に動くのが早かった。エレンシアは美しい。オリビアも勿論美しいが、エレンシアには及ばない。ああ、あいつの婚約をぶち壊したい。あのエレンシアを手に入れたい」

頭に来た。

いつも会うと必ず言われるエレンシア。

ライバル派閥の令嬢なので、互いに口を聞く事はない。

エレンシアは確かに美しいわ。

でも、同じ金髪碧眼で、互いに公爵家の娘。身分も同等。

わたくしのどこがエレンシアに劣っていると言うの。

ベレド様に対しては愛なんてない。

政略でお父様が強引に、王家にねじ込んだ婚約。

それが不満なの?

ああ、確かにエレンシアと比べて、わたくしは顔立ちがきついわね。

ああ、悔しい悔しい悔しいっ。

勉学の順位もエレンシアとほぼ同等。

わたくしはエレンシアに勝っている所なんてない。

それでも、あの女に勝ちたい。

ベレド様に、やはり君が一番だねと言わせたい。

女のプライドよ。当然じゃない。

オリビアはイライラした。

そんな感じでイライラしていて、派閥の令嬢達と、王立学園の食堂でお昼を食べていたら、エレンシア・ルード公爵令嬢から声をかけられた。

「ご機嫌よう、オリビア様」

「エレンシア様。ご機嫌よう。なんの用かしら」

「お話をしたくって。二人きりで」

「では個室に参りましょう」

一体全体、何の用かしら。わたくしに。

いいわ。話だけも聞いてみましょう。

個室に移動し、2人きりになるとエレンシアが、

「わたくしの婚約者、ラーク様は酷いのです。わたくしを大事にしないで、下位貴族の令嬢ばかり大切にして」

「え?貴方もそのような悩みを?」

「王太子殿下が女好きなのは有名ですから、貴方なら、わたくしの悩みを解って下さると思っておりましたの」

「あああ、わたくし、恥ずかしいわ。貴方に嫉妬をずっとしておりましたの。ベレド様ったら貴方と婚約を結びたかったと何度も」

「そうなんですの?わたくしなんて、オリビア様と比べたら、大したことはありませんことよ」

対抗派閥のトップ同士、もっとギスギスした会話になると思っていたが、エレンシアはにこやかに、

「わたくし、ね。考えがありますの。リボン編み、流行らせてみません?」

「リボン編み?何故、リボン編み?」

「わたくしの祖母の時代、一時期、リボン編みが貴族の令嬢や夫人の中で流行ったのですって。だからわたくし達が火付け役になって流行らせてみません。きっと楽しいわ」

「楽しい?本当に楽しいかしら」

「色々な令嬢達と交流を持つの。派閥関係なく、リボン編みを中心に。そうしたら、嫌な婚約者の事なんて忘れられる」

「そうね。夢中になれることを作るって大切だわ」

「だったら、リボン編みを流行らせましょう。そうしましょう」

領地で隠居している祖母に会いに、オリビアは動いた。

祖母ならかつて流行ったリボン編みの事に詳しいだろう。

「お祖母様。リボン編みを教えて下さいませ。昔、流行ったのでしょう。その当時の物を見せて下さいませ」

祖母は目を細めて、

「懐かしいわね。リボン編み。貴方が興味を持ってくれて嬉しいわ。見せてあげるわ」

リボン編みで作ったリボンを数点、見せて貰った。

複雑に編み込んであるリボン。リボン自体は小さいのだが、中央に宝石がついていて、編み込みがこれまた細かい。

そして、物によってはリボンの下から出ている二本の部分が長い物もあった。

祖母が、

「長いのも綺麗でしょう」

「ええ、とても綺麗だわ」

「編み方を書いたノートがあったわね。ちょっと待っていて」

リボン編みのノートを祖母は持ってきてくれた。

「あげるわ。このノートとリボンを参考にして頂戴」

「有難うございます。お婆様」

リボンをいくつか貰って、作り方が書いてあるノートも貰い、

翌日、王立学園でエレンシアと会った。

