軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九十二話 新年Ⅱ

一月。

それは新たな年を迎える大事な日だ。

俺にとっては王になって初めての新年である。

王に成った以上、俺は最高神祇官としての職務も果たさなくてはならない。

まあ、そこまで難しいことは無い。今まで病床のロサイス王の名代として取り仕切っていたユリアの真似をすれば良いだけだしな。

だが別に問題が二つある。

一つ目、それはテトラの出生の公表だ。

「……みんな驚いているな」

「それは当然。というか私もびっくりしたんだから」

お腹を大きく膨らませたテトラが俺の隣で呟く。

普通、新年の祝いはその国の国民だけで祝うものだ。

だが何故かアブラアムという外国人のお偉いさんがこの国に来た。

それを知った豪族や平民たちは何事かと噂をしていたそうだが……

流石にテトラの実の祖父だったというのは全く予想していなかったようだ。

……この出生は非常に大きな政治的意味を持つ。

何故ならアブラアムには直系の子孫がテトラとその腹の子しか居ないのだ。

他は事故死や病死なので死に絶えている。

アブラアムが通常の執政官であったなら良いのだが、彼は僭主。独裁者だ。

次の子供は自分の血を受け継ぐ子供に……と考えるかもしれない。

そうなるとテトラはただの側室という扱いでは無くなるのだ。

全く、政略結婚をしたつもりでは無いのに自然と政略結婚になってしまっているとは面倒極まりない。

とはいえまだこれに関しては表面化していないから良しとしよう。表面化するのは子供が産まれてから……やべえ、胃が痛い。

次の問題。それは最近主神と定めた三神を祀らなくてはならないことだ。

何しろ今まで誰も経験したことが無かったことである。

祀る時のルールを豪族や呪術師総出で考えなくてはならなくなった。

ただ単純に祀るだけではない。あの三柱がこれからロサイス王の国の守護神となることを国全体に示さなくてはならないからである。

取り敢えず即席の祭壇を作り、そこで儀式を執り行った。

新しい防呪システムと従来のやり方を組み合わせれば、何とか報復の呪いには耐えれると思う。

我が国の呪術師の数は三国のどの国よりも多いし、何よりユリアが妊娠前に掛けて置いてくれた結界がある。

とはいえ、あくまで一時的なモノだ。今回でユリアが張ってくれた結界は壊れる。

もしかしたらユリアが病気になって来年の結界を張れなくなる可能性がある。そうしたらアウト。我が国は正面から敵の呪いを喰らうことになる。

それに守ってばかりではダメだ。こちらも報復処置をしなくてはならない。

今、我が国は大急ぎで防呪システムの構築に奔走しているのだ。

完成するには最短で五年は掛かるだろうけどね。

ユリア曰く、神を利用するシステムで重要なのは信仰心だとか。

人々の信仰心を集める神殿を各地に建て、その集めた信仰心をまとめ上げる大神殿も立てる。

その大神殿に集まった信仰心を呪力に変えて、結界を施す。

それが神を利用した防呪システムだという。

各地に神殿を建てる。言葉にすれば簡単だが、それには費用と時間が掛かる。

費用に関しては十分に捻出出来るが、時間がない。

気長にやっていくしかないのだ。

「結構進んでるな。工事」

「はい。予定よりも早く終わりそうです。まあ、新たに作る大神殿でその余裕は消えてしまうんですけどね」

イスメアが少し皮肉を言ってきた。

何が何でも大神殿を作るように命令したのだ。

その所為で計画の見直しをする羽目になり、彼女は怒っているのである。

とはいえ、こっちもこっちで政治的理由があったのだ。

納得して貰わなければ困る。

俺は新都建設予定地に来ていた。

新年のゴタゴタが終わり、時間に余裕が出来たからだ。やはり自分の目で見ないとね。

