軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百八十二話 第一次ポフェニア戦争 二年目Ⅶ

財産の寄付。

それがライモンドの考えた策……というか、策とも言えないモノであった。

ロサイス氏族のうち、比較的裕福な者たちを募って財産を政府に寄付させる、という衝撃的な作戦である。

ライモンドが説得してくれたのか。

それとも国家の危機、ということで協力しようと元から思っていたかは分からない。

だが……

ロサイス氏族の貴族たちが、持っている現金資産を、そして持っている贅沢品を売り払い、政府に寄付してくれたのは事実であった。

そして……

今度はそれを見たアス氏族を中心とする、他の貴族たちも挙って政府に財産を寄付した。

するとロマリア王国の裕福な平民たちも、『貴族が寄付するならば』とまるで流行に乗るかのように財産の一部を政府に寄付してくれた。

斯くして、艦隊を建設するだけの資金が……

集まらなかった。

「イアル、どれくらいの資金が必要になる?」

「……あと、二万ターラントほど」

二万ターラント。

我が国の国家予算が一万ターラントであることを考えると、その膨大さが分かる。

というか……

もうすでに国庫に蓄えられていた、一万ターラントは使い果たした。

そして国家予算の大部分も戦争に注ぎ込んだ。

国民からの借金、という形の増税ですでに一万ターラントを集めた。

そして……

キリシア人商人から無利子の借款、ということで一万ターラントを掻き集めている。

貴族たちや裕福な平民から、一万ターラント以上の寄付も得た。

すでに戦費としては合計で五万ターラント以上を使っている。

それに加えてさらに二万ターラント?

笑えない額だ。

「……建造する船は百五十隻の補填だけのはず。どうしてそこまで必要になる?」

「陛下、物価が高騰しているのです……」

「……そうか」

戦争で物資が必要。

大量の物資……鉄、布、小麦が船に運ばれてトリシケリア島に集まり、ロマリア王国から消える。

すると、品不足になる。

一方で俺は船の建造や食糧の購入に、金や銀、銅などの貴金属を使用していた。

増税、借金、寄付で俺の手元に集められた貴金属。

それが一気に市場に出回り……

再び俺の元に集まり、また放出される。

そんなことを繰り返していれば、物価が高騰するのは当然だ。

「しかし二万ターラントもどうやって集める? ……もう手段がないぞ?」

増税はすでにやった。これ以上はできない。

次の手段として、借金もした。これ以上、借りれないし、商人たちも貸す金を持っていない。

もはや禁じ手と言っても良い……

寄付金を募る、という国家に有るまじきことにも手を出した。

万策尽きた。

もうこれ以上の策は……

「外国から金を借りる。以外に方法は無いか」

「……そうなりますね」

俺とイアルは溜息をついた。

この戦争が始まって以来、俺とイアル、ライモンドはとにかく金を掻き集めてきた。

トリシケリア島では武力と武力の競い合い、という形での戦争が起こっているが……

ここ本国ではどれだけ戦争資金を集めるか、という形での戦争が起こっているといえる。

「エインズに書簡を出す。……あいつのコネで国外のキリシア人商人やペルシス人商人を紹介してもらい、なんとか金を借りる」

「……貸して貰えるでしょうか?」

「どうにかするしかあるまい。貸して貰えなかったら……もう、その時はその時だ」

「アルムス陛下。我らはポフェニアに恨みがございます。それにエインズ卿との長年の付き合いもある」

宮殿に呼ばれた、キリシア在住のキリシア人。

つまり外国人の商人の代表は淡々と言う。

何となく、貸してくれそうな言い方だが……

「ですが、我らの懸念はロマリア王国がちゃんと返してくれるか。その一点でございます」

「……それについては信用してもらうしかあるまい」

すると、商人は笑みを浮かべた。

「調べてみると、陛下は今まで一度も借金を踏み倒したことがない。……信じさせて頂きます。ですが、さすがに二万ターラント以上の資金を融資することは不可能です。我らに融資できるのは五千ターラントまででございます」