エレンシアもやはり自分の祖母に会って、リボンやノートを貰って来たとの事。

「これで、リボン編みを流行らせましょう」

エレンシアに力強く言われて、オリビアは頷いた。

「そうね。男なんかより、リボンよね」

「そうよ。リボンよ」

リボン編み研究会を立ち上げたい。

でも、研究会を立ち上げる前に、まずはリボン編みを出来るようにならないとならない。

二人は放課後教室に残って、リボン編みを研究した。

初めは上手くいかなかった。

それでも、ノートを見て必死に編み方を勉強した。

放課後、エレンシアと一緒に同じ形のリボンを編んだ。

まずはしっかりと研究しないと、他の令嬢達を巻き込めないと思ったからだ。

不器用に出来上がったリボン。

それでも、お揃いの美しい桃色と金糸が入ったリボンが編みあがった時に、2人して嬉しくて泣いた。

エレンシアが、

「出来が不揃いだけど、ああ、お揃いね」

オリビアもリボンを見つめながら、

「お揃いだわ。今度、学園に着けていきましょう」

嬉しかった。エレンシアとお揃いのリボン。

大切にしよう。そう思った。

学園で派閥の令嬢達に見せたら、皆、

「素敵なリボンですわ」

「手作りですの?まぁエレンシア様とお揃いだなんて羨ましい」

「作り方を知りたいですわ」

口々に褒められた。

エレンシアも派閥の令嬢達に囲まれて、

オリビアはエレンシアの方を見て、互いに頷いた。

「リボン編み研究会を立ち上げます。エレンシア様と一緒に」

「派閥関係なく、参加できるの。皆、リボンを編んでみない?」

令嬢達は皆、

「編みたいです」

「教えて頂けるんですね」

「嬉しいっ」

反応がよくて、オリビアはエレンシアと一緒に安堵した。

派閥関係なく、貴族の令嬢達を巻き込んで、リボン研究会を立ち上げ、エレンシアと共にリボン編みを流行らせる為に頑張った。

ベレド王太子とテラスでお茶をする。

いつもなら、ベレド王太子の事ばかり考えて、彼がエレンシアの事を毎回、彼女と婚約出来なかったのが残念だったという言葉を聞いて、落ち込んでイラつく嫌な場だったが、今回は違った。

リボンの事が頭から離れない。

どんなリボンを作ろうかしら。

ああ、デザインは?

王都の夜会に着けていくのよ。他の令嬢達も着けていくって言っていたわ。来月の夜会。

わたくし達の歳でも出席出来る夜会だから楽しみだわ。

皆で、見せびらかすの。素敵なリボンを。

ああ、もうどうしましょう。

ベレド王太子が話しかけてきた。

「だから、私はエレンシアと婚約をしたかったんだ。そのうっぷんを晴らす為に、色々な令嬢達とだな。聞いているのか?」

「はい?確かにエレンシア様はとても素晴らしい方ですわね」

「へ?エレンシアはお前とは対抗派閥の令嬢だろう」

「仲良くなりましたの」

「へ?」

「エレンシア様は素晴らしいですわ。リボンも美しく作られるのです。この間、見せて頂いたのですわ。あの方こそ至高。本当に尊敬してしまいます」

「いやいや、お前は私の事を愛しているのではなかったのか?」

「あら?いつ愛しているって言いました?貴方はエレンシア様と婚約したかったとばかり言っておりましたし、色々な令嬢達と仲良くしていましたし」

「そりゃ、多少、交流をだな」

「でしたら、どうぞ、ご勝手に。子を作らなければ構いませんわ。わたくし、そろそろ失礼したいのです。リボンを編まなくては」

「へ?リボン?私との交流より、リボンが大事か?」

「この間、王妃様にリボン編みを勧めて見たら、懐かしいとおっしゃっていましたわ。王妃様の母君もリボン編みをしていたんですって。王妃様とご一緒に、リボン編みをする約束をしてしまいました。ですから、貴方との交流は最小限でけっこうですわ。どうせ、結婚しますし。勿論、王太子妃教育はほぼ終わっております。ご安心を。帰らなくては」

