軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百四十五話 アリス出産

「おいおい……大丈夫か? この腹」

俺はアリスの膨れた腹を見て、非常に心配になった。

これでもユリア、テトラと妊婦はよく見ているし、女性の体の耐久力はよく分かっている。

しかしアリスのお腹は……

普通よりも遥かに膨らんでいた。

「三つ子……四、五つ子かもしれませんね!」

アリスは幸せそうにお腹を撫でているが、正直いつ破裂してもおかしくなさそうで……

お願いだから大人しくしてくれ。

見てるこっちがハラハラする。

「アリス、動かないでね」

ユリアがアリスのお腹を慎重に触り、中の様子を確かめる。

「これ、何人入ってるんだ?」

「うーん、過去の記録上だと四つ子が最大なんだけど……その時のお腹よりもずっと大きいんだよね。数値上。五人以上は確実に入ってるよね。うん」

そういうユリアの表情には驚愕の色が見える。

しかし、どうしてこんなたくさん……

「蜘蛛だからじゃない?」

テトラがぼそりと呟いた。

うん、多分それが真相だな。

「全員、無事に産まれてくるのか?」

「四つ子の時は、二人が胎児のままで死んじゃって、妊婦の方も死んじゃったらしいけど……」

俺が小声で尋ねると、ユリアが小声で返した。

……これ、アリスの命の危機じゃないか?

俺の心の声が分かったのか、ユリアは小さく頷いた。

「一先ず、キリシアの医学書とか読んで調べてみるよ。良い資料が見つかるかもしれない。少し、レザドに行ってくるね」

「ああ、ちゃんと護衛も連れて行けよ」

キリシアの本の写本事業は進んでいるが、その全てを写本してロサイスに持ってこれたわけではない。

本の多くはレザドにある。

さて、俺はどうするか……

「アルムスは慌てずにいるのが一番だよ。私もできることないし」

「まあ、そうだが……」

テトラは俺の肩を落ち着かせるように叩いた。

確かに国王である俺や、医術に関してはユリアに劣るテトラに、今できることは祈るだけ……

祈る?

「おい、アリスに『安産の加護』は……」

―あまり何でもかんでも妖精に頼むのはどうかと思うけど……前、渡したって言わなかったっけ? 多分大丈夫だよ。まあ、でも五つ子は私もちょっと未知数だから、あまり自信は持てないけどね―