治水は順調に進んでいる。すでに新都建設予定地周辺の川には堤防が作られた。

これで多少の雪解け水や大雨では浸水することは無くなった。

とはいえ、まだ万全とは言えない状況である。十年に一度の大雨が降ればぶっ壊れる。

まあまだ着工して四か月程しか経っていないのだから致し方無いのだけど。

イスメア曰く、ここからが本番だと。

分流を作り、さらに堤防を大きく広げていくらしい。

この都予定地には丘が七つある。

この丘の上はもし堤防が決壊しても、水で沈むことは無い。

つまり一番安全なところである。

宮殿や大神殿といった重要施設は丘の上に建てる予定だ。

「正直なところ、川はそこまで脅威ではありません。問題は丘ですよ」

「丘?」

「はい。丘というのは小さな山みたいなモノですからね。渓流があったり、地下を水が流れてるんです。晴れの時は良いですが、雨が降れば酷いことに成りますよ。だから排水設備……つまり下水の配備が必要不可欠です」

下水か……上水よりも先に下水の配備が先なのか。

まあ飲み水は川が近くにあるから問題ないんだろうけど。

「具体的にはどうするんだ?」

「分水を一本、都に持ってきます。当然、水門付きで万が一にも氾濫が起きないようにしますけど。この川に生活排水も雨水も流し込んでしまいましょう。飲み水は井戸で十分です。足りなくなったら水道橋を引っ張ってくるのが一番だと思いますよ。川の水よりもそっちの方が綺麗ですしね」

水道橋か……

ローマにあるのを見たことあるな。もし造るとしたら莫大な金と経費が掛かりそうだ。

というか技術あるのか?

「今のアデルニア半島の技術では厳しいですよ。というかキリシアにも水道橋は限定的にしかありません。でもこの都が完成するころには職人たちの腕はキリシアにも負けない水準に達しているかと。すでに道路の技術ならば肩を並べていると思いますよ」

キリシアは建築技術に関しては我が国をずっと先を行く。だが土木に関してはそこまで差が無い。

キリシアは小国家に分かれているため、橋や道路は敵の進軍に利用されかねない。

だからあまり作らない。

それにキリシア人は海洋民族。

隣国に行くとなった時、キリシア人がまず第一に思い浮かべる移動手段は徒歩でなく船だ。

故に陸上交易路は軽視しがちなのだ。

「ちなみに聞くが、俺が住めるようになるのはいつだ?」

「四年後ですね。本格的に都として機能するようになるのは六年後かと。まあ王様が都にだけ集中しろと言うならばもっと早めることは出来るんですけど……」

道路と各地の治水。それに神殿も作ることが決まったからな。

そっちにも人員が取られている以上、時間を掛けるしか無いのだ。

「王よ。もう少し人を動員出来ませんか? あと千人も居ればだいぶ早くなるんですけど」

「無茶言うな。すでに工事が財政を圧迫してるんだよ。今後、戦争が起こる可能性を考えるとこれ以上の支出は無理だ」

今動員している工夫の人数は三千人。常備軍を含めて四千人……

お分りだろうか? この人数。人口の一・六%を常に動員しているのだ。

戦争なら長くても二週間で終わるものだが、今はこの一・六%を四か月も動員したまま。

まあ支出の分だけ収入も増えてるんだけどね。

キリシア商人からの売上税や紙・酒、 柘榴石(ガーネット) 、岩塩など。先代の時よりも収入は大きく増えているのだ。

「道路の敷設ですが……約二十%と言ったところです。元々土を踏み固めた簡易的な道路ならこの国にはありましたしね。それに山脈や森といった面倒な障害物も無い。王様が発明してくれたコンクリートも扱い易くて。スムーズに進んでいます。取り敢えずドモルガル王の国への道路ならほとんど完成しています。六月までにはベルベディル王の国への道路が完成するかと」

