軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十七話 七日戦争Ⅳ

ロサイス軍とドモルガル軍がテリア要塞で攻防を繰り返しているとき、ライモンド、ロズワード、ムツィオ、ヴィルガル、ソヨン、そしてドーラはアデルニア山脈を下っていた。下りきったらロマーノの森を抜けることになり、ドモルガル領に入る。

全員馬に乗っている。

荷馬車は流石に森の中を通るのが難しいので、分解して持ち運んでいる。釘を使って組み立てればすぐに完成するように出来ている。

荷馬車は略奪品を持ち運ぶ以外にも、負傷兵や要人の捕虜を運ぶのに必須なのだ。

今回の作戦はドモルガル軍がテリア要塞に夢中になっている隙に、森の中を通ることでドモルガル王の国に侵入。

補給基地を破壊して、荒らし回ることだ。

そうなればドモルガル軍は退き返さざるを得なくなる。

それを本隊が追撃して打撃を与える。

その後、別動隊は出来るだけ逃げ回ってドモルガル軍を疲弊させる。

頃合いを見て、本隊と合流してドモルガル軍を討ち破る。

疲弊したドモルガル軍を討ち破るのは容易いだろう。

「それにしてもよくこんなに木々が茂森の中にある獣道が分かるな」

「ここの森は私やロズワードの庭みたいな物ですから」

ソヨンがムツィオの質問に笑顔で答える。

当然下調べもしてあるので、その先導には迷いはない。

兵士たちもソヨンたちの道案内のおかげで天罰を気にせず行軍出来ている。まあロマーノの森に隣接していないために、グリフォンのことを良く知らないアルヴァ人やゲルマニス人が半分以上を占めているので、そもそも迷いなどないのだが。

