軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百五十一話 北部大征伐Ⅳ

ギルベッド軍の撤退を確認したバルトロは無理に追わず、三万の軍勢を西南に向かわせた。

目標地点はかつて、ギルベッド王の国に侵略された旧西部諸国(75話参照)の一部である、ギルベッド王の国の西南地方である。

この地に進軍した理由は三つ。

一つ目はこの土地にギルベッド王の国の王子の一人が封じられていること。

二つ目はその土地の住民はギルベッド王の国の圧政を受けていて、ギルベッド王の国の不満が高まっているため、併合が容易であると考えられるということ。

三つ目、ギルベッド王の国の兵士の中には強引に徴兵されたり、また重税を逃れるために自ら志願した西部諸国出身者が少数だが存在するので、西部諸国を切り取ればギルベッド王軍の士気を多少削れる見込みがあるということ。

以上だ。

バルトロは約二日掛けて、西南地方に入った。

元々兵力の多くを対ロマリアに割いていたため、西南地方には殆ど守備軍が存在しなかった。

このような状況では、この地域の守りと統治を委任されているギルベッド王の国の王子……三男である第三王子に出来ることはない。

彼はあっという間に、西南地方から逃げ出そうとした。

が……

「いや、嫌われ過ぎでしょう。いくらなんでも」

「おのれ……っく、殺せ!!」

「三十代のおっさんにそれを言われてもね……」

バルトロは縛られて転がされている第三王子を見下ろし、苦笑いを浮かべた。

彼は西南地方から逃げ出そうとしたのだが、逆に反乱を起こした西南地方の人間……殺された西部諸国の支配層の、子弟や元家臣、そして形だけ恭順を示していた支配層の人間たちに襲われ、拘束されてしまったのだ。

独立意識の強い西部諸国をギルベッド王の国の色に染め直すために、圧政を敷いていた彼は酷く恨まれていたのだった。

もっとも、原因はそれだけではない。

当然、ロマリア王国が予め種を蒔いていたことも忘れてはならない。

そしてさらに一週間かけて、西南地方の支配者層……旧西部諸国の有力者たちを恭順させてから、バルトロはさらに北に進軍を開始した。

一方、ロンたち三人は軍をそれぞれ均等に分けてから王都周辺の確保に乗り出していた。

王都周辺の小さな砦を一つ一つ、落としていったのだ。

ギルベッド王の国は王都への奇襲をあまり警戒していなかったようで、やはり王都周辺の砦には殆ど兵力が残っていなかった。

ロンたちは日によっては三つも四つも落としながら、砦を落としては破壊していった。

砦を一つでも残しておくと、反乱軍の拠点になりかねないからだ。

幸いなことに、王都周辺は国王の直轄地だったので豪族、つまり大きな軍事力を持った地方政権が存在しなかった。

「うーん、でも王太子を取り逃がして良かったのかな?」

「でも、イアルさんはその方が良いって」

「あの人、何を仕掛けるつもりなんだか……」

一週間掛けて王都周辺の土地を占領したロンたちは、ギルベッド軍が王太子を迎え入れて再び体勢を立て直したという情報を聞いて、唸り始めた。

ソヨンとルル、そしてリアも加えて相談する。

「あれじゃない? やっぱりまとめて会戦で掃除した方が良いみたいな?」

「でも各個撃破の方が楽じゃないですか?」

「纏まってた方が、一度に出来て短期間で終わるという考え方もあると思いますよ」

連邦軍と連合軍は、まだ一度も大規模な会戦を行っていない。

やはり一度正面から勝たなければ、連合軍側の豪族も寝返り難いのでは?

