軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百八十話 第一次ポフェニア戦争 二年目Ⅴ

シケーリア沖海戦の結果、第一次ポフェニア戦争の戦況は大きくロマリアに傾いた。

停滞していた戦況が動き始めたのである。

アレクシオスはポフェニア海軍を破ると、すぐさまシケーリア港へ上陸した。

アレクシオスたちがロンと合流した頃には、シュマル・バルカはトリシケリア島南部に撤退していたため、追撃で敵に大きな打撃を与えることはできなかったが……

ロンとソヨン、その配下二万の兵が救出されシケーリアが完全にロマリアの手に渡ることになった。

一方、ロン・アレクシオスとバルトロ・グラムの四人に挟み撃ちされる形になったベルシャザル・バルカだが、セアル・バルカ敗北の報を聞いた段階で、すぐに行動を開始し……

トリシケリア島内陸部に撤退した。

トリシケリア島内陸部にはキリシア系の植民都市は殆ど無く、住民の多くはトリシケリア島の先住民族たちである。

ロマリア王国はトリシケリア島の地理をキリシア人から入手していたが、内陸部の情報は不鮮明であった。

また、ロンと同じ失敗をする可能性もある。

バルトロは深追いせず、結果ベルシャザル・バルカの撤退を許すことになった。

尚……

ベルシャザル・バルカは内陸部に伏兵を用意していて、あわよくばバルトロの首を……

と考えていたのだが、その策は不発に終わった。

シケーリア沖海戦の結果、ポフェニアはトリシケリア島周辺の制海権を喪失。

そしてトリシケリア島の内陸部と沿岸南西部を除く全てをロマリアに奪われることになった。

一度、バルトロとグラムはシケーリアでロン、アレクシオスの両名と合流した。

四人は互いの無事を確認し合い、それぞれ軍の再編成をしていた。

「この後、アレクシオス将軍はどうしますか?」

「一度本国に戻ってから、西に戻るよ。陸海の同時攻撃で西部の港を奪う。そうすれば西部一帯もロマリアの支配下。後は南端の港を征服すればトリシケリア島の沿岸地域は全て支配できる。そうなれば内陸部に逃げたベルシャザル・バルカは袋の鼠だからね」

別に決戦を挑み、敵の戦力を粉砕する必要は無い。

真綿で締め上げるように殺せばいい。

「というか、ロズワード君に四万も軍隊を預けてしまってね。さすがの彼も四万を一人で、それもケプカ・バルカを相手に何週間も……というのはあまりに大変だろうし」

「まあ……一人の将軍が指揮できるのは精々二万ですからね」

ヒーヒー泣きながら必死に軍隊を動かしているロズワードの姿を想像して、ロンは苦笑いを浮かべた。

「助かりました。それに負傷兵も……」

「そりゃあ、負傷兵を抱えたままじゃ戦えないしね。礼には及ばない。というか……礼なんてやめてくれ。我らは同じロマリア王国の将軍で国王陛下に仕える家臣。すべては勝利を陛下に捧げるために……ってやつだよ」

アレクシオスはバルトロ、グラム、ロンの軍隊が抱えていた負傷兵たちを船に引き上げて、逆に船に乗っていた一部の重装歩兵を陸に下ろして、ロマリア軍の損害を補填した。

アルムスの命令に依るものだ。

「では、ご武運を」

「次はトリシケリア島の最南端、リカリアで会いましょう」

ロンとグラムはアレクシオスと固く握手をしあう。

そして……

「アレクシオス」

「どうしました? バルトロ将軍?」

バルトロがアレクシオスに声を掛ける。

「この戦争が終わったら……話がある」

「それは今じゃダメですか?」

「できれば戦後が望ましいな。今はそんな話をしている暇はない」

何の事だろうか?

とアレクシオスは思考を巡らせる。

まさか、結婚しようという話ではあるまい。

お互い、妻も子供もいるのだから。……というか、男同士だし。

「では、戦後酒でも酌み交わしながらその話とやらをしましょう。トリシケリア島の葡萄酒で」

「ふふ……そうだな、ああ、そうしよう」

アレクシオスとバルトロは握手を交わした。

「我が軍の損失は四十隻、残存する船は二百六十隻です。敵の船は最低でも二百五十隻の沈没が確認されています。敵将、セアル・バルカは自ら首に剣を立てて自害しました」

「そうか、よくやってくれた。アレクシオス」

俺は元老院でアレクシオスからの戦勝報告を聞く。

そして……

「諸君!! 我らの勝利だ!!」

「「「おおおおおお!!!!!」」」

議員たちが大歓声を上げる。

ロマリア王国万歳、アルムス陛下万歳、アレクシオス将軍万歳!!