計画では現都からドモルガル王の国まで一本。エビル王の国まで一本。ベルベディル王の国まで一本。計三本を最優先とした。

元々我が国にはそれなりの道路が存在した。

道路の存在が軍隊の移動速度を速め、人の行き来を活発化させる……というのは誰にでも分かる話だ。

特に宿敵であったドモルガル王の国への道路とベルベディル王の国への道路はアデルニア半島基準では中々立派なものだ。

今回はその道路を砕石舗装で固めて、排水装備を揃える。

それだけなので工期は短い。

まあ元々ロサイス王の国は岩手県よりも一回り小さいくらいの面積しかない。

敷設する距離も短いため、そこまで大変な工事でも無いのだ。

ちなみに新都から伸びる道路はまだ着工していない。

人の居ないところに道路を敷いても無駄なだけだ。建築資材は水運を使っているし。

今は後回しだ。

「それにしても私が一国の工事を一手に引き受けるなんて……夢のようです」

「田舎の小国だけどな」

「ですが、今は日の出の勢いでしょう? あなたの治世下で。これからこの国はアデルニア半島で最有力の国になる。もしかしたらアデルニア半島の統一……なんて、どうです?」

イスメアは冗談半分といった風に笑いながら言った。

俺としてはそれを実現したいのだけどね。

「そう言えばさ。お前と青明ってデキてるの?」

「な、何言ってるんですか! そ、そんなわけ……」

顔が真っ赤に染まった。分かりやすくて助かるなあ。

「正直に言って貰いたいな。実は縁談が来てるんだよ。君に。まあ、悪くないところではあるけど。俺は政略結婚を推奨してはいるが、強制はしない。自由恋愛で結婚出来るならそれが望ましいと思っているよ」

「えっと結婚は良いです……自分で探しますから」

「そうか。手伝えることが有ったら言ってくれ」

俺はそう言ってイスメアに別れを告げた。

「へえ、面白いな」

俺は青明が書いた『大陸横断記』第一巻を読み終わる。

第一巻の内容は緋帝国だ。

青明の両親が旅に出る切っ掛けや、その行く先でのエピソードを交えながら緋帝国の風俗や文化、風習、地理、歴史を伝えている。

この本によると龍や麒麟がリアルに居るらしい。

行ってみたいな。まあ、無理だろうけど。

「ありがとうございます。この紙というのは本当に使いやすくて……助かっています。それにタダでくれるなんて……」

「気にするな。優れた本が我が国から出るのは誇りだからな」

俺は青明に紙を無償で渡していた。

それだけでなく屋敷や使用人を用意して、彼が執筆出来る環境を整えている。

地球でも『三大陸周遊記』だとか『東方見聞録』、『大唐西域記』、『南海寄帰内法伝』とかは有名だ。

青明の書く『大陸横断記』はそれらに匹敵する……いや、それ以上の本であるのは間違いない。

もし、俺がポカをやらかしてこの国が滅んだとする。

それでも青明の本は生き続けるのは間違いない。

こいつを支援すれば、こいつの本の中で俺は生き続けるのだ。

俺の存在が後世に残る。

「ただ……一つ気になるのは読み辛いことかな。読み進めれば進めるほど広がって、邪魔になる」

「……でもそれは本の性質上仕方が無くないですか?」

そう、巻物という形の本の性質上は仕方が無い。

つまり俺が言っているのは巻物スタイルをやめろということだ。

「冊子本にしてみないか?」

「冊子本ですか?」

「そうだ。紙を一定の間隔で切って、それを束にする。そして穴を開けてヒモを通すんだよ。あとは厚紙を表紙にすれば本の保護にもなる。この形なら邪魔に成らないし、紙を裏表使える」

