軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十三話 領土問題Ⅴ

「何してくれるんじゃ……」

俺はロンからの報告を聞き、頭を押さえた。

何なんだよ……

「ご、ごめんなさい……」

「良いんだ。別に逃亡者を助けたのは……まあ不味いけど、人として良くやったと思う。うん、そこまでは良いよ。でもさ、何で返り討ちにするよ!!」

あそこで平謝りすればまだ何とかなったかもしれない……

これで完全に敵対したじゃないか!!

前回の難民事件から一週間も経ってないんだぞ!!

「まあ、まあアルムス。落ち着いて。敵の目的はどう考えても岩塩鉱山だった。取り敢えず守れたから……絶対に下策というわけでも無い。あれだけの兵力差で勝ったという事実は大きい」

テトラはそう言ってロンを庇う。

まあ確かにそう考えることはできなくもない。

賠償で岩塩鉱山は手放さなくてはならなくなると思うけどな。

「ところで捕えたリガル殿のはとこのジルベルト殿はどうしてる?」

「最初は文句言ってましたが、蒸留酒を出したら飲んで酔っ払って寝ちゃいました」

よく敵対勢力の出した酒を飲めるな。そして寝れるな。

実は大物なのか?

それにしてもロズワードはナイスプレーだった。これで殺してたら間違いなくロンとロズワードとソヨンの命を請求されただろうし、それを拒否するのも至難の業だ。

捕まったことは間違いなく醜聞だろう。

ディベル家は揉み消したいはず。

良いカードに成りそうだ。

「仕方が無い……今度から気を付けるように。ところでだけど……負傷者は?」

俺は少し緊張するのを感じる。

戦だから死者が出るのは普通のことだ。

だけど……

出来れば同じ村の出身者には死んでほしくない。

全員顔も名前も正確もよく知っている奴らばかりなのだから。

「……死者は十人だよ。全員募兵した兵士」

そうか……

俺は胸の動悸が収まっていくのを感じる。

指導者として良くないかもしれないが……許してほしい。

「でも……」

ロンは少し言いにくそうな顔をする。

ロンの代わりにソヨンが進み出た。

「三人、一人が右手、もう一人が左足、もう一人は左手に負傷して、傷が膿んで腐りかけたので私の判断で切断しました」

そうか……

まあ死ななかっただけマシかもしれない。

「じゃあ早速見舞いに行こう」

俺は立ち上がった。

三人はすでに起きていた。

加護の影響で、切断面はあっという間に治る。

もっとも、欠損した四肢は戻らないのだが……

三人は俺の顔を見て顔を曇らせた。

「ごめんなさい……」

「下手を打ちました……」

「もう、アルムスさんのために戦えないと考えると……」

こいつらめ……

大怪我しておいて何でそんな心配してるんだよ。

俺は嬉しく感じながらも、少しだけ恐怖を感じながら三人の頭を撫でる。

「馬鹿!! 今は人材不足なんだぞ? 足の一本、二本無くなっただけで休ませるわけないだろ。お前たちには書類仕事をして貰う。戦場よりも辛いからな。覚悟しておけ」

俺がそう言うと、三人は顔を輝かせた。

対応として間違っていなかったようだ。

それにしても……

重いな……

「おのれ!! 小僧め!!」

リガルは先程からずっと物に当たっていた。

すでに十を超える家具や置物がご臨終している。

それを見ながらベルメットは内心で深いため息をついた。

リガルはアルムスに怒っているようだが……ベルメットはジルベルトに怒っていた。

醜聞を覚悟してまでお膳立てしてやったというのにどうして負けるのか。

小一時間問い詰めたいところである。

挙句の果てに捕まった。

これで死んでくれれば、こちらの勢力関係も綺麗になるし、賠償も莫大な額を請求できるのだが……

