軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十一話 初陣Ⅲ

確保した捕虜は約五十人。

死体を確認すると百人くらいはある。

おそらく五十人くらいが逃げ帰ったのだろう。

また、捕まえた捕虜の話からある程度の敵の作戦が分かった。

やはり敵は俺たちの村ではなく、ロサイス王の都を目的としていたらしい。

ロサイス王の国に三百を直接侵攻させて、そっちに気を取られている内に森側から奇襲すると。

ここはロサイス王の都から近いから、ここを落とせば奇襲を掛けられる。

グリフォンを恐れて多くの人が森の中に入らないというのに、なかなか大胆なことをするな。フェルム王は。

それとフェルム王が指揮する四百がここに向かっていることも分かった。

さすがに四百は大変そうだ。

「死人や怪我人は?」

俺は少し緊張しながら聞く。

「死人は居ないよ。怪我人は十人。その内五人は転んだ傷。三人は敵に斬られて、残りの二人は骨折」

ロンが報告してくれた。

良かった……

死人はゼロか。

「怪我を見せてくれ。治療する」

俺は医者じゃないが、簡単な怪我の治療法なら分かる。

擦り傷は洗ってからアルコール消毒して清潔な布を巻く。

骨折は木を当てて布でしっかりと固定。

斬られた傷は布で押さえて止血。

うちの村の人間は加護の影響を強く受けているからこの程度の傷では死なない。

「さて、次はフェルム王率いる四百か……」

さっきのように簡単には行かないだろうな。

「イアル。もう一度ロサイス王に事情を説明してきてくれ。目を覚ましているかもしれない。あと傘下に入るから援軍を寄越せと」

「了解しました」

村を飛び出して行く。

間に合えばいいけど。

「テトラ、ソヨン。悪いけど偵察に出て貰えないか? ルルはボロスたちのところに勝ったことを報告しに行ってくれ。気を付けろよ」

「分かった」

「はい!」

「了解しました!!」

三人は離魂草を取りに行く。

さて、俺たちも準備をするか。

「敗北しただと?」

フェルムは耳を疑った。

「はい……突然火が吹きだし、次々と兵士が吹き飛んで……」

「……そのような呪術はあるか?」

フェルムは呪術師に聞いた。

「呪術でそんな大それたことは出来ません」

「だそうだが?」

フェルムは目の前の兵士を見下ろす。

兵士は青い顔で震える。

「嘘を憑いている様子はないな。それにしてもたかが四十に負けるとは。注意する必要がありそうだな」

フェルムは顎に手を置き、思案した。

「大変です!!」

伝令の兵士がフェルム王の元にやってくる。

「どうした?」

「謀反です! アス派の一派が農民を煽り、蜂起しました! 都がアス派五十と農民百五十人から攻撃を受けています!」

「何? 兵士百は何をしていた!!」

「それが突然炎に包まれて、吹き飛ばされたとわけの分からないことを……」

フェルムは舌打ちをする。

「戻るぞ! ロサイス王を殺す、殺さないの話ではない。こちらが殺される!」

フェルムは立ち上がり、馬に跨る。

ここから全速力で進軍すれば十分間に合う。

都の防備はそう甘くない。

「急報です!!」

「今度は何だ?」

「陽動に出ていた三百が敗北! ロサイス王の軍が国境を越えて侵入しています!」

フェルムをめまいが襲った。

「クソが!! 急いで戻るぞ!!」

大慌てでフェルム軍は撤退を始めた。

「アルムス! フェルム王は急に撤退を始めた!」

偵察から戻ってきたテトラは俺にそう言った。

「なるほど……もしかしてロサイス王の国に差し向けた軍が敗退して、逆侵攻されたとか?」

でも前回の戦では五百対千でフェルム王側が勝ったんだよな……

そんな簡単に逆侵攻されるものか?

それに逆侵攻されても都までは距離がある。

それまでにフェルム王がロサイス王の都に奇襲を掛ければロサイス王の軍は慌てて戻ってくるはずだから、この場合は急いでロサイス王の都を目指すべきじゃないか? フェルム王の性格ならそっちを狙いそうだけど……

「反乱が起こったとか?」

「多分それだな。もしくは両方か」

「ボロスたち大丈夫かな?」

「さあな。一応黒色火薬は渡しておいたから、これを効果的に使えば今の俺たちみたいに十分勝てると思うけど……」

多分、宮殿を攻め落とすまでは出来るだろう。

この辺の地域には石の城壁なんていう立派なものはほとんどない。

フェルム王の国は人口三万の小国だ。

防御施設は木製のはず。

十分火薬で吹き飛ばせる。

まあ数が少ないからフェルム王の軍が戻ってきたら負けるかもしれないけどな。

「あとドモルガル王が攻めてきた可能性もある。……彼はギルベッド王と戦っている最中だから介入する余裕があるか分からないけど」

ドモルガル王の国はロサイス王の国の三倍以上の国力を持つ大国。

多少無理すればフェルム王の国に軍を送ることも可能だろう。

そう考えると鷹が一匹降りてくる。

ルルだ。

「アルムスさん! ボロスたちはもう反乱を起こしてた!! あとちょっとで首都を占拠できそうだって。それとロサイス王の軍がフェルム王の国へ侵攻してきたらしいよ」

「そうか……想像通りだな。ありがとう」

そして、ふと思う。

あれ? 戦う必要なくない?