「待て待て待てっ。いや、待ってくれ。あまりにもそれは寂しいだろう」

「貴方と中身のない会話をしている方が、むなしいですわ」

「むなしい?むなしいのか?」

「では、失礼します。急いで帰ってリボン編みをっ」

ああ、今までベレド様の、エレンシアと婚約出来なくての愚痴が長くて長くてウンザリしていたけど、今回は心がリボンにあったから。それにエレンシア様はとてもいい人だわ。

エレンシア様なら、わたくし、負けても仕方が無い。ああ、今日もエレンシア様と他の令嬢達とのリボン編み研究会があったわね。楽しみだわ。

心はリボン編み一直線。

ベレド王太子が浮気をしようが、何をしようがあまり気にならなくなっていた。

ベレド王太子から、大きな薔薇の花束が届いた。

愛しのオリビアへ。もうすぐ君の誕生日だろう。欲しい物があったら言ってくれ。

とカードが添えてあった。

父アシェル公爵は、

「オリビア、有難いことではないか。王太子殿下に愛されて」

母も喜んで、

「そうね。オリビア。よかったわ」

前は花束だけで、家臣に選ばせた適当なアクセサリーを贈りつけて来たくせに。

まぁどうでもいいわ。

それより、リボン。リボンだわーーーー。

一週間後、ベレド王太子に呼び出された。

「すまなかった。オリビア。これからは浮気はしない。エレンシアなんて言わない。君一筋に愛することを誓う」

手を両手で握られて熱く言われた。

その場に国王陛下と王妃もいて、

王妃が、

「リボン編みは素晴らしいわ。リボン編みを流行らせるという事は良い事ね。貴方が中心になってリボン編みを流行らせて頂戴」

ベレド王太子は慌てた。

「母上っ。リボン編みのせいで私はオリビアに冷たく扱われて」

「あら、貴方、今までオリビアを優しく扱ってきたかしら」

オリビアはベレド王太子に、

「わたくし、リボン編みを止めるつもりはありませんわ。わたくしの生き甲斐ですもの。浮気も愛人もどうぞご勝手にして下さいませ。子をわたくしより先に作らなければ許しますわ」

「それは嫌だ。私はオリビアを愛しているんだ」

「何を今更、そんな事を言われても心に響きませんわ」

そう、今更、言われてももう遅いのよ。

わたくしはリボン編みに目覚めてしまった。

貴方の愛なんていらない。最初に愛をくれなかったのは貴方‥‥‥

今更欲しいなんて思わない。

かといって、別れる気はない。

自分はこの王国の王妃になり、リボン編みを流行らせなくては。

その為の踏み台。この男は踏み台でしかないのよ。

オリビアは後に王妃になった。

積極的にリボン文化を更に流行らせたので、リボンを編めない女性は貴族にあらずとまで言われるようになった。

ベレド国王はずっとオリビアの機嫌を取り続け、側妃も作らず一筋にオリビアに愛を注いでくれる。

そのせいか、王子が2人出来て、2人とも出来が良い自慢の王子だ。

オリビアがリボン編みをしていると、ベレド国王は何も言わない。

何も言えない。ただただ、せめて話をして欲しいと、話しかけてくる。

オリビアの機嫌を取って来る。仕方がないから相手をする。それだけだ。

あれから時が過ぎた。

オリビアは、久しぶりに友のお墓に来た。

エレンシア・バセル前公爵夫人。

病で亡くなったエレンシア。

娘のクラウディアがいるけれども、後妻と連れ子のせいで肩身が狭い思いをしているらしい。

「エレンシア。貴方と過ごした日々は楽しかったわ。貴方の娘の事はわたくしと息子に任せて頂戴。必ず幸せにするから」

クラウディアはラード王太子の婚約者だ。

息子のラードは、リボン編みの信者になっている位にリボン編みが好きだ。

そしてクラウディアも。二人の仲は良好で。クラウディアを守ってやりたい。

友エレンシアのお墓の前で改めてオリビアはそう誓った。

でも‥‥‥貴方がいなくて寂しいのよ。

貴方が傍にいて、一緒にリボンを編みたかったわ。

涙が零れる。

かつて初めて二人で作った桃色のリボン、すっかり色あせてしまったけれども、そのリボンをそっと花と共にお墓に供えた。

現在もベレド国王はオリビアを尊重し、愛してくれるけれども。

ふと過去を思いだせば、イライラして煮えくり返る。

例え政略だとしても、最初から尊重して、歩み寄って欲しかった。

エレンシアと婚約したかったとか、他の下位の令嬢達とイチャイチャして欲しくなかった。

わたくしは寂しい心をリボンに逃げたんだわ。

でも、リボンに逃げた事に後悔はない。

素晴らしい親友エレンシア。そして、他の高位貴族の女性達とも仲良くなれた。

これからも、わたくしは、リボンと共に生きるわ。

だからエレンシア、わたくしを見守ってね。

オリビアは供えたリボンを大切にバッグにしまうと、立ち上がった。

リボンこそ至高。リボンこそ王国の命。

こうして、リボン文化は更に発展していくのであった。