これでディベル軍は弱兵揃いという醜聞は避けられない。

何しろ二倍の兵力差でボロボロに負けたのだから。

数以外―武器の質、練度、指揮官では全て負けていたのだから仕方が無いと言えば仕方が無いのだが。

ディベル家の求心力は間違いなく衰えるだろう。何人かの豪族はアス家に鞍替えされることを覚悟した方が良さそうだ。

とはいえ……

「岩塩鉱山は確保できるけど」

元々負けても勝っても岩塩の確保は可能だ。

勝てば実行支配で問題ないし、負ければ賠償として奪えばいい。

今回は賠償という形で請求する。

被害者はこちらなのだから。

まあジルベルトが捕まったのは問題だが……

これでは全ての岩塩を奪うのは厳しそうだ。となると……

ベルメットは思案を巡らせる。

この場で最善の策を練る。

裁判よりも示談の解決が望ましい。

醜聞はあまり広めたくない。

相手はむしろ裁判の方が有利なので、示談で済ませる場合は相手が有利になる条件を付けなくてはならなくなるが、致し方が無いだろう。

「リガル様。私はアス領に向かいます。リガル様は良い結果をお待ちください」

そう言ってベルメットはリガルを置いて、一人アス領に向かった。

「出来れば揉め事は大きくしたくない。示談で済ませましょう」

目の前の老人はそう宣言した。

この老人はベルメットというらしい。

体は枯れ木のようだが、その目には深い知性の色が見える。

少なくともボケ老人ではないようだ。

「示談ですか? 私としては裁判で正式に済ませてしまいたいんですけどね」

ロサイス王も俺贔屓だし。

裁判の方が有利だ。相手の非道を声高に叫べば、ディベル家への非難も大きくなり、相対的に俺への非難が弱まる。

「もし裁判ならば我々は今回の責任者の首を請求します」

痛いところを突いてきたな……

俺がロンたちを大切に思ってることを知ってるな?

裁判は有利とはいえ、どれだけ減刑できるかは分からない。

ロンたちは王家と血を引いているわけでも無く、豪族でもない。平民だ。

何らかの処罰が下される可能性が無いわけではないのだ。やはり示談で解決した方が安全ではある。

まあ想定通りだ。

「なるほど。我が領は人材不足でしてね。首は不味い。良いでしょう。条件次第で示談で解決を図りましょう」

俺がそう言うと、ベルメットは羊皮紙とペンを取りだした。

字を書けるのか。この爺さんは。

「まず、第一条件としてそちらの謝罪が欲しい。あれはあなたが兵士をちゃんと躾られなかったことが原因だ」

「分かっています。今回のことは私の不徳の致すところです」

俺は謝罪してからテトラに紙を持ってこさせる。

示談条件

・アルムス・アスは今回の事件での非を認め、謝罪する

取り敢えず一行は完成。

次は本題のお金の話である。

「さて示談条件ですが……岩塩鉱山の全ての利権を請求します」

「多すぎますね。三分の一です」

話が平行線になる。

とはいえ、ここは踏ん張りどころだ。

「ではこうしましょう。我々は岩塩の利権の三分の二をそちらにお譲りします。その代わり、ジルベルト殿を含む捕虜は無償で解放いたします」

まあこの辺が落としどころかな。

身代金を請求するのは流石にね……

それに三分の一じゃ相手も納得しないだろうし。

「捕虜の解放は当然です。それに装備の補填をして貰わないと困ります。こちらはあなた方の所為で無駄に兵を減らしたのですよ?」

「分かりました。では装備の補填と賠償として小麦も支払いましょう。その代わり、岩塩の利権の三分の一はこちらのものです。それとこちらに逃げてきた逃亡者の処分はこちらで行います」

これならこっちの面子も立つし、相手も実利がある。

どうだ?