面白可笑しそうに、笑い声と共に妖精は答えた。

最近は俺が呼びかけると、割とあっさり応じる。

正直、あまり頼り過ぎたり信用しすぎるのもどうかとは思うんだけどね。

何だかんだで妖精の力は頼りになる。

まあ、仲良くしておくに越したことはない。

敵に回すのが一番厄介だ。

「陛下、名前考えてありますか?」

俺たちの心配をよそにアリスはウキウキ笑顔で、紙にすらすらと名前の候補を書いている。

……まあ確かに、五人以上の子供の名前は考えるのも骨が折れる。

「テトラ、することも無いなら一緒に考えてくれ」

「うん、良いよ」

こうして俺とテトラとアリスは、男女合わせて二十個ほどの名前の候補を考えた。

俺たちの心配を他所にアリスの腹はどんどん膨らんでいった。

そして……

「大丈夫なのか、苦しくないのか?」

「全然大丈夫ですよ!」

と笑顔を浮かべるアリスの腹は、傍目から見て全然大丈夫ではなさそうだった。

指で軽く押しただけでも破裂してしまうのではないだろうか、というレベルに膨らんでいる。

しかしそのお腹の持ち主のアリスは少しも苦しそうではなく、むしろ嬉しそうにお腹を触り、動いた動いたと大はしゃぎしている。

「なあ、ユリア。大丈夫そうか?」

「多分、ね」

ユリアは苦笑いを浮かべた。

深刻そうな顔ではない。

今のところ、少なくともユリアが見た限りでは大丈夫なのだろう。

ユリアの医術の知識は、この時代から考えるとかなりのモノ。

信用しても大丈夫だろう。

「しかし、女の体ってのは凄いな」

よくあんなに膨れて破裂しないモノだ。

子宮って丈夫なんだな。

「アリスが特別の可能性が……私は自信ない」

テトラはアリスの腹を見ながら感想を述べた。

テトラはユリアやアリスと比べると、かなり小柄。

……確かにテトラのお腹は耐えられそうに無いように見えるな。

「でも、案外伸びるかもしれないぞ?」

「五つ子なんて滅多に孕まないし……子供もたくさん居るから」

テトラは割と今の子供の数には満足しているようだ。

やはり子供を産むのにはかなりの痛みを伴うので、『安産の加護』で安全とはいえあまり積極的に産む気にはならないようである。

「私はあと一人くらい欲しいかな。ね、アルムス」

ユリアはそう言って俺に抱き付いてきた。

右腕を絡めて、テトラを一瞥する。

テトラはムッとした顔をして、俺の左腕を掴んだ。

「なら私は二人」

「じゃあ三人」

「四人」

「五人」

「お前ら、変な張合いはやめろ」

俺は二人を腕から引き離す。

さっきから、アリスがこちらを羨ましそうに見ている。

まあ、あのお腹じゃ抱き付けないし、ね。

俺はアリスに近づき、アリスの頭を撫でた。

「応援してるぞ。」 「はい、私は百人産んで見せますね!」

「……それはさすがに多いかな」

サッカーチームどころか、軍隊が組織できるぞ。

結論から述べるのであれば、アリスは死んだ。

などということはなく、無事に出産し、ピンピンしている。

合計、六人の男女三人づつの子供も無事に産まれた。

俺もユリアも難産を予想して、多くの呪術師や経験豊富な産婆を準備して万全を期したのだが、何の心配もなかった。

ユリアやテトラの時は、相当踏ん張ってようやく一人産まれる……

という感じだったので、俺は完全にそのイメージだった。

だがアリスの子供はポンポン産まれた。

ポンポンというのは、本当にポンポンという感じで……

最初の子供が頭を出すまでは二時間ほど掛かったが、それ以降の五人は合計一時間……一人当たり十二分で産まれた。

一人産まれて大騒ぎしている内に、もう一人がおぎゃおぎゃあ言い始めるのだ。

初めは国王の妾の出産、それも五つ子以上ということで緊張していた呪術師や産婆たちだが、後半では完全に苦笑いを浮かべていた。

アリスの方もそこまで辛そうではなく―無論、産む時は苦悶の表情を浮かべ、衣服と髪がへばりつくほど汗を掻いていたが―時折笑顔さえ浮かべていた。

一人、産まれるたびに

「陛下!! また産まれました、今度は男の子です!」

「やりました、陛下! 女の子です!!」

などと元気に報告するアリスを見て、とても安心したのは事実だが……

今までの心配の方を返却して欲しい気持ちになった。

尚、妖精に「この安産は加護のおかげか?」と聞いたところ珍しく苦笑するような笑い声と共に

―どちらかと言えば、アリスちゃんの特異体質―

と答えた。

やはり、半分蜘蛛というのが大きいようだった。

最後の子供を産むと、アリスは俺に「やりました!」と言った後すぐに寝込んでしまった。

いくら短時間とはいえ、連続出産はかなりの体力を消耗したのだろう。

俺はアリスと、その横の小さなベッド六つに並ぶように寝ている赤ん坊を見ながら思わず呟く。

「アリスが妾で良かったな」

「それはどういう意味?」

ユリアが首を傾げる。

「いや、もし側室だったら……六人分の相応しい仕事や嫁ぎ先、嫁を探さなければならなかったな、っと」

何しろ六人だ。

俺の血を欲しい奴は山ほどこの国にいるので、候補はいくらでもいるが……

俺にも血を分けたい人間と分けたくない人間は当然居る。

それに、正式な子となればやはり大貴族や大きな功績を持つ貴族の子供と結婚させたい。

それを考えると候補は少ない。

まさか、ロンの息子にユリアの娘とアリスの娘三姉妹セットなどというわけにはいかない。

だが庶子ならば、そこまで真剣に考える必要は無い。

正式な子供ではないのだから、その結婚に政治的な意味は(そこまで)絡まない。

無論、俺の息子娘である以上その血にはそれなりの価値もある。

貴族から平民まで、幅広く選ぶことができるというわけだ。

仕事も同様だ。

王族の男児となれば相応の官職を与えなくてはならないが、そう言った職は少ないし、そもそも血筋よりも実力を重視したい。

一方、庶子ならば官僚でも軍人でも、何にでもなれるわけだ。

そう言う意味では、この子たちは一番選ぶことができる選択肢が多い。

マルクスよりは、幸せなのかもな……