軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35 「可愛い動物さんとキャッハウフフするなんて、きっと素晴らしい光景になる!!」

精石の加護は事前に込められている物もあるが、それは大体小さなものだ。だからだろう。貴族向けの品はアクセサリーを選んだ後は、どのような加護にするか決めてから作業に移り納品となる。

今回もそう。

デミオンが店主と相談し、加護の範囲や方向を決めていた。教えてくれないかなと思っていたが、デミオン曰く、そのあたりは出来上がってからのお楽しみだそうだ。

ただし精石の加護は万能ではない。おまじないの強力版みたいなものだ。例えば加護の中には病避けといったものもある。だからといって、必ず病にならないわけではない。

確率みたいなところだ。

病になり難くなる。加護があつければあついほど、その数値が跳ね上がる。だから怪我や治癒の加護もそう。怪我しづらくなるだけであり、治りやすくなるだけだ。しかし人の子の定めには成るべくしてなる病や事故があるという。この世界はそういう世界らしい。起こるべくして起きたそれを、本来より軽くするためにも人は加護を必要とするのだ。

だからこの国でも医者は必要であるし、医療の発達も大切だ。また商売繁盛を願って加護を求めても、当人が怠けて動かねば何も発揮されない。

(どれほどかは知らないが、精霊がその背中を押してくれるというのは、その希望は人々の支えにもなっているんだろうな)

現実という残酷さに怯むことなく、人々が進めるように手助けしてくれていると思うのは楽観的か。同時に、デミオンのように災いに成り果てているのもあるので、やはり匙加減なのだろう。

(約束の子の約束って、どこにかかってるのかな? そのまま、精霊の愛し子の意味で合ってると思うんだけど……)

一般的に親が望むのは、子供の健やかな命だ。出産の成功、母子の安全。特に、生まれたての子供に贈る最初の精石は、みな健康を願う加護だ。赤ん坊が身につけられる小さな物だが、どの家でも必ず用意する。

この店でも、カウンターとなっていたショーケースに複数用意されていた。親となった人間が一番に思い、身分関係なく望む強い願いごと。これだけは時代も世代も問わず、昔から延々と続くもの。

わたしも生まれてすぐ、持たされていたらしい。何度か目の発熱時に壊れてしまったが、その代わりに今のわたしがいるのだと聞かされている。

(……デミオン様はどうだったのだろう? デミオン様のお父様が無理でもお祖父様が……いいえ、デミオン様のお母様が用意してくれているよね)

彼は形見を、一番持つべき物を持っているといっていた。精石を父親から贈られなかったとしても、母親からならば贈られたはずだ。我が子の幸せを願うのが、普通であるのだから。

(それは当たり前に皆に分け与えられる平凡さではないけれど……)

人は残酷で我儘で醜悪でさえあるけれども、慈悲深く犠牲的で美しくもある。それをまやかしだと詰る者もいるだろう。理想でしかないと罵る者もいるだろう。

わたしの中のわたしも、そう告げる。

だけど同時に、幸いを思う。等しく訪れる幸せを描きたい。明日へと続く夢を見せて欲しい。上る朝日のように、あって当然だと誤解させてくれと望む。

願わくば、ただひとつという形見が子を愛する親の一途な思いであれ。わたしはそう考えずにはいられない。彼の母親に関する違和感を打ち消すように、わたしはその可能性をひたすら 希(こいねが) った。

「デミオン様、もう屋敷に戻りますか?」

「いえ、まだ時間があるのでウェールに行きませんか?」

ウェールはチルコット公爵家お抱えの商会が経営している、貴族向けの高級カフェだ。しかも一見さんお断りで、紹介がなければ無理だという。

貴族でも格式が高いと思えるお店で、その分素晴らしい時間が約束されていると噂される場所。ここの顧客になれるということはステータスでもあるのだ。

「大丈夫でしょうか?」

「俺の紹介となるので問題ありません。それに出入りできる相手が限られてますから、侯爵家の人間も王女殿下も無理ですね」

「意外です」

「己の憩いを崩したがる人間は少数派でしょう、身分に関らず自然と避けられているのかもしれませんね」

それに、チルコット公爵家の息がかかった場所だ、王太子妃殿下と仲が悪い相手ならば余計なのだろう。

「俺は契約の件がありますし、もう侯爵家の一員でもありませんしね」

そうか。デミオンはあの店にレシピを売り、技術も指導しているから、関係者枠でいけるのだろう。

「リリアン嬢は初めてですよね」

「ハイ、とっても初めてです!」

片手で小さな挙手をするぐらいだ。伴い、声も少し大きくなってしまう。しかし、あのウェールだ。素晴らしいという噂しか聞かないカフェなので、心が弾んでしまう。

きっとデミオンのケーキ以外にも、美味しいものがあるのだろう。わたしは腹部に手を当て、少し考える。美味しいものはいつでも美味しいが、空腹という調味料を加えればもっと味が増すだろう。

(それに、デミオン様には是非小動物と戯れてもらい、そのお心を健やか街道まっしぐらにしたい!)

「あのついでにウェールへ向かう途中にある、アルボラス公園に寄ってからはどうでしょう?」

アルボラス公園は王都内にあるとされる、五大公園のひとつだ。芝生面積よりも木々が多く、森林浴をたっぷり楽しめる場所である。珍しい小鳥が生息してるとも聞く。なお、わたしはまだ行ったことがない公園なので、王都の観光案内の受け売り程度しか知らない。

前世でも猫カフェやハムスターカフェがあったし、ふれあい牧場的なものもある。ならばこちらの公園でアニマルセラピーはどうだろう。

「観光案内によると、アルボラス公園ではミヤコリスとミヤコウサギと呼ばれる動物さんへ餌付け体験ができるそうです。デミオン様、美味しいものを食べる前に心を癒してから挑むのが最良と思います!」

名前は知っているが、正直わたしもよく知らない生き物だ。だが餌付けできるのだから、フレンドリーで愛らしい生き物に違いない。

リスとウサギだ。これが可愛くないなんてない。前世でもリスとウサギは可愛さトップクラスだった。

(デミオン様が可愛い動物さんとキャッハウフフするなんて、きっと素晴らしい光景になる!!)

可愛いは乗算されるもの。そこにデミオンの美しさも加われば、良いことずくめではと思うのだ。わたしは心の中で拳を上げる。

ふと、その時何かを遠くで見た──が、一瞬のこと。道にはわたしたち以外の人間もいるのだ。思い出せないなら、それは大したものではないのだろう。