軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十六話 人材

「えー、ごほん、ごほん。これから募兵を開始する」

ロズワードは村人を集めて言った。

村人たちは顔を見合わせる。

「兵に取るのか?」

「やっぱり今回の領主様も……」

「でも兵役の無い場所なんてないし……」

「俺が選ばれませんように」

騒めき立つ村人たち。

ロズワードは大きく咳払いをして、それを鎮める。

「募兵と言った。強制的に兵を取ることはない。条件を言うぞ。リア、見せてくれ」

ロズワードはリアから受け取った紙を読み上げる。

「えっと……対象は十五歳から四十歳の成人男性。給料は小麦で支払う。武器は持参。ただし無い場合はアス家が貸し与えるので、武器が無い者も参加して良い。採用されたら宮殿周辺で生活して貰い、毎日訓練を受ける。そして交代で国境線の警備に就く。一度採用されたら四肢の欠損や病などの理由で除隊されるまでは解雇されることは無い。また老いや怪我、病などで辞めなくてはならない場合は退職金が出る。願い出る者は二週間以内に村長に言うこと。今回の定員は五百三十。定員を超えた場合は試験をする。以上」

ロズワードの言葉を聞き、村人たちは再び騒めき立つ。

「つまり強制じゃないってことか?」

「やったぜ!!」

「うーん、どうしよう。給料が貰えるならやってみようかな?」

「ちまちま農業するの面倒くさいしな……でも引っ越しする必要もあるのか……」

「死ぬのは怖いしな」

ロズワードは大きく咳払いをする。

村人たちの視線が再び集まる。

「それと募兵とは別にもう一つ、伝えたいことがある」

ロズワードはリアから紙を受け取り、それを読みながら言う。

「もし村に孤児……十五歳以下で親のいない子供が居たら宮殿に連れてくるように。とのこと」

「えっと……それはどうして?」

「俺も知らないから聞くな」(それをお前たちが知る必要は無い)