「ねえ、リーダー。追撃しなくて良いの?」

「うーん……追撃する必要ってあるのかな?」

俺がそう言うと、視線が一斉に俺に集まった。

「どっちにせよフェルム王の国は滅ぶんじゃないか? 滅びなくても大打撃は確定だ。暫くは軍事行動は取れない。俺たちは一度敵を撃退しているから優位に交渉できるし……」

「それはダメですよ!!」

ソヨンが声を張り上げた。周りの仲間も首を縦に振っている。

「このままじゃ手柄を全部取られちゃいますよ?」

「でも手柄よりも命……」

そう言いかけた途端、頭痛が走った。

視界がグラグラと揺れる。

痛い……

「大丈夫?」

テトラが心配そうに俺を揺する。

「大丈夫だ」

段々と頭痛も和らいでくる。

「みんなの言う通りだな。追撃の準備をしよう。出来ればフェルム王を倒して、後の禍根を断つ!!」

早速準備を始める。

十人は捕まえた捕虜の監視のために残しておく。

ちゃんと縄で縛ったし、武器は取り上げたから十人でも大丈夫だろう。

今回は早さが肝心だ。

短期決戦を目的とするため、食糧はあまり持っていかない。

その代わり全速力で向かう。

「援軍は待たなくて良いの?」

「待ってる暇はないだろ……よし、手紙を書く。ソヨンは鷹便でイアルに届けてくれ」

「分かりました!」

ソヨンは再び、魂乗せを行う。

本当は何度もやらせていいことじゃないが……仕方がない。

「どっちにせよ、ここで手を拱いてるのわけにはいかない。フェルム王には悪いけど死んでもらう必要がある」

彼が生きている限り、俺たちには危険が付いて回るのだから。

イアルが到着した頃にはロサイス王は目を覚ましていた。

呪術師たちが総出で看病したおかげである。

本来なら寝ていなくてはならないが、緊急事態ということで体に鞭を打って起きていたのだ。

「悪いがイアルよ。援軍を送ることは出来ない」

「どうしてですか!!」

イアルは思わず身を乗り出して叫んだ。

「待て待て、話は最後まで聞くものだ。いいか。今更援軍を送る必要など無いのだ。何しろフェルム王の軍勢はすでに退却したからな」

「そ、そうなのですか!?」

イアルは大きな声を上げてしまう。

純粋にフェルム王が撤退したということへの驚き、そしてロサイス王がその事実を知っているという驚き。

ロサイス王はニヤニヤと笑う。

「ロマーノの森を通過することで首都に強襲を駆けて陥落させる……フェルムの小僧が好みそうな博打だな。これくらいは当然予想出来る。私が倒れた所為で対応が遅れたが……すでに鷹は放っておいた。そして少し前、退却したという報が届いた。理由は三つ、バルトロがフェルム王の軍を破り逆侵攻を開始したこと。国内で反乱が起こったこと。そしてお前たちに敗北したことだろう。この内どれかが無かったらフェルムの小僧はここまで来ていただろうな。そうしたら危なかったが……とにかく、これでフェルムの小僧はお終いだ」

ロサイス王はこれで死ぬ前の心配事が一つ減ったと、嬉しそうに語る。

「……では私は今からアルムス様の元へ行って参ります」

「一つ、聞いていいか?」

「何でしょう?」

「貴様は何故、あの男に忠誠を誓う? 見たところ、貴様はなかなか交渉能力がある。私の元に来ないか?」

イアルはそれに即答する。

「結構です。アルムス様には大恩があります。私は一生を掛けてそれを返すまで」

イアルはそう言って退出した。

ロサイス王は面白そうにイアルの背中を見送った。

フェルム王の国に到着するまで約一日掛かった。

「確かフェルム王の国の首都はここから一時間くらいだっけ?」

「うん」

テトラは頷く。

それにしてもこの村は酷いな。

俺は目の間に広がる村を見る。

住民の目が死んでいる。

五十人も武装した集団が出てきても騒がない。

慣れているのか、騒いだところで無駄だと思っているのか……

「一つ聞いていいか?」

俺は近くを通りかかった女性を引き留める。

「何でしょう?」

「この村には女しか居ないように見える。何があった?」

俺の問いに女は答える。

「……フェルム王様が兵が必要だと言って……私の父親は五年前にロサイス王との戦いに駆り出されて死にました。夫は二年前に。息子は五人中三人が一年前の戦争で死に、残った二人は数時間前にフェルム王様に連れていかれました……」