と六人は考察した。

しかし問題はギルベッド軍が逃げた先が北北西部であるという事だ。

すでに六万の軍隊はファルダーム王の国の援軍三万も加えて、九万に膨れ上がっている。

さらに三日もすればファルダーム王の国の豪族軍三万が加わって、十二万になるという予想だ。

加えて、まだ西部と北部にはギルベッド王の次男である第二王子と四男である第四王子が居る。

彼らはギルベッド王の国の西部地方と北部地方の豪族の支配と指揮を任されている。

西部地方と北部地方の豪族の多くはギルベッド王の要請に従い、兵士を出してしまっている。

とはいえ、無理をすればそれぞれ一万ほど兵を絞りだすことができないわけでもない。

合わせて二万が合流すれば、ますまず厄介な兵力になってしまう。

今のところ、領土そのものは広げることに成功しているが……

実際のところ敵の兵力は殆ど削ることができていない。

風向きが変わる可能性はまだ十分にある。

そんな六人の元に、一通の鷹便が届いた。

そこに書かれていた内容を読んだ六人は目を合わせて、こういった。

「 あの人(イアル) だけは敵に回したくない」

と。

バルトロとロンたちが占領地を確保しているころ、イアルはギルベッド王の国の第二王子の元に訪れていた

「ご決断を」

「……しかしな、そう簡単に裏切るわけにはいかないのだよ」

イアルが第二王子に迫った内容は単純明快。

ギルベッド王の国の国王にしてやるから、降伏しろ。というモノだ。

仮に王太子を捕らえるか、殺すかしても第二王子が健在な以上ギルベッド王軍は立て直すことができる。

ならば、王太子を捕らえず自由に泳がせ、第二王子を切り崩す。

それがイアルの考えた策略だった。

条件として王都周辺全ての土地の返還。

そして第二王子の派閥の豪族の領地の保全だ。

破格の条件と言える。

どうせ、第二王子は国王になれない。

それどころか、王太子が即位した時に殺される可能性が高い。

であるならば、今裏切ってしまうのが一番の選択。

しかし、彼も一国の王族だ。

さすがにあっさりと寝返るのは良心が痛むし、何よりまだギルベッドもファルダームもドモルガルも大軍を残している。

裏切るのはあまりにも時期早計だ。

イアルはそんな第二王子の意思を汲み取り、別の条件を出した。

「では、こうしましょう。援軍を王太子様に送らないでください。理由は領地の防衛、で十分でしょう? 我らの側に付くかどうかは、我らが勝利した後にもう一度お尋ねします。その時に良いお返事を期待しております。……もっとも、その代わり全ての土地の返還、というわけにもいきませんし、豪族もある程度の改易・減封・転封は覚悟して頂きますが」

「……ふむ、分かった。良いだろう」

第二王子は少し考えた後、答えを出した。

こうしてロマリア王国は勝利後の、交渉相手を手に入れて、同時に兵力を削ぎ落とすことに成功したのだ。

ロンたちとバルトロが領土の占領に勤しんでいるとき、アルムスはロゼル王国の使者と会談していた。

某プリン外交官である。

「大王陛下、我が国は条件次第ではありますがこの戦争に武力介入する用意が……」

「おや、武力介入はしないで好意的な中立を保つという約束では?」

アルムスは意地悪く笑い、外交官は声を詰まらせる。

元々ロゼル王国はロマリア王国がここまで善戦するとは思っていなかったのだ。

それどころか、高確率で敗北すると考えていた。

そのため、『負けそうなロマリア王国を裏切って、北の三国に付く、というような武力介入はしない』という意味で、好意的な中立を保つと約束したのだ。

しかし……

思った以上にロマリア王国が強い。

もし、ここでロマリア王国と共同作戦を取れば……

失地を取り戻せるかもしれない。

と、考えたのである。

「はは、冗談です。我が国も、戦争後の取り分の量を気にするほど余裕があるわけではありませんから。ぜひ、お願いいたします。……ただ、条件が三つ」

「何でしょうか?」

アルムスは指を三つ突き出して言った。

「 ・三ヶ国全てに宣戦布告すること

・我が国と講和、または停戦を結んだ相手とはロゼル王国も停戦を結ぶこと

・約束できる領土はかつて失った領土まで。三ヶ国の固有の領土に関しては戦争後の講和会議で決定すること

以上です」

「なるほど、分かりました。では、早速国王陛下にお伝えしておきます」

それから二日後、ロゼル王国が参戦した。

これによりギルベッド王の国は北部地方をロゼル王国に侵略され、北部地方からの援軍も期待できなくなった。

ロゼル王国の参戦の翌日。

俺はドモルガル王の国のカルロ王と会談していた。

会談を申し込んできたのは、カルロ王の方だ。

俺たち二人は、それぞれの軍隊の睨みあう中間地点で向かい合った。

「それでどのようなご用件で?」

「またまた、そのような……お分りでしょう? 降伏です」

カルロは手を上げて見せた。

俺は思わず苦笑する。

「早くないですか?」

「このままロゼル王国とロマリア王国の二正面で戦うよりも、早い内に降参してギルベッド・ファルダームとロマリア王国の潰し合いを眺めた方が得策だと、思いましてね。まあ、条件次第ですけど」

そういうカルロの顔はおどけているが、目はとても真面目だ。

やはり、こいつは風向きを読むのが非常に上手い。

しかしこの選択は正解だ。

俺たちロマリア王国はどうしても、ギルベッド・ファルダーム連合軍を会戦で破る必要がある。

そのためには一兵でも兵力を西に向かわせなければならない。

売るのは今しかないのだ。

仮にギルベッド王の国とファルダーム王の国の国がこの戦争で勝てば、我が国との講和条約は無視して、再び攻め込めばいいのだから。

非常に現実的で、妥当なタイミングだ。

このような重大な決断は、並みの君主ではできないだろう。

「あなたは名君だな」

「はは、全く……褒めても削る領土は増えませんよ?」

交渉の結果、ドモルガル王の国と講和が結ばれた。

条件は四つ。

・ドモルガル王の国はロマリア連邦に加盟すること。(但し、この戦争にはもう参加しない)

・戦後の講和会議でロゼル王国がドモルガル王の国の領土を要求した際には、ロマリア王国はドモルガル王の国の側に立つこと

・王太子をロマリア王国に留学させる

・賠償金五百ターラントのうち、二百ターラントを一括払い、残りの三百ターラントを十年払いで支払うこと。

以上だ。

斯くして、北部大征伐が始まってから約二週間にしてドモルガル王の国が降伏した。

第三作戦『敵戦力の分断』の成功により、ギルベッド王の国の西南地方と北西地方、ドモルガル王の国が切り離され、政治的軍事的にファルダーム・ドモルガル両国は大きく力を削り取られた。

そしてアルムスはギルベッド王の国へ急いで軍を向かわせるのだった。

アルムス、バルトロ、ロンたち、そしてアレクシオスが合流したのはそれから四日後。

戦争開始から約十八日のことだった。

そして第四作戦。『決定的勝利による敵の交戦能力と意思の破壊』が始まる。