「ドモルガル王の国に入ってからも安心してください。私はドモルガル王の国の出身ですから。十歳の頃まではあそこに住んでましたし」

さらに梟を使って深夜に調べもしてある。

地理は完璧だ。

「ところでその梟。アデルニア半島には生息していない種類のようですけど……どこで手に入れたんですか?」

ドーラはソヨンに聞く。

一応、ドーラの方が年齢が上だがソヨンの方が先輩である。

ついでに呪術師としての実力も上だ。

「五か月前にキリシア商人から仕入れました」

「五、五か月前……」

ドーラは驚愕する。

普通は最短でも三年は掛かる物だ。魂乗せが出来るほど仲が深まるには。

「ソヨンは動物に関しては随一だからね……いや、本当に」

ロズワードがソヨンを褒める。

「おっと、そろそろ森を抜けるな……全員、気を引き締めろ」

ライモンドが全軍五百に指示を出す。

一応、この別動隊の指揮官はライモンドだ。

ムツィオが王子である関係上、それ以上の身分の人間でないと司令官が務まらない。

ライモンドには騎兵を指揮した経験は無いが……その辺はロズワードや、スペシャリストであるヴィルガル、ムツィオが居る。

故に問題は無い。

「おお、ようやく森を抜けた! さあ、隊長。早速行きましょう!」

そう言って駆け出そうとするヴィルガルの鎖を掴み、ロズワードは止める。

「ううぇ、痛いじゃねえですか!」

「バカ、もう暗いだろ。まともに行軍出来ないよ」

すでに日は落ちかけている。

今から作戦を開始すれば、全軍散り散りになって迷子になってしまう。

松明を持ちながらだと、目立ちすぎてしまう。

「ここから十分くらいのところに小川が有ります。木の密度も薄いので、泊まれると思いますよ」

ソヨンが森を指さしながら言う。

馬は森の中を走れないし、歩ける場所を選んでの行軍なので時間が掛かってしまう。

森を抜ける頃には夜になって居るのは想定済みだ。

「まあ、良いではないか。馬も疲れているしな」

ムツィオが賛同したことで、森の中で一泊することが確定した。

早朝。

まだ日が昇り切って居ない朝。

薄暗いが、全く前が見えないわけではない。

「さあ、行こう!」

ライモンドを先頭に別動隊が動きだした。

馬は平地でこそ真価を発揮する。

よって別動隊が進軍するのは農民たちがよく利用するような細い道だ。

それ以外の場所は沼地があったり、森があったりして馬が通り辛い。

だがそんな道の上には当然のように村がある。

別動隊はその村を避けることなく占領した。

何の警戒もしていなかった村はあっという間に別動隊に占領された。

村人たちはドモルガル軍が敗北したと思い込み、すぐにライモンドに頭を垂れた。

「お願いです。食糧は全て差し上げます。村の若い娘も差し上げます。だから村人を全て奴隷にするのは……」

「いや、食糧も女も要らない。我々は急いでいるのだ。……いや、やはり村長。あなたにはついてきてほしい」

ライモンドはそう言って、ロサイス王の旗を立てることだけを命じて、村長を一人だけ攫ってあっという間に立ち去った。

村人たちは去っていく騎兵をポカンとした表情で見つめるだけだった。

「良かったんですか? せめて焼き払うくらいはしても良かったのでは?」

ムツィオがライモンドに聞く。

ライモンドは首を横に振る。

「いえ、その必要はありませんよ。ここ周辺の食糧は全てドレス村に集まって居ます。いま村に残っているのは村人が必要最低限食べる分だけ。それを燃やしても二万の敵には大した損害は与えられない。むしろ我が軍は抵抗しなければ何もしないということを示した方が良い。ですね、村長殿」

ライモンドは荷馬車に乗せられた村長に笑いかける。

村長は思わず身震いした。

それに呑気に奴隷を引き連れながら歩く余裕も無ければ、殺している暇も無いという理由もある。

次々と別動隊は村を襲い、旗を立てるだけで去っていった。

代わりに村長たちを攫う。

抵抗の意思を見せる村には攫った村長を遣わして、無血開城(村)させていく。

そしてその日の正午にはドレス村に到着した。

「どういうことだ!! 本軍が壊滅したという情報は入っていないぞ! どこから敵軍は現れた!!」

「いえ……それが全く見当も付かず……」

「じゃあ呪術で瞬間移動したとでも? そんな真似が出来るわけないだろ!!」

ドレス村守備隊長は怒鳴り散らした。

守備隊長の気持ちも尤もである。

何の報告も無い敵軍が五百も現れたら、混乱してしまうのは可笑しなことではない。

「それで敵はすべて騎兵なのだな?」

「はい。その様です」

「では門を閉じて固く守れ!! 我々は三百の歩兵しか居ない。騎兵は相手に出来ん。おい、呪術師たちに鷹を出すように命じろ! すぐに援軍を要請するのだ」

ドレス村は非常に強固な要塞だ。

石と木材を組み合わせて作られていて、城壁も高い。

城門は開閉のために木製だが、何枚も木を張り合わせて、呪術師が物理結界を張っているのでちょっとやそっとでは破れない。

「それでそうやって突破しますか?」

「バリスタを使います。昨日の夜、組み立てたでしょう?」

別動隊はバリスタを四台持ってきていた。正確に言えば部品を。

その部品を昨日の夜に組み立てて、平原に出た後に荷馬車に乗せて運んできたのだ。

矢は当然爆槍である。

「バリスタで落ちなかったら破城鎚を使うしかありませんね。まあ近くの木で作れるでしょ。取り敢えずバリスタで……破壊する前に……」

ライモンドは一度言葉を切る。

「取り敢えず降伏勧告をしますか。村長さん、よろしくお願いします」

ライモンドはにこやかに笑う。

村長たちは守備隊長のところに向かった。

「申し訳ありませぬ!」

村長はまず土下座して守備隊長に謝った。

「致し方が無い。お前たちの村には兵はいないからな。それでお前たちが来たのは……降伏勧告のためであろう?」

守備隊長の言葉に、村長は震えながら首を縦に振るう。

「異常に気付いたドモルガル軍が必ず駆けつけてくれる。それまで我々は抵抗を続けるつもりだ。降伏するのは貴様らだ。と伝えろ」

村長は大急ぎでロサイス軍のところへ戻った。

「ふむ。まあ致し方が無いか」

「ようやく戦闘ですね」

弓を取りだして、ムツィオは嬉しそうに言う。

別動隊、初めての戦闘だ。

「バリスタ設置完了! 発射五秒前。四、三、二、一、発射!!」

ロズワードがそう叫ぶのと同時にバリスタが発射され、木造の門に命中する。

槍は深く突き刺さった後、爆発した。

何度も爆槍が城門にダメージを与えていく。

一度突き刺さってから爆発する構造なので、門の破壊には非常に適している。

「突撃!!」

ロサイス軍が壊れた門から流れ込んだ。

戦いはあっという間に決着が付いた。

籠城戦のつもりだった敵は突然の炎と煙と音、そして騎兵に驚き、碌な抵抗も出来ない間に討ち取られるか、拘束されるかしてしまった。

最後まで抵抗したのは守備隊長だが、多勢に無勢。すぐに捕らえられた。

すぐに鷹便を出そうとした呪術師たちを拘束する。

こうなれば彼らは鷹便を出せない。出した途端、空の体を破壊されてしまうからだ。

体が死ねば魂は帰れなくなる。

アデルニア人にとって土に帰れないで死ぬと言うのは非常に恐ろしいことだ。

また村長たちの呼びかけにより、ドレス村の村人たちは無抵抗で別動隊に拘束された。

ライモンドは村人と、捉えた敵兵士百人を集めて宣言する。

「我々は我が国を侵略しようとしているドモルガル王とその部下に用がある。よって村人たちを殺すつもりは無い。その代わり、補給基地にある全ての食糧庫の位置を教えなさい。安心してくれ。君たちが食べるのに最低限の食糧は残そう」

