軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百九十一話 戦後復興Ⅲ

ポフェニア戦争から一年が経過した。

ついに俺は三十代という領域に足を踏み入れてしまうことになった。

三十、三十か……うん、好きじゃない。

三十になると、十や二十という数字が如何に若々しく瑞々しく聞こえるかが分かる。

……四十代になったら、三十は若いとか言ってそうだな。

よし、こんな話はやめよう。

「どうやら、ポフェニアでの傭兵の反乱が収束したようですね」

「ああ、そうだな……しかし一年間の反乱となるとポフェニアはかなりの打撃を受けてそうだな。少なくともコルス島やサンダル島を奪い返そうという気にならないだろう」

事実、ベルシャザル・バルカはトリシケリア島などの島々を奪い返すのを諦めたようで……

今は目を西に向けているようだ。

なんでも西にある半島……ヘクスパニアの経営に力を入れているようだ。

ヘクスパニアには金が算出されるらしいし、農業生産も盛んなので……うん、悪くない選択肢だな。

まあ、それが正解だろう。

悪戯に我が国と争っても、喜ぶのはペルシスだけである。

ちゃんと棲み分ければ、共存できないこともない。

「イアル、連邦内の諸外国はどんな感じだ?」

「そうですね……戦利品の分配で不満を憶えている国が多いですね。とはいえ、連邦から抜けるほどではないようですが」

「うーん、捨ておくことはできないがな……しかしどうにもならない」

莫大な戦利品を得られたというわけでもない。

それに金銭ならば小分けにできるが、土地を小分けにしても仕方がないのだ。

まあ、他国の貴族に属州の土地を貸し与えたりすることで連邦に繋げようと努力はしているのだが。

ちなみに一番の厚遇を受けているのはアルヴァ王国である。

多分彼らはロマリア王国の民よりも利益を得た。

アルヴァ王国は我が国にとって貴重な騎兵の産地なので、彼らを繋ぎ止めておくのは最優先事項である。

俺とムツィオの間には個人的な友好関係があるが……

個人的な友好関係で同盟はできない。

やはり国同士、損得が無ければ。

「しかし一時はどうなるかと思ったが、軌道に乗り始めてきたな」

「はい。農業収入こそまだ回復してきていませんが……商業の収入は大きく上がりましたね」

ポフェニアの商圏を奪ったことで、我が国は一気にテーチス海の商業国となった。

何より大きかったのは、軍船の大量生産により……船の建造のノウハウが蓄積したことである。

基本、我が国は自国の産物を輸出して他国からは輸入を制限するという貿易を行っていたが……

最近は高級品を一時、国内に持ち込むことに関しては許している。

というのも、中継貿易が盛んになり始めたからだ。

俺が懸念しているのは高級品が国内に蔓延し、貴族たちがそれに熱中して……国富が国外へと流出することである。

しかし……ポフェニアの商圏を奪った以上、高級品の中継ぎをしなければならない立場になったので、俺はそれを少し緩和したのだ。

無論、贅沢禁止令は未だに健在だが。

とはいえ、緩和したことで密輸入も増えてきている。

今は水際で防げているが……さて、これからどうなるか分からない。

「トリシケリア島からの税収入も莫大だしな」

「ええ……トリシケリア島がテーチス海の食糧庫と言われている理由も分かりますよ。まさか、あれほど小麦が収穫できるとは……」

トリシケリア島からは十分の一とは思えないほどの富を得られている。

ポフェニアはこれの三倍の収入を得ていたらしいし……

あれほど固執したのもよく分かる。

だがまあ……逆に関税を掛けて良かった。

あの小麦が国内にそのまま流入したら、我が国の自作農は軒並み吹き飛んだだろう。

尚、現在はオリーブや葡萄などの生産に切り替えることを奨励している。

やはりそちらの方が儲かるのだ。

商業国になって輸入が増大し、葡萄酒やオリーブ油の需要が拡大しているのもあるしな。

まあ、価格上昇は平民の生活を圧迫しているようで早く生産量を上げたい。