五千ターラント。

目標金額の四分の一だ。

だが……

それでもありがたい。

「礼を言う。必ず、返そう」

「そうして頂けないと、困ります。……御武運をお祈りしています」

商人はそう言って頭を下げた。

「残り一万五千ターラントか……」

「増税……しますか?」

「……民が飢えるぞ?」

国民が飢え死ぬ。

それだけは俺は避けたい。

例え、どれだけ借金をしようとも……

国民さえ生きていれば、いつかは返せるのだ。

金の卵を産むガチョウを絞め殺す国に未来は無い。

「で、ですが……陛下、もうこれ以上の手立てはありませんよ!! 講和するしか……」

「講和はできない。……この段階で講和を望んだら、我が国に資金が無い事を見透かされる。何を要求されるのか、分からんぞ」

そもそも、ポフェニアから何かを得ないと……

賠償金、土地でも良い。

何かを勝ち得ない限り、借金の返済の目処が立たない。

……自転車操業とはこのことだな。

まさか、ここまで金が掛かるとは思わなかった。

俺たちが頭を悩ませていると……

「国王陛下、エインズ卿からこのような書簡が……」

ライモンドがやって来て、俺に一枚の手紙を手渡してくれた。

俺は封を開けて、中を確かめる。

そこには……

今の状況を打開できる、最後の策が書かれていた。

だが、これは……

「陛下、見せて貰っても?」

「ああ、見てみろ」

俺はライモンドとイアルの二人に書簡を見せた。

読み進めるごとに、二人の顔が険しくなる。

「あのキリシア人め……よくも、まあ、こんなことを陛下に……」

「抜け抜けと……」

二人は厳しい顔を浮かべる。

俺としては……

エインズを責めるつもりはない。

無論、心象はあまり良くないし、俺も内心穏やかではないが……

確かにこれ以外に打開案を出せるのか、と言われると出せない。

むしろ国そのものが干上がっている今、よくぞ考えついてくれた、と言えるだろう。

褒めてやりたい。

あのクセルクセス帝との交渉も簡単では無かったはずだ。

エインズの努力は分かる。

だが……

ドン!!!

俺は強く自分の拳を机に叩きつけた。

机にヒビが入る。

イアルとライモンドの顔が強張った。

「クソ!! 何が大王だ!!」

もう、これ以上取るべき策が何一つ、思い浮かぶことができない自分が不甲斐ない。

エインズに言われるまで、思いつきもしなかった自分の無能さに嫌気が差す。

そして……

国民にこれだけ犠牲を強いているのに、どうしても……嫌だと思ってしまう自分の身勝手さが腹立たしい。

俺は歯を食いしばり、声を絞り出す。

「紙を持ってこい。エインズに連絡を取る」

「それはつまり……」

「全権を、国家の命運をあいつに託す。それ以外方法は無い」

イアルとライモンドは顔を見合わせた。

「宜しいんですか?」

「ユリア様とマルクス様に……」

「決心が鈍る。今すぐ、だ。決断は早い方が良い。……二人には俺が後から伝える」

そして一月後……

俺たちは一万五千ターラントを手に入れ……

商人たちからの五千ターラントも含めて、目標額の二万ターラントを手に入れた。

そして全てが決まり、もう事態が覆らない状況になった時点で俺はユリアとマルクスを呼び出した。

いつもと違う、俺の雰囲気を感じ取ったのか二人は緊張した顔を浮かべている。

「どうしたの、アルムス?」

「父上?」

俺は不安そうな二人に……

低く、冷たい声で言う。

「まず……謝罪をする。お前たち二人にとって大切なことを、俺は独断で決めた。今回は……そのことに対しての報告だ。事後報告になってしまった。すまない」

そして……

俺は感情を押し殺して……

「これから伝えるのは、父としての母と子への、そして王として家臣への命令であり、決定事項だ。もう、覆らない。全てはすでに決まったことだ」