現代日本の冊子本に成れているこちらからすると、読み辛くて敵わない。

それに冊子本の方が保管する際にスペースを取らない。

冊子本の方が遥かに優れている。

まあ巻物の方がかっこよくはあるけど。

「確かに、その方が効率的ですね。どうして思いつかなかったんだ……流石です」

「はは」

先人のパクリですよ。

「ところで青明。お前、イスメアのことをどう思う?」

「ん? 良い人だと思いますよ。それが?」

「いや、何でもないよ」

この反応は……

イスメア……努力が必要だぞ。

「ニコラオス、調子はどうだ? ここでの生活は慣れたか」

「はい。食事もあまりキリシアとは変わらないですし、気候も穏やかで……悪くない生活です」

悪くないね……最高とかそういうお世辞を言わないところがこいつらしいな。

「何より外出する度に卵をぶつけられないことが良い」

それはキリシア人の民度の低さを嘆くべきか、お前のウザさを嘆くべきか……

多分後者だな。

「ところでロサイス王様はどちらで?」

「どっちというと?」

「天動説か、地動説かです。……テトラ様は天動説支持のようでしたけど」

へえ、あいつは天動説なのか。

まあ自然に考えれば天動説が正解に成るからな。当たり前か。

あいつのことだから「そもそも何故、相手が周っているのではなく自分が周っているという変態的な発想に至るのか。素直に見れば良いのに」とか言いそうだ。

うーん、俺はどっちかな……

ここは異世界だから天動説が正しくても驚きはしないけどね。やっぱり……

「地動説かな?」

「うおおお! 流石はアルムス様です! 前々から野蛮なアデルニア人にしては博識だと思っていましたが。あなたは最高の王だ!!」

最高の王ね。ありがとう。

それと悪かったな。野蛮なアデルニア人で。

理解者が得られたことでテンションが上がったニコラオスは俺の苦笑に気付かない。

こいつが何故卵をぶつけられるのか、その一端が分かった気がする。

「俺としてはお前のような存在は嬉しいよ。この国はキリシアの国々に比べると文明レベルで劣るからな。ところで一つ聞くんだけど、アデルニア文字ってどうやったら作れると思う?」

「アデルニア文字ですか? まあ、確かに独自の文字が無いのは不便ですな。キリシア文字が無くてペルシス文字で何とかしろと言われたら私は発狂してしまいそうです。ですが私はそっち方面は……」

やっぱり弱いか。こいつも理系だからな。

この世界ではまだ理系や文系の区別なんて無いから、もしかしたら出来るかもしれないと思ったんだけど。

得意不得意はあるのか。

「申し訳ありません。お役に立てなくて。ですが私としては文字を作る以上に大切なことがあると思います」

「大切なこと?」

「暦です」

暦?

何か変なところがあるのか。さっぱり分からんが……

「この国の人間はほとんど気付いて居ませんが……実際の季節よりも少しずれが生じています。約四十日ほどですが」

「うーん、言われてみるとそうなのかな? あんまり意識しないからなあ」

今の暦は五百年前に作られたモノだ。四十日のズレということは百年で八日のズレ。いや、絶対分からんだろ。

「こういうズレを見ると妙にイライラして……」

「つまりお前の意見は暦を改正しろということか?」

ふむ……まあこの国の人間はそのズレた暦に従って生きてきたわけで、案外不都合無いんだけどな。

平民たちは暦じゃなくて、肌で感じ取った季節に従って種を播いてるだろうし。

「暦の改正は国民に大きな影響を与えるからな……そう簡単には出来ないが。まあ、考えてみよう」

「分かりました。では作っておきます」

こいつ、本当に人の話を聞かないな。

「おい、イアル。実は大切な話が二つある」

俺はイアルを呼び出した。

大切な話がある……その言葉を聞いた途端、イアルの表情が引き締まった。

緊張しているようだ。

「まず一つ目……結婚しないか?」

「は!?」

イアルの目が見開かれた。

「す、すみません。私はアルムス様を敬愛していますし、忠誠を誓っています。死ねと言われれば死ぬ覚悟です。ですがこの愛は主人への愛であってそういう類のものでは……それにユリア様とテトラ様もいらっしゃることですし……」