「俺の横顔入りの銀貨も流通し始めたな」

「はい。……サンダル島も豊かな島ですね。あれほどの銀が算出されるとは……ポフェニアがあれだけ傭兵を雇えたのも頷けます」

もっとも、算出された銀の大部分は借金の返済に充てられているのだが。

世知辛い。

どんなに国庫収入が増大しても、その分借金返済でペルシスに流れてしまうのは何とも言い難い。

早く、返済しよう。

「だが……借金の一部を アラニャ・セーダ(蜘蛛の絹) での支払いで許してくれたのは正直助かったな。まあ、騙されている気がしないでもないが」

アリス糸。

通称、 アラニャ・セーダ(蜘蛛の絹) 。

これは東方から齎される絹よりも遥かに上質で、丈夫な美しい繊維だ。

クセルクセス帝もこの価値に気が付いたようで、借金の一部はそれで支払ってくれても問題ないと言っている。

正直、銀を掻き集めて返すのは中々辛いので……

アラニャ・セーダ(蜘蛛の絹) での返済は助かっている。

何より、これが東方で流行れば流行るほどこいつの価値が上昇し、高く売れるようになるのだ。

クセルクセス帝は安価に アラニャ・セーダ(蜘蛛の絹) を得られる代わりに、これを流行らせる。

俺は アラニャ・セーダ(蜘蛛の絹) を高く売ることができるので、借金の返済も早くなる。

どちらも得をする。

……最終的にクセルクセス帝に全ての富が流れている気がするが、こればかりは仕方がない。

「岩塩での立て替えも許可して欲しかったな……正直」

「それは無理でしょう……塩ではね……」

我が国名産品、岩塩で支払っちゃダメですか?

と聞いたのだが、それはダメと言われた。

価値がお世辞にも高くないのが良くないのだろう。

まあ、岩塩って基本的に枯渇しないからね。

所詮、塩だし。

「しかしこうなってくると、益々加盟国の不満を逸らす必要が出てくるな……」

「彼らは商業的な繁栄の恩恵を得られていませんからね……」

基本的に経済的に今豊かになっているのは南部のキリシア都市と……

首都ロサイス周辺である。

商業の中心地でありキリシア都市は無論、蒸留酒の加工やその他工業が盛んなロサイスも繁栄している。

ここから集められた税収はロマリア王国に還元されるが……

連邦全土に行き渡ることはない。

精々、人々が豊かになってより多くの服を求めるようになったことで……

羊毛で外貨を稼いでいるアルヴァ王国が豊かになった程度である。

どちらかと言えば、葡萄やオリーブを安く買い叩かれている感がする。

加盟国の上流階級には一部富を還元させているが、下層の平民には届いていない。

数が多い平民の不満を捨てて置けないのだ。

人は対照的にしか物事を見ることができない。

別に貧しくなっていなくても、周囲が富んでいるのに自分が変わらないでいると相対的に自分が貧しくなってきているように感じてしまうのだ。

「しかし彼らの不満を逸らすには土地を用意するしかありませんよ。となると戦争ですが……」

「ロゼル王国を相手に、か。気は進まないな」

ポフェニアとの全面戦争の前ならばともかく、今は国力が回復しきっていない。

もう少し時間を置く必要がある。

「ロゼル王国は現状、クリュウ将軍有利だったな……」

ロゼル王国の内戦は収束を始めている。

クリュウ将軍派が急速に巻き返しを始めたのだ。

さすがはクリュウ将軍というべきか、戦争でバルタザール将軍を破り……ロゼル王国の首都にまで迫っているらしい。

ここまでくると、クリュウ将軍の勝ちは揺るがないだろう。

もっとも、バルタザール将軍も諦めてはいないはず。

まだまだ彼は粘るつもりのようだ。

是非頑張って、ロゼル王国の内乱を維持して欲しい。

しかし最近、物騒だな……

安定的に大国として君臨していたロゼル王国でも、ポフェニアでも内乱が発生して……

国力を急速に衰えさせている。

一体何故……

と、全部我が国が原因か。

後世から見ると、この時代はどんな風にみられるのだろうか?

やっぱりポフェニア戦争は歴史的な出来事なのだろうか? それとも大したことはないのかな?