軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九十話 妊娠

七月が始まり、稔の季節に成った。

今年は豊作という嬉しい情報が俺の耳に舞い込む。

そしてもう一つ、嬉しい情報が舞い込んできた。

「「妊娠した」」

二人はほぼ同時に言った。

まず最初に俺が抱いた感情は安心である。

俺は王なので、子供を産ませることは責務だ。

二人が妊娠したということは俺もユリアもテトラも、そっちの機能は正常ということである。

これでユリアがダメで、テトラが正常だったらかなりヤバかった。

俺が種無しだった場合はロサイス家の血を引く子供を養子にすれば済む話だけど。

「本当か?」

「生理が来てない」

「呪術で調べたけど、どっちも確定だよ」

なるほど……

じゃあ取り敢えず……

「よくやった!!!」

俺は二人を抱擁した。

「うーん、でも実感ないな」

改めて俺は二人を見る。

何も変わらない。お腹も膨らんでいない。当たり前の話なのだが。

「お腹が膨らむのはもう少し後だと思うよ。今は七月で、妊娠五週目くらいだと思うから出産は三月の初旬から中旬じゃない?」

まだ産まれるまで八か月はあるのか……

気が長い話だなあ。

「それにしても二人同時とか……」

これから夜はどうすれば良いのよ?

妊婦相手に性行為はダメだよな。これからは寂しく自家発電ですか……

そう思ってたのが顔に出ていたのか、ユリアが笑いながら言った。

「妊娠中は激しくやらない限りは大丈夫だよ? 胎児はちゃんと羊膜と羊水に守られてるからね。まあ出血してたりする場合はダメだけど」

「アルムス。良かったね。妊婦二人同時とか普通じゃあり得ないよ?」

……別にそんな特殊性癖は無いんだけどな。

「でも良かった。これでお父さん、成仏できそう」

「まだ死んでねえよ。勝手に殺すな」

人を幽霊みたいに言うはやめて差し上げろ。まあ、いつ死んでもおかしくない点では同じだけど。

まだまだ生きて欲しい。

「あの人は多分、今度は曾孫を見てないとか言って生き返る」

「だから死んでねえから生き返りようねえよ」

『曾孫』という言葉に、ふと俺の脳裏にアブラハムが過ぎった。

そう言えば俺とテトラの子供はあの人にとっての曾孫に成るのだ。

俺も曾孫を見られるまで生きたいね。全く。

「やっぱり最初は男の子だよね?」

「まあ……そうだな。取り敢えず産んでもらわないと安心は出来ないな」

こういう時はどっちでも良いというのが男として大事なことなのだが、生憎俺は国王だ。

だから最低でも一人、ユリアには男の子を産んで貰わないといけない。

「男の子は最低でも三人は必要。逆にそれ以上は少し問題。女の子は居るだけ損は無い」

テトラは自分のお腹を見ながら言った。

このご時世、子供はいつ死んでもおかしくない。

だから数は必要だが、多すぎると継承権問題が頭を擡げてくし、与える領地も減る。

そこらへんの兼ね合いは必要だ。

「そう言えばロンたちの結婚式はいつか知ってる?」

テトラが話を変えた。

俺は静かに頷く。

「ああ、一か月後にやるってさ。三組連続でやるんだって」

ちなみに一日目がロン&ソヨン、二日目ロズワード&リア、三日目グラム&ルル。

まあ連続でやった方が会場の準備とか、いろいろ楽だしね。

ちなみに今まで三組が結婚しなかったのは忙しかったからだ。

新たな領地や屋敷、その維持に必要な奴隷。

さらに俺が護衛として連れまわしたのもあるし、呪術院の創設に駆り出したりした。

……大体、俺の所為だな。

今月は収穫期なので死ぬほど忙しい。よって、来月になって落ち着いてから結婚式が行われることになったわけである。

「ところでアルムス。今月は私もユリアも書類と戦えないけど。どうするの?」

「……一先ず、豪族の子息辺りを駆り出す。キリシア語を使えるだろうし」

結局のところ、外国人を国の中枢には置けない。

「まあ、暫くは重要職は豪族に頼む方針だ」

豪族を中央に入れたくない。

とはいえ、そんな我儘言っても国家運営は不可能である。妥協は必要だ。

それにあからさまに遠ざけると、あっちにも不満が溜まる。

もっとも、いつまでも豪族に頼むつもりは無い。豪族に頼るのは最低でも今後二十年。

現在俺が考えているのは、奴隷の登用だ。

正確に言えば、キリシア人の解放奴隷の登用が正しい。これなら他国の息の根が掛かっている可能性は限りなく低い。

そして出来るだけアデルニア人を中心に登用する。

具体的に言うと、同じ能力の人間がそれぞれ、アデルニア人の純血・キリシア人とのクォーター・ハーフ・純血キリシア人が居たとすると、血の濃い方から順番に登用する。

これを少しづつ入れていき、能力重視の組織を作る。

まあ、俺が死ぬ頃には完成するんじゃないかな?