女は泣き崩れる。

「あなたたちはフェルム王様を討ちに来られたのですか? ならお願いです。あの王を殺して、父や夫や息子の仇を討ってください!!」

そう言って女は俺に縋り付くように泣く。

当たりを見回すと、他の女たちも俺たちを囲むようにして頭を下げている。

「……分かってるさ。あの男は殺すよ」

俺が答えると、女たちは俺たちを英雄か何かのような目で見始めた。

はあ、フェルム王を殺す理由が増えてしまったな。

「一つ聞きたい」

テトラは女たちを見回して聞く。

「前の領主、ラゴウ・アスを殺したことを後悔している?」

女たちは口ぐちに答える。

「前の領主さまの方がマシだった……」

「でも前の領主さまの時は税金が……」

「でもそれは今でも同じじゃない!」

「前の領主さまの時は戦争なんて無かった!」

「私たちは騙されたんです。あのフェルムに!!」

そう言う女たちをテトラは冷めた目で見る。

「アルムス。人間はこんなモノ」

「……それでも俺は助けるさ」

そう答えるとテトラは不満そうに、だが少し嬉しそうに俺に抱き付いた。

数十分歩いていると、遠めに兵士の集団が見えた。

フェルム王の軍か?

ついに追いついたのか。

「総員、戦闘準―」

「待って」

テトラが俺を手で制した。

そしてテトラは目を細めて旗を見る。

「あれはロサイス王の軍の旗」

「マジか。危ないところだった」

つまりテトラと俺の仮説……ロサイス王の軍がフェルム王の軍を破って逆侵攻したというのは正しかったことになる。

「じゃあ俺が行ってくるよ。兄さん」

ロズワードはそう言って馬の腹を蹴り、ロサイス王の軍の元へ駆けていく。

俺たちのことを知ってる将軍ならいいんだけどな。

もし知らない人だと説明が長くなる。

数分後、戻ってきた。

「合同で攻めたいから来いって。指揮官はバルトロさん」

バルトロ? ……ああ、あの人か。

思いだした。

酒臭い奴だな。

「やあ、アルムス……だっけかな。可笑しいな。俺たちは二日前に敵を破ってから急いでここにやってきたんだけど……どうしてお前は昨日から進軍を始めたのに俺たちと出会うんだろう?」

「俺たちの足が早いだけですよ」

加護なんて言うチートがあるからな!

気にする必要はないぞ。

「ああ、そう……まあ、合流出来たのは良いことだ。ところで今起こってる反乱はお前の差し金か?」

「差し金とは言い方が悪い……武器と旗頭をプレゼントしただけですね」

「旗頭ね……」

バルトロは俺の隣のテトラをじろじろと見る。

「あんたは反乱軍と一緒に行動したほうが良いんじゃないか?」

「危険だからな。俺が許さん」

成功するか分からんからな。

今の俺にとって一番大切なのはテトラや仲間だ。

反乱を煽ったのはその仲間を傷つけようとするフェルム王を倒すのに便利だからだし。

テトラを反乱軍に渡したら本末転倒。

「ところであんた、多分この戦争に勝ったら豪族だぜ。多分フェルム王が支配していたところのほとんどを任される。良かったな」

「そうですか? ロサイス王の国は豪族との連合政権でしょう。他の豪族が文句を言うのでは?」

「ところがどっこい。今、俺が率いている軍はロサイス王様単体の兵力と俺の私兵なのだ。豪族どもの腰は重くてな。反乱軍とお前さんたちを同じ勢力とみなすと約二百五十。俺たちは四百。お前さんたちの功績は大きい。それに加えてお前さんたちには正当性があるからな。血筋というな」

うーん、喜べばいいのかな?

別に要らないわけじゃない。

俺も多少は欲があるからな。貰える物は貰いたいし。

でも領地経営何てしたことないぞ。

「いいな。リーダーが豪族か……つまり俺たちはその側近! ねえ、リーダー。俺は湖がある土地が欲しい」

「取らぬ狸の皮算用って知ってるか? あんまり戦争が終わった後の話ばかりしてると死ぬぞ」

洒落にならんからやめてくれ。

「マジで? 俺、子供が生まれそうなんだけど」

バルトロが自分の顔に指を指しながら聞いてくる。

こいつら、死亡フラグ立ち過ぎだな。

「私はこの戦争が終わったらアルムスと結婚するから」

「おい、このタイミングで言うな!」

俺まで死ぬじゃないか。