「……本音と建前がひっくり返ってますよ?」

リアに言われ、ロズワードは慌てて口を塞ぐ。

そして村人を睨みつける。

「とにかく!! 領主様の命令は伝えたからな!!」

ロズワードは誤魔化すように退散した。

アス領にあるとある山の中。

そいつは居た。

通常の矢では通らないほどの分厚い毛皮。

鋭い牙と爪。

犬以上の嗅覚。

そして木すらも薙ぎ倒す腕力。

そいつ……ヒグマは蜂蜜を漁っていた。

ミツバチたちは果敢にヒグマに針を突き刺すが、効果は無い。

蜂蜜を食べ終え、巣穴に戻ろうとヒグマが顔を上げた途端……

その顔に矢が刺さった。

矢はヒグマの目に突き刺さり、頭を貫通した。

大きな音を立ててヒグマは倒れた。

「ありがとうございます、グラム様」

「いえいえ、人の味を憶えたクマは殺さないと危険ですからね。当然のことをしたまでですよ」

ニコニコと笑いながらグラムは答える。

今回、募兵と孤児を集める触れを出すためにこの村に立ち寄った。

そこで人の味を憶えたヒグマが居るから退治してくれと頼まれたのだ。

一応仕事中ということで一度アルムスに許可を貰った後、すぐに戻ってきてヒグマを射殺した。

「お礼は……」

「ヒグマの毛皮を下さい。それ以外は結構です」

グラムがそう答えると、村人たちは驚きの声を上げる。

そもそもヒグマの毛皮はヒグマを殺したグラムの物だ。

だからそれを受け取るのは当然のこと。そして普通はお礼として穀物か酒か女を要求するものだ。

「そうですか……ところでグラム様の屋敷には下働きが何人居ますか?」

「え? いや、居ないけど……」

グラムが困惑しながら答えると、村長はニヤリと笑った。

「ではうちの四女を下働きとして雇ってくださいませんか?」

「え? えっと……」

グラムが返答に困っていると、そこにルルが割り込んだ。

「結構です」

「え? いや、私はグラム様に……」

「あ゛?」

「いえ、何でもありません」

ルルの気迫に村長が後ずさる。

ルルはその隙にグラムの耳を引っ張ってその場から退散した。

「良い? あれは下働きとして潜り込ませて、あわよくばあなたの子供を孕んで妻にさせようという村長の策略! 絶対に受けちゃだめ!」

「でも……実際下働き欲しいなって感じてて……ほら、最近貰ったばっかだし……」

「じゃあ私が住み込みで家事をして上げる。私たち呪術師は平時は暇だしね! これでいいでしょう?」

「え……でも……」

グラムが言いよどむと、ルルは目を吊り上げた。

「文句があるの?」

「いえ、ありません……」

そんなやり取りをしていると、十人くらいの子供たちがグラムのところにまで走ってきた。

「あの! 僕たちも兵士になりたいんです!」

「いやいや、君たちはどう見ても十五歳以上じゃ無いでしょう」

グラムは苦笑する。

全員どう見ても十歳前後、しかも中には女の子も居た。

「でも……」

「今はちゃんとご飯を食べて、体を大きくしなさい。十五歳になったらぜひ来てくれ」

そう言ってグラムは子供たちの頭を撫でた。

子供たちが立ち去るのを見てから、グラムは呟く。

「ああいう子がどんどん増えて、軍隊が強大になれば……アルムスさんももっと出世出来るね」

「うん。でも軍隊だけじゃなくて呪術師も大切だよ?」

二人は顔を見合わせて笑った。

目の前には集められた孤児が居た。いや、俺が集めさせたんだけど。

みんな不安そうな表情をしている。

さてと……

俺は彼らに向かって声を張り上げる。

「君たちには二つの選択肢がある。一つはこの屋敷で過ごすこと。ここで武術と算数とキリシア語を学び、将来的には騎士として働く。もう一つは元に住んでいた村に帰ること。どちらを選んでも構わない。責めたりはしない」

俺は領内全域に徴税官を派遣して税金を集めている。

他にもいろいろな書類の整理なんかをさせている。

つまりちょっとした官僚制だ。

だが官僚制には常に優秀な人材が必要だ。

今は良いが、何十年も経てばロンたちもよぼよぼの爺さんになって徴税どころじゃ無くなるわけで……

常に新しい人材が必要なのだ。

問題はどうやって集めるかだ。

まず第一に試験をやって優秀な人を集める。

だがこれは即座に却下される。だって試験が受けられるということは文字の読み書きができるということ。

問題はそれが居ないことなのだ。

第二に学びたい子供を集める。

これは深く悩んだ。

だが没にした。

そもそも学問に理解がある親など少なく、集まらないだろう。

集まるのは学問にある程度理解があり、労働力を失っても問題ない人間の子供……つまり村長の息子や娘。

当然ながら徴税官の敵はその村長だ。

敵の息子や娘を徴税官にするというのは如何なものか?