「お前は何素っ頓狂なことを言ってるんだ」

俺もお断りだよ。お前と結婚するのは。

俺の表情を見て、自分が勘違いしているのに気付いたからかイアルの顔が真っ赤に染まった。

「も、申し訳ありません。いや、上流階級の方々はそういう男同士の愛も嗜むというのを聞いて……」

「俺にそういう趣味は無い」

それにあったとしてもお前は選ばん。美少年を選ぶよ。

「それで、結婚でしたっけ?」

イアルが聞き返してくる。俺は頷いた。

「そうだ。お前、いくつだ?」

「今年で二十六に成りました」

「それで未婚は結構ヤバいだろ」

アデルニア人の大部分は十代で結婚する。

遅れてて二十代だ。

まあ政略結婚をするような人間になると、離婚はしょっちゅうするし三十代半ばでも結婚したりするのだが。

それでも未婚は不味い。

「お前に縁談の話が来ている。別に好きな女は居ないだろ?」

「残念ながら、産まれてこの方恋というものをしたことが無くて……」

それは可哀想だな。俺なんか二回もあるぞ。二回とも実った。

「それで誰ですか?」

「誰とは決めていない。だが元ディベル派の連中の娘と結婚して貰いたいと思っている」

「元ディベル派ですか?」

「そうだ。最近情勢が悪いだろ? 国内をまとめる必要がある。いい加減許してやろうと思ってな」

実際のところ、豪族の大部分は俺に忠誠なんぞ誓っていない。

彼らの心配事は自分の領地なのだ。

その辺は元ディベル派もアス派も変わらない。じゃあアス派に調子に乗らせ続けるよりは、元ディベル派を許してあげた方が良い。

「まあ、今すぐってわけじゃない。考えて置いてくれ。それと二つ目、これは今すぐの重要案件だ」

「何ですか?」

「お前にはゾルディアス王の国へ行ってもらう」

ゾルディアス王の国とはエビル王の国の西側にある国だ。

国土の大部分が山岳地帯という、農業は中々絶望的な国である。

だが中々兵士が強い。

それに最近はギルベッド王の国の南下政策に対抗して頑張っているらしい。

「エビル王の国対策ですか?」

「そう言うことだ。エビル王の国に圧力を掛ける」

遠交近攻。外交の基礎だ。

ちなみに俺自ら行かない理由だが……

まず第一に同盟は望み薄であること。故に何の成果無しに帰っては逆にエビル王の国を喜ばせることになる。

第二、我が国とゾルディアス王の国の間にエビル王の国やベルベディル王の国があること。

俺がゾルディアス王との同盟に漕ぎつけても、帰れないんじゃ意味が無い。

「行くのは二か月後になるかな。準備が有るから。お前はあそこで長期間滞在して貰う。最低でも一年。お前がゾルディアス王の国に居るだけで圧力に成るからな」

「分かりました。では私も準備をしておきます。結婚について考えながら。……それと一つお願いが」

ん?

イアルのお願いか。珍しいな。

「何だ?」

「氏が欲しいと思いまして。いや、今までもあったんですけど平民にありふれたような氏ですから……」

基本的にアデルニア半島では名前は三つの要素で構築される。

個人名(プラエノーメン) 、 氏族名(ノーメン) 、 家族名(コグノーメン) 。

例えばテトラはテトラ・アスが本名だ。テトラが個人名、アスが氏族名である。

家族名が無いのはアス氏族の中で一番偉い家だからだ。

ユリアも同様でユリア・ロサイス。つまりロサイス氏族の中で一番偉い家の出だから家族名が無い。

逆にライモンドの本名はライモンド・ロサイス・ノワァトゥスである。ノワァトゥスが家族名だ。

これはライモンドがロサイス家の分家を作っているからである。

ちなみに大昔は個人名だけだったらしい。だが人口が増えるに従って、少しづつ名前が長くなったのだ。

日本語のように組み合わせで無限には作れないのがアデルニアの名前の悪いところだ。

「うーん、確かに外交する上でありふれ過ぎた氏族名や家族名は宜しくないな……」

すでにロンやロズワード、グラムたちには氏族名を与えている。三人は領地を持つ豪族だから。

それに前の氏名は嫌だという本人たちの思いもある。主にルル。

それぞれにロン・アエミリウス、ロズワード・ファビウス、グラム・カルプルニウスという氏族名を与えた。

由来は……言わなくても分かるだろう。あの国とアデルニア半島は地形どころか文化や気候も似通っているから。そっくりではないけどね。

イアルに今まで与えていなかったのは、領地を持っていないからだ。俺としては広い領地を与えても良いのだが、イアルに拒否された。まあ外交官や内政官として働いているイアルには領地なんて重荷にしかならないし。

「じゃあ……クラウディウスは? 偉い人でそういう氏族名を持ってる人がいる」

「クラウディウス……良いですね。では今日から私はクラウディウスを名乗ります」

イアルは嬉しそうに笑った。