村人たちは歓喜の声を上げた。

彼らからすれば食べていけるだけの食糧が残るなら何の問題も無いからだ。

そして兵士百人に告げる。

「本来ならば君たちを殺さなくてはならない。だが君たちにも家族が居るだろう。故に殺しはしない。その代わり伝えて欲しい。我々の目的はドモルガル軍だけ。抵抗しなければ村人は助けると」

ライモンドはそう言って、兵士たちに全ての武装を解除させて逃がした。

逃がした理由は三つである。

一つ、皆殺しにする時間も勿体無い。皆殺しにしようとすれば抵抗も予想される。

二つ、皆殺しにすればこの先、ドモルガル軍の抵抗が激しくなる。仇を討とうと敵の士気も上がってしまう。逆に降伏すれば殺さないと分かれば、これからの行軍がスムーズになる。

三つ、捕虜にして連れ歩いたりするのは行軍速度を遅くするため出来ない。

以上である。

「おお、馬が居る。うん、悪くないな。よし持っていこう。馬なら邪魔にならない!」

ムツィオたちは早速戦利品の分配をし始める。

他にもドモルガル軍の装備などは大人気だ。

ドモルガル軍の弓の七割は鉄の鏃だ。石の鏃を使うムツィオたちからすれば宝の山である。

そんなエクウス族たちをライモンドは遠巻きに見る。

鉄の装備は重いので、持ち運ぶわけにはいかない。

それに本隊が敵の本隊を追撃する時に大量に鉄装備は手に入るので、今集める必要は無かった。

ライモンドは暇なので、近くに居たソヨンに話しかける。

「君は確かドモルガル王の国の出身だそうだね? どこの村かな?」

「この村ですよ」

「へー、この村……え?」

ライモンドは思わず聞き返した。

ソヨンは頬を緩ませて笑う。

「私の家はここの村で農場を経営していました。それなりに大きくて、奴隷や牛を何頭も飼っていたんですよ」

「へえ……」

ライモンドは少し戸惑いながらも相槌を打つ。なんだか暗い雰囲気を感じたので、話題を変えようとするがソヨンはそれを許さない。

「でも母が疫病で死んで……父が兵役に取られて死んでしまいました。それで財産はすべて親戚の人に奪われてしまって……」

「すみません。もう結構です」

ライモンドは話を強引に打ち切った。

ソヨンはキョトンとした表情を浮かべる。

「良いんですか? これからロン君のお父さんに助けて貰って、ロン君と喧嘩しながら愛を育む幸福編と、また疫病でロン君の父親が死んで二人そろってロン君の親戚に預けられる不幸編。その後例の呪いで森に捨てられた後にグリフォン様に助けて貰ってアルムスさんに助けられる希望編があるんですけど」

「いえ、本当にお腹いっぱいですから……」

ライモンドは若干気になりながらも、暗い雰囲気は苦手なので辞退した。

「そうですか? それは残念です。でも安心してください。父と一緒に納税のためにブラウスの街には何度も訪れていましたから。道は体が覚えています!」

「ここが最後の食糧庫か?」

ロズワードが尋ねると、村人は頷く。

ロズワードはヴィルガルに命じて、黒色火薬と油を設置させる。

火を放つと、勢いよく燃え始めた。

煙を見て、不審に思った住民が駆けつけるだろう。そしてその住民が元よりの関所に向かい、早馬が出る。

だが早馬が到着して、敵の援軍が来る頃には自分たちはここに居ないので問題ない。

「勿体無いな……あれだけの小麦があれば何万人も養えますよ」

「重いだけだよ。それにもっと良い物がある」

「そのいい物って何なんですか? 勿体ぶってないで早く教えて下さいよ。隊長」

ヴィルガルの言葉に、ロズワードが首を捻る。

「あれ? 最終目標言ってなかったっけ?」

「お楽しみって言って教えてくれなかったじゃないですか!!」

ヴィルガルの言葉に、他の隊員も頷く。

ロズワードは頭を掻きながら笑ってごまかす。

「あはは、すまない。今回の目標はここら辺一帯の豪族ブラウス家の屋敷のあるブラウスの街……つまり 柘榴石(ガーネット) 鉱山のある街だよ」