議員たちが両手を上げ、大はしゃぎで喜ぶ。

当たり前だ。

世界最強の海軍国家に対して、今までまともに海上で戦ったことがなかった国が勝利を上げたのだから。

まさに快挙だった。

「アレクシオス。凱旋の許可を出そう。日時は……」

「いえ、まだ勝利していませんよ。陛下。凱旋は……この戦争で勝ってからで構いません。……それに……すぐに発たなくてはなりませんから」

「……お前らしいな。よし、分かった。すぐに準備を整え、出撃しろ」

俺は苦笑いを浮かべた。

まあ……

確かにまだ勝ってないのに凱旋するのもアレだしな。

「アルムス、勝ったって本当?」

「ああ、勝ったぞ!! ユリア!」

俺はユリアに抱き付いた。

ここは王宮であり、俺にとっての私的な空間だ。

王様らしく、振舞う必要は無い。

「勝ったの?」

「ああ、勝ったぞ。テトラ」

俺はテトラの頬に接吻する。

テトラは顔を赤く染め、同様に接吻を俺に返した。

「折角作った艦隊が壊滅して、大量の船、人口、そしてアレクシオスを失うかも……と、心臓がバクバクだったんだがな。いやはや……これで暫くは安心して寝られるよ」

本国で勝負の結果を待つ。

というのは、実に恐ろしい……

受験生のお母さんになった気分だ。

「まあ、唯一惜しいのはセアル・バルカの身柄を確保できなかったことかな……」

「やはり私も行きますか? 雁字搦めにして捕獲して見せますよ!!」

アリスが天井から姿を現した。

もう、今更驚かないぞ。

俺は逆さで天上からぶら下がるアリスの頭を引き寄せた。

金色の美しい髪の毛が俺の手の中でサラサラと流れる。

「最近、構ってやれなくて済まないな」

俺はアリスの唇に自分の唇を押し当てた。

「へいか……」

アリスがトロンとした顔を浮かべた。

そして、俺は言う。

「今夜、俺の部屋に来てくれ」

「は、はい!!」

アリスは顔を真っ赤に染めて、再び天上に逃げるように去っていってしまった。

どうでもいいが、あいつは地上と天上、どちらの方に長くいるのだろうか。

「お前らも来てくれ」

「三人同時にするつもり?」

「欲張りもの……」

ユリアとテトラは顔を見合わせて笑った。

「まあ、ここ数週間断ってたしな」

戦争の勝敗への不安と、バルトロたちを働かせていることへの負い目もあり、俺はそういうことをここ暫く断っていた。

だが……

今日で解禁しよう。

うん、それが良い。

何しろ、今日は最高に気分が良いからな。

「父上!! 勝ったというのは本当ですか!」

「ああ、勝ったぞ、マルクス!!」

マルクスが飛び込んできた。

俺はそのまま、マルクスを抱きとめようとして……

「マルクス!!」

「げ! 母上……」

俺よりも先に動いたユリアに捕まった。

ユリアが熱くマルクスを抱きしめる。

「お母さんのところに自分から来てくれるなんて!!」

「べ、別に僕は母上のところに……」

「素直じゃないところも可愛い!!」

ユリアにすりすりと頬を押し付けられるマルクス。

俺の目の前で抱きしめられたのが恥ずかしいのか、顔が真っ赤だ。

……まあ、放っておくか。

「父上、おめでとうございます」

「それはアレクシオスに言ってやれ。あいつのおかげさ。……まあ、あいつはもう行っちゃったけどな」

俺は戦勝を祝うために来てくれたアンクスの頭を撫でた。

アンクスは恥ずかしそうに顔を俯かせた。

「背中に背負っているのはノナか?」

「あ、はい、そうです。母上がノナを忘れて父上の方に言ってしまったので……」

俺はアンクスからノナを受け取る。

そして母親である、テトラにノナを渡した。

「忘れるなよ……」

「だって……勝ったって聞いたし……」

と、言いながらテトラはノナを抱く。

二人とも髪の色が青い、よく似た親子だ。

ノナの瞳は俺と同じ灰色だけど。

「母上もフィーナを置いていってしまったんです!!」

フィオナが背中に赤ん坊を背負って慎重に歩いてくる。

フィーナ……

俺とユリアの間で生まれた、灰色の髪と、紫色の瞳の可愛らしい女の子だ。

俺はちらりとユリアの方を見る。

ユリアはマルクスと戯れるのに忙しそうだ。

仕方がない、代わりに俺が抱こう。

俺はフィーナを抱き上げる。

自分の子供というのは、やはりいつ見ても可愛い。

お嫁に行ってしまうのが実に悲しい。

フィオナの後に続いて、ソフィア、フローラが姿を現した。

俺とユリアが二十七歳。

テトラは二十五歳。

俺とユリアの子供である、フィオナが九歳、双子のマルクス、ソフィアが五歳、フィーナが一歳。

俺とテトラの子供である、アンクスが九歳、フローラが五歳、ノナが二歳。

合計七人……これにアリスが産んでくれた六人を合わせて十三人。

サッカーチームが出来るくらい、出来てしまった。

というか、アリスだけで実質二人分……

「ち、父上。この戦争は僕らの勝ちですか?」

「……それはまだ分からないな」

俺はマルクスの問いに答える。

本当は勝ちだと言いたいところだが……

「戦争は平和条約を締結して、後処理を済ませて初めて終わり。すべてが終わるまで、結果は分からない。……が、勝ちに近づいてのは事実だな」

俺は笑みを浮かべた。

しかし……

この時、俺は分かっていなかった。

勝利するのは、まだまだ大きな犠牲が必要だということに。

ユリアの勘は正しかった。