「ソヨン……絶対に幸せにするから」

「ロン君……私、今でも十分幸せだよ」

人目も憚らずキスする二人。

客の拍手と野次が飛び交う。

何というか……

「俺たち、結構恥ずかしいことしてたんだな」

俺は結婚式を上げて、バカップルから馬鹿夫婦に昇格した二人を見ながら呟いた。

俺の呟きにユリアとテトラが激しく同意するように頷く。

若気の至りという奴か……

それにしてもあの二人が結婚するなんて……予想通りだけど。

何度も何度も喧嘩して、それを諌めるのが俺の仕事の一つだったよなあ。

一番苦労したのが、ロンが剣を研いでいるのをソヨンに見られた案件。

あれは骨が折れた……

確かあの時は両者共に十四歳か。

ソヨンは世にも珍しい、そういうことは致さない系女子だったのが問題だった。

理解が無い奴を説得することほど難しいことは無い。

あれ、俺まで不潔扱いされたな。

まあ、最終的にソヨン以外の十三歳以上は全員不潔だったことが判明して、あいつの方が納得して解決したけど。

あの時、性教育の大切さを思い知りました。

「二人とも、おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとー」

三人でロンとソヨンに祝いの言葉を投げかける。

二人は照れ臭そうにはにかんだ。

「ありがとう……リーダー」

「アルムスさん……私たちが今、こうしていられるのもあなたのおかげです」

二人は深々と頭を下げた。

やめてくれ、照れるじゃないか。

「じゃあこれ、俺からの祝い品だ。すまんな、何をやればいいか分からなくて。結婚式の祝い品として相応しいか分からないが……」

俺はロンに一振りの剣を手渡した。

ドラゴン・ダマスカスで作られた剣。切れ味は俺のと同じはずだ。

「私たちからはこれを」

「どうぞ」

テトラとユリアはソヨンに杖を手渡した。

先端に取り付けられている水晶の大きさから、非常に高価な物だということが分かる。

「「ありがとうございます!!」」

二人は嬉しそうに受け取ってくれた。

奴隷だとか、馬だとか、食器だとか、美術品とかは他の豪族が送るから俺たちは実用的な物を渡そうと思ったのだ。

そのチョイスが剣と杖というのは変かもしれないが。

まあこれとは別に金貨を祝儀として渡したから良しとしてくれ。

「ロズワード……」

「リア……」

「姐さん!! 隊長!!」

熱く見つめ合う二人。号泣するヴィルガル。

ロズワードはアデルニア風、リアはゲルマニス風の服装をしている。

背が高く、異国風の美女であるリアに自然と他の豪族たちの視線が集まっている。

もっとも、中には『元奴隷』に眉を顰める者もいる。

アデルニア半島では奴隷にもちゃんとした人権……というと時代錯誤に成るが、人として扱われるし、頻繁に奴隷解放は行われる。

とはいえ、知識階級でも無い、同胞のアデルニア人や文明人の代表格であるキリシア人でも無いリアについてはどうしても悪感情を抱く奴はいる。

まあ二人の目や耳には入ってないようだし、全く気になりもしないようだから良いけどね。

「それにしてもリアの奴、久しぶりに見たな」

「私も。何でだろう?」

「ずっとロズワード君の家に住んでたんだって。戦争中も一人で待ち続けたとか。健気だよね」

リア……

確か、エインズがオマケでくれた奴隷だったよな。

それがこうなるとは誰が予想したのか。

俺、ロズワードの感情がここまで続くとは思わなかったよ。

てっきり、『奴隷』と『異国人』という設定で恋に恋しちゃったのかと。

いや、最初はそうだったのかな?

恋は病だけど、愛は本当だから。うん、何言ってんだ俺。

「ロズワード、俺からの祝いだ」

俺はロズワードには槍をあげた。

重装歩兵が使うような槍では無い。馬上槍だ。

当然刃はドラゴン・ダマスカスである。

「私たちからはこれね。大したものじゃないけど」

ユリアとテトラはリアに箱を手渡す。

リアが箱を開けると、中には美しい絹で出来た服が姿を現す。

「うわあ! ありがとうございます!!」

リアは嬉しそうに二人に礼を言う。

リアは好みがさっぱり分からなかった。血迷った末に馬か馬上具とか、そういうわけ分からない案も出たが、無難に服にして良かった。

「あ、あれ? これって……」

リアの顔が真っ赤に染まった。

どうやらユリアとテトラの悪戯に気付いたらしい。

スケスケ下着を入れるのはよせと言ったんだけどな。

俺は知らん。

まあ、俺の譜代の家臣が増えるのは良いことなんだけどね。沢山作ってくれ。

「ルル!!」

「グラムさん!!」

グラムはルルを抱き上げるようにキスをする。

非常に身長の高いグラムと非常に小さいルルがキスし合うのは中々難易度が高い。

グラムがかなり腰を折る必要があるのだ。

それを解決するのはグラムがルルを抱き上げる必要がある。

だが小さな、ルルは。

アンバランスなカップルだ。

確か二人は二歳差だっけか。日本で言うなら小学生と成人男性並みの身長差があるなあ。

この二人に関しては何一つ心配事は無い。

何だかんだで二人ともしっかりしてるから。

ロンとロズワードはあほうだから心配で仕方が無いのだが。

「恒例になりつつあるけど。俺からの祝い品だ」

「これは?」

「竜弓と言うらしい。竜の素材を使って出来た複合長弓だ。普通の弓の数倍は飛ぶ。お前なら使いこなせるだろう」

これはエインズに注文したものだ。砂漠の民が使っている弓らしい。

引くには物凄い筋力が必要のようだが、元々筋肉量が多い上に大王の加護の影響化にあるグラムなら引けると思う。

「私たちからはこっち。杖。私とユリアとソヨンと御揃い」

「ありがとう!!」

ルルは嬉しそうに杖を抱く。

この杖は複数の木製円盤が積み重なっていて、さらに中に刃が仕込んであり、先端には大きな水晶が付いている。

つまり凄く重いのだが、ルルは見た目に反して結構力持ちだ。

こうして六人の結婚式が無事に終了した。

彼らの結婚は俺の地盤が固まったことを示している。

二十年後には彼らの子供たちが成人して、俺の家臣として仕えてくれるだろう。

とても嬉しい。

ユリアとテトラも妊娠した。夫としても父親としても、王としても嬉しい。

内政も順調に進んでいる。

そう、内政は……