生憎小麦なら十分にある。装備もそのまま返せばいい。

「……良いでしょう。認めます」

示談条件に

・アルムス・アスは領内の岩塩の利権の三分の二を譲る

・アルムス・アスは捕虜を無償で解放する

・アルムス・アスは装備の補填と賠償を小麦で支払う。

一先ずこれで終了。

良しとしよう。

「ふむ、それで示談したか。裁判に持ち込めば勝たしてやったぞ?」

「あなたにこれ以上借りを作ると、強制的に王位継承を認めなくてはならなくなりそうなので」

俺がそう答えると、ロサイス王は鼻で笑った。

「領土紛争まで起こしておいて何を……こ奴が王になればお前の地位は危ういぞ? 地位だけでない。家族や部下もだ。戦争で勝った側が敗れた側の妻を妾にするということは昔からよくある」

嫌なことを言うな……

この人は。

俺だって分かってるよ。それくらい。

でもな、これはそう簡単に結論付けて良い問題じゃない。

一度決めたら取り返しが付かない。だから悩んでいるんだ。

俺は別に王になりたいわけじゃない。

でもユリアとは結婚したい。

自分でもどうしたいかよく分からないんだよ。

「まあ良いさ。よく考えるんだな。後悔されても困るし。さて少し話は変わるが……戦で大勝したそうじゃないか。話題になってるぞ。ディベル軍三百がアス軍百六十に負けたって」

「別に俺が勝ったわけじゃないですよ。俺の部下……ロンたちの勝利です」

「部下の手柄は主人の手柄だぞ。優秀な部下を持ちながらも使いこなせない人間もいる。逆にそんなに優秀じゃない部下でも、最大限に力が発揮できるように状況を整えることが出来る人間もいる。俺はお前を部下も含めて評価している」

ロサイス王はそう言ってから咳き込む。

本格的に病気が進行しているようだ。

ライモンドさんも一年持つか分からないとか言ってたしな……

「ところでどうやって勝った? 教えてくれ」

「良いですよ。あくまで私が聞いた限りですが……」

俺はロンたちの戦法―騎兵と地形を巧みに使った戦術を話す。

正直、俺は驚いている。

あいつらは一体いつ戦術を習ったのか。

今思い返せばあいつらバルトロとよく話してたから……そこから習ったんだろうけど。

まあ重装歩兵じゃなくても背後が弱点なのはどんな兵科でも同じだし、川の中で急に方向転換すれば陣形が崩れるというのも簡単に予想できる。

多分敵軍が百単位だったのも幸いしたんだろう。

これが万単位だと騎兵が回り込むのに時間が掛かる。

少数対少数だから成立した戦術だ。

「ふむ、随分と単純だな。二倍の敵を討ったと聞いたからどんな奇策を用いたのかと考えていたのだが……」

「奇策なんて早々成功するものではないですから。シンプルな作戦の方が失敗は少なくて確実だと思いますよ」

寡兵で敵を打ち破るよりも、最初から大軍を用意して打ち破るのが真の名将と聞いたことがある。今回はこちらの数の方が少なかったが、それ以外のすべてにおいてこちらが優っていた。

奇策なんて使わなければならない切羽詰まった状況にならないようにするのが俺の役目だろう。

「そうだ。一つ言わねばならないことがある」

「何でしょう?」

「ドモルガル王の国とギルベッド王の国が停戦協定を結んだ。どうやらロゼル王国に対抗するためと……南下政策を進めるためだろう。近い内に戦が起こる」

ドモルガル王の国……あの国の総兵力が一万ほどと聞く。

限界まで動員すれば三万は可能だとか。

「一万は来ますかね?」

「おそらくな。あの国は三万は動員できる。少なくとも一万五千ほどは動員してくるだろう。だか数が多ければ多いほど動員するのにも時間が掛かる。あの国は我が国と同じくらい豪族の力が強い。大規模侵攻となれば調節が必要だ。おそらく半年は猶予がある。その時までにはこちらも反撃準備を整えられる。フェルムの小僧の時は突然だったが……今度はあらかじめ分かっている。七千は動員できるだろう」

まあ豪族を除いて、ロサイス王家が単独で動かせる数は四千くらいだけど。

他の国との国境線も固めなくてはならないことを考えると……こちらが用意できるのは六千くらい?

でもその辺は外交次第か。

厳しそうだな。

「砦の建設を急げ。何としてでもそこで食い止めなければならない」

「分かってます。今はイスメアが改築を頑張ってくれていますよ」

黒色火薬の生産も増やさないとな。

大量に必要になりそうだ。