軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百七十八話 第一次ポフェニア戦争 二年目 Ⅲ

「不味いな……」

俺は頭を抱えた。

ロンが敵の罠に嵌り、危機に陥っているという情報が届いたからである。

正直なところ、ロンが率いている軍隊そのものは別に失っても良い、

いや、良くは無いが……

替えは効く。

だがロンの替えは効かない。

ロンはロマリア王国では非常に優秀な指揮官であり、俺にとって大切な家臣であり、仲間だ。

ロンを失うわけにはいかない。

それはバルトロも同じようで……

すぐにロンの救援に移ってくれた。

だが、上手く行っていないようだ。

まず……

ロンが立て籠もっているのはシケーリアという大都市である。

大都市ならば普通、大量の小麦が備蓄されているのが普通だが……

ベルシャザル・バルカによって全て持ち去られた後だったようだ。

また、城壁や城門も壊されていて守り難くなっているようである。

そして……

港はポフェニアの大艦隊が周回していて、補給物資が届かない。

それどころか定期的にポフェニア海軍が攻撃を仕掛けてきているという。

ロンを包囲している、ポフェニア軍は合計四万。

将軍はシュマル・バルカという、ベルシャザルの副官のようだ。

またバルカである。

そろそろ俺もバルバルバルバルウザくなってきた。

そして……

救援に向かおうとする、バルトロを防いでいるの四万の兵を率いるベルシャザル・バルカである。

「ポフェニアの援軍が痛いな……やはり制海権を取らなくてはどうにもならない」

ポフェニアの資金力は無尽蔵だ。

あの国はいくらでも傭兵を雇ってトリシケリア島へ送り込める。

これを断たない限り、どうにもならない。

「と、いうわけだ。……アレクシオス、頼んだぞ?」

「分かっております」

俺はトリシケリア島から呼び出したアレクシオスに命じる。

「建設の終わった艦隊三百を率いて、ロンの救援に向かえ」

「はい、仰せのままに」

「喜べ!! 本国から大艦隊三百がこちらに来ているぞ!!」

ロンは鷹便で手に入れた情報を兵士たちに伝え、鼓舞した。

兵士たちが大歓声を上げる。

籠城戦が続いて、すでに三週間。

もはや食糧は尽き掛けている。

シケーリアの住民が僅かに隠していた食糧を繋いで、今まで何とか食いつないできたが……

もう、限界に近かった。

だがここでようやく来る援軍。

士気は湧きたった。

「諸君、耐えるんだ……あと少しで我らの勝利だ!!」

そしてロンは海の向こうでこちらを監視するポフェニアの船を睨みつける。

「アレクシオス将軍がすぐにお前らを海の藻屑にする。……精々、人生最後の航海を楽しんでいろ」

「ふむ……ついにロマリア王国の船がねえ……」

ポフェニアの将軍の一人、シュマル・バルカは不適に笑った。

すでにシケーリアを包囲して三週間。

あと一週間もあればシケーリアが陥落する。

という段階に来て、敵の援軍。

普通ならば慌てふためくだろう。

しかしシュマル・バルカは全く恐れていなかった。

「我がポフェニア海軍を率いるのは我が義父上……セアル・バルカ将軍。俄作りの海軍で、果たしてどこまで戦えるのやら?」

「グラム、今は攻撃を控えろ」

「どうしてですか! ロンが、友軍が危機に陥っているのですよ?」

「落ち着け」

バルトロは反抗するグラムを優しく諭すように言った。

「アレクシオス率いる海軍がロンの救援に向かっている。……我々はシケーリア救出と共に、撤退するであろうベルシャザル・バルカを追撃しなければならない。……その時のために兵を休ませておけ」

そんなバルトロの表情には……

アレクシオスが敗北する、などという下らない心配は一切なかった。

確かにアレクシオスはバルトロにとっては、あまり好ましくない人間だった。

だが、その実力は認めていた。

「なるほど……俺の考えが浅かったです……」

「いや、良いんだ……それが普通だ」

「困ったね、敵の援軍、しかも海軍か。あの海軍がシケーリアに到着すれば、シケーリアは解放され、それどころか我が義弟の軍は追撃で大打撃を受けるだろう」

そして……

自分は退路を断たれ、窮地に陥る。

だが……

ベルシャザルの表情には欠片の不安も心配の色も無かった。

「アレクシオス、お前は絶対に父上に敗北する。……この戦争、我らの勝利だ」

ロマリア王国の海軍がレザドより出撃した。

という報を聞いたセアル・バルカは海上封鎖するために分散させた船をすぐさま集合させ、ポフェニアを発った。

そしてシケーリアへ向かった。

ロマリア王国軍の目的はシケーリアの救出。

それは明らかだ。

ならばポフェニアの作戦も単純明快。

シケーリアに補給物資と援軍を上陸させようとする、ロマリア王国海軍を海の藻屑にする。

それだけだ。

「敵将は……アレクシオス、お前か」

セアル・バルカは不適に笑った。

アレクシオス……

セアル・バルカ、自分の息子の一人。

最愛の妻が産んだ子供の一人。

そして……

不吉な目を持った子供。

「全く……あの時殺しておけば良かった。そうすれば親子で殺し合う悲劇は避けられたのだがな」

セアル・バルカとて、人の子である。

実の子供と戦う、というのは少々抵抗がある。

情が欠片もないわけではない。

だが……

「私はポフェニアの将軍であり、名門貴族バルカ家。そして……貴様はロマリア王国の将軍、コルネリウス家。容赦はしない」

「セアル・バルカ……まさか、実の父親と戦う羽目になるとはね」

アレクシオスは遥か海の向こうを睨みつける。

潮風がアレクシオスの髪を撫でる。

「大丈夫?」

「大丈夫だ。気にすることはない」

メリアが心配そうにアレクシオスの顔を覗き込む。

アレクシオスは笑みを浮かべ、メリアを安心させた。

何も思うところがないわけではない。

恨みはあるが、腐っても父親だ。

それにポフェニア海軍はテーチス海最強。

一方、自分の率いるロマリア海軍は経験が圧倒的に不足している。

普通なら敗北するだろう。

だが……

「ロマリアは海戦は弱い。だが、陸戦ならば負けない。ならば答えは簡単だ。海戦を陸戦に変えてしまおうじゃないか」

アレクシオスは不適に笑う。

「セアル・バルカ。僕に……自分の長所を生かし、敵の長所を潰せ。それが兵法の基本である、と教えたのはあなただ。恨まないで欲しいね。僕をここまで育てたのは……あなたなのだから。あなたはあなたの兵法で負ける」

斯くして……

第一次ポフェニア戦争、最初の海戦。

シケーリア沖海戦が始まろうとしていた。