そこで考えたのが孤児を集めて官僚にさせてしまおうという考えだ。

孤児の救済と人材集めを同時にやってしまおうという一石二鳥な作戦だ。

とはいえ、これには少し汚い理由もある。

まず第一に家族が居ないから外部から影響を受ける心配がない。

そして第二に育ててくれた俺に感謝を抱くから裏切られる心配も少ない。

彼らが確実に優秀であるという確証はないが……

別に現代日本の官僚がやるような高度な仕事をやらせるわけではない。

キリシア語の読み書きと算数が出来れば良いのだ。

この二つだけを絞ってやれば十五歳になるころにはそれなりに身につくだろう。

「どうかな?」

俺はもう一度彼らに聞く。

「故郷に帰りたい者は手を上げてくれ。尊重する」

俺がそう言うと、バラバラと手が上がる。

大体全体の三分の一程。

思ったより少ないな。

まあ今更村に戻っても厄介者だからな。残れば偉い身分になれるのは確実だし。

ここに居ることを選ぶ子供が多いのは当然と言えば当然か。

「じゃあ彼らの世話はルルとソヨンに任せようかな。俺とテトラも定期的に面倒を見るけど。良いかな?」

「良いですよ!」

「まあ、家事の片手間なら」

了承してくれた。

彼女たちを世話係に選んだのにもそれなりの理由がある。

まず彼女たちの面倒見の良さ。第二に呪術師だから平時は基本的に暇なこと。

そして彼女たちは正式な徴税官ではないこと。

偶に手伝わせているが、彼女たちの本職は呪術だ。

官僚の育成を官僚が行う。これは問題だ。

師弟関係が出来上がると、上司や部下のミスを庇いあってしまう。

これは組織としては大問題だ。

だから呪術師で正式な徴税官ではない二人を抜擢した。

俺も汚くなったものだ。

さて、子供たちの選別も終わったことだし……

お客さんの相手をしないとな。

「こんにちは。アルムス・アス様。私はイスメアと申します」

「僕は陽青明です」

二人の男女は頭を下げて俺に挨拶をした。

イスメアと名乗る女は間違いなくキリシア人だろう。

だけどこの陽青明と名乗る男。何人だ?

アジア系に見えるけど……

俺が不思議そうな顔をしていたのが分かったのか、陽青明はニコリと笑って答えた。

「僕は極東……皆さんが絹の国と呼んでいる緋帝国という国からやって参りました。陽が苗字で青明が名前です」

絹の国……

聞いたこと無いな。

俺が田舎者なだけか。

「確か雇って欲しい。それが願いだったか?」

俺がそう聞くと、二人は深く頷いた。

「僕は最果ての海を目指していて……つい一か月前目的を果たしたんです。それで自分の書いたことを本にしようと思っていて……そうしたら紙というモノの存在を知りまして。僕は『言語の加護』という加護を持っていて、どんな言語も話せます。数学も得意です。必ずお役に立てますよ」

「なるほどね。俺の元で働く代わりに紙と本を書き終わるまでの衣食住が欲しい。そんなところか?」

俺がそう聞くと、青明はニコリと笑って頷く。

「その通りです。さすがはグリフォン様に育てられたと噂の英雄ですね」

おい、その噂を信じるな。

今じゃ尾ひれと背びれが生えて、空飛びながら火を吹くレベルまで飛躍してるぞ。

「で、あなたは?」

「私は建築家です。様々な防衛設備を考案できます。快適な住居も」

そう言ってイスメアは羊皮紙を差し出してきた。

そこには様々な建築物の設計図と完成図が書かれている。

うん、いいな。

ドモルガル王との国境線の砦は木製だ。

心もとないと思っていたのだ。

だけど……

「これだけの技術力が合ってどうして俺のところに来た? 他にも当てがあるだろう。ロサイス王とかドモルガル王とか」

よりによって俺のところに来るか?

普通。

「いえ、グリフォン様の息子で英雄であるあなた様なら私の建築物を使いこなしてくれると思い……」

「嘘付け」

俺がそう言うと、イスメアがビクリと体を震わせる。

「ほら、やっぱり本当のことを言った方が良いよ?」

青明に言われて、イスメアは涙目で本当のことを語った。

「実は……」

彼女の話をまとめると……

俺以外すべて断られたらしい。

理由は女だから。それに建築家はもう間に合ってるから。そしてキリシア語で何言ってるのか理解できないから。

そりゃあ有力な王様のところにはすでに建築家は居るよな。アデルニア人の。

わざわざ女で何言ってるのか分からん女を雇う必要性が分からないと考える各国の王様も分からんでもない。

でも意外だな。ロサイス王なら喜んで迎え入れると思うんだけど。

あの人キリシア語分かるし。

それを聞くと……

「ロサイス王様にはあなたのところに行った方が良いと言われて……」

それはどういう風の吹き回しだ?

よく分からん。

でも……

「良いぞ。分かった。雇おう」

「本当ですか!!」

「ああ。給料は後で要相談ということで。それと現実に見合った設計をしてくれよ?」

俺がそう言うとイスメアは深く頭を下げた。